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女形の姫様転生記  作者: 新島 隆治
26/49

怪我の治療と秋の平穏

大変お待たせしました。ブックマークや評価が前回更新より増えていると報われる気分です。


 枯れ草を血で染めながら倒した者たちを縛り上げ、停め置いた角犀馬(サルヴィヘスト)に即席の(そり)を引かせて乗せていく。

 この場所を制圧してからまだ四半刻も経っていない。


 周辺の索敵は取り決めの通りに第五隊が担当し、索敵に出ていて取り逃がしていた二名の身柄も取り押さえている。両足と胴に麻痺毒を塗った矢が刺さったため、今は他の者たちと仲良く橇の板の上だ。

 ここまで(かさ)が張った重量物になるとは思ってもみなかったのだから。


 捕縛後、第二隊と第四隊が二班ずつ出して一つ先の丘まで索敵に出ている。

 斥候が見てきた焚き火と思われる煙は同じ辺境の町ナスコとチサリ、ラッサーリからの商隊が野営中に焚いていたものだったらしく、代表の者が町の発行する証明書を持っていたので火事を起こさないよう注意のみ促してきた。


 現在は乗せ切れない者を運ぶための橇をもう一台、魔術師が枯れ木を倒して作成している。滑走板に仕立てた部分の樹皮はそのまま残し、落とさず移動させることだけに特化させているせいか、加工の時間自体は早い。


「団長、点呼完了です。各部隊とも欠員・脱落なし、斬り合いによる軽傷が七名、重症者は無し。軽傷者は全て治療済みです。うち一名は斜面を滑ってケツを強めに打ち付けたようです」


「それは……帰りは角犀馬に乗れるのか?」


「乗せるしかないでしょうな。幸いもう陽が昇り始めましたんで、鞍に予備の外套(マント)を敷かせておきます。乗る前にもう一度治癒の魔術をかけてもらいますが」


 微かに引き()った笑いを頬に浮かべたトピアスが報告を終えた。

 夜露に滑って転んだのは入団四年、傭兵としては五年ほどの経歴があるベテランに手をかけた若者である。まだこの時期に枯れずに残っていた下草の露が原因だったが、転んだ時に敵の足を薙ぎ払う形になり、素早く体勢を立て直した彼自身と同僚が相手を行動不能にしている。


「本部に帰っても痛むようなら、すぐに治療所に行かせろ。ずっと痛みが引かずに辛いようなら姫に治癒をお願いするしかなくなるが」


「その辺りは様子次第でしょうな」


 乱暴に、けれどもしっかりと抜け出せないように縄で縛り上げ、斬り飛ばした腕や脚も回収しておく。ロヴァーニ襲撃を計画していた敵相手に治療まで行うつもりは無いが、万が一後詰が来た時に状況を知られる訳には行かない。

 防壁の野営地で尋問した者たちのように舌を噛んで自決しないよう(ばい)を噛ませてもいるが、数自体が足りないのと使い捨てにするには惜しいため、生の苦草(にがくさ)を口に突っ込んで済ませた者もいた。

 哀れではあるが、敵対してきた者に対する処置としては寛大とも言える。


 血が飛び散った現場も水の魔術で洗い流され、土の魔術で表面上は何も無かったように耕されてしまった。今は偽装のためにいくつか焚き火の(あと)を残し、ここでニエミの町の傭兵やエロマー子爵領の者が野営したように見せかけている。


 辺境とはいえ、この半年ほどで急激に来訪が増えた街道は人や角犀馬などによって踏み固められ、重量のある荷車が通った跡は深く道に刻まれていた。橇の滑走板の幅もそれに合わせているため、このまま連れて行っても問題ないだろう。

 角犀馬や大勢の団員の足跡は、最後尾に配置された魔術師たちが消して帰ることになっている。護衛の十人と魔術師が五名、斥候が六名同行するので不意の襲撃を受けることもないはずだ。


「布で目隠しも終わったし、耳が聞こえないように綿草を詰めて遮音の結界も張ってもらった。半分ほど乗せて先発組を出させてくれ。

 尋問は本部でなく、自警団の会館を借りる。先発組はロヴァーニ到着後、本部から尋問を担当する者を移動させて待機していろ」


「了解です、団長。文官も同じ数だけ連れて来れば良いですかね?」


「血を見ても大丈夫な連中にしておいてくれ。正規業務ではあるが、追加の給料を出そう。いずれ専門に行う者を分けるかも知れないが」


 団長自ら縛った男を引きずって荷車に載せ、転げ落ちないように残っている脚と腕を荷車の(へり)に結わえ付ける。

 斬られた腕や脚が当たり前のように無造作に転がされているため、気の弱い者はそれだけで卒倒してしまうだろう。この場には誰一人としていないが、血が苦手な者もおそらく耐え切れまい。


 こうした欠損部位の復元や再生などは行える者を探す方が難しい。だからこそ、戦や紛争を早期に収めるために相手の継戦能力を奪う手っ取り早い方法として用いられるのが『武器を握る腕や行動力を支える足を潰す』方法なのだ。


 回復には魔力が多く治癒術に()けた魔術師による治療が不可欠で、他に希少な材料を用いた高価な回復薬があれば代用も出来るといわれている。

 二十五年ほど前まではリージュールの使節と共に各国に数本ずつ(もたら)されていたらしいが、製法は秘匿されており、また作り方自体が相当な魔力量と知識を必要としたため、宮廷魔術師でも荷が重いとされていた。


 現在ライヒアラ王国に残されているのは二本だけ、隣国や遠方の国でも残存数はほぼ変わらないだろう。

 故に正規軍同士では国力を著しく落とすことになる『手足を潰す』方法は長らく取られていないが、野盗や辺境の紛争では未だに当たり前のように戦法として取り入れられている。


「後続の荷車も準備が出来次第ロヴァーニに戻るぞ。急げば会館に荷車を置いてからでも朝の訓練の終わり頃に着くはずだ。

 第三隊は一班を会館での監視任務に就けてくれ。第五隊は防壁の野営地に二班残し、夕方まで周辺の警戒に当たって欲しい。昼過ぎに姫が新人魔術師を連れて防壁建設に来られるから、可能なら対岸の露払いも。市場に出ているもので悪いが、担当する班にはヴィダ酒の上物(じょうもの)を夕食に出す」


「おおっ!!」


 場が騒がしくなるが、団長が片手を上げるとすぐに声は収まった。

 追加手当でなく酒で手当てを出すのは「証拠を残さない」ための方法でもある。

 特に今回の出撃に関しては、アスカ姫に詳細を知られたくは無い。


「今回の討伐は基本的に姫には情報を伏せている。結果は知られても問題ないが、過程は必ず知られないようにしろ。血生臭い話は我々の中だけで十分だ。

 酒での追加報酬というのもそういうことだ。姫の御手を煩わせる訳にはいかん」


「じゃあ姫様特製の酒は無し……?」


「もし今回の襲撃について知られれば、必ずその原因に気づいて思い悩まれるはずだ。それは避けなければならない。故に姫から何かを頂くという考えは今この場で頭から完全に消せ。本部や防壁の工事現場、会館内、姫のお耳に入る場所で話題に上げることも一切禁ずる」


「罰則付きにした方が良いですぜ、団長。我々部隊長は守秘義務である程度縛られているが、一般の団員はそうでもねぇんで。

 そうさな……試食を二年くらい禁止とか、姫様の新作メニューを五年くらい禁止するとかなら率先して言うこと聞くんじゃ?」


 殿(しんがり)を率いるヴォイトが仮定を口にすると、途端に団員たちの顔色が真っ青になった。中には真っ青を通り越して真っ白になって震えている者もいる。

 既に新メニューの存在がダニエからいくつか示唆されており、来週にはお披露目も決められているのだ。それを目の前でお預けにされては堪らないのだろう。

 アスカ姫がレシピを公開し始めて半年ばかり。その間に赤獅子の槍(レイオーネ・ケイハス)の団員やロヴァーニの町の民は相当新しい味に調教されてしまっている。


 自分の角犀馬に跨った団長は手綱を軽く握り、素早く周囲へ視線を巡らす。これ以上脅す必要もないと判断したためだ。

 本人が聞けば頭を抱えるかも知れないが、教えられている『アスカ姫のレシピ』はただの新作ではなく、『リージュール魔法王国の王族だけが知る、王宮料理人が伝えたレシピ』である。現代日本で知ることが出来たごく普通の料理のレシピとしては捉えられていないのだ。


