385 適任者
三百八十五
それは、ニルヴァーナを発って一夜が過ぎた次の日。昼食を済ませてから一時間ほどが経過した時だ。
観測手から、目標と思しき島を発見したとの報告が入った。
「ふむ……確かに雰囲気はばっちりじゃのぅ」
「ああ、ラスボスがいますって感じだな」
甲板にて遠見の無形術で遥か前方を眺めるミラとルミナリアは、それを一目見て、そのような言葉を交わす。
まだ数キロメートルは前方に見える一つの島。その姿からは、決して誰も寄せ付けないという強い意思のようなものが見て取れた。
その島は、断崖絶壁に囲われていた。着岸出来るような場所は一切見えず、出来たとしても数百メートルと聳える崖が来訪者を拒絶している。
また内陸はというと、現地点から見る限り、鋭くとがった岩が山のようにそそり立っているだけだ。着陸出来るような少しの隙間すら確認出来ない。
「こいつは凄いな! 悪の秘密基地じゃないか!」
「うぁ……面倒そう……」
まるで島そのものが要塞といった様子である。
如何にもな見た目に興奮するラストラーダと、簡単にはいきそうにないと感じて憂鬱そうな色を浮かべるエリュミーゼ。
また、強敵が沢山いそうだと張り切るメイリンや、むしろお化けでも出そうではないかと頬を引きつらせるカグラなど、他の皆の反応も様々だ。
ともあれ遂に標的である島を発見した。一度飛空船を海に下ろした後、次の段階となる上陸方法について船室で話し合う。
「──さて、どうやって乗り込んだものだろうか」
まず初めにノインが口にしたのは、もっとも現実的な問題だった。
岩山に邪魔されるため、着陸は出来ない。聳える断崖絶壁があるため、着岸したところで直ぐに崖に阻まれる。
また、多くの魔物や魔獣のいる可能性があるため、不用意に着陸しては一斉に攻撃される恐れもあった。
一筋縄では、どうにもならない島だ。
とはいえ、ここに揃うのは、そんな常識の通用しないものばかりだ。
着陸せずとも飛び降りてしまえばいいだの、崖に階段を作ればいいだの、アイゼンファルドに運んでもらえばいいだのと言いたい放題だ。
「やっぱり、気づかれないよう慎重にというつもりはないんだな……」
こうなるとわかってはいたが、ため息を吐かずにはいられなかったノイン。
いったいどのような敵や罠が待ち受けているかもわからない敵陣に飛び込むのだ。気付かれないように入り込む、出来るだけ戦闘を避けて首魁の元にというのが一つの理想といえるだろう。
だが、ここにいるほとんどは、初めから全面戦争を仕掛けるつもり満々であった。
とはいえ、流石に無策で突っ込んでいくような者達でもない。
「とにかく、まずは偵察だな。どんな場所になっているのか確認しておくのは大事だ」
ファジーダイスとして活動していただけあって、熱血正義馬鹿であるラストラーダでも、その大切さはわかっているようだ。このまま乗り込むより前に、一度現場を確認しておいた方がいいと提案する。
「その通りだ!」
堅実な意見に安心したノインは、そのままサイゾーに目を向ける。敵地調査だ裏工作だといった仕事ならば、忍者である彼に勝る者はいないからだ。
「承知。行って来るでござる」
本人もまた、当然のように立ち上がる。
向かうは、無数の魔物や魔獣が闊歩していると思われる危険な島だ。けれどもサイゾーの顔には一切の躊躇いもない。それどころか、自信しか見て取れないほどだった。
事実サイゾーには、その自信に見合うだけの能力があった。
だが、それはこれまでの話。
「じゃあ、とりあえず視察しちゃうね」
そう言うなり、朱雀のピー助を招来したカグラは、そのままスタスタと窓へ歩み寄っていく。
