468 トーキョー
四百六十八
「いやはや、絶品じゃったな!」
農業植物総合研究開発部を後にしたミラは、次の見学先を目指しながら今一度、松茸の味を思い返していた。
炭火で丸焼きにした、最高級の松茸。そこに男が秘蔵していた特選醤油を垂らせば、もうそれだけで極上の一品となった。
新鮮な歯ごたえと、口に入れた瞬間から広がる香り。それはもはや、今まで食べた松茸を思い出の彼方に吹き飛ばしてしまうほどの爆発力があった。
以前はどこか、それなりにいい宿で食べた気がするが、これほどではなかった。当時の松茸も相当であったはずだが、そんな気持ちになってしまうほど衝撃的だったのだ。
(しかも、土産までもらってしもうた。今度、マリアナに調理してもらおうかのぅ!)
帰り際に土産として受け取った三本の極上松茸。炭火の丸焼きは最高だが、マリアナならば、これをどのように調理するだろうか。
新たな楽しみが増えたぞと心躍らせながら、ミラは廊下を進んでいった。
「これまた……何というか先ほどとは打って変わってといった感じじゃのぅ……」
そうして到着したのは、『建築技術総合研究開発部』という場所だった。その名の通り、現代で使われていた建築のあれこれを再現するための研究が行われているところである。
室長のウィトルと挨拶を交わし安全のための見学コースの説明を受けたら、そのまま現場入りだ。
建築関係だけあってか、ここの建築実験場もまた農業に負けず劣らずに広大であった。
そして何よりも、研究内容が内容だけあって、その景観もまた圧倒的といえる。なんと現代で大いに賑わっていた電子都市が、その空間に広がっていたのだ。
巨大なビル、整然と延びる道と陸橋、そして立派な駅とホテルに色とりどりな店の数々。
それこそ、突然現代の日本に戻ってきたかのような錯覚を覚えてしまうほどの光景が、そこにあった。
「──と、こんな感じでね。何をするにも目的があった方がいいって事になって、この街を再現しようって決めたのが始まりなんだ」
案内と同時に説明もしてくれるウィトル。
彼が言うに、現代の建築技術を再現するにあたっての指標として実際の街を目指したのだそうだ。
その方がイメージし易い事に加え、どのような技術が必要なのかが掴みやすかったからだという。
そうした目標の元で研究し続けた結果が、この研究所の街であるわけだ。
「いやはや、どれほどの努力と時間をかけたのか、見当もつかぬ。……しかし、そう言われると余計に向こうが気になってくるのじゃが──」
言葉通りの見事な再現度である。ただそれだけに、ミラは一本の道路を一つ越えた先にあるそれが気になって仕方がなかった。
というのも、見覚えのある都市に隣接するようにして、明らかに異質な都市がそこに広がっていたからだ。
基礎に、現代の建築技術が流用されているのは間違いない。けれど、その景観は大きく異なる。現代的、そして洗練された未来感はどこへやら。急に時代が戻ってしまったような。それでいて、別にあったかもしれない未来を見せつけるかのようにして確かな存在感を放つ街。
「気になったのなら答えよう。そう、これこそが私の心の都! サイバーパンクシティ・メイジトーキョーさ!」
ウィトルは静かにミラの前に立つなり、そう答えながらご覧あれと両手を振りかざしてみせた。
サイバーパンク。そう言った彼の背に広がる街は、ケバケバしいネオン輝く、ダーティシティであった。
暗い路地裏からはクライムの香りが漂い、そこらじゅうの壁には前衛的なアートが敷き詰められている。
無秩序に積み上げられたような建造物は実験場の天井にまで届いており、そこにある照明の光を著しく遮っていた。そのためか町全体は暗く、だからこそギラギラしたネオンの光が余計に目立つ。
そんな落ち着かない街並みの色と、治安の悪さがにじみ出るような雰囲気に包まれた街、メイジトーキョー。しかしそれでいて、なぜか心惹かれてしまうロマンが確実に存在した。
その一つは間違いなく、その名にある『メイジ』の部分だろう。魔法使いを意味するメイジではなく、元号の明治である。
