41 代行と弟子、一教師
四十一
結果として、ヒナタが正気を取り戻すのに十数分の時間を要した。ミラはその間、クレオスと召喚術習得の状況について話し合い、魔封爆石は作れるので査定分の経費が入ったら、幾らかをその素材に回す様にと進言していた。クレオスは興奮気味に礼を述べ、誠心誠意努力すると約束する。
その話が終わってからは、アマラッテが魔導ローブセットについての質問を繰り返し、ミラも律儀に詳細を答える。魔動石により発生する効果を聞いたアマラッテは、瞳を輝かせてミラの服に食いついた。最終的には、アマラッテの分も作れるかどうか、今度リリィに聞いてみるという事で落ち着く。
三人の話の最中に、ようやく再起動したヒナタだが、ダンブルフの弟子と賢者代行の話に割って入る事などできず、沈黙したまま経緯を見守っていた。
(ダンブルフ様の弟子!? そんなの聞いた事ないよっ。でもあれだけの術を使えるし、クレオス様もそう言ってるし……。あ! それじゃあダンブルフ様ってやっぱり隠居してたのかなっ。弟子の育成に力を入れていたとか。
なんだか、経費の使い道が決まっちゃってるよー。まあ、ミラちゃんのお陰なんだから別にいいんだけどっ。……ミラちゃんって言うのはまずいかな。でもクレオス様もそう呼んでいるし。ううん、クレオス様だからかな。それじゃあ、ミラ様? なんだろう……意外としっくりくる。あのしゃべり方のせいかな。やけに堂々としてるしっ。
アマラッテ様の服って、流行の魔法少女系? だっけ。すごく可愛い服だよねっ。ミラちゃん……ミラ様のは少し雰囲気が違うけど、同じ種類なのかなっ。私も……いや、似合わないか。
っていうより、なんで私ここに居るのー!?)
堂々巡りの末に、結局は場違いな自分という事に帰結し苦悩するヒナタ。目の前の有名人は、自分の事を只の賢者代行だからと言っていた。しかしそれでも大陸最上位の術士である事は変わらず、十年前の三神国防衛戦の際、アルカイト王国を襲撃した悪魔を、ルミナリアと共に前線で打ち滅ぼした最高戦力である事に変わりはない。そして、その者が自分よりも上だと言った隣に座る少女。その力の一端は、確かに目に焼きついている。ヒナタは今、そんな国家級の戦力が三人も揃った真っ只中に居るのだ。落ち着けるはずがない。
「ふーむ、やはり効率良くするには、身体強化の精錬品が必要そうじゃな」
「そうなんだよね。生徒達を危険な目に遭わせるわけにはいかないし。ミラちゃんから預かった装備を使えば安全だけど、希望者が多いから時間が掛かるのは仕方が無い。僕も前に色々と装備を集めてはみたんだけど、強力な物が無いからいまいちで」
ミラ達の話はまた戻って、今度は新人召喚術士の育成に関して話し合っていた。その内容はやはり、契約の難易度と効率の問題だ。
「ほう、その装備は身体強化系の付加能力か?」
「主に力と体力のをね。でも上昇効果が少ないから、絶対安全とはいかないんだ」
「なるほどのぅ。それならば何とかなるかもしれぬぞ」
ミラは少し考えると、精錬でどうにか出来そうだと結論した。効果の少ない装備品でも、数があるのならば精錬でそれを抽出し凝縮していけばいいのだ。
「本当かい!?」
「うむ、任せるが良い」
クレオスが期待を込めて聞き返すと、ミラは自信ありげに答える。そのやり取りを、ヒナタはまるで他人事の様に聞いていた。
客室を後にしたミラ達四人は召喚術科の倉庫へ向かう為、現在専門学部の校舎内を移動中だ。細工の施された照明や所々に配置された調度品は、学園ではなく貴族の屋敷を思わせる。
ミラは、クレオスやアマラッテに学園の歴史などを教えてもらいながら、学園らしくもどこか違う様々な事柄に興味を示していた。そんな三人の後ろを、明らかに緊張の色を浮かべたヒナタが追従する。
