377 爆誕
三百七十七
「この手は悪を滅すため、この手は平和を抱くため! 正義執行ピュアクリムゾン!」
「心は希望で満ちている、世界は愛で満ちている! 悪滅千刃ピュアグラーディオ!」
「優しさは皆の胸に輝く、情熱は私の胸で燃え上がる! 天地抱擁ピュアミーティア!」
アダムス家の道場を訪れると、そこには伝説の戦士プリピュアがいた。しかも、三人いた。
「いったい、何がどうしてこんな事になっておる……」
その光景を前にして、もはや唖然とするしかなかったミラ。
見たところ道場の隅の方に、アダムス家次男ライアンと、三男ファビアンの姿を確認出来た。二人は木剣を手に模擬戦をしているようだ。
そして長女シンシアと次女ローズマリーはというと──どこにもいなかった。稽古はいつも一緒に行っているという話だったが、一見した限りではそれらしい姿が見当たらない。
いや、実際は目に入っていた。そして出来れば、そうでないという可能性を見つけたかっただけだった。
道場のど真ん中で、よくわからない練習をしている三人組。その真ん中のメイリンを抜かした、残りの二人こそがシンシアとローズマリーであったのだ。
果たして、あの日から何があったのか。二人は、メイリンのプリピュア衣装の色違いを身に纏い、華麗にポーズを決めていた。
「ミラお姉ちゃん、こんばんは」
人様の娘を何という道に引きずり込んでしまったのだ。そもそも衣装を持ってきた自分の事は棚に上げて、子供達を先導するメイリンを睨むミラ。
そのようにミラが責任を押し付けていたところ、その来訪にいち早く気付いたファビアンが駆けてきた。
すると共に「こ、こんばんは」と、ライアンもまたキラキラと嬉しそうな目でやってくる。
「うむ、こんばんは。して……なにゆえに、ああなったのじゃ?」
再会の挨拶もそこそこに、ミラは三人のプリピュアに視線を送る。
多感で元気いっぱいだったシンシアはともかく、内気で大人しそうだったローズマリーまでもが、プリピュアゴッコに興じている現状。
このような事態になるまでに、いったい何があったというのか。
「えっと、それはね──」
プリピュアが三人に増えた理由。それは至極単純な事だった。
ファビアン曰く、それは子供達でメイリンが出場する予選試合を見に行った時だという。
話を聞いた限り、メイリンは律儀にもミラが提案した通り、かなりプリピュアになり切っていたようだ。戦い方までには及ばないが、登場時と終了時において、かなり格好良く決めていたという。
どうやらそれが観客を盛り上げるだけでなく、姉妹をも魅了したらしい。
プリピュアとは、正体を隠して日夜悪と戦う可愛くて強い秘密のヒロイン戦士。そんなごちゃごちゃした設定ながら、今二人がとても嵌っている漫画との共通点が多かったようだ。
加えて、世間に流れるプリピュアの噂だ。颯爽と現れては、ごろつきだなんだといった者達を華麗に成敗しているなどという話は、正に正義のヒロインそのもの。
結果、メイリン扮するプリピュアへの憧れが急上昇し、彼女達のプリピュア魂に火が点いてしまったという。
今では毎日の訓練メニューを完了した後に、ああしてプリピュアとしての特訓をしているそうだ。
「なるほど、のぅ……」
よもやメイリンの正体を隠すための作戦が、このような被害をもたらすとは。ミラは思わぬ事態に、どうしたものかと考える。
個人の能力の底上げを行うための大切な自主練のはずが、それとはまったく関係無い決めポーズの練習をして何になるのか。
とはいえ今は、決められた訓練後に行っている自主練である。そこで何をするのかは、個人の自由というものだ。
だが、プリピュアゴッコにかまけた結果、彼女達の才能が埋もれてしまっては大変だ。
と、そのようにミラが悩んでいたところで、プリピュアチームの訓練が次に進んだ。
「さあ、始めるネ!」
「はい!」
「よろしくお願いします」
三人揃って綺麗にポーズが決まったところで、今度は互いに向かい合うようにして構えたプリピュア達。
いったい次は何が始まるのか。そうミラがハラハラしているとファビアンが、「ミラお姉ちゃん、こっち」とミラの手を引いた。
それに従い道場の隅まで移動すると、その直後にそれらの理由が判明する。
なんと決めポーズの特訓などという緩い雰囲気から一転し、プリピュア達による本格的な模擬戦が始まったのだ。
「これまた、何やら以前よりも激しくはないじゃろうか?」
前回、メイリンとアダムス家の子供達の模擬戦というのを見ていたミラは、その時と今とで大きく違う状況に目を見張る。
あの日見たそれは、それこそ稽古する子供達と師範のメイリンとでもいったものだった。
しかし今は、それこそ実戦さながら。そこには可愛いだとか、ヒロイン戦士だとかいう装飾は一切なく、油断すれば奈落に突き落とされるかのような、獅子の如き戦闘が繰り広げられていく。
