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第10章:俺と異世界の軍勢

 セントラルに着いた俺は、ギルドに向かった。勇者全員に緊急招集がかけられて、集まっているらしい。

 称号授与の時に顔合わせができなかった人たちもいるのだろうか。

 俺も勇者として呼ばれてはいるが、ビチャビチャがいない今、自分だけでどこまでできるのか。


「ゲフネル、シャーウッド、大丈夫だと思うか?」


 無言で後ろを付いて来る二体に聞いてみた。


「主は、我が身に代えてもお守りいたします」

「(コクッコクッコクコク)」


 シャーウッドは何を言っているのかわからないが、ゲフネルは戦うっていうより俺を守るために行くって感じなのかもしれないな。

 できることなら、俺も行きたくはないが場所が場所だけに逃げ出すわけにはいかない。

 戦いの役に立たなかったとしても、ドラコやハジコ村の連中を逃がすくらいのことはしなくちゃな。


「そこを行くは、アイン君ではないか」


 声がした方を向くと勇者のゴドルさんが完全武装で走って来ていた。顔以外がかなり重厚な鎧で覆われていて、ただでさえ大きな体がさらに巨大に見えた。

 背には、そのでかいゴドルさんよりも高さがある棍棒が存在感を主張していた。あれが、ゴドルさんのセイタンシリーズか。


「お久しぶりです。ゴドルさんもギルドへ向かっているところですか?」

「ちょいと遠くにいたもんで準備に時間がかかってしもうてな」

「勇者が全員揃うんですかね」

「召集理由が理由だからな。滅多に姿を現さない奴も来るだろうさ。戦争と聞いちゃ黙っていられない奴もいるしな。ガッハッハ」


 この間会った勇者でさえ、度肝を抜かれるような人ばかりだったのに、更なる変人がいるのか。まぁ、勇者になるため必要なのは人間性ではないから仕方がないか。求められるのは戦力としての一点だけ。

 戦力にもならない奴は、勇者の資格を剥奪されるのかもしれないな。元々自分の力でなったわけではないので、未練はない……と思う。


「大きな戦になりそうだが、噂のゴーレムは連れていないのか?」

「それなんですが、実は――」


 ゴドルさんは勇者の中ではまともな部類なので、はじまりの魔王のことも含めて話した。


「そりゃ、大変だったな。しかし、はじまりの魔王が初代勇者の体を使って、その強さか……。ガッハッハ、腕が鳴るわい!」


 あっ、やっぱこの人もなんかおかしいぞ。勝算があるとか、そういうのではなく戦ってみたいというような顔をしている。

 ケイオスドラゴンを一蹴するような相手とは普通は会いたくもないと思うのだが。


「そんなわけで、俺はただのモンスター使いと変わらないんですよ」

「それでも集合場所に向かっているということは何かあるんだろ?」


 でかい図体なのに細かいところに気付く人だな。

 隠しておいても仕方ないことなのでハジコ村にドラコのことも含めて話す。


「ガッハッハ、男じゃのう! 力を失ったことは黙っていよう。戦場に着いたら、村に向かえ。お前は、そうするべきだ」

「ありがとうございます。娘たちを逃がしたらすぐに合流しますので」

「ゆっくりでいいぞ。戻った頃には俺が魔王の軍勢を壊滅させてるかもしれんからな、ガッハッハ」


 豪快で頼りになる人だな。こういうのが親父ってものなのかもな。

 現地に着いたら、速攻でハジコ村に向かってドラコたちを逃がす。後は、他の勇者の補助をして形勢を見よう。

 

 ゴドルさんとギルドへ向かって走っていると、突然爆発音が聞こえた。何かが落下してきたのか、地面が揺れている。

 街の中心部から爆煙が上がっていた。あの辺りって……。


「ありゃあ、ギルドの辺りじゃな。到着が遅れて良かったわい」

「いやいや、不味くないですか。勇者が集まってるんですよね、あそこに」


 ギルド近くにある武器屋の横を抜けた俺が目にしたのは凄まじい光景だった。

 城とまではいかないが、頑強な作りの建造物であったセントラルのギルド本部が大炎上している。

 上の階層はすでに跡形もなく消えており、下の階では爆発が起きたり出口や窓だと思われる部分から炎が飛び出してきていた。


「こりゃあ、酷いのう。ギルド長とか確実に死んどるじゃろ、ガッハッハ」


 いやいや、これは笑いごとじゃないでしょ。

 中にいた人たちはどうなったのだろう。勇者とか含めてみんな死んじゃってたら、この後どうするんだ。

 