その周囲では、一行の姿を目にした生徒達が慌てて礼の姿勢を取り廊下脇に並んだ。それに対して、クレオスが「お騒がせして申し訳ない」と苦笑しながら気楽にと告げる。この柔らかい物腰と、一部の貴族の様に地位を笠に着ない性格から、クレオスは生徒達だけでなく国民からも愛されている。そしてそれはクレオスだけではない。九賢者代行は皆が皆、特色はあるが謙虚で、その地位を利用しようとはしない者達ばかりだった。しかしそれ故、一部の貴族からは疎まれている。賢者代行様はそんな事は仰らない、賢者代行様ならこうすると、何かにつけて比較されるからだ。だが、そのお陰でアルカイト王国の貴族は芯の通った者も多い。
一行が通り過ぎた後で、一斉に生徒達が騒ぎ出す。
「ヒナタ先生は分かるけど、もう一人居た女の子は誰だったんだ?」
「ああ、すっごい可愛い子だったな」
「アマラッテ様も好きだけど、あの子もいいな」
「で、誰だったんだろう?」
もちろん知っている者は無く、無数の憶測が飛び交った。クレオスの隠し子、三人の誰かの妹、新入生、塔の研究員、アマラッテの魔法少女仲間。どれもが何の脈絡も無い妄想だが、生徒達は楽しそうに予想合戦に興じるのだった。
専門学部の地下。それぞれの術学科の倉庫が並ぶ少し薄暗い一室の前でクレオスが立ち止まると、ヒナタが途中で職員室から借りてきたカギで、その扉を開く。
倉庫の中は、それなりに手入れが行き届いており、埃っぽさや閉塞された空気感はなく、幾分かの金属と紙の匂いが薄く漂っているだけだ。これは、定期的にヒナタが整理と掃除を行っていたからで、召喚術科だからこその空いた時間を有効活用した結果だ。
「ヒナタ先生。前に僕が持ってきた装飾品を全て出してもらってもいいかな」
「はい、少々お待ちくださいっ!」
背筋と猫耳をぴしりと立てて、ヒナタは倉庫の一角へ突撃していった。その間に、クレオスは立て掛けてあった台を引っ張り出すと中央に広げる。その表面には無数の記号と図形が並び、魔法陣を作り上げている。精錬台だ。
「お待たせしましたっ」
ヒナタは両手で抱えた箱を、その台の上に置く。中には無数の指輪や首飾りなどが入っている。素材はありきたりだが、そのどれもが不思議な力を秘めた一品だった。
「後は……これを」
そう言い、クレオスは倉庫にあった小袋を取り、その中の物を台の上に並べる。それはターコイズやムーンストーン、クリスタルなど無数の宝石。精錬に必要な素材の一つだ。
「ふむ、ではすぐに終わらせるとしようかのぅ。この装飾品は全て精錬してしまっても良いのかな?」
「構わないよ」
ミラは、クレオスの了承を取ると精錬台の所定箇所に宝石を並べて作業を開始する。アコードキャノンの件で城に集まった時、一度見た事のあるクレオスとアマラッテは、その様子をやはりすごいと感心しながら見つめている。しかし、ヒナタには何が起こっているのか理解できなかった。
ヒナタは本来、精錬というのはじっくり時間を掛けて行うものだと認識しているし、そう教わった。複数の宝石を精錬石に作り変えるのにも三十分は掛かるものだ。
そして、精錬の真骨頂ともいえる技術が、装備品に宿った特殊効果の抽出に、定着だ。
ミラは今、宝石を幾つかの精錬石に加工し終えて、次の作業を始めている。この作業は、力が1上昇する装飾品からその効果を抽出し、それを精錬石に蓄積していくというものだ。そうする事で、力上昇の効果が凝縮された魔封石が出来上がる。効率は足し算ほど良くはないが、それでも繰り返していけば確実に効果は上がっていく。
既に十個ほどの首飾りを砂に変えて、精錬石には力上昇の効果が凝縮されていた。
(これって……精錬だよねっ!? 実習で何度か見た事あるけど、全然違うんだけどっ! どんどん砂の山が大きくなっている……って)
