582 アトランティス王と将軍
五百八十二
「にしても一緒にヴァレっさんも来るって聞いた時はビックリしたぜ。まさかヴァレっさんも帰ってきていたとはなぁ」
「色々とありまして。正式な発表は、まだなんですけどね」
アトランティス訪問に際し、ソロモンからヴァレンティンについても密かに伝えられていたようだ。これで全員揃ったかと皆で盛り上がっていたという。
ただ、当時から随分と大人しい服装になっていたため見た時に誰かわからなかったとゴットフリートが笑う。
と、そんな事を話しつつ廊下を進み続けたところで、いよいよ目的の場所に到着した。
「お待たせ、連れてきたぜ!」
扉を豪快に開け放ったゴットフリートは、そのまま皆の待つ会議室にずんずんと入っていった。
「扉くらい静かに開けろ、この野郎」
「ミラ殿、久しぶりでござるな。そしてヴァレンティン殿は、特に久しぶりでござるな!」
そこにはアトランティス王のみならず、更に名も無き四十八将軍が四人待っていた。
ゴットフリートの粗暴ぶりに苦言を呈すのがレイヴン。少し嬉しげに声を掛けてきたのは、『イラ・ムエルテ』の本拠地攻略で一緒に戦ったサイゾーだ。
「あはははは! あれがダンブルフさん!? ほんとに可愛くなってるし!」
「よかったな、仲間が出来て」
続き、ミラの姿を目にすると同時に笑い出した少女は、ハミィ。そんな彼女を呆れたように見つめるのがグリンドルだ。
「ソロモンさんから一通りの話は聞いている。我が国に潜伏している悪魔の確保と浄化だったな。いやはや浄化とは面白い。是非とも協力したいものだ。さあ二人とも席についてくれ、早速情報交換といこうじゃないか」
そして正面、奥の席に座すその者こそがアトランティス王国の国王、ゼノドゥクスであった。
シンプルながらも仕立てのよい黒衣の上から白い外套を纏う彼は、落ち着いた様子で会議を取りまとめる。
すると先ほどまで騒がしかった将軍らの様子も素早く切り替わり、一気に情報交換が進展していった。
これが王の威厳というものか。強大な国を取り仕切るのみならず、個性の強い四十八人もの将軍らを束ねられるほどのカリスマ性が彼には確かにあるようだ。
アトランティス側との情報交換は問題なく進んでいく。
この国に悪魔デラパルゴが潜伏しているという件については、ここに揃った将軍四人が調査に当たったという。
見れば確かに諜報活動を得意とする四人であり、だからこそ得られた情報はどれも有益なものばかりだった。なおゴットフリートは、ただの興味で同席しているだけのようだ。
それぞれが得た情報が次々に並べられていく。そしてそれらの情報を精査していった結果、デラパルゴが潜伏しているであろう場所が幾らか絞り込めた。
「思った通り、この森だ」
レイヴンが出揃った情報をなぞりながら地図上にある森を指し示した。なお、その口調と態度は、どこか予想通りとでもいった様子である。
最有力候補として挙げられたのは、アトランティス王国の北西側に広がる『レムリア大森林』という場所だった。
将軍らが言うに、その場所は非常に鬱蒼としており危険な生物の数も多いそうだ。よって調査もままならず、領内ながらも未だに未開の領域が多く残っているらしい。
つまり危険などを省みなければ、何かを隠したり隠れたりするにはもってこいの場所というわけだ。
「そういう場所ならば、納得じゃな。……じゃがしかし、広いのぅ」
悪魔が潜伏場所として選ぶのなら、十分な条件だ。けれど示された森は、アトランティス領土の二割を占めるほどに広大だった。そこに潜伏しているとわかっても、行けば直ぐに見つけられるというような場所ではない。
そう地図を睨んでいたところ──。
「その点については、こっちの情報が参考になるかもしれないな」
レイヴンは今日のために、国内の各地に点在する観測所から情報の写しを回収してきたそうだ。ミラの視線の先に一枚の紙が差し出された。
