467 山の幸
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四百六十七
ちょっとしたトラブルがありつつも、ビークル総合研究開発部の見学は進んでいく。
基本的なものから創作意欲に溢れるものまで、この世界に不可能などないとでもいった勢いで研究されている乗り物の数々。
中には、ただ宙に浮かぶだけの装置なんてものまであった。三百キログラムまでの重さならば、最大で五メートルまで浮かべられるそうだ。
荷物運びや高所作業の補助などでの活躍を想定しているとの事である。
「ところで、あのバイクみたいなものも、いずれは販売するのじゃろうか?」
広大な実験場にて、多くの研究者達が使っている乗り物。見た目と乗り方は、バイクに近い。だが、大きな違いが一つだけあった。
それは、空を走り回っているという点だ。しかもそこかしこにある試作機とは違い、これといったトラブルを起こさず安定した動作を続けている。
その様子からして、バイクは試作品ではなく既に完成品と見て間違いない。
空を飛ぶ事についてはペガサスやガルーダなどがいるものの、それとこれとは話が別だ。
バイクに跨って空を飛び回るなんて事は、現代でも安全だ交通規制だといった面で制限だらけの状態。しかし、この世界ならば自由自在に飛んでいける事だろう。
なんて夢があるのかと、ミラは期待を胸に抱く。
「いや、その予定はないかな」
だがハルアキの答えは、ミラの期待通りではなかった。
彼が言うに、ここにある空飛ぶバイクは、この広い研究所内を移動するためだけに開発したものでメンテナンスも複雑であるため、今のところこれを流通させるつもりはないとの事だった。
「むぅ、残念じゃのぅ……」
どうやらバイクで海を見に行こうなどといった感覚で乗り回す事は出来ないようだ。
また独自にカスタマイズして、友人らと自慢し合うといった事も出来ないようだ。
マリアナを後ろに乗せて、あちこち飛んでいけたら楽しそうだなと考えていたミラは、それを聞いてがっくりと肩を落としたのだった。
「またいつでも来てくれていいから。今度は試乗出来るものもいっぱい用意しておくからさ!」
「おお、そうか。ではその時を楽しみにしておくとしよう」
ビークル総合研究開発部を一通り見終わったミラは、ハルアキとそのように別れの挨拶を交わしてその場を後にした。
その少し前にて、「なんだったら、俺も見学に付き合うよ」なんて言い出していたハルアキ。
この現代技術研究所は、極めて広大な敷地面積を誇る。ゆえに空飛ぶバイクの操縦役として付いていくなどと申し出たわけだ。
しかしながら、彼はこの開発部の責任者だ。ただの見学に付き合わせては悪いという事で断った次第である。
「さて、次はあっちじゃな」
乗り物だけでも見どころ満載だった現代技術研究所。他の場所には、どんな驚きが待ち構えているのだろうか。
それはもう楽しみだと期待を込めて、ミラは最寄りの開発部に狙いをつけて歩き出した。
「──見学者がいるって聞いたけど、君か。可愛いね!」
「──ああ、近頃噂になっている精霊女王か。ところで精霊王ってどんな感じなのか調べても──」
道中、すれ違う研究員と二言三言交わしながら進んでいけば、目的の場所が目に入る。
続きミラが訪れたのは、『農業植物総合研究開発部』という場所だった。
入ってすぐが研究室。そして、その奥には大きな植物育成プラントが広がっているようだ。
「ああ、見学かい? いいよいいよ、好きに見てって」
ここの開発室長のミナカタは、ハルアキと違って放任主義であった。
室長室にて幾つかの注意事項を伝え終えたら、後は好きなように見て回ってくれていいと言って研究に戻っていった。
ともあれ、それはそれで自由に自分のペースで見て回れるというものだ。
(ふむ、農業か。……あのマーテルがどのような反応を示すかのぅ)
植物の始祖精霊であるマーテル。現代技術をふんだんに活用した農業を見て、彼女はどう思うだろうか。そんな楽しみを思い浮かべながら植物育成プラントに足を踏み入れていく。