「私が、やりますっ」
ヒナタはそう言いながら、装飾品の成れの果てを片付けているクレオスの手を制し、代わりに砂山撤去を引き受ける。
クレオスが「取られちゃった」と肩を竦めると、アマラッテは「ヒナタ先生の事も考えて上げなさい」と無表情に忠告する。クレオスは良く気が利き、何事も一人でやろうとしてしまう気質だが、圧倒的目上の人物にそうされてしまうと、下の者は落ち着く事が出来ないものだ。アマラッテはその辺りを弁えろと何度か言っており、クレオスも分かったつもりでいるのだが、生来からの気質を変えるのは中々難しい様だ。
ミラが精錬を始めて約三十分ほどが経っただろうか。全ての装飾品は砂に変わり、その効果を凝縮した魔封石が台の上に十二個できあがっていた。
「やっぱりすごいね」
「ええ、本当に」
一度見た事はあるが、改めて感嘆の声を上げるクレオスとアマラッテ。ヒナタは、その常識外の現象に対して落ち着いている賢者代行の二人を見て、自身の常識を盛大に改変中だ。
「こっちが力強化で、こっちが体力強化じゃ。後は、これに耐えられる装飾品でもあれば完成じゃな」
「装飾品か。……あ、それなら確かこの辺りに……」
クレオスは、何かを思い出す様にしながら倉庫の一番大きな棚を漁り、幾つかの金属片や何かの作業道具を取り出していく。
足元に雑多な山が出来上がった頃、一番奥にあった小さな箱を手に取ったクレオスが戻ってくる。
その箱は両掌に収まる程度の大きさで、台に置いて蓋を開けると、中には飾り気の無い質素な指輪や首飾りが納められていた。
それは、クレオスが新しい召喚術習得法を模索していた時に作成したものだった。結果としては棚の奥で眠っていた通り失敗だったが、それが今、役に立つ時が来た。
「華やかさは無いけど、素材は純金だから土台には十分だと思うよ」
金は精錬による付加に対しての許容量が高く、精錬装備作成において重宝される素材だ。クレオスの言う通り、精錬品の基礎素材としては十分だろう。
「ふむ、確かに。では定着させてしまうとしようかのぅ」
そう言ってミラは金の指輪と首飾りを受け取り、一つ一つ丁寧に精錬する。蓄積された効果が装飾品に移ると、魔封石は色を無くし塵となって消えていく。
定着作業は順調に進み、十二回繰り返して、精錬装備作成は完了した。
「ありがとうミラちゃん! これで多くの希望者が契約する事が出来るよ。本当にありがとう」
クレオスは何度もお礼を言うと、精錬装備を手に取りとても嬉しそうに笑顔を浮かべる。そしてこの事はヒナタにとっても喜ばしい事である。目の前で起きた事は理解しきれなかったが、それでも召喚術契約の際に役立つ身体強化の装飾品が完成した事は理解できた。
「私も召喚術教師としてお礼をさせていただきますですわ。ミラ様っ」
「…………ヒナタ、どうしたんじゃ? 色々とおかしいが」
「そんな事はございませんですわ。至って冷静でございますのっ」
ダンブルフの弟子であるという衝撃の事実を知らされたヒナタは、ミラにどう接すればいいのか結論できず、結果として混乱が言動に現れていた。
「うーん、やっぱり僕のせいかな」
苦笑しながらクレオスが言う。元はといえば、何も知らなかったヒナタに何の気なしに言った一言が原因だったからだ。
「ふーむ。そもそもわしは、こ奴等の様な肩書きは無く、只の冒険者じゃ。気構える必要など皆無じゃがな」
ミラが眉端を下げながら言うと、ヒナタは気構えという言葉で事の原因を思い出す。クレオスに何度も言われたが、態度を改めなかった自分の愚かさをだ。
暫く悩んだ挙句、ヒナタは意を決して口を開く。
「ミラ……ちゃん……」
「なんじゃ?」
