489 逃避行
四百八十九
「で、それからどうなったの?」
「ほら次捲って、次」
海賊『ヴェイパーホロウ』の船長は、『グースバルト』という国の公爵家の次男、ヴェイグであった。
そんな歴史的真実が発覚し驚きに包まれたのも束の間。だからこそ続きが気になるというのが人の性というものか。マイカとアントワネットが、早く早くと催促する。
ここまででも十分に濃密な出来事が書かれていたが、それでも日誌はまだまだ半ばほど。この先は海賊となったヴェイグ達の物語が描かれているに違いないと、ミラ達もまた注目した。
そして皆の希望通り、読み進めれば読み進めるほど、そこにはヴェイグ達の更なる活躍が記されていた。
元から優秀だったのか、それとも荒波に揉まれて成長したのか。またはそのどちらもか。ヴェイグ達は、もうそこらの刺客や賞金稼ぎなどが敵うような存在ではなくなっていた。
ゆえにヴェイグ達を狙う者らは、全て返り討ち。その活躍ぶりで、ヴェイパーホロウの名はあっという間に広まっていった。
しかも彼らは海賊などと名乗りつつも、商船を襲ったりというそこらの海賊が当たり前のように行っている略奪行為をしていなかった。なぜなら返り討ちにした賞金稼ぎ達の身代金や、最近目立って生意気だと襲ってくる同業者連中の懸賞金などで財政が潤沢であったからだ。
まさに海賊成り上がりストーリーである。
しかし、そんな順調なまま進むほど甘い世の中ではない。海賊として目立ち過ぎた事と、正義の海賊だなどという世間の声が出始めた事で余計な力を持ってしまったのが原因か。
遂に『グースバルト』を筆頭とした専門の連合国討伐隊が結成されてしまったのだ。
「ほんと、サイテーな奴」
「まったくじゃな」
悪名だけだったならば、やりようはある。大罪人の逃亡者のままだったなら、その発言力は恐れるものではなかったはずだ。しかし正義の海賊などという不可解な存在として、ヴェイグ達は民衆の支持を集め始めた。
それが広がっていけば、やがて民衆が味方に付き無視出来ないほどの発言力を得る事になる。だからこそ、そうなる前にと兄が軍に働きかけたのだろうと、日誌にはその時のヴェイグの考えが記されていた。
アノーテとミラもまた、きっとそうだと同意して兄の卑怯さを批判する。
とはいえ、卑怯で狡猾な兄の手腕は確かなものであった。その連合国討伐隊は、まさに軍の精鋭揃い。流石のヴェイパーホロウでも、これは相手が悪過ぎた。戦闘になれば間違いなく全滅してしまう練度と規模だ。
ゆえにヴェイグ達は、国の力が届かないくらい遠い地にまで逃げると決める。名誉やプライドといったもろもろを全て捨て去って、家族を守るという一点を何よりも重んじたのだ。
「これは難しい判断だったと思う」
「家族を思うと、これしかなかったのかも」
どちらが正解だったのか。マノンとユズハは深々と考える。
その時点でも、それなりに民衆の支持を得ていたヴェイグ達。また味方も増えていた。ならば兄の悪事を暴いて役職から引きずり下ろし、国を正すために動けたのではないか。そこには、そのような選択肢もあったはずだ。
国のため、正義のため。そして国民のためにも、国の役職に居座る悪を見過ごすわけにはいかないと。
きっとこれが英雄物語であったならば、戦っていた場面だろう。けれどヴェイグは国も復讐も正義も、その全てを捨てて家族を選んだ。
しかしここに、そんなヴェイグの決断を臆病者と罵る者はいなかった。むしろそれは英断であると、誰もが家族を憂う彼の気持ちを支持していた。
ヴェイグの日誌は、更に続いていく。ただそこから先は、これまでと違って騒々しいものではなかった。
ひたすらな逃亡生活であり、長い長い航海の始まりでもあった。
相手は、複数の国からなる連合国討伐隊。しかも指揮を執るグースバルトは大国である。どこに逃げても、だいたい国の息がかかっていた。大陸の反対側にまで回っても、そこに安らぎは存在しなかった。
加えて賞金稼ぎや他の海賊も、今がチャンスだと狙ってくる。
「これは堪ったものではないのぅ」
もはや全てがヴェイパーホロウの敵にでもなったかのようだ。日誌からは、表に出すまいとするヴェイグの焦りが感じられた。
そんな中、追いつめられた彼らは一つの決断を下す。それは大陸全土に国の影響が及ぶのならば、その大陸から遠く離れてしまおうというものだ。