 焚き火跡には砂をかけ、戦いで激しく乱れた足元は魔術師たちの努力により凹凸がかなり目立たなくなっている。

 先行する一班の後に捕縛した者を乗せた荷車が続き、戦闘要員が三番目だ。

 足跡を消す魔術師とその護衛、斥候がさらにその後へ続く。


「ヴォイト――君の班から一人選んで、先行組に伝令を走らせてくれ。先程の口外禁止の件、追加報酬と罰則内容も含め伝えてくれるか?」


「了解ですぜ、団長。アールニ、お前が行ってこい。精鋭として選ばれるくらいだから口の軽い奴はいねぇと思うが、何かの拍子に同僚に話をしねぇとも限らねぇ。

 罰則がこれ以上ないくらい重いから言うことも聞きやすいだろ」


「すぐ行きます」


 一頭の角犀馬が隊列から外れて駆けていく。最初こそ普通に走り出していたが、五十テメルもいかないうちに全力疾走になるほど急いでいる。

 殿の団員たちは微笑ましいような苦笑を浮かべつつ、隊列を整えたまま団長を先頭に帰還を始めた。






 帰って早々、団長が見たのは執務室で頭を抱えて唸っているスヴェンだった。

 朝食は既に始まっている時間で、実際本部へ帰還してすぐに厩舎に角犀馬(サルヴィヘスト)を預け、限界まで空かせた腹を手で押さえ大食堂に駆け込んだ団員も多い。

 普段ならスヴェンもそれに混じっていたはずだが、今朝はここにいる。

 出撃する前に執務室前を通った時は気配を感じなかったから、夜を徹して机に向かったのではないことだけは確かだ。


「スヴェン、朝食の時間だぞ。何かあったのか?」


「酒が……俺の、酒……さけぇ……」


 強面(こわもて)の筋骨隆々とした男が目の端に涙を浮かべているだけでも怖いのだが、それに加えて鬱々とした空気が副団長用の机から物質化して漂ってくる。

 どんよりと(よど)んだ空気がいかにも身体に悪そうだ。


「酒の件は自業自得だろう。出撃の方は必要な事務仕事が終わっていないから已むを得ない。町の一大事とはいえ、団の決済を遅らせることは出来ないからな。

 朝食が終わったら今日の分の書類が来るぞ。早く終わらせてしまえば午後の鍛錬の時間は空く。禁酒令明けには姫が一本差し入れてくださるそうだ。それを目指して頑張ってくれ」


 予想はついていたが、その通りの反応に半ばげんなりして溜め息が出る。

 おそらくは今朝の出撃後にでも受付脇の掲示を見たのだろう。


 女子棟に続いて本部新館を整備し、工房を次々に建てたことで団員の生活時間や活動場所が徐々に変わり、情報の共有を図るための場所を設ける必要が出来た。夏の終わりにそれらを解消するため設けられたのが受付脇の大きな掲示板である。

 高さ一テメル半、横幅三テメル半はある大きな枠に、軽くてピンを刺しやすい樹皮組織を剥いて貼り付けたものだ。


 賞罰関連の通達や人事、ロヴァーニ近隣で注意を促すべき事項、工房や直営商会からの素材収集の依頼など、雑多な情報が並ぶ。団三役や受付の担当者が貼るべき情報を管理し掲示期限を決めているため、執務室や研究室などの機密情報以外では最も精度が高く信頼が置ける。

 今回スヴェンが(こうむ)ることになった禁酒令や試食禁止の罰則、また特別報酬や素材収集者への料理報酬もここで発表されることが多い。


 剣帯を外して執務机の脇に立てかけたランヴァルドは胸鎧を外し、脚甲の留め金と革のベルトを解いて並べる。きちんとポールハンガーのような木の棒に掛けて手入れをするのは後回しだ。

 鎧下に着込んだ綿の服も脱ぎ、こちらは食堂へ行く前に下働きの者たちへ渡しておけば今日中に洗って、乾き次第執務室前まで戻してくれる。

 水道が通って湯を沸かす魔術具も用意されており、秋が深まってきても冷たい水で手を(かじか)ませることもない。洗濯や炊事など、少なくとも団本部内の水周りに関する生活環境はライヒアラ王国の王都よりランクが遥かに上だ。


「大体、蒸留酒の件はスヴェンが勝手にボトルを開けて呑んだのが悪かったんだ。必要ならスヴェンが直接姫と交渉すべきだ。禁酒令はユリアナと姫の進言もあって昨晩決定したんだから、頑張って節制してくれ」


「でもよぉ……禁酒が解除されるまで一月近くもあんだぜ?」


「冬篭りの祭りの当日までだろ。冬が終わるまで禁酒にしてる訳じゃない。酒無しでも死ぬ訳じゃないんだから、反省の気持ちを見せてやるべき仕事をきちんとこなせば姫も考えて下さるだろう」


 ユリアナがどう判断するかは不安なため口にはしなかったが、アスカ姫一人の判断であれば期限付きの禁酒で済むはずである。

 昨晩団長から団内・市場への通達書に署名が加えられたことで及ぼす効力が最高レベルになってしまったが、当初決めておいた『冬篭りの祭り』という期限までは変更されていない。

 王都以来の幼馴染であれば過去の所業も含めて『この機に大人しく断酒なさい』とでも言うのだろうが、彼自身は危地に率先して突っ込んで活路を開き、己の背を預けられるスヴェンにそこまで厳しく当たろうとは思っていなかった。


「今回は諦めてくれ。各部隊長たちも蒸留酒を勝手に呑んだことに関しては相当気が立っているし、ユリアナに禁酒どころか断酒を言い渡されるよりも良いだろう?

 姫の名を出されても、期限付きで許してもらえるなら御の字のはずだ」


 用意されていたタオルで軽く汗を拭う。汗を吸ったそれも、鎧下と一緒に洗濯に出してしまえば済む。本当なら汗を流しに本部側に新設された湯殿へ入りたいところだが、食事や執務の時間を考えると昼前に取れるかどうかだろう。

 洗濯物だけは朝の段階でまとめて出しておかないといけないのだが。


 暖炉の使用には時期が早いが、女子棟の湯殿や鍛冶工房の廃熱と風を利用して洗濯物を乾かす場所も敷地内には用意されている。

 事務方や工房、団本部の人員を併せて二百名を超えるような大所帯では、一日の洗濯だけでも大きな労力を費やさなければならない。

 女子棟のように少ない魔力で動く魔術具がふんだんにある場所ならいざ知らず、訓練や工房、厨房での汚れ物が多く集まる本部新館の洗濯室には常駐で八名の下働きが配属されていた。湯や石鹸が用意され、繊維にまで染み込んだ汚れを超音波で分解・洗浄できる魔術具を使うことが許される職場など、おそらく今の赤獅子の槍(レイオーネ・ケイハス)以外には無いだろう。


「こんなところで腐っているより、早めに朝飯を食べて、熱いシャワーでも浴びて気分を入れ替えろ。いつまでも引きずるより、要領の良さというものをいい加減スヴェンは覚えた方が良い」


「うーい……でも、計算がなぁ……」


「ここ数日、姫がお手伝いして下さっている書類と交換しても良いんだぞ。計算の量が最低でも今の七、八倍で、報告書の厚みも三倍くらいあるが」


「――今ある書類を頑張る。だがそれ以上に事務方の人間を増やして欲しいぜ」


 (うな)垂れたスヴェンが心底嫌そうに呟く。彼にとって事務仕事や書類仕事はそれだけ苦手で相性が悪いのだろう。

 しかし役職がつけば書類仕事から逃げられる訳がなく、むしろ決裁権や権限の増加と共にその量と厚みは増えていくものである。

 彼の弟で実家のホレーヴァ家を継ぐだろう次男のヴィヒトリなら、スヴェンよりは適正があるのかも知れないが。


「さぁ、まずは食事だ。仕事とそれ以外の切り替えは早く、仕事の時は仕事に集中だ。姫よりもユリアナに酒を中止された方が長引くと思うぞ」


 付き合いの長い幼馴染の性格や言動を知っているだけに、ランヴァルドの言葉には重みがある。スヴェンもそれなりにユリアナの実家との付き合いはあったが、同い年で近所同士だった彼以上には詳しくない。

 盛大な溜め息と共に一度机に突っ伏したスヴェンは、腕の力だけで無理矢理身体を起こすと、頬を数度叩いて気合を入れた。


「まずはメシか。書類や計算は憂鬱だが、昼過ぎの訓練で癒されるしかないか」


「いや、今日からは冬篭りの備蓄について報告と試算が上がってくる予定だ。団員も倍増以上になったし、計算で決められた量が冬の間の食い扶持になるから、文官も動員して仕事が増えるはずだ。訓練の時間は取るが短めに頼む」


 勢い込んで立ち上がったスヴェンの腕から一瞬で力が抜ける。

 愕然とした表情と見開かれて虚ろになりかけた目、それに半ば開けられたままの口がスヴェンの衝撃の強さを物語っている。

 今まで以上に書類漬けの日々が来るとは思っていなかったはずだ。


 昨年までは団員が六十人強、事務方や下働きの者を入れても百人にも満たなかった組織だから、計算と承認をするのに一日半もあれば楽に計算できている。

 だが今年は団本部だけで二百三十人を越え、直営商会や自警団を含めれば四百人を超えるだろう。心配性の会計長が事前にある程度手配をしているとはいえ、人数や保管場所など、簡単に済ませられる量ではない。


 (まき)や晶石、食料、酒、薬草、角犀馬の飼い葉など、必要となる資材は多い。

 例年なら冬を越すために潰して干し肉などに加工する家畜や野禽も、今年は農家に委託して大規模に飼い始めていた。それらの越冬用の餌も必要になる。

 水道が完成しているので水の確保についての心配は少ないが、夏から定期的に刈り取って確保していた飼い葉は、農家によっては新しく大きめの小屋を二、三棟建てる程度には準備が必要になっていた。


 もっとも、それで得られる恩恵は大きい。越冬中に出産のピークを迎えるだろう野禽(やきん)もおり、翌年の春から飼育できる頭数は順次増えていく。

 余剰が出来れば冬でも新鮮な肉や乳、卵などを得られる機会も増える。

 まだ団以外には広まっていないが、肉を取り終えた骨を長時間煮込んだスープを得ることも出来るようになるのだ。


 皮や毛、肉を売却しても他所に回せるとなれば、次に起こるのは外部への輸出や余剰食糧を消費し再生産する人員の誘引、あるいは現住人による次世代の育成――大規模なベビーブームである。


 既に夏に配布した肥料で例年以上の収穫が上がりつつあるという第一報は、直営商会経由で執務室にも届いていた。最も少ないところでも通常の二倍、条件が良かったと思われる農地では通常収量の四~五倍もの収量が見込まれているという。

