438 宣教師ミラ
四百三十八
「──ふむ……まったく身に覚えがないというわけじゃな」
『ない。そんな山は要らない』
ニルヴァーナ皇国から出立したミラは今、ガルーダワゴンで帰国途中だ。
その上空にて言葉を交わす相手は、フローネである。
番号を交換しておいた甲斐があったというもの。ワゴンに備え付けてある通信装置を用いて、ミラはセロから聞いた話についてフローネに確認していた。
アースイーターした中に、『魔界山』と呼ばれる場所はなかったかと。
その答えが、要らないである。
フローネが言うに、これまでに回収してきたものには、そもそも小山などないそうだ。また曰くありげな場所ともなれば初めから除外対象で、更には残り数ヶ所のみとなった予定地も、まったく別の方面で僅かな縁すらない場所だという事だ。
しかもその山があった場所には、これといった名産がないため近寄ってすらいないそうだ。
「ふむ、となれば別に原因があるというわけじゃな……」
フローネの反応からして、本当に誤魔化したり嘘を吐いたりなどではないとわかる。彼女が嘘を吐く時は、もっと言い訳がましく詳細で饒舌だからだ。
つまり、小さな山が突如消失したというのは完全に別件となる。
では何が原因なのかと考えると、やはり『魔界山』などと呼ばれるようになった由来が最も気になるところであろう。
『知らないけど、そういう事でしょ。それに悪魔がどうたらって噂があるなら、やっぱりそっちだと思う。まあ、何かあったら面倒だから調べてみるけど。用事はこれだけでいい? いいよね? じゃあね、じっじ』
どうやら色々と忙しい様子だ。疑いが晴れたとあったら、さっさと通信を切ってしまったフローネ。
とはいえ、不穏な気配は感じたようだ。天空城側のメンバーを動員して調査すると約束してくれた。
エカルラートカリヨンとはまた違った情報網がありそうな、天空城勢。きっと何かしら掴んでくれる事だろう。
また国に戻ってから、皆に相談してみるのもいい。悪魔関連となれば看過は出来ないというものだ。
ガルーダワゴンでの空の旅。アルカイト王国に帰るまでの道中。教会での一件をしかと覚えていたミラは予定通りに大きな街の教会を訪ね、適任者に精霊王との『拝謁』を勧め、これを執り行った。
と言っても、信心深く精霊への想いが強い者を選び出すというのは、そう容易い事でもない。
精霊王との『拝謁』は、あくまでもきっかけに過ぎない。その心が伴ってこそ、精霊家具を見抜けるようになるのだ。
ゆえに聖職者にあるまじき欲の皮が張った者の場合、『拝謁』したところで意味はない。
だが、それを行ったという事実を武器に、何でもないものを、さも本物だとしてしまう事が出来るようになる。
よってミラは精霊王と相談して、幾らかの条件を設定した。
素質のありそうな者にお願いする形で、教会ごとに数人を選出。更には、しかと見抜けるだけの目を得られたかの試験を行った。
それらの結果、選ばれた者達は骨董界隈にて精霊女王のお墨付きと呼ばれるようになるのだが、それはミラの与り知らぬ話である。
「ふぅ……よもやあれほど歓迎されるとはのぅ。とはいえ、これで随分と捗りそうじゃな」
一夜が明けて、折角だからと観光を楽しむミラ。
場所は三神国の一つ、オズシュタインの首都ベリル。大陸西部に存在する中で最大の街だ。
そして三神教のお膝元というのもあって、その教会の規模は他を圧倒するものだった。
街の中にもう一つの街があるかのような造りであり、教会区と呼ばれるそこは、その場自体が聖域とでもいうほどの神聖さに満ちていた。
普段ならば物怖じしていたであろうミラだが、その時は大事な使命のためにそこを訪れた。
するとどうだ。教会の情報網は大陸随一とでもいうべきか。これまでに立ち寄ってきた教会から、既に色々と情報が届いていたようだ。
その順路から考えて、そろそろ来る頃だと思っていたと、それはもう歓迎の準備が整っていたではないか。
結果ミラは教会区を挙げて歓迎され、予定よりも多くの者達との『拝謁』を取り仕切る事になった。
流石は三神国の首都に勤める聖職者とでもいうべきか。『拝謁』した全員が、見事に精霊家具を見抜けるようになった。
そしてその者達は、各地の精霊家具などを救うため、これから大陸中の各街を巡る予定だそうだ。
三神教を挙げての一大プロジェクトである。
なお、その後ミラは聖術士の大本山ともいうべきその場において、素晴らしい精霊の仲間を紹介などという形で大いに召喚術を宣伝していた。