海賊達の間で囁かれていた噂話に、このようなものがあるそうだ。大海を越えた先に別の大陸があったと。
噂だけで確証はない。行った者も帰った者もいない。だがヴェイグ達は、そこに楽園があると、家族と、そして仲間達と共に暮らせる平穏があると信じて大海原へと旅立った。
こうして逃亡の航海から、その先に何があるのかもわからない大冒険が始まったのだ。
全ての財産を長い航海に必要な物資に換えて船に積み込み、水平線の彼方を目指す。
その際、何やら彼らの船の置物となっていた失敗作の実験機関が役に立ったと書かれていた。何でも海水を沸かして水を蒸留するのに丁度よかったそうなのだ。
長い船旅において真水を確保する手段があるのは、相当な強みといえるだろう。だからこそ日誌に、そこまでの悲壮感はなかった。『先に備蓄の尽きた連合国討伐隊が諦めて帰っていった、ざまあみろ』など、ヴェイグの嬉々とした様子が伝わってくる。
と、そのように読み進めていたところでマノンとマイカが、そこに出てきた実験機関について興味を持ったようだ。
「うーん、これって結局どういう実験のものだったんだろう。やっぱり気になるなぁ」
「全員分の水を賄えたって事は、相当な大きさだよね。沢山の海水を効率良く沸かす……それこそボイラーみたいな……?」
「船にボイラーって……もしかして蒸気機関の実験船だったって事? それはないんじゃあないかなぁ。だって三百年前だし」
「あー、そういえば三百年前だったっけ。うちで鉄道とか走らせるまで、蒸気機関とかなかったし違うかー」
ヴェイグ達の船は、失敗作の実験船だ。日誌には詳しく書いていないが、ヒントになりそうな箇所を見つけてはマノンが考察する。
その予想の一つとして挙がったのが、蒸気機関だ。けれど三百年も前に実験されていたとしたら、もうプレイヤー達が持ち込む前に完成していた事だろう。そうなれば今よりずっと産業は発展していたはずだ。
「この様子からするとヴェイパーホロウは遠い大陸から、ここに来たという感じじゃろう? もしかしたらそれは、海の外じゃったりするのではないか? そうじゃとしたら、もしや今頃ヴェイグ達の国は、わしらのとことは違った文明が発展しておるやもしれぬぞ」
あれこれ言葉を交わすマノンとマイカに、ミラはそんな言葉を投げかけた。
それは昨日聞いた話だ。外海を目指した先にあった煌めく霧の壁と、その先にある世界について。
もしかしたら霧を越えた向こうでは、もう三百年前に蒸気機関の理論が存在していたのではないか。と、ミラはそんな可能性を示唆してみせた。
「その可能性はなくもないけど……」
「あの霧がある以上は、どうしてもねぇ」
けれどマノンとマイカの反応は薄い。なぜならば煌めく霧の壁という問題が大きく立ちはだかっているからだ。日之本委員会の技術力でも、これを越えるような手段はないというのが大きな要因との事である。
「でも確かに、ないとは言い切れないかもですよ──」
そうミラの思い付きに賛同したのは、ユズハだった。
煌めく霧の壁がある限り、ヴェイグ達が外海を渡ってきたとするのは難しい。
ただそこでユズハは、もう一つの可能性を提示した。それは『そもそも煌めく霧の壁が当時もあったのかどうか』というものだ。
現時点において日之本委員会が観測出来ているのは、ここ三十年分のみだ。そして、その三十年の始まりは、この世界で大きな変化が生じた瞬間でもある。
ミラ達のみならず、全ての元プレイヤー達にとって共通する事。ゲームが現実になったという、とんでもない変化だ。
「色々と話に聞いたりとかしてますよね。ゲームだった頃と今とで変わったところがあると。知らないダンジョンが見つかったり、新しい階層が増えていたり、進入不可だった場所に入れるようになっていたり。あの日を境にして、色々変わりました。外海についてもそう考えられませんか? ゲーム時代に外を目指したプレイヤーがいたそうですが、数キロ程度進んだところでシステムの仕様により強制的に戻されたらしいです。だから、あの頃から霧があったのかどうかは誰も知りません」
そこまで前情報を並べたユズハは、だからこそ十分にあり得ると続けた。現実になる前は、外海への道を阻む霧など存在していなかったのではないか。そしてこのヴェイパーホロウという海賊達は、遠く海を越えた先にある大陸からやってきたのかもしれないと。
「これはいよいよ、話が大きくなってきたね」
興奮気味に身を乗り出したのはアノーテだ。
