607 ゲート移設
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六百七
「終わったぞー」
部屋割りも決まり、今後の飛行順路や予定などについても詳細に詰めていたところだ。アラトがひょいと顔を覗かせながらそう言った。
どうやら飛空船の倉庫室へのゲート移設作業が完了したらしい。そして最後に起動するかどうか、移設という選択肢は成功だったか見届けてもらうために──というか一人では緊張するという事で皆を呼びに来たそうだ。
はたして、この選択は正しかったのか。皆で倉庫室に移動して、そこに佇むゲートを見やる。
「さて、どうなるかだな」
この成功の有無で、続く作戦は随分と変わる事になる。そのためもあってか、ソウルハウルも真剣な面持ちだ。
見た目の方は、まったく変わっていない。また未開通の状態である今は、まだ倉庫室の奥が見えるだけだ。
「ここまできたら、もう後戻りは出来んからのぅ」
開通していたゲートは、解体されている。ゆえにこれが失敗してしまったら、神域にて骸を処分するという手段に大きな障害が発生する事になる。
諦めるか、それとも別の手段を探すか。どちらにしても、想像もつかないような苦労が待っているだろう。
「よし、それじゃあ繋ぐぞ」
そのように、それぞれが様々な思いを巡らせる中、アラトがスイッチを操作して準備を進めていく。そしていよいよ、起動レバーに手をかけた。
ミラ達が固唾を呑みながら、さあこいと頷く。それに頷き返したアラトは、願いを込めるようにしてレバーを引いた。
それぞれの装置が起動して、ゲート全体にエネルギーが巡っていく。
皆が沈黙する中、微かな動作音が響く。それから遂に、ゲートの輪がひと際輝いた時だ──。
「……む?」
その光は瞬く間に霧散してしまった。残されたのは、微かな駆動音を響かせるゲートの枠組みだけだ。
「あれ?」
これに慌てたのはアラトだ。どこか設定を間違えたかなと、ノートを開いてゲートの各部を詳細に確認していく。
そうして、一つ二つ、三つ。数多くの数値を点検してから再びレバーを引いてみるも、結果は先ほどと同じ。
そこから更に数度繰り返しても、ゲートは開いてくれなかった。
「失敗、か……」
場所以外は、何もかも開通済みだったゲートのまま。だからこそ、これが繋がった事には未だ解明出来ていない未知の部分が大きく影響していたというのか。
まだまだ解析不足だった、そして技術不足だったと悔やむアラト。
「ううん、ごめんね。ボクが移設しようなんて言ったから……」
またハミィも、今回の失敗に人一倍責任を感じているようだ。移設する事を強く推したのは何よりも自分であると。
いつもの彼女とは打って変わって、随分としおらしく項垂れている。
「何を言うておる。この件は皆で決めた事じゃろう」
全員で移設すると決めたのだから、責任があるとしたら全員だ。ミラは、そう慰めの言葉を口にする。そして、気を切り替えて次の策を考えようではないかと、そう元気づける。
「うーん」
ゲートなき今、どうするべきか。そういった方向で話し合おうとしていたその隣で唸り声を上げる者が一人。
アンドロメダだ。ゲートはすっぱり諦めようというミラ達と違い、彼女は不思議そうな表情でゲートを見つめていた。
「アンドロメダ殿。何か気になるところでもあるのじゃろうか?」
あのアンドロメダだ。もしかしたら原因か何かに心当たりでもあるのかもしれない。僅かな可能性な気もするが、どうした事かと声を掛けるミラ。
するとアンドロメダは、気になった点について教えてくれた。
いわく、ゲートの状態はまったく問題がないように見えるそうだ。つまり、繋がっていない方が不思議なほどだというのである。
「あ、ああー、そうか!」
ゲートに異常はない。けれど、接続に失敗しているのは何故なのか。むしろミラ達も尚更混乱するような答えに戸惑っていると、直後にアンドロメダが閃いたと声を上げる。
それから彼女は、いつものタブレット端末を取り出して、なにやら操作し始めた。
すると、その数秒後だ。
不意に輝いたかと思えば、ゲートの中にいつも見えていたアンドロメダの秘密拠点が映ったではないか。
