双月と姫様に花束を
「久しぶりに市場へ行きたいのです」
アスカ姫がそう宣わったのは三日ほど前のことになる。
団や協議会からの依頼に対応するため冬の間も何度か外出していたものの、姫の私用での外出は昨秋以来皆無だ。
ただ『外出したい』と言われても、超大国の直系の姫であり、ロヴァーニの町にとって重要人物となったアスカ姫を少数の護衛だけで送り出すわけにも行かない。
まして先週大規模な商隊を王国方面に送り出したばかりで、護衛に就ける人員も相応に減っている。
相談されたのが団長執務室での手伝いが終わった頃だったため、ランヴァルドは必要な護衛の手配を理由に即答を避け、三日の猶予を得た。
つまり本日が約束の期限となる。
現在ランヴァルドがいるのは夕食後の執務室だ。文官たちも詰めており仕事をしているが、どんなに遅くとも明朝までに返答しなければならない。
普段から護衛兼側近として侍るアニエラたち魔術師四人と、エルサを筆頭とした女性傭兵が三人。側仕えたちも防壁などの魔術を使えるため、三人から五人は魔術師が増える計算になる。
外出時に付ける男性傭兵は十名ほどいるが、うち三人は先日の商隊護衛で出かけてしまったため、臨時で五人を指名していた。
当日は余程のことがない限りランヴァルドも執務の調整をつけ、護衛に参加する予定でいる。現在のロヴァーニにおいてアスカ姫は最重要人物である。
私用での外出の護衛にしても、部下任せにして良い内容ではない。
「ダニエたちは通常の護衛と調達班を連れて行くから、あちらは四十人規模だな。本部の警護や待機者、事務方などはこちらに残すから、姫の護衛に動員できるのは残り五十人ほどか」
「多過ぎねぇか? 団長と俺が出るんならその半分でも良いだろ」
「スヴェンは留守番に決まっているだろう? 私か君のどちらかが本部に残らなければ、団としての指揮系統が機能しないし、何かあった時の対処も遅れる。
今は昨年のように酒を買い求めて姫の側を離れるのも許されない状況だからな」
どうやらついていく気満々だったスヴェンを牽制し、本部に残すメンバーの素案に武闘派の部隊長や団員を数名書き連ねた。
報奨としてのメニューストックが数点あるため、それをスヴェンのお守りという難事の取引材料にすれば残された者も文句を言わないだろうし、執務室での業務が滞ることもないだろう。
会計長は業務の都合上、当然本部に居残りである。
斥候として役に立つ者は既に十数名を先行して選抜している。危険な物品の持ち込みの有無や不審な人物が紛れていないかの確認、影者の排除など、姫が市場を訪問する前にやっておくべきことは多い。
辺境街道を進んでいる商隊にも同じくらいの人数を送り込んでいるし、一部はそのままラッサーリに残って情報を集めてくる予定だ。
「エロマー子爵領を抜ける予定の商隊護衛から、そろそろ使い魔経由で定期連絡も入るだろう。ラッサーリを超えた辺りで警戒を強めると思うが、愚か者ほど何をしでかすか分からん。
まあ、大規模な戦闘になるようであれば即座に連絡が入るだろうが……」
「魔術具でも融通してもらっているのか?」
飲酒禁止を言い渡されている執務室で飲めるのがお茶か果実水だけとあって、ヴィダの果汁を水で割ったものをちびちびと舐めながらスヴェンが尋ねた。
人選は暗部を担うことになったカッレに任せているが、ラッサーリへの派遣部隊と王国領への商隊護衛には魔術具を持たせた団員を最低一名派遣している。
異変が起きればカッレに情報が届き、この部屋へ飛び込んでくるだろう。
「詳しくはスヴェンにも話せない。そういう契約になっているからね。連絡系統は複数持っているから、何かあれば私の不在でも対処できるようにしてあるよ」
実際に使い魔を持っている魔術師を計四名派遣しているし、先にラッサーリへ送り出した部隊にはアスカ姫が作った別の遠信の魔術具も預けていた。カッレたち暗部に預けている物より二周りほど大きいが、それでも破格の扱いである。
王都と南部直轄地ペルキオマキへ向かう部隊に一台ずつ。商隊の護衛に就いた団の客車に搭載している魔術具は登録された者にしか起動できず、汎用性はない。
それでも魔力が大気中を伝わる限りは通信距離を問わないため、現地に駐在する予定の者が責任を持って管理し預かるよう魔術契約が結ばれていた。
もちろん、そこに永住するには色々と問題がある。ロヴァーニの発展が早く家族を残して向かった者もいるため、最長でも二年、最短で半年程度での交代を考えている。
道中の治安――というよりもエロマー子爵領という現在最大の懸念要素が排除されれば、いずれは汎用性を持たせた通信の魔術具を置くことも出来よう。
現在一台につき三名までと使用者を限定・登録しているのもその対策だ。
「今、明後日の朝から新中央市場に向かう予定を組んでいる。姫には明朝執務室でお伝えするが、人数的には調達班とその護衛が増える程度だ。
鐘一つ半から二つ分くらい留守にするから、その間書類の決裁処理が止まらないようにして欲しい」
「……計算を担当する文官を多めに置いていって欲しいんだがなぁ」
「普段執務室に詰めている者は残す予定だ。春の作物の流通調査やサンプルの確保もあるので、先月から編纂室に詰めていた文官は最低でも半数ほど連れていくことになると思う」
淡々とスヴェンに応えを返しながら書類を捲ったランヴァルドが、署名済みの書類を執務机の上のトレーに投げ入れる。
後は明日の午前中に押印を担当する文官がランヴァルドの代理で認印を押し、担当の部署へ差し戻すだけでいい。
各部隊長が決済した申請書類の確認や報告の追認は書式が統一されているため、流し読みできるものも増えた。計算が含まれる書類も用紙と桁が揃えられ、検算を行った者が小計ごとに欄外へ押印していくので、単純な計算ミスは弾かれるようになっている。
計算や確認は増えたものの、算盤の普及で処理は早くなっていた。
「これもよし……こちらは予算の再計上が必要、こちらは経由地の変更と規模、予算の再見積もりが必要か。部隊長差し戻しはこの四件だな」
ラッサーリから先へ向かう道がいくつにも分かれるなら、エロマー子爵領を経由する必要はない。仮想敵どころか顕在化している危険を避ける意味でも、南北に分かれる道の開拓は急務である。
荒れ地に辛うじて残る道とも言えぬ場所を多少なりとも整備しなければ、どこに向かうにしても交易のルートを増やすことなど出来ないのだから。
パチン、パチッと算盤の音が単発的に響く。
市場に同行せず執務室に残すことになる文官たちへは、スヴェンのお守りの手間も考慮してムィアとウィネルのジャムを小瓶で一つずつ下賜することになっていた。
作るのはダニエたちだが、レシピの披露や作り方の指導は女子棟で行われているため、アスカ姫直伝と言っていいだろう。甘味と酸味のバランスも良く、彼自身疲れた時の精神的な安らぎには欠かせないものとなっている。