精霊と共に歩んでいける召喚術。これもまた三神教との親和性が高いのではないかと。
「丸一日かかってしもうたが、まあ結果良しじゃな!」
これまでの活躍と、何よりも精霊王という後ろ盾があったからか概ね好意的に受け入れられた。
教会を味方につけたら、もう最強である。
ミラは、今後の召喚術の未来が更に明るくなったぞと、それはもうホクホク顔であった。
それからミラは、存分にベリルの街を見て回った。
どこもかしこも賑やかで、商店街に並ぶ店も数百をゆうに超えるほどだ。もはや一日二日程度では見て回るなど不可能な規模である。
そんな無数の店の中、どこにでもあるといっても過言ではない冒険者用品店、ディノワール商会の店にて新商品などを確認するミラ。
大きな街の一等地だけあって、相当に繁盛している様子だ。店舗の大きさのみならず、修理や保証などさまざまなサービスも充実していた。
(ふむ……もうここまで噂は届いておるのじゃな……)
と、そのように観光と買い物を楽しんでいる中で、ところどころから同じ話題が聞こえてきた。
それは闘技大会の話だ。中でも自国の事であるからか、ヘムドールの活躍の話題が頻繁に挙がっていた。
祖父の威光を笠に着て我がまま放題だった少年期。時が過ぎた今も、この街ではその印象が当時のままほとんど変わっていなかった。
そこへ飛び込んできたヘムドールの活躍。現在において非常に名高い超一流冒険者ジャックグレイブを試合にて破り決勝へと駒を進めたという事実は、国民達の関心を大いに集めているようだ。
その後決勝にてエカルラートカリヨンの団長セロと戦い、これに敗れたものの、国民達の目に失望は浮かんでいなかった。
むしろ、あのセロを相手に善戦したという結果を評価している様子だ。
(悪くない傾向じゃのぅ)
オズシュタイン国民のヘムドールに対する感情が変わり始めている。
彼を建国祭に誘ったミラは、これは思った以上に効果的だったかもしれないと心の中でほくそ笑んだ。
「さーて、どの辺りから話せばよいかのぅ」
アルカイト王国の王城、ソロモンの執務室にて。今回の任務結果の報告という事で、ミラはいつも通りに寛ぎながらケーキの皿を手にしつつ、そう切り出した。
幾らかのんびりと帰ってきた事もあり、ミラよりもルミナリア達を乗せた飛空船の方がずっと先に到着していた。その際にソロモンは、主要な報告をルミナリアらから受けているとの事だ。
一つ。ミラの任務であったメイリンの捜索については、メイリン自身がしっかりと到着した事で完了となった。約束通りに、アルテシアが色々と気を利かせてくれていたそうだ。
また途中で起きた色々な問題──『イラ・ムエルテ』や公爵アスタロトなどについても、アルマとの通信会議に加え当事者勢からも聞いて大体は把握しているという。
「聞いた報告の中では、悪魔の暗躍が気になるところだね。君達が戦ったアスタロトという公爵は、何を企んでいたのか」
「ふむ、そうじゃのぅ。何やらメイリンが最期に……確か種は蒔き終わったとかなんとかという言葉を聞いたそうじゃが。はて、どういう意味なのじゃろうな」
中でも特に気になっていた点を挙げる二人。相手はあの悪魔であり、しかも公爵級ときたものだ。間違いなく、厄介どころか災厄級の企みであると予想出来る。そのまま放置するのは危険と言えた。
だがしかし、現状ではその点について追及する術がない。圧倒的に情報が不足しているからだ。
「とにもかくにも、ニルヴァーナからの報告を待つしかないね。そのうちに何かしらは掴んでくれるはずさ。一応、こっちからも援軍は送っておいたから、幾らか予想よりも早く調査は進んでくれるかなぁ。くれるといいなぁ」
「まあ、ともあれ向こうには何よりも、ドクターツェペシュがおる。何かしらは見つかるじゃろう。ならば問題は調査後か。どれほどの秘密が解き明かされるのかという点と、その対処が間に合うかどうか、じゃな」
大会の間、来賓の護衛として張り付いていた十二使徒の任も解けた。よって調査や諜報、妨害工作が専門の一人、『王眼のツェペシュ』が、元イラ・ムエルテ本拠地の島の調査に加わったという話だ。
きっと彼ならば、アスタロトの企みを見事に暴いてくれる事だろう。後は、その企みが完全になされる前に解き明かし、これを潰せるかどうかだ。
加えてソロモン側からも、優秀な調査員を帰りの飛空船に乗せて送ったという。そのためネブラポリスの調査を含め色々な部分で支障が出ているそうだが、相手が公爵級ともなれば仕方がないというものだ。