 直営商会と木工工房は収穫物を保管する小屋の建設に連日駆り出されており、それでも足りない人員を補うために移住直後の者や非番の自警団員、傭兵が日雇いで現場に入っている。


 夏に向かった海辺の集落でもこれまで以上に食べられると判明したものが増え、それらを加工した干物や塩漬けがロヴァーニの市場に持ち込まれていた。

 一部は冷凍・冷蔵の荷車によって団本部に届けられ、女子棟の地下倉庫に運び込まれている。冬になったら本格的に素材として活用されるはずだ。


 普通に市場に流通しても長期の保管に耐えられるものは新しい市場に隣接した一角に集められ、秋の終わりまでに石工工房と魔術師、錬金術師が保管倉庫を建てることになっている。

 代わりに海辺の集落には余剰穀物や新鮮な野菜などが持ち込まれることになっており、そちら側でも人口が増える要因を作っていた。


 報告書を読んでいるのはランヴァルドと会計長、報告をしてきた直営商会担当の文官と文官長、それに事務仕事を苦にしないアスカ姫の五人だけである。

 スヴェンが読んでいたら、この後に増える事務仕事を前に卒倒していたはずだ。


「剣の腕が鈍るのは困るから、鐘一つ分は訓練してもらって構わない。冬篭りの間はたっぷり訓練できるから、今は堪えてくれ」


 力の抜けたスヴェンの肩をぽんぽんと慰めるように叩いた団長は、汗を拭いたタオルや脱いだ鎧下を手に執務室の扉を開けて廊下に出て行く。

 身体を冷やさないように上着を羽織っているのはユリアナの躾の成果だろう。


 がっくりと肩を落としたスヴェンもその背を追うようにゆらりと動くと、足を引きずりながら執務室を出て行った。






 その知らせが届いたのは昼過ぎのことである。

 昼食が終わり、本部の訓練場で剣や槍の稽古が始まって間もなく、防壁工事の現場に向かう前に執務室へ顔を出していた飛鳥は団長や会計長と共に急遽訓練場へと呼び出されることになった。


 怪我人が発生した――というのが呼び出しの原因である。


 剣や槍の訓練ともなれば怪我は日常茶飯事だ。大体は治癒魔術の使える者が訓練後に呼ばれて治すか、薬師や見習いの作った薬で癒すかの二択で、途中で呼び出されることはまず無い。

 治癒魔術にも()けたアスカ姫をわざわざ呼び出さなければいけないほどの何かが起きたのだろう。


 報告をしに駆けてきた若い団員に話を聞いた飛鳥は、医務室の準備をアニエラとユリアナ、ルーリッカに頼み、ハンネとクァトリを護衛として訓練場に向かう。

 途中で新人たちに先行してもらうように伝え、昨日までの作業の続きを行うよう指示を出しておくのも忘れない。治療にどれほどの時間を取られるのか不明である以上、無駄な時間を過ごさせることはできない。


 側仕えとして後を追ってきたのはエルシィとリューリの二人だけ。残りは女子棟で任された仕事をしているか、飛鳥の使いで直営商会に行っている。

 途中、手の空いている男性の団員に指示を出して医務室に置いた担架を持って来てもらった。人を乗せていない状態なら、飛鳥の腕力では無理でも男性一人で持ち運びは出来る。


「どうされました?」


 訓練場に着くと、踏み固められた地面に(うずくま)って呻いている男性が一人と、それを取り囲むように立つ男女の団員がいた。訓練を中断したためか、皆の手には木剣や槍を模した棒が握られている。

 倒れている男性団員はうつ伏せで顔が土に塗れており、脂汗を掻いている。自分の状態を答えられる状態ではなさそうだった。


「昼の訓練を始めてすぐ、こいつが『ケツが痛ぇ』と言い出したんです。最初のうちは打ち合えたんですが、四、五回剣を受けたらケツの辺りを手で押さえて地面に倒れて。ここまで痛がるのは初めて見ました」


「姫様の前で何度も『ケツ』とか言うな。腰とか尻とか言い様はあるだろう?」


「姫様の前じゃなくても考えなさいよ。あたしたちだっているんだからね」


 周囲にいた男性団員が口々に言い合うのを、女性団員が冷めた目で見ている。

 デリカシーの無さを(たしな)めるのは、世界が違っていても同じらしい。


 倒れた場面を直接見ている訳ではないから確たることは言えないが、原因があるとしたらかなり前の出来事が直接の要因だろう。

 魔力を薄く広げることで内部構造を知ることが出来るのは、水道敷設や女子棟の工事で体験していた。ならば人体にも応用が利かない訳がない。

 その補助として、状況を知る者を集めることが必要となる。


「この方が倒れるまでの経緯が分かる二名と担架を運ぶ手伝いで二名、計四名だけ一緒に着いてきてください。他の方は訓練に戻って大丈夫です。

 運ぶ間、痛みの感覚を魔術で麻痺させます。ゆっくり息を吸って、同じくらい時間をかけて静かに吐き出してくださいね。

 エルシィ、リューリ、医務室の隣の処置室にお湯と消毒の準備をお願い。医療班の方々にも声をかけて部屋に集めてください。終わったらユリアナの手伝いを」


「すぐに手配いたします、姫様」


 訓練場まで着いてきた側仕えの二人が一礼して駆け出していく。

 専属の護衛役の二人がいることと、団本部の敷地内だから側を離れることを許容したのだろう。そうでもなければ主の命令といえど拒否しただろうし、ユリアナからも厳しく叱責されたはずだ。


 その間に男の脇で膝を突き、左手で麻痺(ハルヴァウス)の魔術を加減して発動し、腰の周辺に限定して効果を及ぼしていく。痛みは多少伝わるものの、呼吸を押し殺してまで痛みに耐えるほどではなくなるだろう。

 本気で使えば心臓の強靭な筋肉や全身の筋肉ですら止めることもできるが、過剰な威力は必要ない。麻酔のための薬が一般的に知られていないこの世界では、魔力にこそ頼るもののガスや薬よりも手軽で確実な方法である。


「――少しは楽になりましたか?」


「まだ痛い、けど……息が出来なく、なるほど、じゃ……」


 明らかに痛みを感じなくなってきたのか、男の顔から強張(こわば)りが消えた。

 あまり強く掛け過ぎると身体活動に大きな影響が出てしまうが、一般的な魔術師が使う灯火の魔術で二回分ほどの魔力を患部に浸透させるだけで浅かった呼吸がゆっくりと戻ってくる。

 大気中の魔力を引き出せばもっと魔力の消費は抑えられるが、それよりは即効性を重視したのだ。誰だって、痛いものは痛い。


「受け答えが出来るなら大丈夫ですね。即現場復帰とは行きませんが、(わたくし)も出来る限り力を尽くしますので」


 飛鳥は立ち上がって微笑むと、訓練場の土に突いていた膝を払って軽く水と振動の魔術を発動する。皮膚と服の表面だけを水の薄幕で覆い、秒間四百回くらいのごく短い振動で洗えば土汚れは消えてしまう。布が含んだ水を払うのも一瞬だ。


「彼を担架に乗せて処置室に運びます。うつ伏せにしたまま乗せて、なるべく上下左右に揺らさないように高さを揃えて移動して下さい。

 担架の棒は二人で持つのが厳しかったら、付き添いの二人にも手伝ってもらって下さい。私の力では無理ですが、男性の力なら重さが人数分に分散されて大きな負担にはならないはずです」


 持って来てもらった担架を訓練場の地面に広げ、丈夫な布の上にうつ伏せの姿勢のまま乗せてもらう。さすがに未成年の少女の身体で成人男性一人分の重量を移動させるのは無理だし、魔術を使ったところで手や足の重量が腰の付近に負担をかけないとは言い切れない。

 何より、戦場で怪我人を運んだりすることもある彼らの方が姿勢を変えずに横たわらせたり移動させたりすることに長けている。


「持ち上げる時は声をかけて一斉に……持ち上がったら前後の高さを均等にして移動して下さい。傾けると身体に負担がかかってしまいますから注意を」


 四人が取り付いて短い掛け声と同時に持ち上げられた担架は、上下動も無く医務室へと向かっていく。

 飛鳥と一緒に呼ばれた団長たちもその後を追って建物へと戻っていった。



 医務室付近の廊下には多くの人が動き回っている。

 訓練場から連れて来られた若い団員は、処置室として割り当てられた本部一階のベッドに寝かされた。


 部屋には板敷きの簡素な作りのベッドが数床置かれ、端切れや毛織物の切れ端、使い古して襤褸(ぼろ)になり、煮沸消毒した布を細かく刻んで袋詰めした厚さ三テセ(センチ)ほどのマットレスが敷かれている。棚にある毛布を使えば寝泊りも出来るので、簡単な入院にも対応出来るだろう。

 注射や点滴設備こそ無いが、消毒用の酒精や薬師たちによる薬、清潔な布も豊富に並べられており、生半可な町医者の診療所よりも遥かに設備が整っていた。


 手を消毒するための金属製の浅い洗面器や金属製の台、暖を取るための小暖炉、処置室の加湿用の薬缶を置く台も用意されており、駆けつけた薬師や錬金術師によって手際良く準備が進められている。

 洗面器の片方には温水に塩と酢、レモンや柚子のような甘味が少なく酸味が極めて強い果実の汁を混ぜたものが半分ほど満たされ、もう片方には消毒用に少し薄めた酒精が底から三テセ半ほど注がれていた。


