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557 好景気

五百五十七



 今をときめく精霊女王とあってか、術士組合での注目度は街中のそれよりもずっと多かった。


(有名人は、大変じゃのぅ!)


 ミラが自画自賛する通り、精霊女王の名を知らぬ冒険者はいないほどだ。とはいえ組合というのは、そういった者達が当たり前に集まる場でもある。

 ゆえに注目が集まったのは、精霊女王としてが半分。もう半分は、滅多に顔を出さない精霊女王が組合にやってきたという珍しさからくるものであった。

 とはいえ、そんな大衆の気持ちなど知る由もないミラは、こうやって見られるのも有名税だと受け入れながら依頼掲示板の前に立った。


(ふーむ、手っ取り早く評判を上げられそうな依頼はないじゃろうか)


 これまで以上に大きな手柄になって一気にレジェンドレアに近づける。そんな素晴らしい依頼があればと、高ランクの依頼を片っ端から確認していく。

 希少品の入手や危険地帯での護衛、未開域の調査、特訓相手に討伐依頼など。高ランクともなると、その内容も幅広い。

 とはいえ、悪の組織の壊滅や、国を脅かす大魔獣撃破といった一発で一気に莫大な名声を得られそうな依頼というのは、これといって見つからない。

 とはいえ、実際にそれほどの依頼があったとしたら、ただの依頼掲示板に貼られるようなレベルではない。

 だがその辺りは、まだまだビギナー冒険者のミラである。どの程度までが貼られているのかを知らぬがゆえ、根気よく依頼を見て回っていた。

 そんな時だ──。


「ミラちゅわーん!」


 奇声とも嬌声ともとれぬ奇妙な叫び声が響いたかと思えば、直後に何かがミラを襲った。


「ぬぉ!? まさかお主がおったとは!」


 鋭くしなやかな手でするりと拘束されたミラは、激しく頬を擦りつけてくるその女性──フリッカを前にしてどうにか逃れようと抵抗するも、直ぐに諦めてされるがままに受け入れた。

 リリィといいフリッカといい、なぜこうも抜け出す隙もなく拘束出来るのか。


「お主がおるという事は、あのいつものメンバーも、まだアルカイトにおったりするのか?」


 熱意が強過ぎるのは問題だが諦めて開き直れば、また別の扉が見えてくる。何かと立派なものをお持ちのフリッカに抱きしめられるというのは、それはそれで心地よくもあるのだ。

 逃げようもないため、その境地に至りながら、ミラはもしかしたら丁度いいタイミングだったかもしれないと、そんな言葉を口にした。


「いるよー、皆いるよー。きっと皆もミラちゃんに会いたいだろうけど、今は私だけのミ・ラ・ちゃ・ん」


 フリッカといえば、エメラを含むいつものメンバーも一緒にいるイメージだったが、どうやら現在もその通りだったようだ。

 ならばセロも一緒だろうか。そう続けて聞いてみたところ、一緒であるという答えが返ってきた。


「やはりそうじゃったか。ではちょいと話したい事があるのじゃが、セロの元に連れていってはもらえぬじゃろうか」


 セロがいるのならば丁度いい。彼には『来たるべき決戦』について、ある程度話しておきたいと思っていたところだからだ。

 何といってもセロが長を務める『エカルラートカリヨン』は、大陸全土にメンバーがいるという、とんでもない規模を誇るギルドである。

 敵は、魔物を統べる神。その決戦ともなれば、大陸中に影響が及んでもおかしくはない。

 その決戦に関係しそうな情報を集めてもらうのみならず、いざという時には、エカルラートカリヨンの戦力や人脈が助けになるかもしれない。

 ゆえにミラは、情報を共有しておくべきと考えていた。またその件については、アンドロメダも了承済みだ。




 冒険者達が組織するギルドが幾つも集まる、ギルドハウス。ニルヴァーナの首都ラトナトラヤでもそうだったが、ここでもエカルラートカリヨンは一フロアを丸ごと借り切っているようだ。