そう、再びゲートが開通したのだ。
「おお、これは!」
「向こう側に見えるの前と同じところだよね!?」
それを前にして一番に喜びの声を上げたのは、アラトとハミィだった。失敗かと思い落ち込んだところからの大逆転となれば、喜ばずにはいられないというもの。
二人は、やったやったと抱き合って感情を露わにする。
「つまり成功したって事でいいのよね? ナイスナイスー」
「よかった。予定を変更する必要はなくなったか」
これで一安心だとカグラとノインも、安堵した様子だ。
最終的にゲートの移設は成功だった。つまりミラ達がするべき事は、当初の作戦通りで問題ない。
骸を確保し、神域にて処分する。そして魔王を打ち倒し、更には魔物を統べる神も討ち果たし、大陸に平和が訪れるのだ。
「ところで、さっきは何をしたのじゃろうか?」
その出だしから躓かなくてよかったと皆で喜ぶ中、ミラはちょっと気になった点についてアンドロメダに問うた。
最初は失敗だと思ったゲート開通。だがアンドロメダがタブレット端末をいじった直後にゲートは繋がった。
はて、彼女は何をどうしたというのだろうか。
「いやぁ、えっと、何というかね。……ごめん、ちょっと向こうのゲートの設定をリセットするの忘れちゃってたなぁって」
ミラの声に反応して皆の興味も集まったところ、アンドロメダは少々申し訳なさそうに、そう答えた。
彼女が言うに、ゲートは一セットでしか繋がらないため、複数のゲートを向こうに繋げる事は出来ないそうだ。
そして向こう側にある拠点のゲートには、これまで繋げられていたゲートの転移先としての設定が記録されていた。
だが今回、一度分解して場所を移した事により、これを向こう側が別のゲートと認識してしまっていたらしい。
つまり、新規の転移先が現れたという形になってしまっており、だからこそ受け付けてくれなかったというわけだ。
「驚かさないでくれよぉ」
技術的な問題ではなく、単純な設定ミスだった。その真実が判明した事で、アラトは心底安堵したようだ。むしろ、そういう事もあるとアンドロメダのミスを笑い飛ばす。
「ボクのごめん、返してほしいんだけど……」
対して、ちょっと前までしおらしかったハミィはというと、無駄に焦り無駄に落ち込んだと随分不貞腐れた様子だった。
ゲートを搭載した特別仕様の飛空船は研究所を飛び立った後、現在は南西に向けて航行中だ。
目的地は、アーク大陸の中央部。そこには大陸を抉ったかのような、極めて大きな湾が広がっている。
三神に教えて貰ったのは、その中央部の海底だ。そこに魔物を統べる神の骸を封じた封印砦があるという。
「場所がわかったとはいえ、そんな深海に、どうやっていけばいいんだ? この飛空船は潜水艦にもなったりするのか?」
目的地までは、まだ暫くかかる。よって到着までの間、今後の予定やら接敵時の対応、そして目的地の詳細を色々と話し合っていた。
その途中である。そんな深海にある封印砦にどうやっていくのかと、ノインが疑問を呈する。
だがそう思うのも当然か。封印砦があるのは、深海五キロメートルだ。生身で行くなど、まず不可能。それどころか潜水艦などがあったとしても、極めて危険な深度である。
「そこはもう、早速わしの出番じゃな」
深海に挑むのに科学だ技術だは必要ない。深海が相手というのならば、ここに最強の助っ人がいると、ミラは胸を張って豪語する。
そして「まずは紹介しておくとしようかのぅ!」と自慢げな笑みを浮かべながら、ミラは召喚術を発動した。
【召喚術:アンルティーネ】
ミラが顔見せも兼ねて召喚したのは、水精霊であるアンルティーネだ。
何を隠そう、このアンルティーネ。潜水部門においては精霊王も認めるエキスパートだ。
以前、海賊の宝探しでも活躍したが、あの程度は序の口。深海五キロメートルどころか、十キロメートルであろうと何の問題もなく潜って泳ぎ回れてしまうという特別な能力を有した、凄い水精霊なのである。
と、そのようにミラが我が事のように語れば、アンルティーネは「えっへん」と、どこか誇らしげに胸を張ってみせた。
「おー、凄い! 最強だね!」
「へぇ、なるほどなぁ。そういう手もあるものなのか」
