630 天魔の魔法
六百三十
身も心も爽快になったら、再びガルーダワゴンで空の旅だ。
とはいえ、ここにくるまでにバタバタと慌ただしく駆け足で進み、その末に訪れた快適な空の旅とあって随分と気も緩んだようである。
加えて疲れも溜まっていたのか。出発から暫くしたワゴンの中は、寝息が微かに響くだけになっていた。
ガルーダの技術も相まって、ふわりふわりとまるで揺りかごのように心地よいワゴンでの移動。思わず寝転び目を瞑ってしまうのも仕方のない事だ。
とはいえ、日之本委員会の研究所までの距離は遠い。
「んんー……はて、今はどの辺りじゃろうか」
道中、よく寝たと目を覚ましたミラは窓から外を眺めながらぼんやりと呟く。
「今はアーク大陸の中央くらいね。ほら、グラーズホロウが見えるでしょ」
ミラにとっては、ただの独り言に近い呟きであった。だが答えが返ってくるとはと驚き振り返れば、そこには起きたばかりとは違い、しゃんと目が覚めた様子のカグラとカシオペヤの姿があった。
「ふむ、まだまだかかりそうじゃな。というか、何やら面白そうな事をしておるではないか!」
窓の外には広い海が広がっていた。どうやら今はアーク大陸中央にある巨大な円形の湾──グラーズホロウの上空のようだ。
目的地まで残る距離は六割程度といったところか。かなりぐっすり寝ていたものだと実感したミラは、だからこそ眠気も飛んだ今、カグラとカシオペヤが二人でこそこそしているそれに興味を示した。
「約束通り、教えて貰っているだけだって」
「これで森も元気いっぱいになりますよ」
どうやら、黄金都市での約束を今ここで果たしているようだ。
そう、森林を蝕む呪詛問題を解決する方法について、カシオペヤは様々な手段を伝授していた。
呪詛を浄化するための術具を作る方法や、精霊達の力を合わせる特別な方法。また周囲の環境を利用した結界の構築や、直接的な効果のある魔法まで。それこそ誰でも、どのような状態でも利用出来るようにと、様々な解決法が並べられていた。
「ほぅ……こんな魔法があったとはのぅ」
「こういうのもあるんだ」
どれもこれも知らない知識や技術ばかりである。とはいえ呪詛への対応については、これで五十鈴連盟の力でどうにか出来そうだ。
また、それとは別にミラとカグラの興味を惹きつけたのは、カシオペヤが手本として見せてくれた幾つもの魔法であった。
天魔族特有の魔法ではあるが、ここに揃うミラとカグラといえば、何といっても術や魔法といった類を専門とする二人だ。だからこそ魔法の効果のみならず、それを成す魔法式にまで当たり前のように踏み込んでいった。
そんな二人に対するは、天魔族随一の魔法の使い手を自負するカシオペヤである。二人のやる気と才能に可能性を垣間見たのか。更に詳しく奥深いところまで、その知識を伝授してくれた。
それらをものにするには、一朝一夕ではまず不可能。しかし将来的には可能性がありそうなものが次から次へと並んでいく。
「──おお、ここは応用出来そうではないか!?」
次の日には、天魔族の魔法の中に幾らか召喚術にも組み込めそうな部分を発見するミラ。召喚術士が一躍トップの人気に躍り出る日も近いと不敵に微笑む。
「──こうすれば、うん、いい感じいい感じ」
また次の日には、カグラも新たな道筋を見つけられたようだ。このまま研究を続けていけば更に発展させられそうだと、にんまり笑う。
「……教え過ぎました、かね?」
徐々にマッドな面が浮かんできたミラとカグラの様子を前に、失敗しただろうかと不安になるカシオペヤだった。
ニヴェゾロの街を発ってから数日後。アーク大陸をほぼ縦断したミラ達は、日之本委員会の研究所に帰ってきた。
するとミラ達の帰還を聞きつけたのか、ヴァレンティンが港まで迎えに出てきていた。