 その規模、そして何よりも資金力に圧倒されながらも、ミラは一番奥の部屋でセロと話し合っていた。


「──という事があってのぅ。今は準備を進めておるところじゃ。そこでお主の方でも、いざという時のために備えておいてほしいと、そう思ったわけじゃよ」


 魔物を統べる神の復活と、来たるべき決戦。それらに関係する情報を一通り伝えたミラ。


「まさかそんな事が……」


 セロは、いつも以上にとんでもない話だったとあって随分と驚いた様子だった。

 だが、次の瞬間には神妙な面持ちで思案する。


「いえ、しかし、そうすると辻褄が──」


 途中途中で何かに気づいたような面持ちで呟いては、情報を精査していくセロ。

 大規模ギルドだけあって、セロの元には毎日様々な情報が集まってきている。どうやらそんな情報の中に、今回の話に関係しているかもしれない部分が見え隠れしていたようだ。


「この件につきましては、専門のチームを編成して調査してみます」


 警戒すべき案件と捉えたのだろう、思案を終えたセロは、そのように約束してくれた。




 と、そうして最も重要な話が終わった後は気分も一転。気楽な世間話を始めた二人。

 元プレイヤー同士ともあって、細かい事を気にせずに話せるというのが最大の利点といえる。

 フローネが造った天空城を見て、一番にあの古い映画を思い出したとセロがいえば、その名言で盛り上がる。

 他にも現代(・・)の頃などについても、気兼ねなく語り合った。


「──それが今では、こんなじゃからのぅ。いったい何がどうしてこうなったのか」


「そうですよねぇ。今、こんな事になっているなんて、子供の頃には想像もしていませんでしたよ」


 過去と今。それらを比べては、その違いの大きさと酷さに笑い合うミラとセロ。

 プレイヤー同士でありながらも、二人の置かれた立場は違う。

 何かと元プレイヤーの友人が国の重役ばかりなミラに対し、大物なれど冒険者ギルドという比較的自由度の高い集団に属するセロ。

 そのためもあってか、この世界に来てからの経験談は、お互いに新鮮味で溢れていた。

 同じ世界で過ごしていながらも、共に見えている景色が違う。だからこそ共通する過去の話題は、ちょっとした絆のようでもあった。





 そうして色々な話題を交わしていると、何となく最近の事についての話題へと移っていく。

 どこそこの街でお祭りがある、豊漁で海産物が安い、かの国でクーデターがあった、など。

 流石はセロか。今の話題となったら、その情報量は圧倒的だ。

 そんな中、セロはアルカイト王国の近況などについても挙げた。

 いわく、最近のアルカイト王国は非常に景気が良く依頼なども多いため、セロ達のチームは当分の間、この街を中心に活動していく予定らしい。


「──何といっても危険過ぎる場所がないので、新人の教育も捗って助かっていますよ」


 強力な魔物が現れる事は少なく、ダンジョンも初級向きが多い。そしていざという時には九賢者がいるとあって、最近新人組の研修地をアルカイト王国に変更したそうだ。

 加えて、エカルラートカリヨンのメンバーの多くが、この街に集まってきているという。

 しかもその要因は、九賢者にあるらしい。

 立て続けに帰還した九賢者。世間では色々な憶測や噂が飛び交うが、その事実は大きなニュースとなって大陸全土にまで広まっていた。

 そうした中、アルカイト学園にて、外部の者でも参加可能な特別講義を九賢者が開いているという情報までもが出回った。

 結果、その講義を目当てに多くの術士達が集まるという状況が生まれたわけだ。そしてエカルラートカリヨンのメンバーも、そこに多く含まれているという事である。


「あー、そういえばそういう事になっておったのぅ……」


 九賢者の特別講義。ミラは、その裏話を知っていた。

 全ての始まりは、ラストラーダだ。

 ある日の事。孤児院の子供達を連れてのアルカイト学園見学会が行われた。

 アルテシアが同伴し、ラストラーダもまた子供達にせがまれて同行する事となったのだが、場所が場所である。

 未来の大術士を目指す者達が学ぶ学園に、その道の頂点が来るともなれば、間近で見たいと思うのも当然。

 休学日に合わせての見学会だったのだが、多くの生徒達が部活だ課題だと様々な理由を用意して学園内に留まっていたのだ。

 ただ、ここまでならばまだ問題ではない。多少なりとも学生達が騒ぐ事は予想されていた事だ。

 問題は、その先。孤児院の子供達が、そんな生徒達に興味を持ったのである。

 そして生徒達の中には何かと面倒見のいい者がおり、気付けば世話のサポートをしてくれていた。

 学園見学に生徒目線が加わり、双方の交流が深まっていく。そんな最中だ。ラストラーダが『ヒーロー部』なる部活の──しかも降魔術科の生徒と出会ってしまったのは。

 そこから先は、言わずもがな。意気投合して盛り上がり、ヒーロー演出っぽい降魔術の使い方なんてものまで伝授し始めたものだから、さあ大変。

 その時の話が人づてに広まり、『アルカイト学園で九賢者から直接教えて貰えた』となった後『アルカイト学園で九賢者が特別講義を開いている』という形で大陸中に拡散されていった。


(なぜ外部も受け入れるなんて尾ひれが付いたのかは不明じゃが、これ幸いと客寄せに使うのじゃから、あやつらも大変じゃな)