こことは違う、ずっと遠くの大陸。そこに、この三百年前の日誌から読み解けるような文明があったとしたら、今はどれほどの発展を遂げているのか。相当に関心があるようだ。
そしてそれは、ミラもまた同様だった。
(海の向こうの世界か……いったいどんな感じなのじゃろうな! ……しかし、もしもこの予想が本当じゃったとしたら、なぜわしは『グースバルト』という国名に聞き覚えがあるなどと感じたのじゃろうか)
外海にある大陸。そこに思いを馳せながら、ミラは不意に浮かんだ疑問に困惑した。別大陸の国の名を、どこで聞き及んだのだろうかと。
もしや、アルカイト学園の地下に広がる巨大な資料庫か。はたまた、アリスファリウスにある大書庫か。
ダンジョンなどで見かけた石板かもしれない。高台にぽつんとあった石碑かもしれない。
はては吟遊詩人の歌であったり、歴史ある街に伝わる伝承であったりしたようにも思える。
そのように、あれやこれやと思い出そうとするミラであったが、結局はこれという心当たりに辿り着く事は出来なかった。
なお、この壮大な歴史について、精霊王とマーテルもまた盛り上がっている様子だ。
これまで気にする事もなく、それどころかその存在についてすら一切考える事のなかった海の向こうの世界。
その存在を知り考えるようになった今、外から来た可能性のあるこのヴェイグ達に興味津々のようだ。
外海との行き来を阻む、煌めく霧。これほどのものを展開出来るのは神くらいのもの。昨日そのように話していた精霊王は、好奇心満々にこう言った。全力で協力するので、今度話を聞きに行ってみようではないか、と。
つまり、三神と交信が出来る三神国の中枢に行こうというのだ。そしてそのために精霊王の威光を存分に発揮しようと、大人げないほどのやる気を見せる。
『そ、そうじゃな。機会が来たら、そうするとしよう』
ヴェイグ達は、本当に外の大陸から渡ってきた者達なのか。煌めく霧について当時の状況を知る事が出来れば、その可能性はぐんと高くなる。
もしも外の大陸から渡って来たとしたら、その外の大陸にはどのような文明が築かれているのだろうか。どのような国があって、どのような生活が送られているのか。
こことは違った技術が発展しているかもしれない。見た事もないような光景が広がっているかもしれない。
実にロマン溢れる可能性だ。
しかしミラは、そんなやる気の精霊王の言葉に少しばかり躊躇いを浮かべた。
詳しく知っているからだ。三神と交信が出来る場所というのは、つまり三神将のみが立ち入る事を許されている極めて神聖な場所であるという事を。
そんな国家的に重要で宗教的にも最も大切な聖域に精霊王の威光を振りかざして入ろうものなら、周りからどのように思われるだろうか。好奇心溢れるミラとて、そこまでの大事となれば流石に二の足を踏むというものだった。
きっと三神ならば詳しい事を知っているはず。けれど邂逅するには、もう少し穏便な流れの方がいい。そう願うミラであった。
プチっと鍋に豆乳ごま味。先月くらいから、また店に並び始めましたね!
ただ最近、実はちょっと鍋はご無沙汰しております。
代わりに、肉野菜炒めが過熱しているのです!!
それというのも……
これまた最近、酢が何かと話題じゃないですか。
という事で、自分も買ってみたんです。りんご酢というものを。
何やら水に薄めて飲むのがいいらしいと、テレビでもやっていました。
そして美味しそうに飲んでおりました。
試してみました。
こんなん飲めるか!!!!!!
って、なりました。
あれなんですかね。きっと多分、テレビで見たのは飲む用に調整したやつとかだったんでしょうね。
ちなみに自分が買ってきたのは、
mizkanの純リンゴ酢 というやつです。
リンゴ酢ドリンクにはハチミツを入れるというので入れましたが、
味よりも、やはりあの酢独特のツンとする感じがもうダメでしたね。
で、残ったこのリンゴ酢どうしよう……となったわけです。
そして考えた末に、原点回帰!
そもそも酢は飲み物じゃない。調味料だ。
というわけで、
それじゃあ野菜炒めにして、そこにリンゴ酢を入れよう。となったわけです。
加熱すると、あの独特なツンとする感じがなくなりました!
そして何となく、プロっぽい味わいに!!!
酢で健康的な食卓を。
リンゴ酢がなくなったら、黒酢も試してみようかな……。