「アイン君よ、ギルドの上にいる奴が見えるか」


 そう言われて、煙が上がっているギルド上空を見ると、人のような姿をした何かが空中に停止していた。

 俺たちに見られている事に気付いたのか、体をこちらに向けた。


「何を見ているんだ、文句でもあんのシャ? 今、吹っ飛ばした連中の仲間かなんかシャ?」


 煙が薄れてきて、その姿を視認できるようになったが、そこには人とは似ても似つかない異形の何かがいた。

 全体は人に近いのだが頭や腕、足のまでもすべてが人のそれとは違う形をしていた。

 昆虫のような頭と猿のような毛むくじゃらの太い腕、鹿のような細い脚に背中には蜂のような羽根が不快な音を立てて浮いている。

 ギルドの爆発は、こいつがやったのか。


「ワシャシャは、魔王様に仕える高貴なる獅子! カメールだシャ!」


 獅子だと!? 外見的特徴に獅子の部分がまったくない上に名前が亀とは……、一体どういうことなんだ。


「ゴミを残しておくのは高貴なる身分のものがすることじゃないシャね。目標だけではなく、この街ごと吹っ飛ばすシャ。お前ら、動かないでいるシャよ」


 そう言うと、手に光の玉のようなもの出現させた。それは少しずつ大きくなっているようで、大きくなるたびに輝きが増して眩しい程になる。

 もしかして、あの玉がギルドを破壊した魔法か何かなのか。


「あやつの出した光の玉、危険な感じだぞ。まともに食らったら死ぬな。かわそうにもこの街ぐらい吹き飛ばす威力がありそうだ。ガッハッハ、困った」


 全然、困ってるようには見えないんですけど……。ドラコを助けに行く前に終わってしまうのか。


「かわせないってだけだ。あやつをどっかに殴り飛ばしてしまえば問題ない」

「そんなことできるのですか」

「ガッハッハ、安心してそこで待っておれ」


 背中の棍棒を掴んで前に持ってくると、ゆっくりとカメールに向かって歩き始めた。

 流石は勇者だ、怖気づいている様子がまったくない。


「どれくらいぶっ叩いてやろうかね」


 ゴドルさんが棍棒を振りかぶった瞬間、ギルドがあった場所が爆発した。燃えながら崩れた瓦礫が周囲に撒き散らされて、近隣の建物に突き刺さったり、壁を破壊してどこかに飛んでいったりした。

 何が起きたんだ、別の奴が攻撃してきたのか。

 と、思ったらギルドの中心部辺りから瓦礫を押しのけながら出てくる人影があった。


「あぁぁぁぁ、いってぇなぁ。どこのどいつだよ。いきなり攻撃してきた馬鹿はよぉ」


 カツオさんが埃に塗れながら現れた。見たところ、怪我をしたようには見えない。あの爆発の中心にいて無傷とは……。


「おう! カツオ、無事だったか」

「あぁ? 誰に物を言ってんだ、ゴドルよ」

「あの爆発だったからな。流石のお前も手傷くらいは負ったかと思ったぞ」

「あんなもんで傷が出来るはずねぇだろ。ちぃとばかし瓦礫どかすのに時間がかかっただけだ。力ずくでいいんならここらへん一帯を消し飛ばせばいいだけだしな」


 二人がやり取りをしている間も、カメールと名乗った奴は光の玉を大きくし続けていた。


「ギルドは、あいつがぶっ壊したみたいだぞ」


 ゴドルさんが棍棒で亀的な何かを指す。

 