見ると森の部分だけを切り抜いた地図のようだ。また、そこに幾つかの点と数字が書き込まれているのがわかる。レイヴンが言うに、ここ数日分の観測結果だそうだ。
「ほぅ、マナエコーと残留素の分布図じゃな。流石、出来る男は違うのぅ!」
「なるほど、魔属性の分布と放射量がこのくらいなら──」
これは有益な情報だとミラがその紙をじっと見つめ始めると、ヴァレンティンもまた興味深そうに覗き込んだ。
その地図に書き込まれていたのは、自然界にもありふれたマナの傾向などを示すものだった。
けれどここに悪魔や魔獣といった類が潜んでいると仮定した場合、見方と計算式を変える事で属性値に揺らぎが表れる。それをもとにする事で、悪魔の潜伏地点を一気に絞り込む事が出来るのだ。
そしてこの一連の計算式を生み出したのは、他ならぬ九賢者であった。
ゆえにミラとヴァレンティンは、その地図一枚を参考に幾つもの考察を重ね、十分後には悪魔の潜伏場所を句点ほどの範囲にまで狭める事に成功していた。
「よくぞまあ、あの面倒な計算をすらすら出来るもんだ。ただ、場所がわかったとはいえ他にも問題がある」
自然界のマナの流れを見定めるどころか、その変化まで把握するなど簡単な事ではない。だが術式の構築においては必須の知識であり、だからこそ術者ならばある程度は理解出来る内容でもあった。
とはいえ九賢者のそれは頭一つ飛び抜けており、だからこそ術士としてレイヴンの目には敬意の色が浮かんでいた。
けれどそれもほんの一瞬の事。次には別の資料が提示される。
それは『レムリア大森林』の植生や生物、魔物などの分布図だった。
「今絞り込んでもらった場所となると、これとこれがいるわけだが……なかなか面倒なやつでな──」
何でもその森には、魔物すらも捕食するような原生生物が多く生息しているらしい。しかも今回、デラパルゴの潜伏場所として絞り込んだ付近には、特に面倒なタイプの捕食者が存在しているという。
「この辺りにいるのはミリオンワームだよ。テリトリーに罠を仕掛けて、獲物が入ってきたら無数の触手で絡めとっちゃうの」
そう説明を続けたのは、ハミィだ。凄腕のハンターである彼女は、だからこそ魔物や生物の生態には特に詳しかった。
「だから、僕も手伝う事にしたからよろしくね」
そんなハミィが提案──というよりは有無を言わさずにそう告げた。
その理由は、潜伏地点の近くで戦闘にでもなれば悪魔に察知されるだけの影響が出るからだ。
「まあ、それが一番だな。今回重要なのは悪魔の捕捉と確保。二人の実力なら十分だが、それでも多少の影響はある。余計な戦闘は避けるべきだ。そしてそのためには、ハミィの案内が必要だろう」
レイヴンもまた、それが最も確実だと頷く。
デラパルゴに気づかれず接近するには、空からなんてもってのほか。遮蔽物など何もない空から直接現場に乗り込むなど、正面玄関を叩き割るようなものだ。
ゆえにこちらは森に身を潜めながら近づく必要がある。そのためには周辺一帯に罠を張るミリオンワームを避ける事が必須だ。そしてその見極めにおいては、ハミィこそが最も適した人材であった。
何といっても彼女は『レムリア大森林』の調査隊隊長として、何度も現地の探索に関わっているらしい。ゆえに土地勘も豊富。これ以上ないほどの適任だ。
「少し騒がしい奴だが連れていってくれるか。こう言ってしまうのも何だが、こちらとしても悪魔がらみとなったら客人に任せっきりにもしておけないのでね」
とはいえ召喚術士のミラには、その状況に対応出来る手札もあった。それを見越してか、ゼノドゥクスが真っすぐに正直な理由を付け加えた。
それは同時に、ミラ達が万が一にもデラパルゴの確保と浄化に失敗した場合に備えてだろう。もしもその結果、国に被害が出るような事態になったら、その前にアトランティス王国側で処理するという意味でもあった。悪魔などという不穏な影を、国に残しておくわけにはいかないからだ。