 この世界での医者は患部に触る時でも手を洗わず、それ以前に細菌や消毒の概念すら存在しない。海辺に住む産婆が経験則で海水で手を洗ってから赤子を取り上げると死亡する例が少ないことを知っている程度である。アルコールや薬品による消毒の知識など望めようはずもない。


 もちろん、リージュールの姫であるアスカや高等部二年までの知識しかない飛鳥にとっても高度な知識はない。それでも高い濃度のアルコールやヨウ素、いくつかの化学物質の存在は知っていたため、手元にあるものを利用することは出来た。

 ヨウ素は元の世界と同様に海藻から抽出することが出来るのか実験中のため手元に現物は無いが、高濃度のアルコールを用意出来るだけでも違うだろう。


 雪で街道が閉ざされるという冬の研究項目の一つがヨウ素の抽出だったため、ポビドンヨードのような汎用性のある薬剤はまだ無い。

 アスカ姫が知る魔術に『滅菌・殺菌(スティリオインティ)』というものがあるが、どの程度まで対応できるのかは実際に試してみないと分からない。

 治癒の魔術だけが先行しても、消毒をしないで済ませることが正しいのかすら分からないのだから。



 腰から下に強い痛みを訴えて倒れた団員は簡単な構造の担架に乗せてベッドまで運ばれ、土に(まみ)れたシャツやズボンを脱がされ、下着姿で転がされている。

 汗を掻いていた肌は男性の薬師たちによって丁寧に拭き取られ、痛みに顔を歪めていた。まだ意識を失っていないのが良いことなのかは判断がつかないが、自室でも娼館でもない場所で同性に服を剥かれるのは良いことではないのだろうが。


 飛鳥は服の袖をハンネに捲くってもらい、塩や酢を蒸留したもの、クエン酸の抗菌効果を期待した濃縮果汁を入れた洗面器で肘まで丁寧に洗って水で流し、乾いた布で拭ってから酒精を溜めた洗面器で手首から先を(ひた)した。

 こちらは肌がアルコールに弱いのか、白い肌が若干赤く染まっている。

 酔うほどではないので大丈夫だろうが、丁寧に指の間にも擦り込んで風の魔術で揮発させ、そのまま手を上げてベッドに近づいた。


「痛みは腰と足だけですか? 転んだ時にお尻を激しく打ちつけていませんか?」


 未明に出撃したメンバーにこの団員が入っていたことは、医務室へやってくるまでの間に団長に確認済みである。任務の内容までは触れなかったが、何らかの不正規戦――ゲリラ戦的な奇襲作戦だったのだろう。


 アスカ姫に出撃の詳細を隠しているということは、飛鳥としても知らないことにしておいた方が良い内容だと思われた。

 捕虜がいたのかどうか、その扱いがどうなのか、現代社会で一般的に考えられている常識は一切通用しないのがこの世界である。であるなら、自らの生命や貞操に直接関わらない限り『(あずか)り知らぬこと』とするしかない。


 飛鳥は団員たちに押さえつけられた彼の脇に回ると、背中から腰までを露出させるよう指示を出した。処置室には暖炉を置き、大きめの鍋を火に掛けているので、温度・湿気とも肌を露出させても問題ない。

 もう一月もしたら全面稼動するだろうが、女子棟と団本部新館では厨房や鍛冶工房の炉の排熱を利用した全館暖房が行われる。

 食堂や受付、各階の一部の設備がその恩恵を集中的に受けることになるが、その一部に医療設備も含まれるのだ。壁の断熱処理も念入りにされているため、ガラス窓を開け放ってでもいない限り下着一枚になったところで寒さは感じないだろう。


 さすがにアスカ姫としては手を出さなかったが、腕力で勝る男性団員が四、五人で寄ってたかってシャツを捲り上げ、パンツを尻の半ばまで引き摺り下ろすまで数秒とかかっていない。うつ伏せ状態なので、身体の前面にある大事な箇所も無事隠されている。


 患部と思われる辺りを消毒用に薄めたアルコールで拭き清め、アスカ姫の繊手に真新しいシェラン地の手袋を嵌めたのは薬師の女性だ。

 同じ薬師のアニエラも他の女性に手を借りて手袋を嵌め、念入りに二度目の清拭を進めている男性薬師と場所を代わる。


 怪我人を見ることに慣れているのか、男性も女性も患部の露出くらいで騒ぎ立てるような者は誰もいない。ユリアナたち側仕えは準備を終えた後で処置室の外に出ているため、部屋で何が行われているのかすら知らないだろう。


「打ったと思われる辺りが(あざ)になって赤黒くなっていますね。腰というよりは尻の割れ目の上辺りでしょうか?」


「背骨の下の方かな? 戦闘で転んだり角犀馬(サルヴィヘスト)から落ちてぶつけたにしては少々範囲が広いし、色も痣と違う。位置も中途半端に思えるが」


 口にマスクをし髪を布で覆った薬師や医師が、患部に直接触れないように観察していた。飛鳥も痣の様子を見るが、単なる内出血というよりは打撲痕に近い。

 尾てい骨や骨盤の強打であれば、放置するのは危険である。神経や脊髄(せきずい)を傷つけていたら、傭兵としての働きはもちろん、歩行や立ち居振る舞いにすら影響が出てくることもあるのだ。


「ただ転んだ時は身体が本能的に危険を避けようとしますが、転び方が普段と違ったり、お尻から激しく打ちつけた場合は危険なのです。

 ぶつけた直後は多少動けるので大丈夫と思っていても、実際には骨や神経を痛めていて時間が経ってから症状が酷くなっていき、最悪の場合二度と歩けなくなったり起き上がれなくなることもあるんですから。

 足元が滑って転んだ時、地面の様子はどうでしたか? 斜面か平地か、岩場のような固い場所だったか草が生えているような柔らかい土だったか、石が転がっているような場所か、詳しく覚えていますか?」


「……斜面です。草は背の高くないのが生えてました。足元は石ころが結構転がってて、土も露出してたので固いとも柔らかいとも言えるかも。

 ケツが当たった――失礼、転んだ場所は確か倒木が転がった痕があって、かなり固かったかな?」


 手を消毒せず自由に使えるハンネが飛鳥の聞き出した話の内容を植物紙のメモに書き取っていく。識字率が低いこの世界では、こればかりは普段から文字を書き慣れている人間でなければ出来ない仕事である。

 それに消毒した手であちこち触れ回る訳にもいかない。聞いたその場で覚えるにしても限度があるし、一人では聞き逃しがあるかも知れない。

 何より治癒魔術を使える者や薬師がいない場合は症例と治癒方法の積み重ねだけが頼りになるのだ。


 この世界の医者は先達(せんだつ)の経験から得られた知識と症例経験の積み重ねだけに頼っており、人間の身体の構造――骨格や血管、神経、臓器などの知識は師の残した覚え書きや個々人の経験則しかないらしい。

 刑罰や戦闘で人を殺すことはあっても、その身体を利用して人間の身体の仕組みまで調べることは無かったのだろう。


 現代社会では高度で長期に渡る専門教育と機械化・電子化、大規模データの蓄積による効率化が図られてはいたが、専門教育と長い現場実習を経てようやく一人前の医師として認められる職業である。故に人材を育てるには金も時間もかかるし、教育という下地も必要とされた。

 それに対してこちらの世界では経験則による知識と多少の現場経験だけで医者を名乗ることも出来るらしいが、いくら治癒魔術や地球に存在しない薬草があったとしても、それだけで人の命が救えるわけではない。

 怪我や病気など、こちらの世界特有のものだってあるだろう。


 いずれは解剖に立ち会ったりして知識を得たり、記憶を掘り起こして整理する必要は出てくる。生物や保健体育の授業で習った範囲だが、覚えている範囲だけでも人体の構造が似ているならば骨格や神経、血管の配置は参考になるはずだ。

 アスカ姫が覚えている範囲での魔術的な知識や薬草学を始めとした医療知識も、この辺境では大いに役に立ってくれる。


「痛みを自覚したのは何時(いつ)くらいからですか? 転んですぐ? それとも帰ってくる最中? 帰ってしばらくしてから?」


「転んですぐに痛みはありました。任務から帰ってくる時は軽い治癒魔術をかけてもらっていたので問題なかったんですが、本部に帰って訓練を始めたら急に痛みが強くなってきて……」


「分かりました。痛いのはお尻だけですか? それとも足や背中まで痺れる感覚が広がっていますか?」


「背中の半分くらいまでと、足の方にも時々痛みが走ります」


 飛鳥は小さく頷き、ハンネにメモを見せてもらい記述を確認した。

 おそらくは転んだ拍子に尾てい骨か骨盤自体を強打し骨折したのだろう。石が転がっている斜面で当たり所が悪ければ、そういう事態が起きてもおかしくない。


 この程度であれば治癒術を重ねがけするか、二ヶ月ほどの運動禁止と安静を言い渡せば治るのかも知れない。けれどもここは傭兵が働く場所である。

 身体の鍛え方を見ても、事務屋よりも明らかに腕っ節の方を期待されている者に長期に渡る安静はきついだろう。

 しかもあと一月も経たぬうちに本格的な冬が訪れ、街道を雪に閉ざされれば護衛の仕事は激減するし、採集や狩りだってままならない。


「――症状は把握しました。団長、このまま魔術を使わない状態でも痛み止めの薬を投与すれば二月ほどで完治すると思いますが、絶対安静が必要です。当然ですが治療の間は団の仕事が出来なくなります。