わざわざ『メイジ』などと付けただけあって、その街並みは古い日本──つまりは明治頃を基盤としていた。それでいて古さはまったく感じられず、むしろ未来感の方が強く感じられるのだから、とんでもない。
メイジトーキョー。そこは正しく、サイバーパンクの名を冠するに相応しい街といえた。
「これまた、面白そうなものを──」
きっと簡単に犯罪に巻き込まれて無残に死んでしまうから、住みたいとは思えないサイバーパンクな世界。だが不思議と心を掴んで離さないその世界観には、ミラもまた憧れを抱いていた。
これは是非とも見て回りたい。と、そう思ったミラだったが、ふとウィトルの顔を見て言葉を飲み込む。
メイジトーキョーについて語るウィトルの様子は、それこそ渾身の自信作を発表するかのようであった。けれど、少しばかり表情が怪しい。どうにも彼の目に、塔の研究者と同じような色が滲んでいるように感じられる。
「折角だから見ていくかい? もう細部までこだわって造ったからね。凄いよ? かなり凄いよ?」
態度は控えめに。それでいてその口は、もう少女をホテルに誘う欲情中の男と同じように、よく回った。
「……いや、今日は他にも見たいところがあるのでな。やめておくとしよう」
ウィトルの顔を見ればわかる。これは一度捕まったら、案内しながら全てを詳細に説明しなければ済まないというタイプのアレだ。
ここで見学すると答えたら、もれなくウィトルの徹底的な解説がついてくる事になるのは間違いないだろう。
ゆえにミラは、辞退した。本当はメイジトーキョーを存分に探索したかったが、するならば自由気ままな方がいいというものだ。流石に今のウィトルと一緒に行くのは遠慮したいと、心の底から思うミラであった。
「研究者というのは、なぜあんなに語りたがりなのじゃろうな」
自分の事は棚に上げて廊下を進むミラ。
建築技術総合研究開発部には室長の趣味以外にも、しっかりとした開発区が存在していた。
魔導工学を応用した、機械都市構想などがそれだ。
正にファンタジー。究極の魔導都市。そんな幻想きらめく見事な建築も、ここでは実現に向けて研究されていた。
なお、そちらもウィトルがうるさそうであったため、ミラは後ほどゆっくりと一人で見学する予定だ。
そうして人工物で埋め尽くされた都市を後にした次にミラが向かった先は、港の近くだった。
「うむ、潮の香りが心地よいのぅ!」
そこにあるのは、『海洋技術総合研究開発部』。海の生態関係をメインとしているようだが、他にも各開発部と協力して地層の分析や造船、海底と海上施設の建設までと幅広く、それこそそれぞれの開発部を総合したような研究が行われているそうだ。
「──さーて、こちらが養殖場でござーい」
ここの室長のシルヴィア。色々な研究が行われている中でも、ここが一番だと言って彼女が案内してくれたのは、海底深くにまで続く養殖場であった。
縦に深く伸びる穴の壁の半分は、まさかのガラス張りであり、海の様子がよく見えるようになっていた。
そして見える範囲全てに、ここで養殖されているという魚だなんだといった海産物が存在している。
「見ての通り、ここでは自然に近い環境で養殖しているの。ちょくちょく養殖よりも天然の方がとかいう輩がいるけど、そんな事はナッシング! むしろ美味しくする事を追求して、しっかりと設備を整えるんだから、養殖の味が劣るなんてあり得ないから!」
既に何度もそういった意見を聞いてきたのだろう。まだ何も言ってはいないが、シルヴィアはけん制するかのように利点を挙げては、今は何を養殖しているのかについて説明し始めた。
「これまた、壮観じゃのぅ……」
大きく、そして深くまで続くガラス板。すぐに割れてしまいそうで怖くなってしまう光景でもあったが、流石は日之本委員会の研究所。そのガラスは物理的な構造のみならず、術的にも何重に強化しているため、クジラが突撃してきたり、海獣に噛みつかれたりしようとも割れないくらいに硬いそうだ。
なお「まあ、ガラスは大丈夫でも、建物の方が耐えられるかは不明だけどね」とは、シルヴィアの言葉である。