「──それにしても、何があったら一人増えて帰って来る事になるんですかね……」
まったく無事なようで安心したと笑う彼は、初めましてと挨拶してから続けてカシオペヤに注目する。
しかも、ただ増えただけではない。アンドロメダと同じ特徴を持つ点から、一目で天魔族とわかる。だからこそヴァレンティンは、余計に疑問が膨らんだようだ。
「まあ、色々とあってのぅ。詳しい事も含めて報告するのでな。まずはアンドロメダじゃ。いつもの作戦室じゃろうか?」
「さっきまでは、そうでしたね。ですが先ほど一つの議題を終えて解散したところなので、今は食堂あたりかと。最近、パティシエの方が来たとかで盛り上がってましてね」
ヴァレンティンが言うに、アンドロメダは食堂のスイーツメニューの制覇を目指しているそうだ。休憩時間などは、スイーツを目当てに足しげく通っているらしい。
「あー、そう言われると私も何か食べたくなってきた」
思えばこの一週間ほど、甘いものは果物丸かじりくらいしかなかったと嘆くカグラは、本格的なスイーツが並んでいるというその言葉の虜になりかけていた。
そして、そんなカグラの反応に何かを察したのだろう。カシオペヤの目には期待の色が膨れ上がっていく。
「では細かい事は、合流してからにするとしようか」
何だかんだで美味しいものが揃っているから仕方がない。アンドロメダの気持ちも少しわかると心で同意しながら、ミラは食堂に向けて歩き出した。
「え、カシオペヤかい!?」
「お久しぶりですね」
食堂にてジャンボシュークリームを頬張ろうとしていたアンドロメダは、その直後、ミラ達と共にやってきたカシオペヤの姿を目にして驚きの声を上げた。
黄金都市の調査から帰ってきたら天魔族がオマケに付いてきたというのは、流石のアンドロメダも予想出来なかっただろう。ジャンボシュークリームを皿に戻して駆け寄ってくる。
「おお、友よ! 心配していたんだ!」
そしてそのままの勢いで抱き着いた。
カシオペヤについては、彼女が担当しているはずの作業が突然進まなくなったため、何かあったのかと天魔族の間で噂になっていたそうだ。
「色々と聞きたい事が沢山だ。とりあえず、作戦室に行こうか!」
カシオペヤとミラ達を見渡したアンドロメダは、次の瞬間テーブルに戻りジャンボシュークリームの皿を手に取り、さあ行こうと歩き出す。
しかし、そう特上スイーツを目の前で見せつけられたら、誰もが直ぐに頷けるはずもなかった。
「ちょいと待っておれ」
「直ぐ戻るから」
「私もいいですか!?」
作戦室で報告会の前に、まずは皆でスイーツ選びだ。抗えぬ誘惑に従ったミラ達は、どれにしようかとはしゃぎながら食堂のカウンターに並べられたスイーツ選びに夢中になった。
「──そうしてカシオペヤ殿をどうにか救う事が出来たというわけじゃ」
「どうなるかと思ったけど、どうにか出来て一安心よ」
「間一髪でしたね」
まずは、黄金都市にあったフォーセシアの封印についての報告だ。
フォーセシアが外に出ていながらも、まだ封印が残っていたのはカシオペヤが逃げ込んだからだった。ミラ達は三人でその全容を説明し、こうして無事に戻ってこられたと締め括った。
「そんな事になっていたとは。なるほど、作業が止まっていたのも納得だ。爵位級がチームを組んだとなれば、私達でも流石に分が悪いからね」
過去から今に至るまでの出来事を把握したアンドロメダは、納得するのと同時にカシオペヤが助かってよかったと安堵のため息を漏らす。
そして──。
「こうして無事に再会出来たのもミラさん達のお陰だ。本当にありがとう」
と、心底嬉しそうに微笑んだ。
これに対してミラとカグラは、出来る事をしたまでだと当たり前のように答える。