ヒナタの声に、ミラは微笑みながら応答する。教師という役職柄、子供の笑顔に弱いという弱点を持つヒナタ。思わず表情を緩めた後、すぐに我に返り猫耳をピンと上に向ける。
「ありがとうミラちゃんっ。私も授業がんばるねっ」
ヒナタはミラが満足そうにしている様子から、これで良かったんだと安心すると、気合を入れ直してもう一度お礼を口にした。
「うむ、わしとしても現状は見過ごせぬからのぅ。手が必要な時は、いつでも声を掛けるが良い」
ミラも、協力は惜しまない心積もりだ。召喚術士として、後進の育成は気掛かりな案件でもある。
そしてこの日、ヒナタは他の術学科よりも強力な繋がりが出来た事を、まだ十分には理解していない。それはもう少し先の事だ。
「ミラちゃんは、この後どうするんだい?」
地下から一階へと上がる階段の途中、クレオスが問い掛ける。ミラは、審査会の事を思い出しながら少しだけ思考する。三十年の成果なのか、審査会で披露された術には、ミラの知らないものも含まれていた。他にも効果が変化している術などもあり、代表はまだ未熟とはいえ少なからずミラは興奮を覚えていた。そしてそういった、三十年の変化について知りたいと思うのも当然の事だ。
「出来れば、このまま学園を見学したいところじゃな」
その言葉を聞くとクレオスは嬉しそうに「それじゃあ……」と言い掛けて止める。僕が案内するよ、と続けようとしたが先程のアマラッテの言葉を思い出したのだ。
「えっと、ヒナタ先生。今日は授業無かったよね。ミラちゃんの案内を頼めるかな?」
笑顔のままヒナタに話を振ると、当のヒナタはクレオスから直接の頼まれ事だと、表情を輝かせる。
クレオスが現在奮闘しているお陰で、もう暫くすれば増えていくが、今ヒナタによる召喚術の授業は週に数える程度。時間は有り余っている。
「お任せくださいっ、やり遂げて見せますっ」
ヒナタは気力十分に答えると、その猫耳も意気揚々にそそり立っていた。
一階まで戻ると代行二人とは、そこで別れる事となった。クレオスは、何度もお礼を繰り返してから校舎を後にする。アマラッテは、リリィにくれぐれもよろしく、と念押しすると「ごきげんよう」と言いながら別の校舎へと向かっていく。
二人を見送ると、ヒナタは気合を入れてミラへ振り返る。
「ミラちゃん、見たい所とかあるかな? どこでも案内するよっ」
猫耳と尻尾をそわそわさせるヒナタの姿に、ミラは少し和みながら一番見たいと思っていた事を口にする。
「出来れば術の実技や、模擬戦といったものを見たいんじゃが」
「実技や模擬戦かぁ。それなら実習訓練がいいかなっ。今の時間だと魔術科だけど」
「ほう、良いではないか。そこへ連れて行ってくれぬか」
魔術科といえばカイロスを思い出すが、魅せる点で言えばカイロスの魔術は、かなりの独自性を持っていた。三十年で大きく様相を変えたといってもいいだろう。そこに興味を持ったミラは、早速行こうとヒナタを囃し立てる。
「うん、こっちだよっ」
そう言いヒナタは、専門学部に隣接する様に建てられた訓練棟へとミラを案内する。
専門学部の一階を校門とは反対側に突っ切り、裏口から出ると校舎の半分ほどの建物が正面に現れる。体育館に近い外見で、中からは微かに人の声と術による轟音が響いてきていた。
二人は訓練棟の正面玄関から中に入ると、どこかのイベント会場の様なロビーに出迎えられる。無数の簡易な椅子が並び、更には売店まであり数人の生徒が汗を拭きながら飲み物を購入していた。
「おや、ヒナタ先生。如何しました。召喚術科は、今日予定ありましたか?」
ロビーの奥から中年の男がヒナタへ向かって近づいてくると、そう声を掛けた。可も無く不可も無い平均的な顔には、単純な疑問と僅かな緊張が浮かんでいる。
だがそんな事よりも、ミラが真っ先に注目した点があった。