「とにかく、どんな結果が出ても直ぐに動けるように用意しておいた方がよさそうだね。皆には暫く大人しくしてもらっておくのはもちろんとして、君にも待機しておいてもらいたいところだけど──」
ニルヴァーナから、どのような報告が入っても直ぐに動けるようにしておきたい。そう告げたソロモンだが、そこから何やら面倒そうでいて、どことなく諦め気味の笑みを浮かべながら次の言葉を告げた。
「──向こうからさ、いったいいつになったら来るんだって、もう毎日のようにせっつかれてて……」
いつもお使いを頼む時は、それはもう見事なまでの作り笑いを張り付けているソロモンだが、何やら今回は、そんな彼の表情すら崩すほどの事態が起きているようだ。
「……何やら珍しい顔をしておるのぅ。じゃが、どうにも話が見えぬぞ。向こうとは、そもそもどこの事じゃ?」
肝心の主語すら曖昧なソロモンの様子に、どうした事かと眉根を寄せるミラ。
するとソロモンは「ああ、ごめんごめん」と苦笑気味に答えるなり、その相手先を口にした。いわく、それは日之本委員会の研究所であると。
「ほら、前にさ、君がマキナガーディアンの素材だなんだっていうのを持ち込むから、いい武具を作ってもらえないかっていう話をしたじゃない? 色々と用事が済んでからとは言っていたんだけど、どうにも最近、向こうで開発したものにその素材が使えそうだって盛り上がったらしくてね。武具の製作費やら基礎分の素材なんかは全て取り持つから、幾らか分けてほしいって。で、最近はいつ来られるんだってうるさいわけだよ」
ソロモンは、ちらりと机の隅に置かれた通信装置を見やりながら、ため息交じりに笑った。
日之本委員会。元プレイヤーが集まり作った秘密結社であり、その研究所には元プレイヤーの技術者が多数集まっている。
大陸鉄道をはじめ、操者の腕輪や飛空船だなんだと、この世界と現代文明の知識を融合して開発された技術は数知れず。
そんな大陸でも最先端の技術屋達が、今か今かとミラを待ち構えているそうだ。
特に現在は、その中でも最新の技術研究において、ミラが持つマキナガーディアンの素材を欲しているらしい。
しかし、そう簡単に入手出来るような素材ではない。
技術はあれど、さほど戦力を持ち合わせていない生産者の集まりだ。加えて素材入手のためにマキナガーディアンレベルを打倒するともなれば、それこそ国家級の戦力が必要となる。
どれだけ金があろうとも素材そのものが存在しなければ、どうにもならないのだ。
だからこその催促とも言えるだろう。
「何ともまた、落ち着いたらそろそろ行こうと思っておったが……ちと恐ろしくなってきたのぅ……」
九賢者捜しについては、もうだいぶ落ち着いたといっても過言ではない。残る二人のうちの一人であるフローネは約束した通りに秘密だが、解決済みといっても問題はないだろう。
よって後はヴァレンティンのみだが、退魔術士である彼は、魔物や魔獣、悪魔といった類には滅法強いが、戦争などの対人戦がメインとなる戦いにおいてはそうでもない。
つまり戦争対策としてならば、もう十分なのである。
そういった事もあって、そろそろ最強装備作製というロマンを追いかけてみようかと考えていた矢先の事だ。歓迎され過ぎるのもまた、どこか不安になってくるものである。
「とはいえ、このままでは宝の持ち腐れじゃからな。まあ、よいじゃろう」
どの道、行く予定だ。少し面倒そうだという要素が加わった以外に変わりはない。
と、そうミラが承知したところで、ソロモンのいつもの笑顔も戻ってきた。
「ありがとう、助かるよ。あ、それとついでにさ、丁度受け取ってきてほしいものもあるから、それも頼めるかな」
「……結局、まーたお主のお使い込みか。どこまでわしを都合よく使うつもりじゃ、まったく」
そんなところもまた、いつも通りだ。ミラはその代わりとばかりにテーブルの高級菓子を頬張りながら、ソロモンより研究所所長宛ての発注書を受け取った。
フフフフフ……。
先日、久しぶりに新たな調理器具を購入してしまいました。
その名も、トースターパン!!
なんと、オーブントースター専用の調理器具です!
具材を入れたら、そのままオーブントースターに入れるだけで色々作れてしまうのです!
今は、どうしたら定番の一品を生み出せるかと色々試しております。
煮物であったりオムレツだったりも作れます。
そしてなんと……!
ノンオイルから揚げまで出来るらしいのです!!
今度、から揚げにも挑戦してみるつもりです!
油で揚げないから揚げ……。
これで罪悪感なくから揚げが食べられるかもしれない!!!