煮詰めるまで手間がかかるのと、調理の過程で甘い匂いを館内に振りまくため、本部では報奨としての扱いになっているが女子棟では日常的に作られている品だ。
最大で二日間の留守を任せるには十分なご褒美だろう。
その分、執務の前倒しが必要になるが。
現在机に積まれている書類は明日処理される予定の分と、急ぎではあるが明後日までに決裁しておけば済む分である。
明日の日中にも多少増えるだろうが、夜のうちに処理を進めておかなければこの倍以上溜まることになるだろう。
ランヴァルドはペン先をインク壺に浸し、諦めとともに算盤を手元に寄せて次の書類を手に取った。
三月になったばかりの頃は冷たい風が吹き付けることも多かったが、三週も過ぎればかなり暖かな空気も混じり始める。
一月が四十八日と長いため、地球の暦であれば三月下旬から四月の上旬頃になるのだろうか。枯れ草だらけだった荒野には芽を出した緑が目立ち、雪解けが一気に進んで空き地にあった雪山も姿を消してきている。
日の出とともに鳴らされる朝一の鐘が町中に響き、二番目の鐘が鳴らされる頃、赤獅子の槍本部新館前の広場には荷車が十五台と客車が二台、それに護衛や調達班として徒歩のまま従う者が八十名ほど集まっていた。
普段なら十台ほどの荷車と護衛・調達班の者で四十人ほど。
倍近くに増えているのはアスカ姫が同行するから、ということに尽きる。
「護衛一班から二班はダニエの乗る荷車に先行して出発しろ。ダニエ以下調達班は正門を開けたら順次出発、護衛三班は調達班の荷車後方を固めろ。
護衛四班は三班の後方、姫様の乗られる客車の前に。直衛は客車に同乗する者以外、角犀馬に騎乗して客車の左右に展開だ。護衛五班は客車後方と、姫様の荷を乗せる荷車三台の直衛に当たれ!」
「護衛の角犀馬二十頭、準備出来ています! 客車は姫様とアニエラさんのものが準備完了です! お見えになられたら直ぐ出発出来ます!」
調達班の新人たちや若手団員、厩舎から手伝いに来ている者たちが広場を所狭しと駆け回り、荷車に角犀馬や大型のレプサンガ、走り栗鼠を繋いでいく。
荷車を牽引する動物たちは市場まで往復した後にようやく朝食となるが、働いた後に褒美として与えられる餌が普段よりも豪華になることが分かっているのか、石畳に蹄を打ち付けるなどやる気が著しい。
「よし、全員配置に就け! 姫様が客車に乗られたら騎乗して出発だ!」
調達班の指揮を執るパウリが先行する荷車を門の外に誘導し、料理長のダニエとその弟子たち、仕入れ価格を交渉する文官などが荷車の御者台に分乗する。
市場からの帰りは荷を満載して歩きになるが、普段デスクワークの多い文官たちにとっては週に二度の貴重な運動の機会だ。
「パウリ、ダニエたちの荷車は市場へ先行させろ。護衛の四班と五班を残して出発して構わん」
「は……はっ! しかし、姫様をお待ちしなくても大丈夫でしょうか?」
「間もなく来られるから大丈夫だ。それより間もなく二の鐘が鳴ってしまうのではないか? 市場へ先に行っておかないと良い食材が並んでしまうのだろう?」
一瞬戸惑ったパウリに声をかけたランヴァルドが苦笑しながら出発を促す。
日の出の鐘と共に開かれる町の門は、中央市場へやってくる辺境の農村からの仕入れが始まる合図でもある。まだ薄暗い時間に籠を背負って砦の門を潜り、馴染みの店に穀物や野菜を持ち込んだり、一日露店の権利金を支払って自ら売り捌くのだ。
ちょうど一年ほど前から急激に変わり始めた食生活のおかげで、今や団員たちの胃袋や舌は相当贅沢になっている。
それに対応すべく、厨房のダニエの弟子たちはもちろんのこと、商隊護衛で部隊に同道する調理担当の団員たちも冬の間は調理の特訓を受けていたし、契約と買い取りを済ませたレシピを再現すべく試行錯誤を重ねていた。
レシピの中には昨年新しく食材と認識されたものも入っているし、既に教わっていたものでも従来の調理法や下処理の順番を変えるなどの工夫もしている。
甘い・辛い・酸っぱい・苦い・塩辛い、といった五味へのこだわりや、料理ごとの温度についても教わっていた。その点では他の傭兵団や商人たちよりも口やかましく、敏感になっている。
もちろん、商隊護衛などで味気ない保存食だけの日々を過ごすことはある。
日持ちのする栄養バーのようなものも数種類作ってはいるが、そればかり食べて過ごすわけにもいかない。数日程度の短期間なら許されても、食べ慣れた主食や副菜の代用にはならないのだ。
貴族同士が争う紛争地域を抜けていかねばならない時や、野盗が現れる可能性が高い半月以内の辺境街道を中心とする短期護衛であれば我慢も出来よう。
それでも食べられる時は森や草原の獣を狩り、持っていった香辛料や乾燥させた乳などを使って料理を仕上げ、調理の訓練を受けた者が即席のパンなどを焼く。
商隊護衛で団の客車を同伴させる時などは、結果として他の傭兵たちが羨むほど温かく旨い料理が毎日並ぶことになる。
ランヴァルドも団全体を差配するようになって本部からの遠出を控えているが、全く外に出ないわけではない。二月に一度はラッサーリの近くまで行くこともあるし、隔週程度で砦の外の野獣を狩りに出かけていた。
団長自身が食に手を抜かなくなれば、自然と団員たちも手を抜かなくなる。
それを見ている自警団や他の団の者たちも、そう遠くない時期に影響されていくだろう。今はロヴァーニとその周辺の整備を最優先にしているため順位が低いけれど、魔術具の開発・生産自体は対価次第でアスカ姫に引き受けてもらえるのだから。
「団長、姫様がおいでになられました」
沈思していた彼に声をかけたのは厩舎を担当する若い団員だ。武器を扱う訓練も受けているが、元が農村出身であるためか、そちらの方面の才は薄い。
傭兵よりも家畜や騎獣の世話に才覚を見せたため、入団から三月ほどで厩舎に異動させ、角犀馬やムールメリィ、レプサンガ等の騎獣や毒味を行うキールピーダ、ルーヴィウス等の家禽の世話をさせている。
アスカ姫が日常的に自身の乗るパウラの世話に訪れるため、厩務員たちは尊敬や憧れとともに姫の姿をよく見知っていた。
木や金属のブラシで行う『マッサージ』や『ブラッシング』というもので、騎獣たちの機嫌があれほどまでに変わるものだということを教えてくれたのだから。
「お待たせしました、ランヴァルド様。本日はよろしくお願いしますね」
小鳥が囀るような甘く高い声が新館前の広場に響く。
年明けに成人したばかりのアスカ姫は背こそ一般的な成人女性より低いが、それを補って余りあるほどの美貌と知識、魔力を持っている。
現に護衛の一部や厩務員の一部は――普段から見慣れているはずなのだが――姫の容姿に見惚れていた。
シェラン地で出来たワンピースには春の芽生えを思わせる濃淡の違う緑色を幾つも重ね、スカートの裾や襟周りにも同じシェラン地のレースを重ねている。