 強めの治癒魔術を使えば数日程度ですが、おそらくお尻の骨に(ひび)が入っているか折れているため、骨を修復して(いた)んだ周囲の血管や神経を治さない限り痛みが残り続けるはずです。後者の場合は最長でも五日ほどですが、薬に使う薬草が希少なため費用は少し多めにかかると思います」


「早く復帰できる方でお願いします。費用に関してはもちろん団が持ちます。団長命令による任務中の怪我ですから、団長である私が責任を持ちましょう。

 姫の魔術でのご負担も含め、医務の班で費用をまとめて請求してください。薬にかかる費用はアニエラがまとめてくれるはずですし」


 鷹揚(おうよう)に頷いた団長は顔を青くしている会計長の肩を叩きながら、この後の経理処理を丸投げしていた。実際に最終的な決済の判を押すのは団長でも、そこに至るまでの細かな計算の確認や金銭出納は会計長の役割になる。

 総額がいくらになるのかも含め、胃の辺りが重く感じられた。


「薬については一つを除いてそれほど高額ではありません。材料費で言えば小銀貨一枚くらいですかね? ただ一つだけ特殊なものがありまして……ビークナーの実を仕入れて欲しいのです。数は二つ、生でも乾果でも構いません」


「ロヴァーニでも鉱山の近くに木があると思いますが、あれは貴族向けの季節の甘味じゃないんですか?」


 夏に半テセにも満たない小さく可憐な花をつけるビークナーは、秋になると直径二テセ、長さ四テセほどの緑色に赤紫の筋が走る涙滴型の実をつける。

 日当たりと水はけの良い岩場付近で見つかることが多く、採集には多少の危険を伴うけれども、この時期なら辺境の市場に並ぶこともあるだろう。

 ただし木の生えている場所柄もあって、集まる実の数がそれほど多くないことから常に高額になりがちだった。生でも食べられるが、大半は乾燥させた状態で流通する乾果・甘味の一つで、産地から遠い王都や平野部の貴族領では同じ重さの銀貨と交換されることも多い。


「細かいことはお教え出来ませんが、実を鎮痛薬に加工することが出来るのです。副作用もほとんど出ませんが、魔力を多めに使うので、製法を知っている者はそう多くないと思います。

 薬の常として量を間違えれば猛毒にもなるので、手順はリージュールの薬師か、その教えを受けた者だけが伝えているはずです。

 私も旅の最中に教師から加工の方法と調合法を教わっています」


「アニエラは知っているか?」


「いえ……王都の学院の教授もおそらく知らないと思います。卒院前に教授の研究室へ入り浸っていた時でも教わっていませんから。私が入学した頃には亡くなっていたという教授の恩師なら、使節の方から教わった可能性があるかも知れませんけど」


 アニエラが消毒した手を上げたまま答え、首を横に振る。

 教授の恩師というのも、もう十一、二年前に亡くなった。彼女が王都ロセリアドの基礎学院に入学する前、魔術学院の指導教授として恩師の研究室に入るよりはるか前の出来事だ。

 現在この大陸で二十年前の使節の教えを受けている者は王城に二人と学院に一人いるが、学院に残っている教授はかなりの高齢で退官間近、王城にいる者は使節団に随行した薬師から見れば孫弟子に当たる。


 アスカ姫として教わっている内容を記憶していることには感謝するしかない。

 彼女が物心ついて以降の教育内容は、飛鳥としての知識とは別に、意識して思い出そうとすれば隣に立って映像を見るように追体験できる。

 毒やそれに対抗する薬の材料に錬金術の触媒、採集や加工の手順に至るまで記憶が揃っていることで、今回使うべき鎮痛薬の知識も思い出せたのだから。


「加工にはアニエラを立ち合わせます。彼女にきちんと製法を伝授するかは決めかねていますが、知識と薬師としての力量自体は問題ないはずですので。

 いくつかの国の機関には私が生まれるより二十年ほど前に伝えられたと聞いていますけど、現在伝わっていないのであれば失伝したのかもしれませんね」


「ビークナーはすぐに必要になりますか?」


「入手が早ければ助かりますが、主として治療の過程で痛みと炎症を抑えるためのものです。それに先週執務室の報告書で見ましたが、直営商会にビークナーの実が五つ納入されていたはずです。

 この辺りでは数日間天日干しにしてから商品にすると聞きましたから、そろそろ加工が終わっているのではないでしょうか?」


 笑顔を会計長に向けると、彼は慌てて処置室を出て行った。希少で高価なビークナーの実が手に入ったなら、再来週出発する王都への最終便に合わせて大商会と商談を進めてしまう可能性もある。

 背中を見送った薬師たちと飛鳥は、ベッドに押さえつけられたままの団員に視線を戻して治癒を進めることにした。


「何時までも放置しておくと風邪を引いてしまいますし、薬自体が太陽の光に弱いので夜になったら調合しますね。まずは痛みを取り除いてしまいましょう。軽く触れますが、痛みで舌を噛んでもいけませんから口に布を噛ませて下さい」


 飛鳥の言葉に、控えていた男性薬師の一人がハンドタオルほどの布を折り畳んでベッド上の団員に噛ませる。

 同僚に押さえつけられて涙目になっているように見えるのは気のせいだろう。


 薄手のシェラン地の手袋を腰と尻の上部の間に当て、触れた場所から魔力を静かに流し込んでいく。

 この年頃の少女が異性に対して感じるような羞恥はない。少し前までは飛鳥自身が同じ性だったのだから。それに目の前でベッドに横たわっているのは怪我を負い弱った患者だ。

 男性の表皮から真皮、皮下脂肪や筋肉、血管、神経、骨へ。訓練でかなり絞られているのか、皮下脂肪や体内に蓄積した脂肪は少ないように思える。

 弱く浸透していく魔力の波が跳ね返って戻って来るまでのわずかな時間差から、痛みを訴える男性の患部の状態が分かってきた。


 骨盤と尾てい骨の(ひび)、圧迫された神経と激しい衝撃で破れたらしい血管、筋肉や骨の間で固まりかけている血の塊の様子がはっきりと分かる。X線やMRIの解析画像をそのまま脳裏に思い浮かべるような手軽さだ。

 それでいて大量の電気も磁気も必要とせず、放射線による被爆の危険性も無い。

 魔力というものがこの世界に満ちているのは分かるが、その実態が良く分かっていなくてもこれだけ便利なものであるなら、もし現代日本にあればどれだけ役に立ったことだろう。


「骨折と骨の皹が八ヶ所、血管の損傷、神経の圧迫、打ち身に打撲、お尻の内出血ですか。順番に治すしかありませんが、念のため麻酔をもう一段強くしておいた方が良さそうですね」


 防壁の建設現場に持って行っていた魔術具と似た板に魔力を通し、手で触れた場所から得られた情報を順に拡大して映していく。

 画面には骨盤や脊椎の影がはっきりと白く映り、次いで枝分かれしている血管の様子が細い赤の線で重ねられている。

 神経と思われる線は濃い目の黄色で、皹と思われる線が骨の上に青色で、出血し広がった場所は薄い赤で表示されており、部屋にいた薬師や医師、団長たち幹部が初めて見る人体内部の構造に驚きの声を上げた。


「現在の状態はこんな感じですね。皹も出血も何とか治せると思いますが、発見が早かったから治せるというだけです。

 痛くても我慢できるからと放置していたら歩けなくなったり命に関わる場合もありますので、団員の方たちには絶対に無理をさせず申告するように伝えた方が良いかと思います」


 幹部の様子がはっきりと見えるように魔術板を使っただけだが、視覚的に治療の様子が分かった方が良いだろうと魔力を流したままシェランの手袋をそっと尾てい骨の辺りに当てる。

 触れられた痛みに男の身体がわずかに跳ねるが、その程度の抵抗は手伝いに来た男性団員たちに押さえつけられ、処置用のベッドの左右から追加で二人が患部の腰の辺りを固定していた。


「まずは出血を止めて、血管の補修と神経の圧迫された部分を開放しましょうか。神経の圧迫が無くなれば少しは痛みが減るはずです」


「姫様、他に用意するものはありますか?」


「そうですね……治療の後で腰の下に入れるクッションがあれば用意して下さい。医務室用に作ってもらった、円の一部が欠けた形のものが良いです。それと汗をたくさん掻いているようなのでタオルとお水を」


 薬師のニーナに答えた飛鳥は手を当てたまま意識を患部に集中し、周辺に雑菌が無いかを確認しながら魔力を流していく。


麻痺(ハルヴァウス)――滅菌・殺菌(スティリオインティ)洗浄(プーディストス)


 麻酔の深度を一段階上げ、念のために殺菌と患部の洗浄を行う。肉体の内部に直接作用させるため魔力はごく弱く流しているが、きちんと効果を発揮したらしく、魔術板に表示されていた薄赤色の表示が消える。

 次いで少し強めに魔力を流すと、折れた骨片や皹が隙間に入って圧迫されていた神経が解放されてわずかに太く表示されていた。魔術板に結果が反映されるまでのタイムラグはほとんど無いはずだ。


「痛みは感じますか?」


「いえ――魔力が流れたんだろうというのは感じますが、痺れて分かりません」


「それならこのまま治療を続けますね。アニエラ、魔術板の表示と(わたくし)の魔力の流れを良く見ていて下さい。患部の痛みもあるでしょうから、少々ゆっくりやってみせますので」


「勉強させて頂きます」


欠損修復(コリオウス)組織除去(ポイスタミネン)欠損補修(コリアミネン)


 魔術板に表示されている部分だけでは分かりにくいが、意識は脊椎の中の欠損に向いている。激しく打ち付けて損傷を受けていた部分を修復し、骨片や滲出(しんしゅつ)していた体液を一度患部から除去し、傷んでいる血管や神経を解放して修復していく。