だが事は、そこで終わらない。ミラもまた、すぐさまポポットワイズを召喚して、それに続いたのだ。
「のぅ、カグラや。ピー助でポポットを運んでもらってもよいか? その方が早く着くと思うのでな」
「確かにそうね。えっと、それじゃあ……このピー助用のメールボックスに入れちゃって」
ミラが頼むと、カグラはピー助の首に長距離運搬用のカバンを下げた。猫のマークが描かれた特別製のカバンだ。
わかったと答えたミラは、そのままポポットワイズをカバンに入れる。
「島に到着するまで大人しくしておるのじゃよ」
「わかったのー。ポポットじっとしてるのー」
小柄であるためか、綺麗にすっぽりと収まり顔だけを覗かせるポポットワイズは、何やらそのフィット感が気に入ったようだ。何とも居心地好さそうに答える。
そうして準備が整ったところで、カグラがピー助を窓から放った。
これで良し。そんな顔でミラとカグラが席に戻ったところで、ノイン達の疑問の目が集中する。
先に偵察をしようという話から、何故ピー助とポポットワイズを送り込む事になるのかと。
「……ん? それでピー助は何だったんだ?」
「鳥を送ってどうするんだ? 視察でもさせるのか? ……出来るのか?」
当たり前のように動いたミラとカグラ。加えて、特に疑問を抱いた様子のない九賢者勢。対してノインとゴットフリート達は、今のはどういう意味があったのかと堪らずその疑問を口にした。
「あ、そっか。まだ言ってなかったっけ──」
もう当たり前のやり方だが、知らない者からしたら謎の行動であろうと思い出したカグラは、どういった意味があったのかを簡潔に説明した。
「意識同調……か。そんな便利なのがあるんだな」
「拙者の出番が……」
遠くにいながら、式神や召喚体を介して現地の視察が出来る技能。その存在を知ったノインは感心するように頷く。一方サイゾーは、一番の活躍時を奪われて消沈気味だ。
またエリュミーゼは、もしかしたら死霊術にも応用出来るかもしれないという内容に、いつもやる気のない目を輝かせていた。それがあれば、巡回任務をゴーレムだけで済ませられると考えているようだ。
そして、ゴットフリートは──
「すっげぇ、そんな事が出来るのか……。上手くやれば、女湯とか覗き放題じゃねぇか!」
熱血馬鹿でありながらも、そんな事を言い出す極めて単純なエロ馬鹿でもあった。
しかも、ゴットフリートの言葉にそそのかされた馬鹿がもう一人いた。
「……確かに、そうじゃな! その使い方は盲点じゃった!」
ミラである。見てくれはともかく中身は健全な男子であるミラは、今更ながらにしてその使い方へと至った。
これまでにそれを閃かなかったのは、何よりも戦闘寄りの術馬鹿であった事が要因だろう。
しかしながら、それは禁忌の領域である。
「ミ・ラ・ちゃーん。そんな事したら……わかるでしょ」
まるで万力のように、カグラの両手によってミラは頭を挟まれた。そして、ギリギリと締め上げられていく中でミラは弁明する。
「じ、冗談じゃ! あの単純さを憐れに思うて、のってやっただけじゃ!」
全ては、そんな考え方しか出来ないゴットフリートに同情したため。それがミラの言い訳だった。
「俺……憐れまれるほどだったのか……?」
「まあ……そうだな。あれを聞いて真っ先に女湯は、ちょっとな」
膨大な可能性を秘めた《意識同調》である。その効果を聞いて直ぐに女湯を覗くなどというのはどうかとノインは答えた。
(ふぅ……名案じゃと思い、つい反応してしもうたが、そもそもわしには覗く必要なぞなかったではないか!)