まだ朝晩は冷え込むこともあり、イェートの毛で編んだ長袖のカーディガンと膝下丈のコートも羽織っていた。
服飾を担当するティーナのやりきった感が強い満足そうな顔と、ユリアナ以下側仕えたちの手で徹底的に全身を磨き上げられ髪を結われたアスカ姫の姿は、そこに居るだけで周囲が明るく華やかになる。
とても良くお似合いです、と短くも的確な褒め言葉を述べて手を差し出し、彼女専用の客車へとエスコートする。
「先行させる調達班や荷車を送り出して広場を空けたところです。ほとんどお待ちしていませんよ。本日は私も護衛として同行します。
ユリアナとハンネ、ライラ、ミルヤ、エルサは姫とご一緒に前の客車へ。アニエラとクァトリ、リスティナ、リューリ、ティーナとネリアは後ろの客車へ。キールピーダとルーヴィウスは荷車だ。
レーアは後ろの客車の御者台に入ってくれ。何もないとは思うが、高い場所からも周囲の警戒をしておきたい。護衛四班と五班は騎乗して規定の配置に就け。運搬に当たる調達七班は後ろの荷車に分譲してくれ」
アスカ姫と側仕え、護衛役の女性傭兵を一名ずつ乗り込ませるほか、御者台にも周囲の監視を行えるよう女性の護衛を乗せるのは規定事項である。
客車や荷車の周囲に配する男性傭兵は徒歩か騎乗する者ばかりで、監視するには視界が安定しないのだ。ランヴァルド自身も愛馬に乗ってアスカ姫の客車の右側に付くため、反対側までは見通せない。
だが御者台は角犀馬の背よりも一段高い場所に設けられているので周囲への視界が通る。アスカ姫の客車自体魔術具の塊のようなもので、たとえ御者台や角犀馬に攻撃が来ようとも矢避けの魔術具の効果で安全が保たれるようになっていた。
客車内外は魔術具で温度が保たれるため、天候により騎獣の動きが鈍ることなく移動することができる。貴族や商人など移動を伴う仕事をしなければならない者にとっては垂涎ものだ。
そうした魔術具は当然高価で、赤獅子の槍全体でも六台――アスカ姫とアニエラ、ハンネ、ランヴァルドの専用客車と、王都行き・予備客車の二台にしか搭載されていない。
客車そのものは普通か最上級かの違いこそあれど、魔術具を揃えるのが何よりも大変で、ライヒアラ王国では入手するのに金貨で最低七百枚を費やすことになる。
購入するのではなくアスカ姫が手ずから作ったとはいえ、客車一台で王都の貴族街に男爵か子爵が屋敷を建てられるほどの金額だ。それに比べれば、海辺の村落とロヴァーニを往復する冷凍・冷蔵の魔術式荷車は「安い」と断言できよう。
各国に流通している魔術具は『リージュールの浮舟』から王家への下賜品か旧式の払い下げ品、もしくは浮舟に乗っていた魔術具職人に短期間だけ弟子入りし、初歩や基礎を教わって独立した者が作った品である。
生活に欠かせない水を生み出したり着火を行う魔術具は構造も簡単らしいが、時を計る魔術具や送風、弱い解毒作用を持つもの、半径数テメルの防壁を張り巡らすものなど、国により所持品は多岐に渡る。
時を計る魔術具は特に構造が複雑で、リージュールへの留学が許され帰国した者の中でもほんの数人しか触ることができない。
魔術具ではない技術も幾分伝わってはいるが、まだまだ遅れているのだ。
「こちらの準備は大丈夫です。出発はお任せします、ランヴァルド様」
ランヴァルドは上下二段に分かれている客車の窓を開けて声をかけてきたユリアナに黙って頷き返し、「出発!」と短く声を上げる。その声に応じて先頭の騎獣が動き始め、石畳に蹄を鳴らしながら門を出ていく。
アスカ姫は玄関前まで見送りに出て来た団員たちに小さく手を振り、門を出て曲がったところでユリアナに窓を閉められていた。
気泡一つなく向こうが透けて見える透明なガラスを嵌め込んだ窓は、男性の傭兵が重い戦鎚を振り被って叩きつけても罅すら入らない特製品である。
それだけではない。客車の構造を支える部分や車輪周り、壁板や床、ドアに至るまで錬金術や魔法陣で強化された小さな要塞だ。さらに装飾を控えめにして客車の左右と後方に小さなリージュールの紋章を掲げている。
この客車に襲いかかるような者がいれば、各国の宗主たるリージュールに刃向かう者としてすべての国・王家・貴族から命を狙われることになるだろう。
アニエラとハンネの客車も似たようなものだ。それぞれの得意分野に合わせて調薬・調合設備や錬金術の道具などが据え付けられているものの、頑丈さはアスカ姫のものとそう変わらない。
昨年末に発注しておいた晶石や各種素材が届けば量産可能とはいえ、客車については膨大な需要に対する供給が全く足りていない。
今年の春からは魔術師や錬金術師が技術を教わりながら製作することになっているが、果たして年間何台作れることか。
基本構造は大工や木工職人でも作れるけれど、錬金術による物質変換や魔術具の製作は個々人の理解度と能力、魔力に左右される。そしてそれを支えるのは材料や触媒、晶石などの品々だ。
入手の妨害はおそらくないが、唯一の懸念があるとすればエロマー子爵である。
今は考えても詮無いことだ。ランヴァルドは久々の日常業務以外での外出に気を引き締めながら、アスカ姫の護衛の任に集中する。
坂から見えるロヴァーニの町並みは夜露に濡れた屋根が朝陽を浴びてキラキラと輝き、春の訪れを喜んでいるようだった。
朝から開かれる市場は鮮度を気にしなければいけない葉物野菜や魚より、穀物や冷蔵庫・冷凍庫に保管していた肉などが先に並ぶ。
鉱石や錬金術の素材や、乾燥・粉砕などを必要とする香辛料などもだろうか。
朝の畑で採れた野菜や海辺の村落で水揚げされた魚は、店先に並ぶのが早くても二の鐘が鳴った後から三の鐘が鳴る直前になる。
昨晩までに町の倉庫に届けられていた魚や根菜は籠や箱に並べられ、香辛料は乾燥や粉砕を済ませて壺や瓶に詰め込まれたり、広口のガラス瓶にホールの状態で入れられ、革袋に入れたりその場で碾いて小瓶で量り売りしていた。
大口の顧客ならば一抱えもある壺や樽でも取り引きされる。
もっとも、それだけの量を購入できる相手など片手で数えられるのだが。
香りも音も雑多で、客を呼び込む声や加工の音、荷車の行き交う音、幾頭もの騎獣の鳴き声、市場に来た客を相手にする料理屋から聞こえる調理の音と匂い、野菜の青臭さや魚の生臭さ、薬草や香辛料の独特の匂いが市場全体に広がっている。
鍋を振ったり寸胴鍋をかき混ぜる音、木の食器や冬頃から出回り始めた陶器の食器が立てる音。食材を切るリズミカルな音や油の弾ける音など、人が集まりそこで生きている証が満ち溢れていた。
「姫様、まずはどちらに向かわれますか?」
「医務室で使う薬の材料はアニエラに任せていますから、外から入ってきた新しい材料や野草、薬草などを見ておきたいですね。辺境で春に収穫される野菜なども。