 予め麻酔の度合いを強くしていなければ、成人男性といえど痛みを我慢出来ずにベッドの上をのた打ち回っていたはずだ。


「骨を折った時はきれいに折れているようでも欠片が周囲に飛び散ってしまうことがあります。身体の中であっても同じです。

 それと血管や神経は骨に沿って集まっています。骨が折れると圧迫されたり血の流れを止められてしまい、最悪の場合はそこから腐り落ちることもあります。

 今回はその心配はありませんが、治癒の魔術を掛けるまでの時間を気にするだけでなく、患部の状態にも気を配った方が予後は良くなります」


 今回、飛び散った骨片は細かく粉砕して皹の付近に移動させている。

 ゼロから修復させるよりも、体内にある材料を使って補修・修復を行えば使用魔力は少なくて済む。アスカ姫の場合は誤差の範囲にもならないが、アニエラや他の薬師、医師たちが今後の治療の参考にできるように配慮したのだ。


「これで腰とお尻の骨の内側を修復しましたが、方法や仕組みは後ほど私が覚えている範囲で詳しく教えますね。次は骨に入っている皹の修復です。

 飛び散った骨の欠片を一旦細かな粉のようにして、骨に入った皹の近くに集めています。これを使って皹の隙間を埋め、元の骨と繋ぎます」


 魔力の流れが骨の皹に向かい、じわじわと左右から皹が埋まっていく。魔術板の表示もそれに合わせて皹を表す青い線が徐々に消えている。

 麻痺の魔術が無ければ修復の際に(もたら)される激痛と発熱で泣き叫んだはずだ。

 普通の治癒魔術でも多少の時間遡行(そこう)はされるようだが、完全な修復は望めない。修復の際の痛みもそのまま肉体に反映されてしまうため、少々の切り傷程度なら我慢もできるが、骨折以上の怪我になると激痛を覚悟しなければならない。


組織除去(ポイスタミネン)滅菌・殺菌(スティリオインティ)洗浄(プーディストス)――組織除去。そちらの銀の皿に移したのは患部の周辺を洗い流したものですから、一度魔術で焼いて石灰と混ぜ、一緒に地中深く埋めてください。水場の傍に捨てるのは絶対に避けてくださいね。

 団長、治療は終わりました。後は投薬で痛みを抑えながら様子を見て、二、三日もあれば現場にも復帰できると思います。その間の訓練とお仕事は大事を取って休ませた方がよろしいかと」


 使っていたシェランの薄い手袋を触れていた部分を裏返しにして外し、焼却処分用のゴミ箱に捨てる。こちらも焼却後は石灰と一緒に地中深く埋められる予定だ。

 ロヴァーニの町の下水施設よりも低い位置に埋められるので、水への汚染もまずないだろう。


「治療は終わりですので、下着も戻して大丈夫です。しばらくは魔術の影響で動きにくいと思いますが、投薬は夕食後からで問題ないでしょう。薬の作り方は防壁の工事から戻ったらアニエラに教えますね。

 食事などは皆さんと同じものを食べて頂いて構いません。薬を飲むことだけは忘れないように……それと骨の修復はしましたけど、反動で今晩から明日の昼くらいにかけて熱が出る可能性があります。解熱剤も用意しますが、夜は念のため魔術師の誰かに待機をお願いした方が良いかと思います」


「分かりました。薬の方は手を出せないので姫にお願いします。作るのは会計長が手配しに行ったビークナーの実が届いてからということですね?」


「ええ。薬を作るのに魔力もそれなりに使いますから、心配であれば魔力の回復薬も用意しておいてください。作り方や必要な魔術を覚えるにしても、元から素養のあるアニエラ以外の方では習得に相応の時間が必要になります。

 では、こちらの部屋の後片付けは医務室の当番の方にお願いしますね。私は本来予定していた防壁工事に出ますので」


 手を石鹸で洗浄しアルコールで消毒した飛鳥は、魔術板との魔力接続を断って画面を消すと処置室の片付けを医師と薬師に任せる。

 当初予定されていた防壁工事への出発が大幅に遅れているためだ。


 角犀馬(サルヴィヘスト)にほぼ全力で()かせた荷車なら遅れも簡単に取り戻せるだろうが、飛鳥の作った揺れを抑える構造がない荷車では酔う者が多発するだろう。

 かといって全員を乗せられるだけの余力はなく、飛鳥自身とユリアナたち側仕えに加え、アニエラやハンネたち魔術師乗せてしまえば限界になる。

 訓練場に呼ばれた時には指示を出していたので、既に新人たちは出発して昨日の現場に着いている頃だろう。作業自体も危険は少ないはずだ。


「まあ、なるようにしかなりませんね」


 小さく呟いた飛鳥は、再度患部の下に入れるクッションの手配を頼み、ユリアナたちの待つ廊下に出る。彼女たちは直立不動のまま飛鳥を待っていた。


「事故で遅くなりましたが、本来の予定に戻りましょう。薬の材料を会計長が手に入れて来るまでは防壁の工事に向かいます。

 女子棟に残る者に追加で頼んでおきたいことが二つあるのですが……市場や商会で普通に扱っている物で構いませんので」


 飛鳥はロヴァーニでもありふれた二つの品を手に入れてもらうようユリアナに頼むと、メモを取っていた彼女がリューリに手渡している。

 受け取ったリューリは書かれている文字を目で追いかけていた。


「リスティナを通じてティーナかセリヤに手配させてください。一番上の毛糸は品質ごとに最上、上等、中等の三つもあれば大丈夫だと思います」


「ええと……はい。それと――フィッロスの木? それにレアンッカの胸から腹の羽毛を雄雌構わずありったけ?」


「ロヴァーニの市場ではレアンッカの肉を取るために羽は(むし)って、そのまま捨ててしまうのでしょう? 樽一つ分で銅貨数枚程度になるなら、肉屋も喜んで毟ったのを譲ってくれますよ」


 レアンッカは先日出かけた市場で見つけた、鴨に良く似た外見の野鳥である。

 頭は明るい金属光沢のあるオレンジ色、羽は灰色から焦げ茶色と対比が妙ではあるが、秋頃から水辺に多く集まってくるらしい。

 肉は脂が本格的に乗り始める前とはいえかなり美味で、女子棟では先週から数日おきに食卓に乗るようになっていた。

 味見の時に鴨肉と同じような感じだったので、味の良い脂を生かしたメニューをいくつか工夫している。


 本館の食卓に上がらないのは、単純に予想される消費量と流通量のバランスが悪過ぎるからだ。既に農家での飼育が始まり、二月ほどで食肉として供給されているカァナやトーレといった鳥に比べると、その流通量は二十分の一以下である。

 肉は流通に乗っても羽は毟られて捨てられるだけなので、現在は価値が無い。

 市場価値が認められていないなら、安く買い付けることも出来るだろう。


「月末か来月になればだんだん寒くなっていくと聞いていますから、今のうちから色々と用意しようと思っているのです。飼い慣らせるようなら農家と契約して、肉と羽を買い取るようにしても良いのでしょうけど」


 時間がもったいないので移動しながらリューリに説明していく。


 要はダウンベストや羽毛布団を作っておきたいのだ。妹たちや(ゆかり)と長く一緒にいたことで、女性が冷え性になりやすいことは懇々と説明されている。

 アスカ姫の身体もおそらく――今朝未明の足の冷え方を考えれば――冷えやすいのだろう。これから更に冷えてくるなら、防寒対策は予め取っておく必要がある。

 現代社会にあったような合成繊維や化学製品は使えなくても、天然素材は諦めず積極的に探せば色々と似たものが見つかるのだ。


「たくさん集めてくれたら貴女たちの分も作れると思います。ティーナとセリヤ、ルースラは冬の準備と重なってたくさん仕事が増えてしまいますけれど。

 あまり乱獲されても困るから、日に樽三つ分まで、樽一つに一杯詰めて大銅貨一枚くらいなら協力してくれる店があると思うのですけど……」


「姫様、そんな好条件でしたらこぞって売りつけに来ますよ?」


「ですから、(わたくし)ではなく他の方に行ってもらうのです。私も夏の市場の果物事件で少しは学んだのですよ」


 帰りの荷車で飛鳥自身の座る場所が無くなるほど、しかも買った品より「おすそ分け」やら「差し入れ」やら「献上品」の占める量が数十倍になり、半月ほど市場行きを自粛することになった、通称『果物事件』。