「……いやはや、まさかここもとんでもない事になっておるのぅ」
農業の研究という事で、きっちり区画整理された畑や試験管入りの苗、棚に敷き詰められたケースで栽培される野菜などを想像していたミラ。
しかし扉を抜けた先に広がっていたのは、郷愁すら感じられる田舎の風景そのものであった。
いったい、何をどうしてどのようにすれば、そうなるのか。
透き通るような青い空の下には田畑が広がり、川が流れ、虫や鳥の声なども響いていた。
しかも既に季節は冬であるはずが、この場所は夏のように暑かった。鼻先に届く空気もまた青々とした夏の匂いがするほどだ。
「徹底した再現度じゃな」
暑いとあって上着を脱いで薄着になったミラは、懐かしさに誘われるようにして畦道を進み始めた。
青く茂った山に囲まれたこの場所は、誰もが思い浮かべる夏の田舎というのを完全に再現した箱庭のような温室だった。
田んぼや畑のみならず、そこには木造の民家までもがきっちりと造られている。
それでいて、ここは研究所内だ。ところどころで見かけるのは村人ではなく研究員。ごちゃごちゃとした機材を手にして、畑や野山に分け入っていく。
この暑い中でご苦労な事だが、ふと見ればそうでもない者もいた。
「……あれもまた、再現の一環なのかのぅ」
古民家のような造りの家。その軒下にて将棋盤を挟む男が二人。
傍らには、古いデザインの扇風機。そして麦茶でも入っているのだろう容器とコップ。
首を振る扇風機の風に合わせて、軒に吊るされた風鈴がチリンチリンと心地よい音を響かせるその光景は、知らないのに知っているような気になる夏の田舎だった。
はたして彼らもまた研究員なのだろうか。さぼっているのか休憩中なのか、それともこの世界観を構築するために配置された役者なのか。
どことなく奇妙な夏の一面も感じ取ったミラは、それ以上は踏み込まずに立ち去った。
『やっぱり凄いわ! もうほとんど別の子ね!』
古民家の奥に広がる菜園。そこで育てられている野菜や果物などを見て回っていたところで、いよいよマーテルの声が響いた。
一見すると、ただの夏の田舎だが、そこはやはり研究所だ。ここにある植物は、マーテルが生み出したものから大きく変化しているとの事だった。
つまりはマーテルの原種を元に、品種改良が進んでいるというわけだ。もはやマーテルですら初めましてな種が、ここには幾つもあるらしい。
人の手によって、より美味しく、そして逞しく成長していく植物達を見る事は、マーテルにとって喜ばしい事のようだ。よくぞここまで育ててくれたものだと嬉しそうであった。
「……この森、何を目的にしているのかが何となくわかる気がするのぅ」
等間隔で植えられた木々の森。果たして現実と同じものなのかわからないが、それら全てが針葉樹だった事もあり、ミラはこれが赤松ではないかと予想する。
そして赤松といえば、松茸だ。
「思えば久しく口にしておらんのぅ……」
どこかに頭を出していないかと期待しつつ、地面を凝視しながら森を練り歩くミラ。
松茸といえば、高級品。現実でもそう簡単にお目にかかれる代物ではなかった。
しかし今ならば、それなりの資金がある。後はものさえあれば、フルコースさえ堪能出来るはずだ。
懐かしい、高級な日本の味。海外ではあまり好まれない匂いらしいが、この世界の人々だとどのように感じるのだろうか。
あれこれと松茸についての思い出を振り返りながら、ミラはあっちこっちと探し回った。
「見当たらん……」
夏の山の森の中。汗だくになりながら松茸を探したものの、ミラは結局一本たりとも見つける事が出来なかった。
もしや、松茸ではなく松の実を収穫するための場所なのか。秋の味覚の王様というくらいだから、まだその時期ではないのか。それとも単に、探し方が下手過ぎたのか。
ここは一つ、ワントソを召喚して匂いで探してみようか。
と、松茸のために色々と考えを巡らしていたところだ。