素直に納得した反応を見せるのはハミィとノインだ。二人は、水精霊とはそんな深海にも対応出来るものなのかと驚きつつも、確かに可能性は十分だと理解する。
ただ、そんな二人と違いカグラとソウルハウル、そしてヴァレンティンの反応は少々違っていた。
「いつものウンディーネちゃんじゃないのね?」
「別人だな」
「もしかして、解除……」
ミラが召喚する水精霊といえば、三人にとって見慣れているウンディーネのみ。
そして召喚術士は、同属性の精霊とは一人だけとしか契約出来ないという事も知っているからこその反応だ。
アンルティーネを召喚したという事は、これまで大切に育ててきたウンディーネはどうしたのかと三人は考えたわけである。
「あー、そういえばまだ言うておらんかったか。ふむ、何を隠そう精霊王殿の力によって、同属性の精霊とでも重複して召喚契約が出来るようになったのじゃよ!」
その点でいえば、今までの召喚術士とは一線を画すほどの違いでもある。特に精霊の仲間は多ければ多いほど臨機応変に立ち回れ、多くの状況に対応出来るようになる。
ミラが得たその力は非常に強力なものであり、同時に精霊王からの信頼の証のようなものでもあった。
「つまり、より精霊女王らしくなったわけだ」
今では軍勢というよりも精霊女王の方が似合い始めてきたなと、ソウルハウルは納得したように笑う。
「そういう事でしたか」
あんなにミラを慕っていたウンディーネが解雇されたわけではなかった。その事実に何となく安堵を浮かべるヴァレンティン。
「つまり、今まで通りの戦闘特化はそのままに、能力面でも助けてもらえるわけだ。ふーん」
精霊の能力は同属性でありながらも、個人個人でかなり違っている。精霊との知り合いも多いからこそ、その幅というのもよく知るカグラは、ミラが得たその能力の可能性を最も理解したようだ。だからこそ、ちょっとずるいと羨ましげにミラを睨む。
「それもこれも、日頃の行いの賜物じゃな!」
ミラはというと、そんな嫉妬もどこ吹く風と笑い飛ばす。
なお、精霊王あってこそだが、そんな精霊王に気に入られた事による恩恵だからか、ミラの言う事も全てが間違いというわけではなかった。
「お陰様で毎日楽しくなりました! そんなわけで深海はお任せ下さい!」
精霊王ネットワークは、最近精霊達の娯楽にもなってきているそうだ。ゆえに精霊女王の人気は一概にミラの人徳だけとはいえないが、少なくともアンルティーネはミラにも崇敬の念は抱いている様子である。ミラの役に立てる場面がやってきたと、幾らかテンション高めだった。
アンルティーネと皆の顔合わせが済んだ後は、詳細に作戦を話し合った。
深海の封印砦に向かう方法について詰めていく。事は深海に潜っていくだけで、これについてはアンルティーネがいるだけで解決だ。
とはいえ場所は未知が広がる深海。そこには何が待ち受けているかもわからない。
「──まあ、わしだけで行くのが一番じゃろうな」
いざという時の備えとして大王剣亀の甲羅に潜り込んでおくつもりだと言ったミラは、更に万が一に備えるなら一人の方が動きやすいとも告げた。
アンルティーネと大王剣亀が揃っていれば、深海において後れを取る事はない。
だが一緒に潜る人数が増えるほど、アンルティーネの負担も増えてしまう。また、ミラ一人であれば何かあった場合に転移で逃げられる。
だからこそ万全を期すのなら、ミラ一人で潜る事が理想的なのだ。
と、そのようにある程度決まってから暫くしたところだった。
「いた、やっぱり来てるみたいね」
カグラが、そう報告した。
ミラ達を運ぶ飛空船よりも更にずっと先行していたピー助が、現地付近にまで到達したようだ。そして進行方向先の上空に、魔王配下と思しき悪魔の姿を確認したという。
「えっと、男爵級と伯爵級がそれぞれ一かな。あと上空と海中に魔物がいっぱいいる──」
ピー助の目を通して確認出来た情報を共有していくカグラ。更に彼女の口からは、現場の状況が次から次へと並べられていった。
伯爵級は大規模な魔法陣を展開しているそうだ。そして、一つまた一つと描いては、それを海に沈めているという。
