エピローグ:私とその後
人族の子供たちと狼のような外見をした子供が一緒になって遊んでいる。
その近くでは人の体に豚の頭が乗った外見をしたオークと呼ばれる種族の妊婦と人にとって腕に当たる部分が翼になっているハーピーの若奥様が談笑している。
ここだけではなく街の中にはそういった光景がそこかしこで見て取れた。
人族ではない彼らは昔はモンスターと呼ばれ、人とは対立した関係にあった。
人は彼らを狩り、彼らも人の命を奪っていた。
でも、今はこうやって共に暮らしている。
この国を作った人物が人だけでなくモンスターにも居住権を与え、共に暮らすことを薦めたのだ。
ここではモンスターたちは魔人と呼ばれ、人と同じように家に住み商売を行っている。
この国の名はハジコ国、昔はとても小さな村だったのだがここ数十年で大きく規模を広げた。
モンスターと共存したいと望んだ人と人の暮らしに憧れたモンスターが続々と集まってきて、自然とそうなってしまったのだ。
そしてこの国には王様がいない。国を作った人が「めんどくせーからそういうのいいよ」と言い、暮らしていくための大まかなルールを作っただけだった。
それが良かったのか世界の隅っこにある国なのにも関わらず流通に関しての縛りが少なく、商売のしやすい場所として世界中の名産品が集まり始めたのだ。
人が集まれば問題も起こるが、揉め事には人と魔人の混成治安組織が対処している。
門の方を見ると、そこには門の最上部に逆さになって警備している魔人がいた。
彼女はこの国を守る衛士の総隊長を務めている。ナイトデーモンと呼ばれる希少種族だ。
この国を狙う他国の軍勢を一人で殲滅できるほどの実力者だ。
彼女はこの国を作った人物を敬愛し、決して裏切ることはないだろうと言われている。
その彼女に近づく影が二つあった。
深くフードを被り弓を携えたエルフ族のような女性と長い金髪を後ろで束ねた神官服を着た女性だ。
彼女らもナイトデーモンの彼女同様に建国者に仕えた魔人たちだ。
弓を持った彼女は、【千弓】という二つ名を与えられるほどの使い手で、もう一人の方も巨大な龍を召喚し操ることで有名だ。
三人は、とても仲が良く毎日お昼を共にしている。
彼女らが国の黎明期には先頭に立って戦い人々を守っていた。
彼女ら以外にも建国者と共に戦った魔人が国の至る場所に残っている。
それも国の治安が安定していることの理由にもなっているだろう。
毎日のように足を運んでいる場所が近づいてきた。
この国の中で一番見晴らしのいい高台にある。年寄りの足腰には堪える。
そこには大きな四角い石が立っている。
石には名前が彫ってあり、誰かの墓石だということが分かる。
墓の周りは花で溢れている。毎日違う誰かがここに花を供えているのだろう。
墓石の横には、大きな石像のようなものが寄り添うように立っている。
メイド服を着た大柄な女性の像だ。
像と言ったが石で出来ているようには見えない。生気があるような顔色をしていて今にも動き出しそうだ。
それもそのはずだ。この像は建国者の最強の下僕と呼ばれたゴーレムなのだ。
このゴーレム、いや……彼女と呼ぼうか。彼女は建国者が亡くなった日から、この状態となって動かない。
石像のようになる前に彼女は言っていた。
『二百三十年後にマスターの魂が転生するので、それまで待ちますー。おやすみなさーい』
彼女は自分の主人の帰りを待つことを決めた。
たまにその姿が消えていることがあるが、どこかの世界を救って帰ってきているという噂が立っている。
それにしても門の彼女らを始め、どこまで愛されているのだろうか。
高台まで登ってきて疲れてしまった。
少し腰を下ろして休憩することにしよう。
「婆ちゃん、今日も話をしてよー」
最近、顔見知りになった子供たちが寄ってきた。
初めて会った時にしてあげた冒険の話を気に入ったようで、顔を合わせるたびに要求されるようになってしまった。
「彼の冒険話はたくさんあるからどれにしようかねー」
子供たちは期待に胸を膨らませて、私の話を待っている。
私が彼から聞かされた話をこうやって広めるのは少し気恥ずかしくある。
さて、私の一人語りは、一旦終わりにしましょう。
皆さん、ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
最後に自己紹介をしたいと思います。私の名前は、ドラコ・トローペリー。
人と魔人が共存するハジコの国を作り、世界守護者【ミリオンテイマー】として名を馳せた英雄アイン・トローペリーの娘です。
エピローグで終了になります。
アイン自体は守護者として別作品にも出てまいりますので
他作品で見かけたときは暖かく見守ってあげてください。