「んだぁ、あいつは。気持ち悪い奴だな。俺はインセクト系は嫌いだ。誰か好きにしていいぞ」

「まぁ、お前が行く前にもう行っちまった奴がいるけどな」


 その言葉に反応して、カメールを見ると、確かに……いた。

 光の玉を大きくすることに集中していて気付いていないのか。カメールの股間に一人の男の顔が埋まっている。

 何故だ……何故気付かれない。完全にくっついているぞ、ほとんど全裸の男が。


「な……なんですか、あれ」


 ゴドルさんとカツオさんに、カメールの股間にくっついている下着さえ身に纏っていない顔に黒い布を巻いた男の正体を尋ねる。


「うむ、どう見てもヘンリー王子だな。爆発で下着が飛ばされてしまったのかもしれんな」

「流石にやるな、あの野郎。凄まじき隠行だ」


 おかしいよ。もっと言うべきことがあるでしょ。見てみぬフリってことなのか。

 どうして! 敵の股間に! 勇者が! 付いてるんだよ!


「シャシャシャ、お別れの時間だシャー! 焼き潰されろシャ」


 光の玉を掲げて、こちらに投げ落とそうとした時、カメールは気付いたようだった。その異変に。


「くらうシャーーー! あ……、なんか変シャ。どうして、ワシャシャは超絶破壊弾を食べようとしているんだシャ。止まるシャ! やめるシャ!」


 自らの頭に光の玉を落とし始めるカメール。昆虫のような頭についた口を大きく広げ、受け入れるような体制になっていた。

 その間も股間についたほぼ全裸の勇者は微動だにしない。少しも股間から離れていない。


「おかしいシャ。体の自由が……きかなシャシャシャシャシャシャ」


 カメールの体がギルドの上空よりさらに上に昇って行く。股間に人をぶら下げながら、速度を増して空へ空へと。

 光の玉に体を飲み込まれながら上昇することを止めない。死ぬとわかっていても炎に飛び込むことを止められない蛾のように進んでいく。

 上半身がすべて包まれた辺りで、股間についていた勇者が落ちた。真っ逆さまにギルドの残骸の上に。

 カメールだったものは細い足の先まで光の飲まれて消え去ったようだ。


「おいおい、あの玉の処理はどうすんだよ。ゴドル、やるか?」

「ふむ、任せておけ。東はあちらだったな」


 そう言うと、ゴドルさんは光の玉の近くまで飛んでいった。

 でかい棍棒を振りかぶると、その軌跡がまったく見えないような速度で振った。

 上空で停滞していた光の玉が一瞬歪んだと思ったら、なんか遠くのほうに吹っ飛んでいった。


「うーむ、東の最果てまでは届かんかもしれんな」

「まぁ、いいじゃねぇか。どうせこれから乗り込んでいくんだしよ」


 指をバキバキと鳴らす、カツオさん。やる気満々のようだ。

 しかし、ここにいる以外の勇者たちはどうなったんだろうか。


「そろそろ終わったかうぉ」


 突然、足元から魚の頭が出てきた。

 クタリさんが頭だけ地中から出してきたようだ。いや、よく見ると地中ではなく影からか。


「もういいぜ、出てきても」

「それじゃ、出すうぉ」


 クタリさんの影が広がっていき結構な大きさになると中から続々と人が迫り出してきた。

 ギルドの受付や、ギルド長、さらには王様まで出てきた。王様までギルドに来ていたのか。


「カツオも入れば、痛い思いしなくて済んだのにうぉ」

「んな、気色悪いもんの中に入れるかよ」

「気色悪いって酷いうぉ。今度、無理やり落としてやるうぉ。明かりのない夜道に気をつけろうぉ」


 そんな言い争いをしているところで、ギルド長は自分のギルドの無残な姿を見て言葉を失っていた。


「ギルド内にいた人は大体、収納したから死人は出てないはずうぉ」


 それを聞いてもギルド長の表情は険しいままだった。


「まさか、直接ギルドを狙ってくるとはな。ここに勇者が集まるという情報が漏れていたのか」

「そうではないようです。他国のギルドも同様の奇襲を受けて壊滅状態に陥っているようです」 


 ギルドの受付が報告する。ギルド同士は情報の共有をするために、魔力通信が得意な者が必ず配置されている。

 セントラルのギルドでは、受付が兼任しているようだ。


「こちらの戦力を無力化してからじっくりと世界を壊す気なのか。伝承のとおり、力だけはなく狡猾さも備えているようだな」

「なればこそ、ここで後手に回るわけにはいかぬ」


 セントラルの国王が力強く言葉を発した。


「はじまりの魔王の勢力が本格的に侵攻してくる前に、全戦力を集中させ奴を討つ。さすれば異世界より進軍してくるものどもを止めることもできるだろう。そのために勇者を招集したのだ」