「お、見慣れない子だな。あれか、さっき連絡が来てた見学者か。っていうか、こんなところでそんな汗だくで、どうしたんだ?」
果たして彼は、農家なのか忍者なのか。山歩きに最適といった恰好をしながら、なぜか木の上からひょいと下りてきて「もしかして迷子か?」と言うなり、そうならば入り口まで送るぞと続けた。
「いや……迷子ではない。ただ、ちょいとな。見たところ松茸でも生えていそうじゃなと思ってのぅ。少しばかり探しておったのじゃが……見当たらずむきになった結果が、この有様じゃ……」
疲れと暑さもあってか誤魔化すのも億劫になっていたミラは、現状を正直に告げた。そして実際のところ、ここでは松茸が栽培されているのかどうかと確認する。
見つけられず、疲れて汗だくになっただけという結果は変わらない。だが、ただ見つけられなかったのか、それとも無いものを探していたのかという差は大きい。
「なるほどなぁ、そうだったのか。となるとちょっとタイミングが悪かったな。俺が全部収穫しちまったところだ」
男は納得したように笑うなり、少しばかりの苦笑を残しながら背負っていた籠をどさりと置いた。
見るとその籠には、赤子の手ほどはあるのではないかというくらいに立派な松茸が沢山入っていた。
「なんと! これは見事なものじゃのぅ!」
それは、全てが食べ頃といってもいい大きさと形であった。これほど立派な松茸は、そうそうお目にかかれるものではないと断言してしまえるほどの出来栄えだ。
「して、この松茸はどうするつもりじゃ!? 当然、食べるのじゃよな? それでどこに行けば食べられる? わしとしては丸ごと炭火焼というのが憧れなのじゃがな!」
収穫したての一番新鮮な状態ともなれば、もう食べるに決まっている。他にも加工だとか、研究所ゆえに研究資料だとかいう選択肢もあるのだが、ミラの頭には食べるの一択しか浮かんでいなかった。
「まあ、そうだな。食堂に持って行って、数日松茸メニューが並ぶって感じになるんだが──」
いわく、既に松茸の行先は決まっているそうだ。食堂の料理部にて新しい料理の食材として使われたり、食堂メニューに松茸を使った定番料理が並んだりするとの事だ。
ただそんな事を話しながらも、男は鋭く目を輝かせて籠を漁るなり数本の松茸を手に取った。
「──まあ、これは役得みたいなもんだけど、最高クラスなやつは食堂に持っていく前に食っちまうのが俺のささやかな楽しみだったりするんだ」
そう言ってにんまりと笑った男の手には、その言葉通りに別格と言っても過言ではないと思えるほどに立派な松茸があった。現代の日本で売られていたとしたら、一本で十万は超えるだろうと予想出来るくらいの代物である。
しかも男は、そんな松茸を見せつけるようにしながら「折角だ、君も共犯になるか?」と続けた。
「なろうではないか!」
即答だった。いいところの店で出てくるような高級松茸を前にしたミラに、それ以外の答えはなかった。
「決まりだ」
楽しげに笑った男は、ではこっちだと告げて山を下り始める。何でも山の麓に作業拠点としている小屋があり、そこにちょろまかした味覚をこっそり味わうための色々を用意しているそうだ。
「しかしまた来る途中にも思ったのじゃが、なにゆえここは、こう……田舎的な造りになっておるのじゃろう?」
山の麓の小屋。男に続くようにして、いかにも山小屋といった趣のあるそこに足を踏み入れながらそんな疑問を口にするミラ。
研究するだけならば、もっと効率のいい形もあるはずだ。また、より現実の環境に近くするためという理由だとしても、建物のデザインから何からまで古き日本の田舎に似せる必要などないというものだ。
「ああ、それは単に室長の趣味さ。もともとが農家で、歴史文化遺産指定を受けるような古い場所で育ったっていう話だったかな。だからか、こういう感じの風景が今でも一番落ち着くんだってさ」
男は七輪だ木炭だといったものを手慣れた様子で準備しながら、この場所についての色々を語ってくれた。
室長が趣味で整えたこの場所は、それでいて研究所内ではかなり好評らしい。懐かしさを感じるからか、休憩のためここに来る者などもいるとの事だ。