そうこうしているうちに解放されたミラは、改めて現状を思い出す。今の身体は少女なのだから、覗くだなんだという以前に堂々と女湯に入ってしまえるのだと。
先程の発言によってか、心なしか冷たい視線に晒されているゴットフリートを冷ややかに見つめながら、ミラは不敵な笑みを浮かべて勝ち誇るのだった。
敵本拠地の様子を探るためにピー助とポポットワイズが飛び立ってから、二時間と少々。ミラとカグラによって多くの情報が集まった。
まず一つは、間違いなくその島こそが探していた敵本拠地である事だ。明らかに異常ともいえる数の魔物や魔獣が跋扈していたのが証拠である。
だがそれだけに警備は厳重であり、加えて内部は複雑な造りをしていたため、『イラ・ムエルテ』のボスがいる場所を特定するまでには至らなかった。
けれど、それらしい場所は複数確認出来た。
ミラ達はその点を中心にして敵本拠地攻略作戦を組み上げていく。
また、グリムダートの士官達もそれに加わってはいたが、若干気後れ気味の様子だ。
更に一時間と少し。いよいよ作戦もまとまったところで、各々で決戦準備を始めた。
それぞれに装備の点検や消耗品の在庫チェックなどを進める中で、ミラもまた魔封爆石だの試してみたい術などの確認をする。
そうして各人準備も整い集合した時だ。ミラは、万全に着替えたソウルハウル達を見て思い出す。
「おおっと、しもうた! わしも着替えねば!」
魔獣相手に試したいあれやこればかりを気にし過ぎていたため、本気の戦闘装束である賢者のローブに着替えるのを忘れていたミラ。
これから突入するのは、強力な魔獣が跋扈するような場所だ。ともなれば、最強装備である賢者のローブは必須だろう。
うっかりしていたと、ミラは賢者のローブを取り出して、そのまま急いで着替え始めた。
「なっ……!?」
ミラの行動にいち早く反応したのはノインだ。突如脱ぎ始めて下着を露わにするミラの姿に激しく動揺しながらも、目が離せないと葛藤する。
その直後──
「ちょっとおじ──ミラちゃん! こんなところで着替えちゃダメでしょ!」
カグラの、そんなお叱りの声が響いたのである。
「じゃが、いちいち部屋に戻るのも面倒じゃろ?」
「だからって、直ぐに肌を晒しちゃダメ。ほら、早く!」
ここで着替えてしまった方が手っ取り早いと弁明するミラだったが、カグラに問答無用で服を戻されると、そのまま部屋まで連行されていった。
そうして暫し、ミラの着替え待ちとなったところでノインの背後にそっと忍び寄る影が一つ。
「おやぁ、残念そうな顔をしているなぁ〜」
そっとノインに声を掛けたのはルミナリアだった。ミラの下着姿を凝視していた彼を見逃さなかったのだ。
「な……そんな事はない」
心のどこかで残念に思ってしまっていたと自覚しているようだ。ノインは慌てて否定する。だが、その反応こそがルミナリアの求めているものだった。
「皆まで言わずともわかっているって」
それはもうにんまりと不敵に笑うルミナリアは、「そんな君に、内緒のプレゼントだ」などと言って一枚の写真を手渡した。
「なんだこれ……は!?」
その写真を見た途端にノインの目はカッと見開き鼻孔も広がると、瞬く間に頬に上気の色が浮かび上がっていった。
ルミナリアが手渡した写真。それは王城の寝室にて撮影された一枚。ほぼ下着姿で眠るミラのセクシーショットであった。いつかの時に、こっそり撮影していたようだ。
「何に使うかは、君次第だ」
それはもう会心の笑みを湛えながら去っていくルミナリア。
「いや待て、こんな──」
こんなに堂々とこのような写真を渡されても。そうルミナリアを呼び止めようとしたノインは、そこで気付く。周りは意外にも各々で雑談しているため、このやりとりについて見ている者はいないようだと。
ミラのセクシーショットがその手にある事を知るのは、ルミナリアとノインだけ。
ルミナリアは、内緒のプレゼントだと言っていた。ともなればこのまま口をつぐめば、この写真の存在がおおやけになる事はない。