「龍族からの情報から、門と呼ばれる穴を塞げば敵の侵入を防げるとのことです。そのための方法は、はじまりの魔王を討つ、もしくは鍵の破壊だそうです」

「鍵とは?」

「小さな少女の形をしているそうです」

「少女だと、それはまた奇怪な」

「時が経てば経つほどに穴は広がり、はじまりの魔王の軍勢が押し寄せることになるだろう、ということですので早急な対応が必要です」


 ギルドの受付が手際よく重要な情報を国王に流していく。ルーのことまで知らされているのか。まず間違いなく知らせた龍族は、あいつだろうな。

 勇者たちに事情を説明したらルーを助けてくれるだろうか。


「勇者たちよ! 聞いたとおりじゃ。今は一刻争う時である。世界のため、お主らの力を貸して欲しい」


 国王が偉そうに頼みごとをしてくる。王族ってのは、どうしてこう上からなのだろうかね。

 続いて、ギルド長が前に出てきた。


「集団戦闘に秀でている勇者バリトンと勇者ベイグルは、すでに最果てでセントラル国軍を率いて戦ってもらっている。彼らの報告だと、敵単体の戦闘力は非常に高く、軍の隊長クラスでないと歯が立たない状況らしい。他の勇者も他のギルドから現地に飛ぶだろう。長く姿を見せていなかった勇者ミミパーンも参戦すると聞いている。恐らく勇者全員が揃うことになるだろう。君たちには守ることは求めない。敵を殲滅するまで攻め続けてもらいたい。以上だ。準備が整い次第、転位陣で君らを送る」


 ゴドルさんと、カツオさんが指を鳴らして顔をにやけさせている。好きに暴れていいんだな、というような表情だ。とても勇者の顔とは思えない。

 また影に隠れてしまったクタリさんはどこにいるのかわからないし、ヘンリー王子は下半身丸出しで頭から瓦礫に突き刺さったまま微動だにしていない。

 これで本当に世界を救えるのか。


「閃光の魔女ミミパーンに、破壊天使ビーチクも出てくるとなると派手な戦いになるだろうな。我等も負けておられぬぞ、カツオよ!」

「近接魔導の破壊力を存分に見せてやるよ」

「皆殺しにするうぉ」


 突然、顔だけ出したクタリさんが発言する。発言もさることながら急に現れるから怖いな、この人。

 こんな異常な人たちと一緒に戦うのは無理なので、現地に着いたらさっさとハジコ村に行こう。


「先ほどのような奇襲を警戒するために、国にも兵を残さねばならない。援軍は期待せんでくれ」

「世界を頼んだぞ、勇者たちよ!」


 ギルド長と国王の言葉など、俺以外の誰も聞いていないようで準備運動をしたり、武器を磨いたり各々好きなことをしていた。

 本当の本当に大丈夫なのか、この人たちは。戦闘力はあっても、人間的なものが信用できなさすぎる。

 ゴドルさんも戦いが絡むといきなりまともではなくなる。

 正直なとこ、勇者には異常者でないとなれないのではないかと思い始めている。



 はぁ……ドラコは無事かな。お父さんが今、行くからな。





 そろそろ誰か、突き刺さったままのヘンリー王子なんとかしろよ。

異常者ばかりで構成されたメンバーで、最前線へ投入されるアイン

世界最大戦力である勇者たちと、異世界の軍勢が最果ての地で激突する

。両者の戦闘は激しさを増し、世界の形を変えてしまう程であった。

激戦の最中、仲間たちを置いてさっさと自分の娘のところへ走るアインが見たものは


次回

第11章:俺と第二次魔王戦争

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