(ふむ。先ほど見た、あの二人がそうだったのかもしれんのぅ)
もしかしたら民家の軒下で将棋をしていた二人は、休憩のために来ていたのか。途中でそんな事を思いながらも、ミラは男の説明に耳を傾ける。
その話の中でも特に気になったのは、夏祭りであった。
毎年の夏、この環境を大いに活かして、それはもう盛大な夏祭りを開催しているという。
山間にある神社の前には屋台が並び、夜にはこれでもかというくらいに花火が上がる。
そんな普通の、だがそれでいて無性に心躍る夏祭りだそうだ。
ちなみに神社の造りは日本古来のものだが、祀られているのは三神だったりする。
「古くから伝わる日本の祭りの定番というあれじゃな。確かにここでやったら雰囲気は抜群そうじゃのぅ」
想像するほどに、不思議なまでの郷愁が胸に広がっていくのを感じるミラ。
日本風のお祭りは、つい先日にアルカイト王国でも開催されていた。とはいえ、やはり場所というのが一番大事なのかもしれない。そうミラは歩き回ってきたここの光景を思い出しながら実感する。
「で、こんな環境を整えた室長は何者なのかっていうと──」
彼が言うに、その室長は農家は農家でも、豪農一族の末っ子だったそうだ。
ゆえに学生の頃から農業を専門に学んでおり、専門的な知識も豊富。しかもそれらのノウハウがこの世界でも有用であると判明した事で、この『農業植物総合研究開発部』の室長に招かれたそうだ。
「──でな、ここにいるのは生産方面で楽しんでいた者がほとんどなんだけど、うちの室長はごりっごりの戦闘特化だったんだよ。レイド戦なんかも何度か攻略した事があるってさ」
戦いの日々から、農業の日々に。最初のうちは、ちょくちょく抜け出しては魔物を相手に暴れていたというが、植物育成プラントの環境を今のように整えてからは、すっかり牙も抜けて田舎のお爺ちゃんといった感じらしい。
「人に歴史ありじゃのぅ……」
色々とやんちゃした子が故郷に戻って落ち着いたという、よくある流れである。
と、そうして話している間にも準備は進み、いよいよ焼き始めだ。
「今日は折角の客人だからな。この厳選した中でも一番の松茸は、君にあげようじゃないか」
男は神妙な面持ちで、その一番立派な松茸を手に取ると七輪に置いた。
「おほぅ! これまた立派じゃのぅ!」
大きさもさる事ながら、その瞬間にも芳醇な香りが漂ってくる厳選松茸。中でも特に香りがよいものを男は譲ってくれた。
それから更にもう一本を並べると、長い脚の付いた金網をその上に乗せる。そしてそこにも炭を並べれば、炭火焼オーブンの完成だ。
「あとは焼き上がりまで、じっくり待つだけだ。……マツタケだけにな!」
ミラは、答えなかった。あえて答えずに、火だけを見つめていた。
その反応で悟ったのだろう、男は仕切り直すようにして、結局のところこれが最高に美味しい食べ方だと自信満々に語る。そして、食べ頃を見極めるのは経験が大切だと口にしたまま焼き加減に集中するのだった。
さてさて、コーヒーを嗜むようになってからというもの、今まであまり気にしていなかった部分が目立つようになってきました。
それは、お湯の準備です。
電気ケトルはあるのですが随分と古いものであるためか、初期の頃よりも沸くのが遅い感じに。
しかもその都度沸かすとなると、意外と待ち時間が生まれるんですよね。
最近ですと、コップに水を入れて電子レンジに。なんて方法でお湯にしていたのですが、
こちらも結局、3分ほどかかってしまいます。
そんな紆余曲折を経て辿り着きました。
そう、電気ポットです!!!
水を入れて沸かしてしまえば、もうそのまま保温されていつでもアチチなお湯が使える便利なあれです!
象印の優湯生というやつを買いました!
もう何だかんだで革命が起きましたね。
今ではコーヒーのみならず紅茶や粉末タイプのお茶、更にはフリーズドライのスープなど、バリエーションを増やして楽しんでおります!
他には何が楽しめそうかなぁ。