プリピュアのせいで成長が……などと抱いた懸念はどこへやら。それどころか、むしろ成長著しくすら見えた。
ただ、そんなプリピュアの特訓を眺めながら、ミラはふとした違和感のようなものを覚える。
「なんかさ、シンシアとローズマリーもさ、前に見たミラ姉ちゃんに憧れたんだって。それでさ、メイメイ姉ちゃんが師匠だったって言うんだ。そしたら弟子入りしたいって言いだして、なんか、ああなったんだ」
前回と今回の違い。その激しさ以外は何だろうか。そうミラが模索していたところで、ライアンがこうなった要因の一つとして、そのような事を挙げた。
何でもあの日あの時にシンシアとローズマリーは、アダムス家の誰も勝てなかったメイメイと互角に戦ったミラの姿に憧れたそうだ。
加えて今回のプリピュアである。二人の戦闘スタイルを変えるには、ぴったりな転機であったわけだ。
「なんと、そういう事じゃったか……」
そう、違和感の正体は得物の有無だった。初めて会った時は一様に剣を手にしていたが、今は二人共が徒手空拳であるのだ。
よもや人様の娘をプリピュアの道に引きずり込んでしまうばかりか、騎士の家系の娘を拳法家の道に目覚めさせてしまったという事態。
「そこまで少女達を魅了するとは侮れぬな、伝説の戦士プリピュアよ!」
ミラは、その一端を担ってしまった事については棚に上げ、全ての責任を伝説の戦士プリピュアに押し付けるのだった。
メイリンを戦力に加えるため、アダムス家にやってきたミラ。しかし、そこで目の当たりにしたのは、三人に増えていたプリピュアだった。
そして、そんなプリピュアの秘密特訓は、もう暫く続くそうだ。
用事があるとはいえ、頑張って訓練に打ち込む少女達の邪魔をするわけにはいかない。そう考えたミラは、メイリンの手が空くのを待つ事にした。
だが、ただ待つばかりではない。
「お主達は、将来どうなりたい?」
「僕は、ヘンリー兄様みたいな立派な騎士になって、お城で働きたいです」
ファビアンは、しっかりとした展望を持っているようだ。ミラが問うと、そんな答えが直ぐに返ってきた。
「俺は……自分の力で大事な人を守れるような、そんな騎士になりたい、です」
ライアンはというと、静かに真っ直ぐとミラを見つめ返しながら言った。溢れる情熱をその目に宿しながら。
「ふむ、素晴らしい意気込みじゃ」
こちらはちゃんと騎士を目指していてよかった。そう一安心したミラは、プリピュア組の特訓が終わるまで二人の自主練に付き合った。
とはいえミラがした事といえば、ただ師範役としてのホーリーナイトを召喚しただけだ。
ホーリーナイトが習得しているのは、全ての騎士流派の祖となるグランツロード家の技だ。
それは、基礎中の基礎でありながら、騎士の最終到達点ともされるもの。人様の家の子供とはいえ、騎士の家ならばこそ決して余計な事にはならないだろう。
そうして技の指導に加え、ホーリーナイト同士による模擬戦も行ってみせたところだ。
気付けば人数が増えていた。城から帰ってきたヘンリーと、更には彼らの父のロイドまでもが見学していたのだ。
特にロイドは、ここまで見事なグランツロードの技の使い手を久しぶりに見たと、かなり興奮気味だった。
そのためか、ロイドにせっつかれたヘンリーとホーリーナイトの試合が行われる流れとなる。
「──いや、もう、降参です……!」
善戦したヘンリーだが、守りには定評のあるホーリーナイトの防御を抜けられず、そのまま体力勝負になり降参と相成った。無尽蔵のスタミナを誇る武具精霊相手に長期戦となったら、こうなってしまうというお手本のような負けっぷりだ。
だが父ロイドが、そんな息子の雪辱を果たした。開始から一分ほど、怒涛の攻めによってホーリーナイトの防御を突き崩したのである。
流石はアルマが騎士の称号を贈った男だ。現役を退いたという話であるが、その剣の冴えは、まだまだ衰えてはいなかった。
だがミラは気付いていた。ロイドはヘンリーを使って、ホーリーナイトの動きを詳しく観察していた事に。
剣の腕は確かだが、なかなかのずる賢さも持ち合わせている。それがロイドという人物のようだ。
そのようにロイドとホーリーナイトの試合で大いに盛り上がったところ、それに触発されたのかメイリンが混ぜてほしいと目を輝かせながらやってきた。
だがそこで食事の準備が整ったと、ヴァネッサが自主練の時間の終わりを告げた。気付けば、アダムス家に来てから既に四時間以上が経過していたのだ。
今日は折角だからという事で、ミラもまた久しぶりにアダムス家にて夕食を共にするのだった。
「さて、今日ここに来たのは他でもない。お主に話があったからでのぅ」
食後、ヴァネッサが子供達をお風呂に連れて行ったところで、ようやくメイリンに用件を伝える時間が出来た。
メイリンに宛てがわれている部屋に戻ったところで、そう切り出したミラは、そのまま頭の上のピー助を床に置く。