そうして黄金都市調査についての話が終わったら、次はアンドロメダとカシオペヤら天魔族が担当しているという特別な役目の話に移行した。
大陸に残る天魔族は、それぞれが決戦に向けて動いているそうだ。
二人は、それぞれが担当している作戦の進捗や問題点などについて確認し合う。特にカシオペヤは封印に逃げ込んでから、ここまでの間をまったく把握していないため、その辺りについても補足するように進んでいった。
「──というと、まずはそっちを優先するのがよさそうだね」
現状、ミラ達の活躍や日之本委員会の協力もあって、アンドロメダの方はとても順調。また他の天魔族についても、ある程度の情報共有が出来ているようで問題はないという。対してカシオペヤは動けない期間が長かったために大きく遅れている状態という事が明確になった。
そうして話し合いの結果、アンドロメダはカシオペヤの遅れを取り戻す事を最優先にしようと決める。
「幸い、ここには足になる道具が沢山ある。それを使わせてもらえば、これまで以上に捗るはずだよ──」
アンドロメダも存分に利用している日之本委員会の技術力。大陸各地を巡る必要のある任務だが、これを使えば遅れを早く取り戻せると、アンドロメダも自慢げだ。
「僕からは、これを預けておきます。また悪魔に襲われたりした時は、それを振ったり叩いたりして合図を下さい。仲間達と駆け付けますので」
またそれのみならず、ヴァレンティンがカシオペヤに転移の目印を渡す。同じような状況になったら、次はばっちり返り討ちで浄化してしまおうと豪語している。
「これなら直ぐにでも取り返せそうですね」
話し合いが終わり、これからの目処が立ったところでカシオペヤも安心したようだ。早速準備に取り掛かろうと意気込みを見せた。
「まずは、ちゃんと回復してからだからね」
だが、今はまだ瀕死状態から復活して数日。体調が万全というわけではないため、暫くは研究所で様子を見てから作戦再開になるという事に決まった。
と、そうして黄金都市とカシオペヤの件が一段落して、一先ずの話し合いが落ち着いたところ──。
「ああ、そういえば話が終わったら室長室にも来て欲しいってさ。魔王城攻略についても話が進んでいてね。私は念のためにカシオペヤの精密検査をしたいから、先に行っておいてくれるかな」
アンドロメダから、そんな言葉が伝えられた。
「ほぅ、あれから進んだのか。うむ、わかった行ってみるとしよう」
政略的にも、相当にややこしい事になりそうな戦力招集だが、この数日でどのように進展したというのか。はたして、まとめられたというのか。予想も出来ないが、そう言うからには相応の変化があったという事。
ミラは、迅速な魔王城攻略が実現出来るのかと期待しながら所長室へと向かった。
「いや、なんというかこう、やっぱり教会って凄いね、ほんと──」
現在、どのように話が進んでいるのか。オリヒメに確認して返ってきた言葉がそれだった。
まず第一に、カグラが特定した地点を重点的に調査測定したところ、やはりその場所に魔王と多くの配下がいる事が特定出来たそうだ。
そしてこれらの情報を決定的な証拠として提示したら、なんと教皇達が国家間に立ち関係を取り持ってくれたという。
まず日之本委員会からの報告を受けたアトンランティスとニルヴァーナが旗持ち役となり、三神国と交渉。
大陸の未来にかかわるとはいえ、相手側からすれば突然そんな話を持ちかけられてもと、まずは疑うところから始まるものだ。そして本格的な交渉が出来るようになるのは、三神国側でもその事実の裏を取れてからになる。
国を動かすというのは、それだけ慎重にならなければいけないものだ。言われて、はいそうですかと決断など下せないのである。
だが今回は、そこに責任者として教皇達が加わる事で情報の裏付け代わりとなり、間に必要な一切を一気に省く事が出来た形だ。