 頂きものが多いとはいえ、傷まないうちに保存する手段を立てなければならず、女子棟前庭の地下に大規模な冷蔵・冷凍室を作る破目(はめ)になったのは記憶に新しい。

 現在もその時の在庫が木箱ごと眠っており、毎日数個ずつ解凍してはレーアたちソフトジュース派に飲まれたり酒に加工されたり、デザートとして供されている。


「他のものも手に入れてもらってから、実際の使い方や処理の方法を教えますね。貴女たちも最近の夜の寒さが辛いのではありませんか?」


「それは……はい」


 今月に入り、日の出・日の入りの時間が夏までとは明らかに変わってきている。

 それに伴って気温もかなり涼しくなっており、日中の服装もスカート丈こそ同じでも、上着は長袖に変わりマントや長めのコートを羽織ることも増えた。


「前処理は大変ですけど、魔術が使えない人でも時間と手間をかければこなせますし、実際に出来たものを使ってみれば評価が変わると思いますよ。

 酒樽と同じくらいの大きさの樽で集めてもらって、八つくらい溜まったら作ってみましょうか。私の場合、力はありませんから魔術で代用してしまいますけれど」


 生きたままの(つがい)がいればそれも引き取る、とリューリに伝え、ユリアナに金貨と銀貨を数枚、それと銅貨を小さな皮袋に一つ分用意してもらう。

 普通の家庭なら一家族五人が二月半は不自由なく暮らせるくらいの額である。

 買いに行く際は団から護衛として誰かつけてもらうよう伝えた飛鳥は、ユリアナや待っていたハンネたちと共に荷車に乗り込み、防壁工事の現場へと慌しく出発した。






 雲一つない秋晴れになった四日後。

 この日は連日の稼動で疲れの見えていた新人たちの防壁工事を中止し、短剣と無手による護身術の実習に向かわされている。

 いかに遠距離戦中心の魔術師とはいえ、得意とする距離の内側に入られ接近戦を挑まれたら、自らの命を守るため積極的に防御をせざるを得ない。


 その合間の時間を使い、飛鳥はユリアナたちを連れて女子棟の前庭に出ていた。

 そして、そこに積まれた物を見て思わず絶句する。


「やはりこうなりましたか……」


「――全て(わたくし)のせいのように言わないでください、ユリアナ。それにしても、よくこの短期間にこれだけの量を集められましたね」


 嘆息交じりに呟いたユリアナの言葉に飛鳥も言い返す。

 ロヴァーニ全体での肉の流通量を考えれば、これだけの羽毛を集めるのは大変なはずだ。群れがいくつ犠牲になったのかを考えると頭が痛くなる。


 運搬作業をしてくれているのは調達班の者たちだ。

 小さな子供なら三、四人は詰め込めてしまえそうな大きな樽を持ち上げるのは、中身が軽い羽毛だけとはいえ、鍛え上げたエルサやクァトリでも大変な重労働である。


 女子棟の前庭に積まれた樽は、二列八樽の上に間隔をずらして転がり落ちぬようにした五つの樽を乗せ、合計二十一を数えていた。

 中身が中身のためほとんど樽だけの重さのようなものだが、入れ物の容積自体はあるので見た者を圧倒している。


 リューリからリスティナに伝えられ、ティーナが買い付けに向かった後で、レアンッカの羽毛をアスカ姫がまとめて買い取るという話は鐘一つもかからずに市場の中を駆け抜けた。

 交じりの無いレアンッカの羽毛だけを一杯に詰めた大樽で銅貨二枚。それがティーナの示した金額だったが、それまで価値の無いゴミ同然のものとして扱われていたものをどう加工するのか、平民たちの関心は瞬く間に集まっている。


 レアンッカは一応警戒心が強いので乱獲こそ免れているが、()付けしようと思えば出来ないことはない。

 当然ロヴァーニ近郊だけでは競合して集められないため、辺境の各村落や小さな集落、強行軍にはなるが森の中の水場などに人々が向かい、肉を得て売るのと同時に羽毛もわずかな小銅貨と引き換えに集められていく。


 狩人の教訓として幼鳥を連れた親鳥や群れ全部を狩ることはしていないが、それでも辺境全体でいえば相当数のレアンッカが狩られたはずだ。


 肉を扱う露店商や大規模商会を中心に初日で二樽、次の日には露天商や行商の者から話が広がって七樽が集まり、昨日の夕方に団本部へ運び込まれたのが八樽。

 カァナや他の鳥の羽を混ぜて(かさ)増ししようとした他所の町出身の露天商は、昨日の昼過ぎにロヴァーニから追放されたらしい。


 精力的に検品協力してくれた商会には三日分の手数料として銀貨一枚を支払っているが、『普通に食肉として流通するレアンッカの、状態の良い羽毛だけ』と予めティーナが釘を刺したので、今後は無茶な納品はされないだろう。

 見習いや冬支度に忙しい町の者たちには臨時収入として歓迎されている。


「他の鳥の混じり物は全部商会の方たちが取り除いてくれたんですよね?」


「はい、ご指示の通り明らかに違うものは全て取り除いてレアンッカの羽毛だけになっています。翼や背中の羽は選り分けた時に(はじ)いてもらっています」


 ティーナに尋ねた飛鳥は、彼女の答えに満足したように頷いた。

 飛鳥は女子棟の玄関先で型紙通りに裁断した布を並べているセリヤとルースラに声をかけ、重石を乗せて風に飛ばされないよう指示を出す。


 今日から数日は天気を見ながら防壁工事と羽毛の加工に時間を費やし、冬の寒さ対策を行わねばならない。

 本当なら幼い子供のいる家庭へ優先的に分け与えたいが、いくら飛鳥自身が交易の利益から莫大な資産を得ているとはいえ、現在の庇護者である団幹部の許可も得ずに無償で配ることも出来ない。


 現代社会の人権団体などが大騒ぎしそうだが、この世界では平民の命など非常に軽く扱われ、王侯や貴族など統治や政治に関わる者と防衛・打撃の中心となる騎士階級を除けば扱いにそう大差はない。

 人口が激減すれば農業を始めとした産業に打撃を受け、その影響が都市部や貴族以上にも及ぶだろうが、逆に言えばそうした要因がない限り平民がどうなろうと(かえり)みられることはないのだから。


 もちろん、まともな感覚を持った領主であればそうした危機的事態を招くことが無いように統治し、予め危機を避けたり被災後に挽回する方策も複数立てる。

 支配階級全体の人数から見れば数こそ少ないとはいえ、百年から百五十年おきに下級の貴族階級や平民が結託して無能な領主を追放し、国に訴えたり放埓(ほうらつ)の責任を取らせるために首を()ねたりということも行われているのだから。


「セリヤ、ルースラ。上着の型が三枚ずつと、シーツ大の布四枚の準備はもう出来ていますね? それと洗って断裁した羽毛を詰める袋をありったけ用意しておいてください。今日から数日間で、納品された羽毛は全部処理してしまいます。

 来週になったら錬金術師と魔術師、町の裁縫工房からの希望者に防寒具の作り方を教えます。その時に貴女たちも教えられるようになっていてくださいね」


 前庭の石畳に広げた約五テメル四方の目の粗い(ハンップ)の布――麻布(リーナヴァッテ)の上に樽の中身を広げ、四方から中央へ閉じるように包んでいく。

 出来た(ひだ)の間をさらに寄せ集め、八つの頂点を集めた少し下を丈夫な紐で固く縛りつける。中身の羽毛が漏れてこないのを確認した飛鳥は、用意してもらっている六つの樽から水を操って、魔術で熱を加えながら宙吊りになった袋ごと高圧の蒸気で蒸していく。

 夏の間に水道を作っていなかったら、水を集めるのにも苦労しただろう。


「量がある割に時間が無いため魔術でやっていますが、魔力をほとんど持たない平民の方でも、大きな鍋に水を張って沸騰したところへ羽毛を入れれば同じです。

 羽毛に付いている目に見えにくい小さな虫や汚れ、羽毛を毟った時に付く脂や肉片、ゴミなどをこうして取り除きます。魔術であれば高温と湯気で虫を殺し、錬金術で水とそれ以外を()り分けて再利用も出来ますけど。

 それとこのお湯や湯気に触れると肉が(ただ)れて落ちるほどの高熱になっていますから、絶対に触らないようにお願いしますね」


 大量の湯気で白く濁った空間には次々と樽から水が引き出され、高温になって沸騰した水が流れ込んだり、蒸気となって四方八方から中央の塊を駆け抜けていた。

 やがて渦を巻くように洗い流し、何度か蒸気の塊に蹂躙されていく。

 目の粗い布の隙間からは時折黒い粒のようなものや赤っぽい塊、白っぽい粒が湯気に混じって袋の中から弾かれている。

 湯気はやがて大きく弧を描き、袋から五テメルほど離れた場所で上方へ螺旋(らせん)を描いて、下ってくる途中で真下にあった壷へと内包していたものを吐き出していた。


「大きく外に迂回して出る蒸気が、そこの素焼きの壷の中へ羽毛に付いていた脂やゴミ、虫の死骸などを錬金術で分離させています。手作業でやると一日に数回、鍋一つで二回か三回が作業の限界だと思います。

 もちろん集められる羽毛の量や燃やす(まき)にも限界があるでしょうし、水汲みも大変です。ロヴァーニは水道を敷きましたが、それでも次の洗浄にも大量の水を使いますから」


 念入りに蒸気、湯で羽毛を洗浄していき、その場でぐるぐると十五分ほども洗浄すると、飛鳥は残ったゴミと虫の死骸を壷に振るい落とす。野性のレアンッカを捕らえて羽毛を毟っただけあって、あちこちに土やゴミをつけてきたらしい。

 一袋分の羽毛を洗浄しただけで膝丈の壷は半分ほどが埋まっている。

 そして樽の中には最初と同様、澄んだ水が戻っていた。


「これを念のためもう一度洗浄します。まず全体の流れを見せますから、樽などはそのままでお願いします。ティーナ、次はヴィダの酢を一瓶と石鹸を一つ、ガラス制作にも使う重曹を用意してください。酢は使い捨てになりますが……」


「どれも樽ごと用意していますから大丈夫です。重曹は余ったらガラス工房に戻せますし」


 小さく頷いた飛鳥は、宙に浮いたままの袋に石鹸水を絡ませて洗浄していく。

 今度の洗浄は水に一秒間に数万回という微細な振動を与えながら精密制御をしている。超音波振動による洗浄だ。

 縦横斜めに繰り返し複雑な渦を巻かせ、羽毛に残っていた脂の残滓(ざんし)やゴミ、細かな虫の死骸の残りを綺麗に剥がしては洗い流し、錬金術で汚れを分離しながら淡々と作業を進める。