そんな最高硬度を誇るガラス張り窓から望む養殖場は、ここが研究所だと忘れてしまいそうになるほど幻想的であった。それこそ未来の水中水族館といった趣きだ。
「おお、これはよく脂が乗っていて美味いのぅ!」
幾らか試食してもいいという事で、ミラは王道中の王道を口にしていた。
それは、マグロだ。海中を眺めながら食べるキングツナの刺身は、もう言葉に出来ないほどの絶品であった。
赤身にトロに大トロと、刺身を食べるのは久しぶりだとして十分に味わうミラ。
「……ん? ……んん!?」
と、そうして久しぶりの味覚を堪能していたところだ。思わぬ存在がガラスの向こう側にいて目を見開いた。
養殖されている魚達の中に、なんと水精霊の姿が見えたのだ。
「のぅ……気のせいでなければ、あの中に水精霊がいるような気がするのじゃが……?」
養殖槽に水精霊。それはいったいどういう事だろうかとシルヴィアを見やる。
もしや、水精霊も。場所が場所だけに、そんな事をしでかしていてもおかしくはない。などという考えが脳裏を過ったが、その真相はなんて事のないものであった。
「ああ、メルティーネだね。見ての通り、ここにある養殖場は広大だから管理も大変なんだ。で、どうすればもっと効率よく回せるかって考えていたところで出会ったのが彼女なの。で、彼女が暮らす海域の保全や魔獣の討伐なんかを請け負う代わりに、こうして時折手伝ってもらっているってわけ」
そのように話したシルヴィアは、実に多くの面で助かっていると嬉しそうに語り始めた。
そして何となくではあるが、それらの内容からシルヴィアとメルティーネは、もう話にあるような利害などを超えているようだと感じ取れた。
二人は、きっと親友同士の仲であるのだろう。ところどころで挟まる自慢だとか愚痴だとかいった言葉は、心を許し合っているからこそ出てくるものだ。
『このような最先端の施設で働いているとは、あのぐうたら娘が立派になったものだ』
『ええ、そうね。こんなに成長しているなんてびっくりだわ。きっとそこのシルヴィアちゃんのお陰ね』
話を聞いている中で、なぜか異様に喜ぶ精霊王達の声が聞こえてきた。
こっそりわけを尋ねてみたところ、何ともいえないメルティーネの過去が明らかとなる。
いわく、昔のメルティーネは、どうしようもないほどのサボり魔だったそうだ。
精霊としての役目である自然環境のマナバランス維持は、他の仲間に任せきり。それどころか海底の住処に引きこもったまま、滅多に外へは出てこないときたものだ。
いうなれば、引きこもりの精霊版である。しかも精霊王とマーテルまでもが知っているあたりからして、年季の入った札付きの引きこもりだとわかる。
そんなメルティーネが住処から出るだけでなく、こうして人と協力し合っているなんてと感動する精霊王とマーテル。その様子は、それこそ立派に独り立ちした我が子の成長を喜ぶ親のようであった。
最近、色々と聞くようになったあの食材を試し始めました。
それは、
オートミールです!!
なんとなく、アメリカの朝の定番的なイメージのあったアレです。
そして何やら、栄養があって健康にいいらしいという話。
けれど味については、とりあえずそのまま食べるのは絶対にやめておいた方がいいやつです。
ただ問題なのは、そのままだった場合。こちら、調理法や味付けで相当に化ける様子。
という事で、色々と試しながら食べております。
単純に、ほんだしを使ってみたり、割り下を入れてみたり、納豆と一緒に食べてみたり。
まあ……まずくはないけど、という感じでしたかね。
ネットなどでも色々と調べたりしました。
何やら、フリーズドライのスープなんかと相性がいいようで。
そちらも試しましたが、確かにこれまでよりずっと美味しい側に寄りましたね!
他にも粉状にしてから野菜卵などと混ぜて、チヂミモドキなんかも作ってみました。
……モチモチ感のないチヂミ……?
こちらは、タレなどで化けそうな感じはしました。
他にもプチっと鍋を使ったり、カレールーを入れてみたりして絶賛実験中です。
最高に美味しい組み合わせは、いったいどれか……。是非とも見つけ出したいと思います!