逡巡したのはほんの僅かな間のみ。ノインはその写真を素早く懐にしまうのだった。
「お待たせ!」
「いやぁ、すまぬすまぬ。待たせたのぅ」
着替えに行っていたミラと付き添いのカグラが戻ってきた。そしてそんなミラの手には、幾つかの果実があった。
「ついでにこれがある事も思い出したのでな。食べていくとよいぞ──」
そう言ってミラが振る舞った果実は、あのマーテル特製のステータスブーストフルーツだ。
ブースト系の薬は多々あれど、この果実に敵うものはない。しかも副作用も無しである。
ただ、その宣伝文句は都合がよすぎるという事もあり、全員の顔に警戒が浮かぶ。ステータスブーストが出来る代わりに吐くほど不味かったりするのではないかと。
「まあ、心配なのもわかるけど大丈夫。美味しかったし、効果は本物だから」
「そういえば俺も前に喰ったな。問題ないどころか、結構美味かったはずだ」
躊躇う皆に向かってそう言うのは、着替えの途中で渡されていたカグラと、古代地下都市の一件の際に口にしていたソウルハウルだ。二人は問題はなかったと話す。
すると信頼の差というものだろうか。ソウルハウルはともかく、カグラがそう言うのならと一人また一人と口をつけていく。そして、その甘美なほどの美味しさに驚愕の声を上げる。
信頼の薄かったミラは、そんな様子を前に不貞腐れ顔だ。
また、メイリンも自力で挑むからこそ修行になるなどと言ってはいたが、皆が上げる歓喜の声に耐えられず食欲に負けていた。
そしてノインはというと、桃の形をした実を見つめながら先程の写真を思い出していた。
マーテル特製のステータスブーストフルーツの効果は覿面だ。全員がそれを実感したところで、いよいよ作戦が開始される。
島を調査した結果、確認出来た侵入箇所は二つ。そのため、二手に分かれて攻略していく運びとなった。
第一チームは、ミラ、ルミナリア、カグラ、ソウルハウル、メイリン、ゴットフリート。
第二チームは、ノイン、アルテシア、ラストラーダ、エリュミーゼ、サイゾーとなっている。
そしてグリムダートの士官五人だが、こちらは初動の潜入より外される形となった。彼ら彼女らを投入するのは安全を確保した後、島の調査を本格的に始める時になってからだ。
それまでは、この飛空船の防衛をしてもらう事と決まる。つまりは遠回しに、危険なので待機していろと言っているようなものだ。
とはいえ飛空船が絶対に安全かといえば、そうとも限らない。ここに気づかれて空の魔物を送り込まれる事だって十分にあり得るからだ。
このまま主戦力が全員出払う事になるため、士官達に残ってもらえるというのは、ミラ達にとっても安心出来る状況といえた。
とはいえ士官達は、国の代表として送り込まれた精鋭達である。本来、このような扱いをされれば憤っていた事だろう。
しかし今回、五人はそれを快く承諾した。
精鋭としての自負は皆にあった。だが、かといって九賢者と十二使徒、更に名も無き四十八将軍と比べれば、吹けば飛ぶようなものだという自覚も同時にあったのだ。
英雄達の混成チーム。そのどこに居場所があるというのかと。
「こちらはお任せください!」
ゆえに五人はそのようにミラ達を送り出した。
かといって、そのまま指をくわえて見ているだけでは終わらない。
五人は直ぐに集まって会議を始めた。飛空船の防衛配置についてと、調査をより効率良く行うために。
チョコが食べたい……。
けれどダイエットの天敵のようなイメージのあるチョコです。
そのまま貪り食うわけにはいきません。
そこで感想欄にて教えていただいた、高カカオのチョコ!
チョコを求めて、カカオ70%を買ってみました。
美味しかったです!
そして調子にのって、次は88%を買ってみました……。
驚きの苦味!
でも、思いました。
結構いけると!
少なくともチョコを求める気持ちは十分に解消出来そうです!