三神教のトップと、それに次ぐ大司教達の口添えは、それほどまでの影響力を有していたのである。
そうして三神国を始め、プレイヤー国家のみならず、複数の国から魔王城攻略作戦の賛同と協力を得られたそうだ。精鋭の派遣と国家を越えての戦力集中と移動を容認してもらえたという。
「それだけ動員出来れば十分に戦えそうじゃが、責任重大じゃのぅ」
「もう、勝つしか道はなさそうね」
「僕らを信じてくれた教皇様達に応えるためにも頑張りましょう」
その結果にミラとカグラ、ヴァレンティンは、これで憂いなく戦えそうだと喜ぶ。また国と国の間に立ってくれた教皇達の信頼に報いるためにも、魔王城攻略作戦は成功させなければいけないと気合も入れ直す。
「それで次なんだけど──」
作戦は、もう始まっている。そうなれば、後は魔王側にこちらの動きを気取られないようにする事も重要だ。
現時点では、不意打ちの奇襲めいた作戦が実行可能だ。万全に待ち受ける相手と比べれば、どちらが初動で有利かは明白。だからこそ、本作戦については慎重に遂行されていく事になる。
まず初めに戦力の集結だが、名目上は『不戦条約失効後も、このまま平和が維持されていく事を願う親睦会』という形で集まる事になっているそうだ。
国を越え、更には軍も越えて友好を深めよう、というものに見せかけるわけである。
だが実際は、魔王討伐のための戦力集中だ。魔王側も当然だが世間に露見しても相当な騒ぎになるため、全ては秘密裏に行われる予定だ。
作戦が成功しても、その事実は隠蔽され、魔王がいたという事も闇の中へと葬られる。この先にあるのは、公に出来る名誉の無い戦だ。
「そういう事で既に打診はしてあるから、後はもうなるようになれって感じかな。三人も、しっかり準備よろしくね──」
これから待ち受けるのは魔王との総力戦。相応の準備も必要になるため、集結するのは半月後と決まったらしい。
場所については親睦会会場という名目で、まずニルヴァーナに集合。それから作戦会議を経て、演習という形で一斉に出発。そのまま全勢力をもって魔王の拠点──即ち魔王城へと乗り込んでいくというのが、ざっくりとした作戦概要だった。
「ふむ、いつまで誤魔化しきれるかわからんが、それならどうにかなりそうじゃな」
作戦決行日は、半月後。当初の予定では戦力の動員に二ヶ月ほどかかる計算であったため、かなりの短縮といっていいだろう。これならば相手に怪しまれるよりも早く動けるかもしれないと、ミラもまた納得の様子である。
なお、その立役者である教皇は今もまだ、公式な視察という形で研究所に滞在中だという。しかも大司教達も、これに便乗しているようだ。各研究室を見学しながら随分と満喫しているとの事だった。
(とんだ大物じゃのぅ……)
こんな状況でも、いつも通りといった図太さを発揮するところは流石は教皇である。だが、三神教の総本山であるロア・ロガスティア大聖堂の方は、そのままでいいのだろうか。そう呆れつつも、大らかでどっしり覚悟の決まった様子に、大物っぷりを感じるミラであった。
最近、ふと思ったんです。
なんだかチートデイが単調になっているような気がすると。
先日は、はま寿司を食べました。
その幾らか前には、イシイのおべんとくんミートボール豚バラナポリタンも食べました。
チーズ豚ッカルビなんかもありましたね。
と、そんな日々を振り返っていたところ……
それ以外は、いつもただお肉を焼いているだけだな、なんて思ったわけです。
お肉は、焼くだけでも美味しいので十分ではありますが
色々とバリエーションを広げていきたいな、なんて考える贅沢を覚えた今日この頃。
しかし、ならば今度は何がいいかというと、肉を焼く以外に思いつかない今日この頃。