こちらは確認と試作が目的ですから、大店で探すよりも小口で購入できる露店を回りたいと思います。錬金術の素材は目に入り次第でしょうか」
少し斜め前を歩くユリアナとほぼ隣を歩くアニエラ、ランヴァルドを視界に収めながら手元のメモを見る。
クァトリとレーアが先行して道を確保してくれているので、多少ゆっくり歩いても邪魔になることはない。それ以上に、この新中央市場を作り上げた最大の功労者であり、最大の購入者でもあるアスカ姫の邪魔をする者などいようはずがない。
女子棟の実験室や団の製紙工房では、作り損じた紙や製品として裁断した際の端切れ、申請書などの印刷し損ねた製品を再利用する形でメモ用紙の束を作ることがあった。
アスカ姫が漂白や分解を行って再び材料に戻すこともあったが、それでも余る物は出てくる。そうした物が工房の隅に積み重ねられ、研究室や厨房、側仕え、職員たちの部屋でメモ用紙として使われるのだ。
「お昼は大食堂でダニエの料理を食べる予定ですから、私たちの方が少しだけ市場に長く居られると思います。ただ、ルミが興味を示した物に引っ張り回されるかも知れませんけれど」
今日もアスカ姫の左肩に乗って小さな頭をあちこちに向けている妖精猫が、ご主人様の言葉に答えるように短く鳴く。
魔力が繋がっているので主従間の意思の疎通は出来ているようだが、当事者以外から見れば真っ白な毛玉とお姫様が歩きながらじゃれ合っているという、何とも愛らしい一幕になってしまう。
「午後は魔術の講義が一つ入っていますので、買い物ができるのは鐘一つ半の間くらいでしょうか。あまりゆっくりはしていられないですね」
細い指で毛玉を撫で、肩から滑り落ちそうになっているルミを胸に抱く。
もそもそと身動ぎするのでくすぐったいが、地面に落ちるよりはいいだろう。姿は仔猫のようなのに、性質は仔犬のように人懐っこいのだから。
指先で小さな額や耳の裏を掻いてやりながらアスカは市場へと視線を巡らせる。
「そうですね――まずはあちらに見える野菜の露店と、隣の花屋を見たいです。次に四軒隣の香辛料のお店を。クァトリ、レーア、先導をお願いしますね」
アスカの言葉に即応した二人が護衛に指示を出して位置を変えた。ここ数日で隊列の変更を片手の数で効かない程度には訓練しており、全員がどこの位置にいても対応できる程度になっている。
アニエラとハンネという団屈指の魔術師とランヴァルドも直衛についているが、彼らも目に見える武器を持った屈強な直衛だ。部隊長級や実戦経験の豊富な者、斥候経験者も混ざっていて、厳重警戒されている。
春先に見かける野菜は昨年見ていないものもある。
もちろん、穴蔵から救出された直後に臥せっていたため時期を外したこともあるが、辺境街道が整備されたことで流通までの時間が早くなった影響もあった。
これまで日持ちの都合で産地でしか消費されていなかった草花や加工品は、街道の整備によってロヴァーニへの持ち込みが増えている。地産地消するしか無かったものが金銭に替えられる可能性が出たため、さらに市場が賑わっているのだ。
おかげで露店を広げられる地区が足りず、週明けから団の魔術師が追加で整地を行って広げ、今の倍ほどの土地を用意するらしい。
「これは昨年見かけなかったものですね……蕾もついているようですが」
日本にあった春菊のような葉に、菜の花の蕾のような部分にピンク色を覗かせた草の束もある。昨春の食卓には上らなかったものだ。
店番をしていた中年の農婦に尋ねてみると、これまでは五日ほど離れた農村付近でのみ採れていたものらしい。食べていたのはその集落の近辺だけらしいが、街道が整備され、途中で荷車に乗せてもらうことができたので持ってきたそうだ。
生では多少苦味があるけれど、鍋で茹でると苦味が消えて野菜の代わりに食べられるため、雪解け後の青物が足りない時期に重宝していたという。
「少し試してもよろしいですか?」
「ど、どうぞ!」
目の前のアスカと周囲を囲む護衛、居並ぶ侍女たちに恐縮したのか、農婦が顔を引き攣らせながら幾度も頷く。
一瞬で発動させた毒を感知する魔術には反応しない。興味深そうに匂いを嗅いでいるタトルとルビーに生のまま葉を差し出してみると、全く警戒した様子も見せずもしゃもしゃと食べている。
「この草はその場所でしか育たないのですか? どんな花を咲かせるのか、どんな実をつけるのか、知っていますか?」
「は、はい。刈り取らずに放っておくと、この蕾みたいな色の花が咲きます。五枚の花びらの真ん中から、一本だけ長いのが伸びるんです。四半月くらい経って花が萎れると、さらに四半月ほどで小指くらいの鞘が出来ます。子供の遊び道具くらいにしかなりませんが」
聞けば聞くほど菜の花のような印象だ。花の色や形は違うけれど、思わず試してみたくなる。それを実行するには数本犠牲にする必要があるけれども。
「二本ほど使わせてもらいます。お金は払いますので安心して下さい」
ライラに対価となる小銅貨を一枚渡してもらって菜の花もどきを手に取り、水と土の魔術に加え、成長促進の魔術を重ねがけする。
少し萎びた感じのする草はあっという間に可憐なピンクの花を咲かせ、やがて萎れながら薄緑色の鞘をつけていった。花の中央に突き出していたものは雌しべなのか、淡い黄色で何とも派手派手しい。
葉の緑、花のピンク、雌しべの黄色が一面に生え揃って風に揺れていれば、目の刺激は強いのかも知れない。
鞘はアスカ姫の小指ほどの大きさ――約五テセほどまで育つと成長を止め、十秒ほどで薄茶色に染まり、中に入った種の形を徐々に浮き上がらせるように乾燥していく。
たった二株で百粒ほどの種を作り出したそれを、魔術を止めて確認する。
――葉や花の様子など、種類こそ違うが菜の花のようなものだ。
一つだけ鞘を裂いて割ってみた種も、潰せばじんわりと油を滲ませている。
種を鞘ごと千切って布袋に収めてもらうと、石畳の上に残っている立ち枯れた草と土を粉々に分解して固め、脱水して肥料に加工した。
これを砕いてイェートの乾燥させた糞や骨粉、魚粉などと混ぜれば、ロヴァーニで流通している肥料とほぼ同等のものが出来上がる。
「これは情報の対価に差し上げます。家畜の乾燥させた糞や骨を砕いたものと混ぜて、畑へ種を蒔く前に播いてみて下さい。秋の収穫量に差が出るはずです。
今日市場に持ち込んだこれは三十束買いたいと思います。それと少し後になりますが、種を小瓶で買い付けたいです。こちらの草に名前はありますか?」
「お買い上げは大丈夫です……種も、集落に戻ったら子供たちにも集めるのを手伝わせるので。草の名前は特にないです。春先で野菜がない時に食べることがあるので、単純に『春草』としか呼んでませんでした」
「そうですか――では何か考えてみます。集落で消費する以外に余ったものがあれば、またロヴァーニの市場に持ち込んでもらえると嬉しいですね。これまであまり見向きされなかったものでも、少量ずつ持ち込んでみて下さい。