(ジャージじゃ、まごう事なきジャージじゃ。いいのぅ、あれほど楽な格好はないからのぅ)
中年の男は青いジャージ上下を着用していたのだ。運動時、そして部屋着、更にはちょっとそこまでの買い物。ミラは、非常に便利な服と認識している。
「あ、ジークフリード先生。お疲れさまです。予定はありませんが、こちらのミラちゃんが学園を見学したいというので、案内しているところなんですっ」
「おお、そうだったのですか」
ジークフリード先生と呼ばれた中年男は、そう言われて視線をヒナタの脇に居る少女へと向ける。
(ジャージ姿のジークフリード……っ)
何かがつぼに入ったミラは、顔を逸らして笑いを堪えながら、失礼な事を思い浮かべていた。
「それはそうと、ヒナタ先生。私の名前は長いですから、私の事はジークでいいですよ」
「はい、ですが先生は私みたいな新参より、ずっと先輩ですから」
控え目にそう答えるヒナタ。このやり取りは今日だけではなかった。愛称で呼ばれたいジークフリードと、畏れ多いと遠慮するヒナタ。
ジークフリードは残念そうに肩を落とすと、再度ミラへと視線を向ける。当のミラは、ロビーを見回すようにそっぽを向いていた。
「えっと、見学でしたか。ですが今は見ての通り、魔術科が術技訓練をしていますので、大丈夫でしょうか。女の子には危ないかと思うのですが」
視線をヒナタに移しながら言うジークフリード。実際に彼の言う通り、魔術科の訓練は攻撃的な性質の術ばかりな為、見学とはいえ危険が伴う。とはいえ、ミラにしてみれば何て事のない程度だが、実力を知っているヒナタと違い一目見ただけのジークフリードは、こんな可愛い女の子を危ない目に合わせる訳にはと進言したのだ。
「その辺りは心配ないんですよ。ミラちゃん、強いですから」
ヒナタは自信満々に答えると、まるで我が事の様に胸を張る。そこでジークフリードは、少し前に聞いた報告を思い出す。
「おお、するとその子が急遽召喚術の代表者になり、一位を攫っていったという女の子ですか」
そう言うと、ジークフリードはミラに駆け寄り手を差し出す。
「どうも初めまして、ミラちゃん。魔術科の教師をしている、ジークフリードです。魔術科が負けた事は悔しいけど、良くやってくれたね」
「う、うむ。どうという事はない」
人の良さそうな笑みを浮かべるジャージ姿のジークフリード。ミラは笑いを堪えながら、握手に応じる。ミラとしては、自分のせいで魔術科は二位になってしまったのだから、礼を言われるとは思わず戸惑うばかりだ。しかしジークフリードは自分の事の様に喜び、手をぶんぶんと振ると、満足そうにヒナタと向かい合う。
「いやー、おめでとうございますヒナタ先生。クレオス様も、色々と動いている様ですし、召喚術はこれからですな!」
「はい、ありがとうございますっ」
ジークフリードの祝辞に、嬉しそうに礼を述べるヒナタ。そして、向けられたその笑顔にジークフリードは大いに赤面する。
現在は召喚術士の立場が弱く、何かと苦労しているヒナタだが、ジークフリードは、そんな彼女を何かと気に掛けていた。
そんな様子を目にしたミラは気付く。どうやら、ジークフリードはヒナタに惚れているらしいと。だから負けたのに喜んだのかと得心できた。好きな人が、審査会で毎回最下位になり気落ちしていれば、心配になるのも納得だ。
「ではまあ、そういう事でしたら大丈夫そうですね」
ミラの実力は確かなものだ。ジークフリードは、それを認めると見学を了承する。
「ありがとうございます。ジークフリード先生」
ヒナタは一礼して、ミラと共に訓練棟の奥、実技場へと向かっていった。ジークフリードはヒナタの後姿を見送りながら、手応え無しと大きく溜息を吐くのだった。
ホットケーキに続き、主食小麦計画始動