 九賢者帰還による好景気。この波を逃す手はないと、色々な政策を実施しているソロモン。

 発端は意図したものではなかったが、この件をきっかけに加速する術士の集客を彼が放っておくはずもない。

 つまり特別授業は、噂を基にソロモンが実際に実現させた政策の一つというわけだ。

 術士の国に術士が集まる。特に術士用のあれこれが豊富に揃っている事もあり、これがまた飛ぶように売れていく。

 ソロモンが言うに、今は生産ラインを増設して、この特需を大いに利用しているようだ。


「ただ、人数が多い事もあって、競争率も凄いみたいですね──」


 景気がいいのは素晴らしい事だ。しかし、三十年の沈黙を経て遂にともあってか、九賢者効果は相当にとんでもないとセロは言う。

 それもあってか、特別授業に参加するためにはかなりの倍率を突破する必要があるらしい。

 セロのギルドメンバーも、まだ数人程度しか参加出来ていないそうだ。

 それでいて、その数人が『今まで学んできた中で、一番有意義な時間だった』と絶賛するものだから、ギルド内でも我先にという競争が起き始めているという。

 今はこれをまとめるのが最も困難なミッションだと、セロはぼやきながら締め括った。


「ほぅ、そんなにか……」


 ミラが話で聞いていたのは、盛り上がっているという状況のみ。まさか講義を受ける側がそのような事になっているとはと、詳細を知り驚く。

 ただ同時に、閃いた事もあった。


「ところで、その中に召喚術士はおるか? そっちならば、わしでも教えられるぞ!」


 術士が集まっているというのなら、きっと召喚術士だっているはずだ。ダンブルフの特別講義がなくても、フローネがいる。

 ならば召喚術士でも無形術を目当てに集まっているかもしれない。今は、未来の優秀な召喚術士を育てるチャンスであると、ミラはそう考えたわけだ。


「そうしていただけたら、とてもありがたいのですが……本当によろしいのですか?」


 ミラの言葉に一瞬喜びを露わにしたセロであったが、次にはその顔に僅かな遠慮が見て取れた。

 なぜなら彼は、ミラの正体を知っているからだ。

 以前にもギルドハウスにて教師役として授業を行った事があったが、今は状況が違う。つまり、こんなに競争率の高い九賢者の特別講義を、こんな軽いやりとりだけで受けさせてもらっていいものなのかと、彼はそう思ったわけである。


「構わぬ、構わぬ。そもそも今のわしの立場で出来る事といえば、このくらいのものじゃからな」


 九賢者という絶対的な肩書がなければ、特別講義でこれだけの人は集められない。ゆえに今は、間口を広げず出来る限りの範囲で出来る事をするだけだ。

 そうしていつか、召喚術士がナンバーワンに。そんな未来を目論みながら、ミラは着実に教え子を増やしていくのだった。





「さて、そろそろ終わっておるじゃろう」


 ギルドハウスの一室にて開かれた、特別召喚術講座。三人しかいなかったものの、エカルラートカリヨンの召喚術士には成長の兆しが見えた。それをしかと確認した後、ミラは王城に向けて大通りを進む。

 じっくり二時間ほど教えていた事もあってか、外はすっかりと日も沈んでいた。流石にこれだけ時間が経てば、三神将の葬儀云々といえど会議も終わっている頃だろう。


「しかしまあ、術士や観光客もそうじゃが、聖職者らしき者達の姿もやけに多いのぅ。……やはりこれは精霊王殿の影響じゃろうか」


 大通りを見回せば、そこには存分に景気の良さが反映されているとわかる光景ばかりが目に付く。だがそんな中で、ところどころに聖職者の団体が交じっていたりもした。

 その目的は、フローネの天空城。つまり、『祝福の街(シン・ベネディクス)』であろう。あの精霊王が関係するその街を見学したいと、ソロモンの元に教会から問い合わせが殺到しているそうだ。

 けれど知っての通り、あの場所には色々と問題が残っているため、今はまだ立ち入り禁止になっている。だが教会関係者からしたら、居ても立っても居られないようだ。こうして、せめて空を飛ぶその姿を一目見ようと、アルカイト王国に集まってきている次第である。


(早めに退散するとしようか)


 精霊女王として、かなり知名度も上がってきたミラ。だからこそもあってか、そんな業界関係者からの注目度もうなぎ上りだ。

 どことなく気付かれ始めていると察したミラは、見つかると色々大変そうだと判断し、王城に急いだ。










三年ほど前に遊んでいたゲームですが、新しく出たDLCが出た事に加えウィンターセールで割引になっていたので久しぶりに起動しました。


最初からやりなおしてみたところ、なんか色々変わっていてびっくり!

前回のプレイ時間は120時間ほど。もう十分なほど遊んでいたのですが、

新鮮な気持ちもあってか、やりなおしてから80時間を超えました!!


次に遊びたいゲームが出るまでに落ち着くのかどうか……!


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― 新着の感想 ―
[一言] 九賢者の特別講義・・・?奴らに授業なんてできるのかって思ったけど、そういや一応研究者だったわ。 いやでもメイリンは人に教えたりできんのか?
[一言] 147でミラは自身がダンブルフであるとセロに伝えているので、ミラの正体に気づいているとの表現はおかしいように感じますね
[一言] ああいうセールのたびに、どんどん積みゲーが増えていくのです・・・でも積んでしまう!
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