「それは構わんが、もっとこう大人しくて静かな……サイゾーとかではダメなのじゃろうか?」
アトランティス側の事情については、ミラもまた納得するところだ。アルカイト王国が同じ立場であったなら、きっと同じようにしただろう。
だからこそ将軍が同行する事については一切の反論もないミラであったが、一つだけ不満を口にした。
それは、ハミィという存在についてだ。
「えー、ひっどーい! なんでさー、こんな可愛い僕が一緒に行ってあげるって言っているのに何が不満なんだよー」
見た目の年齢は、だいたい十四、五ほどだろうか。ミラよりも少しお姉さんといったくらいである。ただそれでいてお姉さんに至らないのは、その動きや言動が度を越してあざといからだろう。
ぷんすかと唇を尖らせて抗議するハミィの可愛い子ぶりっ子が止まらない。
ダンブルフ時代には硬派を気取っていたミラにとって、ハミィは対極に位置するような存在だった。それもあってか、少し苦手意識も抱いていた。
しかし今は、ミラ自身が彼女と近い立場にあるという状態だ。ハミィもまた、この世界で女の子になった存在であるのだ。
対極でありながら、今は同列。しかもミラになってから半年以上が過ぎて色々と慣れてきた事で、僅かながらにハミィが持つノリや意識のようなものが少し理解出来てきた事に更なる危機感を抱いていた。
美少女としての愉悦である。
だからこそハミィとかかわるのは不安であり、それが不満として口に出たわけだ。
「問題児ではあるが、今回の件には一番の適任だ。耐えてくれ」
「王様までひっどーい!」
ゼノドゥクスいわく、『レムリア大森林』に赴くならば、ハミィは多少の相違も問題にならないくらいに役に立つそうだ。
けれど彼が保証したのは彼女の能力面のみであり、人間性については諦めるようにとその目で語っていた。また、他の将軍らも仕事だけならその通りといった顔であった。
「まあ、任務が優先じゃな……」
事は悪魔関係だ。ならば仕方がない。ハミィの抗議する声が響く中、ミラは彼女の同行を承知するのだった。
そうこうして情報交換も終わり、ミラ達一行はレムリア大森林に向けて出発する事となった。
現地までの移動手段は、ガルーダワゴンだ。とはいえ、どこからでもガルーダが飛び立てるわけではないため、ミラ達はまずエノシガイオスの郊外にある離着陸場にまでやってきていた。
「いやはや、流石はアトランティスじゃな。とんでもないのぅ」
もう何度目になるかわからない驚きを浮かべながら、目の前の光景を一望するミラ。
その目に映るのは広大な空港であり、同時に大小合わせて二十を超える飛空船であった。なかでも特にその内の一隻は、日之本委員会の研究所でも目にした事がないほどに特大だ。
アーク大陸の最大国家なだけあって、その国力はやはり桁違いだ。
「思わず資金援助を申し込みたくなりますね」
何だかんだでヴァレンティンが所属している組織も、色々と入用なのだろう。冗談めかしながらも一面に広がる飛空船を見つめるその目は、かなり本気だった。
「お待たせー、このままここから飛んでいいって」
どうでもいい事を話している間にも、ハミィが係員に話をつけて戻って来た。随分と愛想を振りまいたのだろう、向こうに見える係員はメロメロな様子だ。
エノシガイオスの上空には、防空だのなんだのと色々なものが張り巡らされている。ゆえに離着陸の際はそれらを制御する必要があるため、しっかりと話を通しておく必要があるわけだ。
そして本来は大きさに合わせた離着陸台を使うわけだが、今回はハミィのためならと特別に向こう側で調整してくれるそうだ。
「ふむ、では早速行くとしようか」
理由はどうあれ、係員がいいというのならいいのだろう。ミラは余計な事を考えずにワゴンを取り出すと、続けてガルーダも召喚した。