役に立ちそうなものでしたら、調べたり試して買い付けますので」
矢継ぎ早に聞いてしまったが、雪解け後の新鮮な野菜の補給と獣脂以外の油の確保、それにインクの材料の確保ができるのだ。他にも植物性の油はあるが、選択肢が増えるのは悪いことではない。
農婦が持ち込んだ量の六割ほどを買ってしまったが、周囲でこちらを見守る目を考えればすぐに売り切ってしまうだろう。
ライラとアニエラが価格交渉と受け取りの手筈を整えてくれる間に、もの問いたげな顔を見せているランヴァルドの隣に立ち、彼の話し相手になる。
「野菜の代わりと言っていましたが……役に立つのですか?」
「はい。他の大陸での話になりますが、冬を越える間に自然と身体の中へ溜まった毒を、外に出してくれる働きをする野菜があるんです。食べ物の中に毒が含まれているのではなく、身体が正常な働きの結果として作り出してしまう毒ですね。
季節の野草や野菜の中には、そうした有害なものを取り除くための食べ物が用意されていることが多いのです。山森人の集落へ立ち寄った時、そうした貴重な知識を教えてもらいましたから」
「なるほど……種を買う話までされていましたが、そちらは?」
周囲を警戒しつつ探るような視線を向けてくる彼に、アスカは魔術で風の動きを止めて防音壁を作り、小声で答えた。
「種は増やす目的と、油がどれだけ取れるか確かめるためです。先程一粒潰してみましたが、獣脂とも違う良い油のようでしたから。お料理にも使えますし、灯りにも使えるでしょう。加工すれば薬やインク、絵の具などにも使えると思います」
さらりと商売の大ネタを投げつけ、片目を瞑りながら唇に人差し指を当てて他言無用とする。ランヴァルドの頬が赤くなったようだけれど、ここで詳細を話すわけにもいかないため、気にしてはいられない。
「まだ確かめなければいけないことがありますから、今は内緒で。研究室で実験してみて、確定したらお茶の時間にでもお話します。
それとすぐでなくても構いませんが、団員より少々格が下がっても構わないので報奨を与える準備をお願いします。いずれ農家から商売への転向を望んで店を構えるつもりなら、私が開店の資金を援助しても構いません。ひとまず、直営商会への紹介状程度は用意します」
ユリアナには後で話します、と追加の爆弾を放り込んで防音の魔術を解除する。アスカは魔術で出来た種と受け取った物を調達班の者に運んでもらい、暇を告げて露店を離れた。
花屋でもこれまで見たことがなかったものを集め、種や球根、苗の現物の持ち込みを依頼しておく。冬の商談でもいくつかの商会に収集依頼を出しているが、意外と地元の産品の見落としはある。
買い付けた『菜の花もどき』が実は辺境の荒れ地のあちこちに点在し、春に街道を往復する行商や農民たちの目を楽しませる雑草扱いされていたことも知った。
また水辺にだけ咲く花や薬草、水の中にだけ生える草花の情報も集めている。
この調子なら、海辺の集落に赴く際にも新発見がありそうだ。
昨夏の訪問では計二週間、砂浜と磯の一部で魚介類と海藻の一部しか調査しておらず、他の季節ではどうなっているかまで調べていない。
次回計画が組まれる時は、人が潜れる程度に深い場所や季節ごとの魚介、海藻の収集と調査が主目的となるだろう。
驚いているのは魔術師や薬師、文官たちだ。
自分たちの知らなかった情報を店先でのごく短い会話で引き出し、あれば現物を押さえていくのがアスカ姫のやり方である。
これまでは学院や傭兵団の調査でも、自分の手で集めた「気にかかるもの」しか対象にしてこなかった。だが、その方法での見落としが多いことに気付かされたからだ。
アスカ姫は興味の赴くまま質問したり、タトルやルビーに毒がないか確認させながら会話の中から情報を引き出し続けている。
毛玉はアスカの胸に抱かれたまま市場の様子に興奮しすぎて疲れたのか、既に身体を丸めて胸元のアクセサリーと化していた。露店の間を動くので邪魔だからと脱いでしまっていたが、白い毛皮のコートを着ていれば飾りのポンポンに間違われていたかも知れない。
移動していくにつれて購入した荷物も増えるが、幾つかの露店には調達班経由で紹介状やメダルを渡す手配をし、調達班は停めた荷車と市場・露店の間を荷物を担いで駆け回っている。
いずれ新しいメニューや便利な道具が増えると分かっているので、班員たちは肉体を酷使していても嬉しそうだ。何よりアスカ姫の買い物への同行で団内の貢献点が増え、時には新作料理に最初にありつけるのだから。
「こちらの板は乾燥させたものを二十束、こちらの木の実は籠一山いただきます」
「姫様、隣の木の実はどうされますか?」
「使い所が少々分からないので、三つだけ。初めて見るものですから、薬なのか香辛料なのか、食べられるものか毒かもよく分かりません。鳥は食べるということでしたが、今はタトルとルビーも試食でお腹が一杯みたいですし。
逆にこちらの大きな実は調べてみたいことが出来たので、他のお客の迷惑にならない範囲で残りを全部買いたいです」
食べられるか否かの判定をするために連れてきたタトルとルビーは、既に試食を十数度しているので満腹になっている。朝も出発前にしっかり食べているから仕方のないことだ。胃の容量には限界がある。
それでも昼までしっかり散歩をして腹を減らし、厩舎で出される餌もしっかり食べるのだから食い意地は十二分に張っていると言えよう。
追加で購入したのは成人男性の握り拳二つ分ほどの薄紫色の果実だ。
若干縦に長い棗型で、ドリアンのような凹凸のある薄い表皮の下には食用に向かない薄い果肉があり、その下には硬い種の殻が姿を隠している。
殻を叩き割ってもらい中を調べると、クリーム色でわずかな粘りと弾力がある緩いゼリー状のものが詰まっていて、飛鳥が社会見学で見たゴムの樹液のような印象を受けたのだ。錬金術で作る細かい炭や、間もなく届くであろう硫黄を混ぜて確かめることもできるだろう。
実は春から夏の終わりにかけて採れるそうなので、実験結果が思い通りのものであれば大量に仕入れることも視野に入れられる。
ゴムと似た性質なら、下着に医療品、雨具、靴底を始め、荷車や客車に使われるタイヤ、窓枠のクッション、水遣り用のホースなどにも使えるはずだ。
よしんばゴムの原料でなかったとしても、見たこともない素材がどのようなものか調べておくことは必要だろう。
「錬金術師と魔術師、薬師にも確認を手伝ってもらった方が良さそうですね」
「今夜から当分、研究室を持っている者たちが眠れなくなりそうです」
アニエラとハンネも新しい素材を前に気が高ぶっているのか、重さや感触を確かめたり、匂いを嗅いでは首を傾げている。
辺境で三年ほど過ごしてきた彼女たちも見たことがない、けれども開拓された集落の者にとっては比較的見慣れたものが、店先には他にもたくさん並んでいた。