その効果のほどは不明だが、封印場所が深海という事もあってか、やはり悪魔達もまた手こずっている様子らしい。
悪魔といえど、流石に深海までは簡単に潜れないのだろう。
「だからこその作戦というのなら、その魔法陣が海底に到達する前にどうにかした方がよさそうですね」
相手の狙いも同じく、深海の封印砦のはずだ。よって魔法陣には、そこに至るための何かが秘められているはずである。ゆえに成功させるわけにはいかない。妨害するべきだろうとヴァレンティンが提案する。
「あれを解除するというのなら、私が役に立てそうだね。とはいえ当然、使い手を先に封じる必要があるけど、さて、どうするべきかな」
そう答えたのは、アンドロメダだ。悪魔が使う魔法陣ならば把握出来ているので解析から解除まで十分に可能だという。
このまま秘密裏にミラを潜行させるか、それとも先に憂いを払っておくべきか。今の段階で考えられる方針は、この二つだ。
「状況から考えると、その魔法陣を展開している奴以外は護衛みたいなものだろ。やるなら男爵級は一人で十分。伯爵級も、これだけ戦力が揃っているのなら一気に押し切れる。あと、そこらの魔物共は数が多いだけだ。いっそ丁度いい的に出来るかもしれないな」
双方の戦力を比較した結果、勝算は十分なほどにあるとソウルハウルは推測する。
その分析については、ミラ達にしてみても大きな違いはなかった。いっそ先制してしまう手も十分選択肢に入るといった反応だ。
「それもいいけど、援軍を呼ばれたりしないか? 向こう側の連絡手段がどうなっているか知らないけど、もっと上の爵位持ちが送り込まれてきたら面倒そうだ」
今の相手の戦力であるなら、こちらから襲撃してしまうのはありだ。けれど、それ以上の援軍が追加されたらどうなるかわからないと、ノインは予想出来ない部分まで考慮する。
「ここはいっそ、先手必勝でいいんじゃないかな?」
こっそり行くか、悪魔達をどうにかしてから行くか。その選択にはっきり答えを出したのはハミィだ。
「もし援軍が送り込まれてきたとしても、こんな場所だし結構時間がかかりそうじゃないかな。ならその前に全部済ませちゃえばいいよね。それとあの魔法陣の効果も今はまだわからないから、その下に潜り込むのはなんか危なそうだし。だから上の安全を確保してからの方が、きっと確実だと思う。それと専門家の水精霊さんがいるなら、きっと直ぐに行って帰ってこれるでしょ?」
そこまで一気に話したハミィは、どのくらいで封印砦に辿り着けそうかと問う。
「ふむ、そうじゃのぅ。今回、共に深海まで潜る予定の大王剣亀は、水中を高速で泳げるのでな。しかもアンルティーネ殿の支援もあれば、五キロ程度の距離ならば往復で六分もあればいけるじゃろう。あとは封印砦の解除と骸の間までの移動、取り出してから仮封印の時間も合わせるとしても、合計で三十分もあればどうにかなりそうじゃな」
そう自信満々にミラが答えると、アンルティーネもまた「お任せ下さい」と胸を張って答える。
「そんなに早く済むのか」
その予想を聞いたノインは、少々呆れたように笑う。
深海五キロメートルとなれば、そこは人類にとっては未だに未知の領域である。けれどそんな場所に行って用事を済ませて帰ってくるのに三十分程度なんて言われれば、常識的であるほど笑ってしまうというものだ。
「それだけ早ければ、きっと向こうが慌てている間に終わらせられそうじゃない?」
大いに手こずっているところを、たった三十分で掻っ攫われたら魔王もきっと驚くだろう。そう言ってハミィは悪戯っぽく笑う。
「うん、確かに。先に安全を確保しておいた方が、後々も動きやすいかもしれないからね。それじゃあまずは、上から解決しようか」
話し合いの結果、アンドロメダはそう決断した。
さて、新年になりましたね!
2025年です! 油断すると何かと2024年と書き間違えてしまう事のある時期ですよね!
そんな年始めに、予定があります。
そう、壊れてしまったあれを買いにいくというもの。
まだちょっと年末年始の流れでのんびりした気分ですが、
さて、どのタイミングで買いに出かけようか……。
早めに行ったほうがいいと思いつつも、まだぼんやり気味な今日このごろ。