「わぁ、凄く立派だね! 流石ダンブ──ううん、今はもうミラちゃんだ。以前よりも更に洗練された感じだね。でも一番は、やっぱりその可愛さかな! っというわけで、ようこそミラちゃん『淑女な紳士同盟』へ!」
我先にとワゴンに飛び込んでいったハミィは、そこからひょっこりと顔を覗かせ嬉しそうに、だが同時に含みのある笑みを浮かべてそう口にした。
「淑女な、紳士同盟……? なんじゃそれは?」
急に何の話なのか。そんなものに入った事はなく、よくわからないが入るつもりもないぞと態度で示すミラ。
するとハミィは、それの意味するところを得意げに教えてくれた。
いわく『淑女な紳士同盟』とは、この世界に来て男から女になった元プレイヤー達のみが在籍する秘密の組織だそうだ。ちなみに、かのルミナリアもメンバーらしい。
今はこれといった活動内容はないが、時折仲間同士で集まっては面白おかしく過ごしたりしているようだ。
ちなみにその起源は、淑女としての振る舞いをまったく知らない紳士のためだったという。早い話が、女性の身体だからこそ気を付けなければいけないあれこれを学ぶための勉強会から発展した組織というわけだ。
なお、その逆である『紳士な淑女同盟』という組織も存在しているとの事だ。
「──今でも、その辺りの相談窓口みたいな役割は出来ているよ。最近も結構な有名人が入ったんだよね。皆、面白そ──とっても丁寧に淑女の心構えを教えていたから! だからミラちゃんも女の子の勉強しちゃお?」
「いや、わしはそんなものに入る気はない。確かにこんなとびっきりの美少女になってしもうたが、これには複雑な理由があるのでな。お主やルミナリアとは、根本的に違うのじゃよ」
これを機に入会しちゃおう。ミラは、そんなハミィの誘いをきっぱり断った。何といってもそこには、あくまでも今の状況は事故のようなものであり故意ではないという思いが渦巻いていたからだ。
しかし『淑女な紳士同盟』とやらに入ってしまったら、そういった何もかもを含め全てを肯定し受け入れたようにみえてしまう。そしてダンブルフに戻らない──というより戻れない事を認めるような気がしたミラは、だからこそ断固拒否の態度を貫いた。
もはや戻れる未来などないのだが、それでもミラはその一線を死守する構えだ。それはもはや、意地のようなものだろう。実に無駄な抵抗である。
「まあ、それがミラちゃんの答えなら無理にとは言わないよ。でも心構えとか処世術とか、その道の先輩方に教えて貰える場でもあるから、その辺りで困る事があったら是非思い出してね。僕らはいつでも歓迎するから!」
ハミィは不敵に微笑みながらワゴンの中に入っていく。その顔には、きっといずれ必要になる時がくるという確信が浮かんでいた。
「いいんですか? 結構ためになりそうな気もしますが」
「構わん。これといって困った事などないからのぅ」
へんてこな組織に思えて、案外有益そうではないかというヴァレンティン。実際、無防備なスカートの裾に始まり、何かと気を付けるべきところがあると既に幾つも気がかりな様子だ。
だがミラは、必要ないときっぱり断言する。
困った事はない。ある程度の差異を無視すれば、その言葉自体は事実だ。
けれどそこには『ミラ自身は』と付け加えられる。ミラの振る舞いで慌てさせられた男と、欲望を掻き立てられた男の数は、もはや数えきれないほどだ。
だからこそ必要になる心構えと処世術なのだが、まだまだミラはその重要性に気づかないようであった。
お菓子って色々ありますよね。
それに沢山のお菓子が新たに発売されていますよね。
それでいて昔からありながら現役バリバリなお菓子もあるという凄さ!
最近ですが久しぶりに食べて、その美味しさを再確認したお菓子がありました。
それは、
たべっ子どうぶつビスケット!!!!
子供の頃にも食べていた記憶があります。そして今でも美味しい!!!
最近食べていないけど昔はよく食べていたもの……他にもなにかありそうです……。