これから先も新しい品物に出会うことがあるだろうし、研究室で調べて足りなければ追加で仕入れることもできる。
来週もう一度市場を訪問し、下旬には一度海辺の集落を訪問する予定だ。見知らぬ素材に触れる機会はさらに増えるだろう。
「姫、露店区域は半分ほどしか見ていませんが、どうされますか? 必要でしたら午後の予定を一部変更することも考えますが」
油断なく周囲を警戒しながら声をかけたランヴァルドは、一冬を越させたらしい森岩栗の実を手にしたアスカ姫に向き直る。
護衛の傭兵たちは昨年食べた森岩栗の菓子を思い出しているのか、職務を果たしながらもしきりに姫の手元を気にしていた。
「いいえ、もうすぐ昼の鐘が鳴るはずですから帰る時間でしょう? ダニエが食堂で昼食の準備をしているでしょうし、午後は魔術師向けの講義があります。
終わったら団長室へ書類整理の手伝いに行って、その後は夕食まで研究室に籠もります。ミルヤは講義の後リューリとリスティナを呼んで私のお手伝いを。
ユリアナはアニエラの、ライラはハンネの助手をお願いしますね」
もう食材や薬の素材がいっぱいです、と告げて最後の露店を後にした途端、昼の鐘が町中に響き渡る。予定よりも買い物の時間が長くなってしまったようだ。
女性の買い物は長いというが、どうやら飛鳥よりアスカ姫の感覚に引きずられてしまっているらしい。
「予定より少々遅くなってしまいましたが本部に戻りましょう。また買い物が必要であれば出かけることも出来ますし、我々も護衛にも就きますので」
「ありがとうございます、ランヴァルド様。今度は午後、海の魚介がお店に並ぶ頃に来たいと思います」
今日店先に並んでいたものは農作物や素材、川で取れた魚など中心で、海産物は全くと言っていいほど並んでいない。
冬篭りの祭り前に直営商会経由で作り方を広めた燻製や干物は数点あっても、朝獲れた春の海の魚介類は早くても昼過ぎに市場へ運ばれてくる。
下旬に訪問する予定の集落では新しい漁具や道具の周知と、作業場や冷蔵・冷凍倉庫の設置、ロヴァーニへ続く道の再整備が課題だ。
直営商会の冷蔵・冷凍荷車が朝夕で往復する計画が持ち上がっており、道路の補強と高速化が求められている。
ダニエからは季節ごとの魚介の違いなども聞いているので興味もあったし、冬から春にかけてのみ食べられる牡蠣のような貝があることも聞いていた。
本当ならば料理の幅も広がるし、物によっては特産となって集落を富ませ、ひいてはロヴァーニを始めとする辺境一帯を豊かにしてくれるだろう。
アスカが露店の主に暇を告げると、ランヴァルドが護衛に指示を出し、クァトリとレーアを先頭に隊列が組まれる。
道の幅が狭いので縦に長くなるが、魔術師が三人、それぞれ武器を提げた熟練の傭兵が十数人いるので、護りとしては十分だ。何よりアスカ姫自身が強力な力を持った魔術師でもある。害意を持つ者など一蹴どころか近寄ることすら出来まい。
姫の姿を一目見ようと集まっていた人波をかき分け、食材や素材が満載された荷車に近づくと、調達班の者たちが慌てて残りの荷を最後の一台へ積み込んでいる。
荷車の護衛は別に待機しているので急ぐ必要はないのだが、アスカが引き上げる時間イコール昼食前と周知されているので焦りもあるのだろう。
「姫様ぁ――――っ!」
「立派な市場を作って頂き、ありがとうございまーす!」
「この冬は一家全員、誰も飢えることなく無事過ごせましたぁっ!」
「ひめしゃまぁっ!」
大勢の大人たちが歓声を上げる中、幼い声が微かに紛れて耳に届く。
視線を向けると、とてとてと花を抱えて近寄ろうとした小柄な少女が護衛に止められ、泣きそうな顔をしているのが見えた。見た目は三、四歳くらいだろうか。
アスカがエルサに視線を向けると、すぐに彼女が近寄って屈み、目線を合わせて二言三言話しかける。やがて少女の頭をポンポンと撫でて立ち上がったエルサは、アスカの元に駆け足で戻ってきて報告した。
「先程花の種などを購入した露店の娘さんのようです。姫様が買い物でお立ち寄りになられた時は遊びに出てしまっていたようで、戻ってから母親に話を聞いて、姫様に会えず大泣きしていたとか。
母親から離れている間、市場で仲良くなった女の子たちと花を摘んでいたので、買い物のお礼に姫様へお渡ししたいとのことでした」
「分かりました――ランヴァルド様、ユリアナ、少しだけ時間をもらえますか? 護衛にハンネとエルサを連れていきますので」
「いえ、もう二人くらいは必要です。ランヴァルド様と私が参ります」
アスカが問うと、すぐにユリアナとランヴァルドが傍に寄って周囲を固め、先頭にエルサを立て、すぐ隣には短杖を握ったハンネが付く。
要人、しかも王族であればもっと護衛が多くても不思議ではないが、少女が既に人混みから外れて男性護衛のすぐ脇で監視されていること、魔術師と貴族出身の護衛と側仕えが周囲を固めているので少数でも問題ないと判断されたのだろう。
レーアと男性傭兵に肩を抑えられたまま待っている少女に近づき、スカートの後ろを撫でて膝の裏に挟み込みながら目線を合わせる。
アスカも小柄な方だが、少女はもっと幼く小さい。
焦げ茶色の髪を肩の下辺りまで伸ばした少女は、髪と同じ色の瞳を大きく見開いていた。
「こんにちは。どうしましたか?」
「あ、あの、あの、ひめしゃまが、あたしのいないときに、おかあさんのおみせでかいものしてくれたって……ひめしゃまに、おれいしたいっておもって……」
言葉に詰まりながらも一生懸命考えながら話す少女は、ネモフィラのような赤と黄色の花と、真上を向いた白い水仙のような花を数本束ねて抱きしめている。
花弁全体でも飛鳥の記憶に残る五百円玉ほどの大きさで、素朴な愛らしさだ。
小さな手は摘み取った時に付いたらしい草の汁と泥で汚れているが、駆けて息を弾ませているのが見て取れる。
花束は根本と中程を糸の代わりに細長い草で縛り、周囲には薄い麻布を巻いてバラバラにならないようにしていた。おそらく少女の母親か周囲の者が手を貸してくれたのだろう。
まだ植物紙は大々的に市場に広げておらず、また包装紙のような贅沢な使い方は想定もされていない。平民が使うとなればごく小さな木箱や素焼きの壺、あるいは麻布程度しか選択肢はない。
少女が遊んでいた場所から露店に戻ってすぐにここへ来たなら、箱や壺を探す時間はなかっただろう。身体の大きさから見ても、重量のある壺などを抱えていたら途中で割って怪我をしていた危険性もある。
それにアスカとしては興味本位の買い物のお礼に自分で摘んだ花を届けてくれるだけでも嬉しいが、失礼にならないよう必死に言葉を紡ぐ姿も可愛らしい。
「おかあさんのおみせで、たねとかおはなをたくさんかってくれたって、おかあさんにききました。このまちのいちばを、ひめしゃまがあたらしくしてくれたって、ほかのおみせのみんなもよろこんでます。そうげつと、ひめしゃまのおかげです。