 三度目に酢で軽く洗い、錬金術で綺麗にした水と重曹で再度洗浄すれば、樽から出したばかりの最初の汚れた羽毛よりも素肌に近づけても問題の少ない、寄生虫もいないだろう綺麗な羽毛が出来上がった。

 高温の空気で乾燥させてから熱自体を錬金術と魔術で分離したため、先ほどまで発生していた陽炎(かげろう)も見えなくなっている。


「これで洗浄の工程は終わりです。ユリアナ、そちらの台へ袋を乗せてください。もう蒸気と熱は放出していますから、袋に手をかけても大丈夫です。

 次は羽毛の選別と、羽毛の硬い部分と柔らかい部分を分けます。魔術を使うと術者の制御する力に左右されますけど、魔力が少ない方や平民が作業する場合はひたすら手作業になるはずです。

 作業するのは屋内の方が風で羽毛が飛ばないので楽かも知れませんね。それと、魔術が使えない場合は(わたくし)が用意したような選別に特化した(はさみ)を作った方が良いかも知れません」


 木製の台の周辺に風を遮断する魔術を張り巡らし、洗浄したばかりの羽毛を慎重に広げてもらう。白から薄茶色だった羽毛は、大半が白に近い色に変わっていた。

 それに加え、高温の風で念入りに乾燥されたため毛の一本一本が膨らんでいる。

 あとは硬い羽軸を切り、生地の中に詰めていくのが後半の作業の要だ。


 もっとも現代日本では自分で作業できる部分などごく一部でしかないため、長い時間と経験、工業化の中で効率的に洗練された工程など飛鳥は知らない。

 (ゆかり)に『私より女子力が高い』と言われたこともあるが、キルティングも中綿は買ってきたものか化学繊維製のものを詰めるだけか、予めダウンが詰まっている既製品がほとんどである。


 洗浄や乾燥の工程などもテレビや通販のカタログで紹介されていたのを何となく覚えていただけに過ぎない。

 編み物などは妹たちに何かを作って上げられるくらいには上手に出来たし、中等部時代や高等部の同級生の女子から教えを請われる程度には器用だったが。


「ティーナはセリヤとルースラに指示を出して、そちらの台で作業の準備を。羽毛の加工が始まったら出来上がったものを順番にそちらへ渡しますから、一区画に片手で握れる程度ずつ詰めて、四角形に縫って行ってください。

 二枚目の縫い目のずらし方は昨晩教えた通りです。頼みますね」


「ご期待に沿えるよう頑張ります」


 三人が声を合わせて答える。多少肩に力が入り過ぎているようだが、気合だけは十分らしい。

 通函(かよいばこ)代わりに用意した桶は七つ。女子棟に住む平民の女性事務員も羽軸を切る作業に加わっており、作業のペースも違うからだ。

 ここで使う糸切り用の和鋏(わばさみ)のような道具は昨晩のうちに人数分用意してあるので、全員無言のまま作業を続ける。

 先程までの洗浄や乾燥のような派手さのない、地道な作業だ。


「羽の硬い部分は布の隙間から肌に突き刺さる可能性がありますので、縫い込む前に可能な限り丁寧に取り除きます。その方が仕上がりも良くなりますから」


「私たちは先に縫製を始めます。昼過ぎには一着仕上げてしまいたいですし」


「ええ、それで構いません。午後はライラたちも手伝いに入ってくれるから、布団と防寒具が増やせると思います。(わたくし)も羽毛の洗浄と羽軸の切断が終わったらティーナたちと一緒に縫製に入りますから」


 羽軸を切ることに意識を集中しながら答えた飛鳥は、既に桶一杯になった羽毛をユリアナに退()けてもらい、次の桶に溜めていく作業を繰り返す。

 最初こそペースがゆっくりだった縫製も、女性事務員たちの作業した桶が届き始める頃には追われ始め、被服担当の三人が一生懸命に針を動かしている。


 その頃には朝の訓練を終えた男性団員たちも遠巻きながら興味深そうに女子棟前の様子を柵越しに眺めていた。

 だが、女子棟の敷地に入って来られる男性は少ない。普段は団長と、料理を習いに敷地への立ち入りを許可されたダニエくらいのものである。

 他には倉庫や食料庫への納品の関係で調達班の数人だけが、団長と貴族家出身の側仕えの許可を得て通行証を一時的に貸与されるくらいだ。


 団本部の堅牢な正門を越えたさらに奥、柵で(へだ)てられ魔術具による警戒設備が張り巡らされた女子棟に侵入できるものは――アスカ姫の魔力を上回れる者でもない限り――皆無である。


 一人で台の上の羽毛の三分の二ほどを加工した飛鳥は、残りの羽毛も先程のように洗浄していき、乾かし終わった中身を真新しい木箱に詰めていく。

 それらの大半はクァトリたちの手で女子棟の地下に運ばれ、二箱だけ一階の談話室に運ばれている。自分の分は基本的に自分で作ることになるが、羽軸を切る加工も縫製にも手が足りない。

 女子棟でも護衛役になるエルサたちは一人を除いて家庭的なことは苦手としているため、細かい作業に付き合わせるのは難しいだろう。

 工業化も難しい世界では魔術で代替出来る部分はあっても、人の手で手で行う流れ作業と分業には限界があるのだ。


「そろそろお昼ですね。厨房から美味しそうな匂いも漂ってきていますし、一旦休憩にしましょうか。桶に蓋をして、台の上の羽毛も袋に戻してしまいましょう」


 とはいえ、午前中の仕事が済んだ側仕えや事務員、下働きの女性たちも加わって作業したため、予想より早く処理が進んでいる。

 納品された樽の数は二十一だが、午前中だけで十五は洗浄を終えており、空いた樽も市場や商会に戻してもらっていた。

 返す前に魔術で作った熱湯と高圧蒸気で洗浄しておいたから、使い回されたとしても衛生面での不安はない。


 この分なら午後の二の鐘が鳴る頃には全ての羽毛を洗浄し終えて、自分の防寒具の縫製に入れるだろう。夜には仕入れを頼んである毛糸で編み物も出来る。


「あと二日ほどは晴れてくれるでしょうから、その間に羽毛の洗浄だけは全部終わらせておきたいですね。縫製以降は部屋の中の方が楽ですけど、水を使って汚れを分離する工程だけは屋外の方が良いですから」


「姫様のお布団はセリヤとルースラが二人掛かりで縫っていますから、夕方までに終わると思います。防寒具の方はティーナの作業が予想より早く進んでいるようなので、姫様の洗浄が終わる頃に仕上がるかと。

 昼食後はライラとマイサも縫製の手伝いに入りますし、ルーリッカとネリアも手が空きますから、防寒具が三着と布団二組は仕上げられそうです」


「分かりました。無理をしない範囲で仕上げましょう――ユリアナ、午後は団長にお渡しする防寒具の縫製を始めていてもらえますか? 私も洗浄が終わり次第手伝いに入りますから」


 飛鳥が伸ばした手の先で午前中最後の洗浄が終わり、ゴミ等が素焼きの壷へ分離され、ろ過・浄化された水が樽へと戻っていく。

 素焼きの壷は八百度を超える熱風に曝されて内容物を灰に変えられ、周囲にゆらゆらと揺れる陽炎を見せていた。

 羽毛に付いていた脂の(かす)や虫の死骸を燃料にして燃やし尽くされた中身は、夕方には石灰と混ぜられて町外れの廃棄場に捨てられる予定だ。


 ロヴァーニは快晴だが、西の森のさらに先には雲が広がっている。

 女子棟の付近から望める東の防壁の彼方にも白い雲がいくつか浮かんでいるが、その下の山や平原の様子は(うかが)い知れない。



 先日の防壁外への出撃以降、警戒はしているが大きな変化は無いようだ。

 アスカ姫自身には団長から特に何も伝えられておらず、ユリアナも聞かされたりしていないらしい。

 それでも執務室で整理する報告書や資料に隠語(いんご)と思われる符丁(ふちょう)が見られたり、飛鳥の手に触れないようにされた報告書が文官から直接団長へ手渡されているのも知っている。


 何も知らされていないということは、アスカ姫として知らない方が良いとされているのだろう。あるいは団幹部の思惑通りに進んでいるということだろうか。

 ならば、ロヴァーニの防衛については任せてしまえば良い。


 その間に飛鳥が出来ることは冬の支度を着実に整え、庇護してくれる団の利益になるように手仕事を進めさせるだけだ。

 夏に敷いた水道や豊作が間違いなく見込まれている穀物や野菜、防寒具は確実に利益になってくれている。食肉や毛皮などを得られる野生動物の飼育と肥育も進んでおり、雪が積もるという冬の間も昨年までの食糧事情とは大きく変わるだろう。


 片付けを始めた側仕えや事務員、下働きの女性たちの姿を見ながら、飛鳥はもう一度東の山裾を見遣る。

 さっきまでわずかな雲しか無かった場所は、背後に山があるためか湧き上がった大きな雲に包まれ始めていた。


まだ年度末&制作の大詰めで修羅場中です。パッケージソフトとブラウザゲームの締切りが一緒にやってきて、その合間に打ち合わせや請求業務、さらには確定申告なんてものもあるので三月までは思うように身動きが取れません。


この原稿も夜中に少しずつ打って、予約投稿の日時を数日ずつ後ろにずらしながら何とか……。

公開一年目を迎える五月には何とか月二回更新くらいに戻したいです。

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