だから、ひめしゃま、ありがとうございましゅ!」
最後は噛みながらだけど、少女が一生懸命に考えたお礼を伝えてくる。
その姿と言葉だけで、周囲に無理を言ってまで市場に足を運んだ甲斐があった。
レーアが少女の肩に置いていた手を放し、そっと背に手を当ててアスカの前まで連れてくる。ひどく緊張しながら一歩二歩と進んできた少女が花束を差し出すのに合わせ、アスカも両手で花束を受け取った。
「綺麗な花束をありがとう。大事にしますね。それから、あなたのお名前を教えてくれる?」
「えっと、えっと……ターニャ、でしゅ」
間近で見たアスカの笑顔に顔を赤くしながら、自分の名前を告げる少女。
瑞々しい花束の茎と茎の間には薄板が挟まれ、『ありがとう』とだけ、幼い子供らしい歪で不揃いな字が踊っている。
読み書きの出来る大人に教わり、必死に真似て書いたのだろう。辺境の開拓農村からやってきた平民の子供なら、読み書きはほとんど出来ないはずだ。農村の識字率が数パーセントにも満たないことは、ハンネや町の文官長に就任したヴァルトたちに聞いている。
それでも周りの大人に尋ねて、自分に出来る範囲でお礼をしてくれようとした。
社交としての礼や商談での謝辞は多く耳にしているが、飾り気のないまっすぐな気持ちを真正面からぶつけられるのは、照れくさくも嬉しい。
胸のうちに込み上げてくるものがあるが、大国リージュールの王族としてそれを見せる訳にはいかない。
だから代わりに顔を上げ、斜め後ろに控えるユリアナへと視線を向ける。
「ユリアナ、調達班で使っている薄板があれば一枚もらってきて下さい。書き損じたもので構いませんから。
それとランヴァルド様、この場で錬金術を使います。少しの間護身用のナイフをお借りできますか?」
少女の前にしゃがんだまま花束を膝に置き、ターニャの髪と花弁の色を比べる。
髪の焦げ茶系に合わせるなら、白い花を加工するのが良いだろう。赤や黄では髪の色に埋もれてしまう。素材も宝石や貴重なガラスではなく、石や木などに置き換えれば商人たちが奪い取るようなこともないはずだ。
石と木の髪飾りなら花束の礼としても下賜品としても華美に過ぎず、普段使いができる程度には丈夫にするつもりである。
あとは親からの咎めや他人からの横槍が入らぬよう、下賜した理由を板に書いて渡してあげれば大丈夫だろう。
ランヴァルドが手渡してくれたナイフで花を一輪切り取り、数枚の葉と合わせて見栄えを整え、石に変換し魔素を充填して強度を高めながら融合させる。
ナイフの出番はこれだけで終了だ。
切り取った花の茎も花束から抜き出すと、それを硬い木のクリップに変形・変性させ、板ばねを使ったヘアクリップに加工してしまう。
成長したら子供っぽさが残って使えないかも知れないが、大事に使ってくれれば十歳程度までは使えるはずである。
「レーア、ターニャに横を向かせて下さい。飾りの角度を調整しますので」
即座に反応したレーアがターニャの肩を抱くように横を向かせ、アスカもクリップと飾りを髪に寄せて角度を決める。
必要以上に緊張させてはいけないと判断し、感覚で角度を決めてクリップと花の位置を調整し融合させると、手櫛でターニャの髪を梳く。
ロヴァーニの内壁以外では公衆浴場も広まっていないため、脂分が抜けて細かい砂埃が絡み、ごわごわの髪になっている。だが、きちんと手入れをすれば艶のある焦げ茶の髪になるだろう。
親の知らぬところで手を入れ過ぎても後が面倒になるので、魔術で生み出した水を霧状に変えて振動させ、髪の根元から先端へと砂を洗い流すように移動させる。
それだけで絡みが少なくなり、末広がりになっていた髪が落ち着いた。
ついでに汚れたままの両手と膝、スカートの裾の土汚れも落とす。
「うわぁ、どろがとれた……」
「花束のお礼です。それと誰にもらったか心配するでしょうから、お店に戻ったら私の用意する薄板を見せて下さい。分からない時は市場を巡回している自警団の人か、表通りのお店の店員に読んでもらって下さいね」
左耳の後ろ、肩下までの髪の一部を緩い三編みにし、錬金術で作った花のクリップで留める。飾りとばねは魔素で強度を補い、地面に落としたり踏んだりした程度では壊れないようにしてあるので安心だ。
あとは誰かに奪われないように――子供向けの下賜品としての体裁を整える。
ユリアナが素早く手配し持ってきてくれた薄板は直営商会の者が持ってきたメモ帳代わりのもので、市場にある商店や露店とのやり取りで使われている。
団の書類を植物紙に写した後のリサイクル品だ。
直営商会の内部や大店では植物紙への切り替えが急速に進んでおり、過去の帳簿や取引内容の写しが完了すれば大量の薄板が余る。
飛鳥がいた現代日本では紙に印刷された本が減って電子書籍が中心になっていたが、まだ紙の本も流通しており、大叔父の書斎で見た記憶のある文庫本ほどの薄板の表面を魔術で削ぎ落とし、平らに磨いてから大きめの字を焼き付けていく。
まず、贈る相手であるターニャの名前と花束をもらったお礼。
さらには日付と贈った品の内容を記し、最後にアスカの名前を刻印する。国章の印璽こそ押さないが、国の名を冠したアスカの名前が入っていることで十分公文書として通用するものになっている。
普通の魔術師でも魔力制御が上達すればもっと細かな字を焼き付ける芸当もできるのだが、そこまでする必要はない。子供向けに書いた手紙へ読み難く分かり難い修辞を施しても、ターニャが理解できなくては仕方ないのだ。
アスカは全体を確認すると、レーアに肩を抱かれたままのターニャに向き直って薄板を差し出す。
次いで、気を利かせたユリアナとライラが手鏡を持ってターニャの前後に回り込んでくれたので、ヘアクリップの出来を見てもらう。
これまでアクセサリーなどとは無縁だった少女にとって余程嬉しいのか、鏡自体も珍しそうに顔を左右に向けて覗き込んでいた。表情はもう満面の笑顔である。
「ターニャが持っている髪留めは私が花束のお礼にあげたものです、と薄板には書いてあります。髪留めを使わない時はこの薄板と一緒にしまっておいて下さい」
「はいっ!」
まだ幼い彼女を安心させるように微笑み、花束を抱えて立ち上がる。
身分が上の者が先に立ち去らなければ相手も周囲の者も動けないのだ。アスカはその場で踵を返して団長に歩み寄り、小声で頼み事を口にする。
「ランヴァルド様、調達班の方を一人、あの娘の親がいる露店まで送らせていただけませんか? 薄板の内容も一度読んで説明すれば分かると思いますので」
「積み込みが間もなく終わりますので、手の空いた者を向かわせます。ユリアナとエルサは姫と一緒に客車へ。訪問を歓迎されておりますが、人が多いということは良からぬ考えを持つ者が紛れやすいということでもありますので」
アスカ姫の頼みに頷きながら答えたランヴァルドが調達班に向かって手を上げ、駆け寄ってきた団員に短く指示を出す。
ついさっきまでいた露店区画への送迎と伝言程度であれば、入団直後の新人でもなければ楽にこなせるだろう。自警団も数班に分かれて常時巡回しているので、絡まれたりすることもないはずだ。
むしろロヴァーニの町中で赤獅子の槍と揉めることがどういう結末を招くか、知らない者の方が少ない。
アスカの斜め前にはランヴァルドとエルサが立ち、ユリアナとライラが一歩半下がって付き従う。その後ろにはレーアとクァトリが付いているので、六方向から守られている体制だ。
加えてユリアナとライラ、アスカは魔術具と自身の魔術で身を守っており、さらに外周には武器を提げた傭兵たちが展開しているので、良からぬ思いを抱いた者が襲ってくるとしても包囲を抜けることは出来まい。
客車の前には既にミルヤたちが整列して待っており、タラップが引き出されて主の乗車を待っている。アスカはランヴァルドのエスコートで階段を上がると、花束を抱えたまま市場に振り返って手を振った。
一際大きな歓声が上がったのを背に席へ座ると、ユリアナたち側仕えが乗り込んでくる。最後にエルサが乗ってドアを閉めると、タラップが客車の下に格納される音が聞こえ、軽い振動とともに客車が動き出す。
客車の周囲は騎乗した護衛が付き従っているけれど、停車場から大通りに面した場所にはアスカの姿を一目見ようと集まった者たちで溢れかえっている。
自警団が街道に出ないよう抑えてくれているので、角犀馬や荷車を牽くレプサンガたちの邪魔にはなっていない。
ガラスを嵌め込んだ窓から見える人波に目を向けつつ手を振り、市場を出た辺りで背もたれに体重を預ける。
ここから団本部までは十分もかからない。
舞台とは違った重圧と緊張感が一瞬で消え失せ、小さく溜め息を吐く。
「――お疲れですか、姫様?」
「大丈夫ですよ、ユリアナ。見送りが凄くて驚いただけですから」
抱えていた花束を膝の上に置き、茎の根元側を包むように魔術を使って水の玉を固定する。女子棟に着くまでの間であればこの程度の処理で十分だ。
胸元に張り付いて丸まっていたルミもようやく目覚めたのか、もそもそと動いて太ももの上に落ちている。花束の匂いを嗅いだり、魔術の水玉に肉球を当てて押し潰そうとしてみたりと好き放題だ。
片手で構ってやると嬉しそうに仰向けになり、脇や腹を撫でてもらおうと短く鳴いている。
「冬の間は商会との社交や工房、それに公衆浴場の設置くらいでしか外に出ませんでしたからね。訓練場で護身術の訓練をしているとはいえ、自分の足で団の敷地の外を歩きたかったですし」
「そうでしたか。それにしてもたくさんお買い物されましたね。冬の間に女子棟の地下の倉庫は半分ほど空いたので大丈夫だとは思いますが……」
「大半は研究室に振り分けて調査と確認をしますから、倉庫に入るのは四分の一もないと思います。食材は試食品になって、お腹の中に消えてしまうでしょうし」
買い込んだと言っても、食材は荷車三台のうち一台分にも満たない。
使った金額も金貨で二十枚ほどと、稼いだ金額に比べればごくわずかだ。
利益や権利金は設備や町への投資に回してもらっているけれど、それだけでは町の民の手元に金が流れない。財を死蔵しているわけではないが、直接間接を問わず使って経済を回さなければ豊かさが広まることはないのだから。
「こちらの大陸の花は詳しく知りませんが、素朴でかわいらしいですね。中央市場の近くに咲いていたようですけど、時間があれば咲いている場所を実際に見てみたいです。今日購入した種や球根も早めに調べて、育ててみたいです」
右手でルミを撫で回し、同時に左手で花束を浮かせて壁に据え付けられた花瓶に挿す。客車内に原色に近い彩りが少なかったためか、赤と黄、白の三つが加わるだけで随分と賑やかになった。
室内は落ち着いた淡いベージュ色と黄緑色、アスカの瞳の色を意識した上品な淡い紫色や金銀の金具でまとめられているものの、季節の装いが足りていない。
素朴で鮮やかな花が良いアクセントになってくれている。
「それにしてもよろしかったのですか? あの少女への髪留めは……」
「大丈夫だと思いますよ。もしターニャと同じように花束を持ってくる者が出たとしても、最初に私へ持ってきたという栄誉はあの娘のものです。
ランヴァルド様や護衛に就いてくださった方たちも、ユリアナたちも、同じ振る舞いが二度三度と続くことは許さないでしょう?」
微笑んで心配ないと伝えると、側仕えたちも納得したのか小さく頷いた。
「切り花はそのままでは長く保ちませんが、ああして錬金術で石に加工することも出来ます。錬金術を使わずに薬液を作って加工する方法もあるので、ハンネとアニエラにはいずれ教えますね。
花にとっては自然のまま命を全うすることと姿を留めること、どちらが良いのか私には分かりません。
けれども今日の記念にいただいた花束の中から加工して髪留めにしたことを後悔はしませんよ。一生懸命に伝えてくれた気持ちは本当に嬉しかったですから」
壁の花瓶を見上げて微笑んだアスカは、膝の上から抜け出して車内をパタパタと飛び始めたルミをそっと捕まえて胸元に抱える。
少しの間身を捩っていた妖精猫だが、アスカの胸の谷間に埋もれるとすぐに頬を寄せて大人しくなり、「み?」と小さく鳴いていた。
話す間も客車はゆっくりとではあるが団本部へ続く坂道を上がっていく。
アスカの予定は昼からもたくさん詰まっている。
合間を縫って自由になる時間は少ないけれど、花を鑑賞する時間くらいは欲しいな、と思いつつ、そっと頭を背もたれに預けた。
評価やブックマークで応援いただけると、作者の執筆速度とやる気に直結します。
感想などいただけると小躍りして喜びます。
世間はコロナによる外出自粛で大変ですが、頑張って乗り切りましょう。外出自粛はストレスも溜まって大変ですが、今必死に我慢して数ヶ月以内の停滞で収めるか、鎮静化するまで数年単位で時間を無駄にするかの瀬戸際だと思っています。
私自身医療・介護現場の関係者に友人や知り合い(一部親族)もいるので、彼ら・彼女らの健康も心配していますし。甥っ子もこの春進学したばかりなのに、未だ学校に通えていないしね……。
私達各種コンテンツを作っている者にとっては(オンラインで仕事できる部分もあるので)外出自粛に協力しつつ、可能な限り提供を早めることくらいしか出来ませんが。文章にしろゲーム作品にしろ。
タイトルにはちょっとした小ネタを。あの小説、内容も挿絵も大好きでした。
実家には当時の文庫本がそのまま残ってるはず。今はKindle版で出てたかな?
この作品世界の「双月」は一般的な「神様」や「魂と精霊たちの還る場所≒天国」みたいな感覚で、平民から貴族まで身分を問わず感謝の言葉や挨拶の定型句として用いられています。