すると何やら、また闘技大会出場の件で来たのだと勘違いしたようで、「わ、わたし、誰にも気づかれていないヨ!?」などと弁明するメイリン。
「いやいや、今回はそちらの話ではない。じゃが、まずはこちらからいこうか」
話の内容は『イラ・ムエルテ』のボスを攻略する件についてだが、その前に一つと、ミラはピー助に呼びかけた。「待たせたのぅ。もう来てよいぞー」と。
その数秒後にピー助が輝き、そのままカグラと入れ替わった。
「メイリンちゃん! 久し……ぶ……り?」
さあ、感動の再会だ。といった勢いで第一声を上げたカグラだったが、直後にその勢いは、みるみる失われていった。
原因は、メイリンの格好だ。今の姿は、当時と似ても似つかないプリピュアスタイルである。メイリンという人物をよく知るカグラであっても、いや、カグラだからこそ、受けた印象の差は大きい。
ただその逆は、まったく問題なかった。
「あ、カグラお姉ちゃんヨ! 凄く久しぶりネ! 会えて嬉しいヨー!」
困惑するカグラをよそに、それはもう笑顔を咲かせたメイリンは、そのままカグラに飛びついた。
何かとカグラが構っていた事もあってか、メイリンはカグラを姉のように慕っていた。そしてカグラもまた、その反応と行動で、このプリピュアが間違いなくメイリンであると理解したようだ。
「久しぶり、メイリンちゃん!」
ひしと抱き合い、その再会を喜ぶ二人。そしてミラもまた二人を見て、よかったよかったと微笑む。
ただ、そんな仲良しシーンも束の間。
「ところでメイリンちゃん。何でそんな恰好をしているの?」
そんなカグラの質問によって、状況が一変した。
「爺様に言われたヨ。プリピュアにならないと闘技大会に出られないネ」
メイリンが口にした理由は、確かにその通りである。けれど、諸事情云々といった細かいところが完全に抜け落ちているため、その言葉だけでは足りないどころか、あらぬ誤解を与えかねないと言わざるを得なかった。
「お爺ちゃん、どういう事?」
案の定と言うべきか。カグラには、まったく別の意味として伝わったようだ。振り返ったカグラの目は、それこそ路傍に転がる排泄物でも見るかのようである。
「うむ、そうじゃろうな! 今の言い方では、そうなるじゃろうな! よいか、まずはその式符を下ろして、しかとわしの話を聞くのじゃぞ! 今のは明らかに、よくある誤解が生まれたパターンじゃ!」
こういった展開は、お約束としてよく知っているはずだ。そのように、今にも手が出そうな雰囲気のカグラを説得するミラは、身の潔白を示すように両手を上げながら、メイリンがプリピュアになった経緯を必死に説明した。
「──というわけで、むしろわしは被害者といっても過言ではない。真犯人は、ソロモンとラストラーダの両名じゃ!」
闘技大会にてメイリンを変装させる理由。そして何よりも、その衣装デザインを考案したラストラーダと、そのデザインでゴーサインを出したソロモンこそがこうなった元凶だと語ったミラは、自分は知らずに運ばされたのだと被害者面で告げた。
「……ふーん、それで、これ、ねぇ……」
誤解は一応解けたのだろう、カグラから溢れ出していた殺気は収まった。けれどその視線は、まだ冷たいままだ。理由はどうあれ、可愛いメイリンがバカな大人の趣味に付き合わされているようなものというのが、カグラの印象であるからだ。
変装ならば他にも色々あっただろう。カグラは、そんなごもっともな意見を口にする。
「まあ、そう、じゃな……」
確かにプリピュアでなくともいい。そう同意しつつ、ミラは視線を逸らす。それこそファジーダイスのように仮面でもつけてしまえば十分だ。
だがプリピュアになってしまったのは、明らかに愉快な大人の思惑が混じったからだろう。
「相変わらず、何考えているんだか……」
男が考える事は、どうしてこうも極端なのかと呆れ顔のカグラ。
ただ、当の本人はというと一切気にした様子がなかった。
「あ、そうネ。見てほしいヨ、カグラお姉ちゃん──」
何やらそんな事を言ったかと思えば、メイリンは道場で練習していたプリピュアのポーズを決め始めたではないか。
「──どうだったネ? おかしくなかったカ? わたし、プリピュアみたいだったカ?」
一通りやり終えたところで、きらきらとした無垢な笑顔でカグラに問うメイリン。
そう、カグラがどう思おうと、メイリンはプリピュアに変身した今を大いに楽しんでいた。
きっとそこには、前にミラが助言した、よりプリピュアっぽくなれば正体もバレにくくなる、という言葉を実践しているのもあるのだろう。
ただ、子供の頃に憧れたプリピュアを今度は自分自身でといった気持ちも、そこにはありそうだ。
「……もう、メイリンちゃんったら」
下衆な大人の趣味に付き合わされていながらも、無邪気な笑顔をみせるメイリン。
カグラは、そんな彼女の姿にほだされたようだ。しかも、それどころか「ピュアクリムゾンの場合は、こう、してからの……こうよ!」などと、完璧な決めポーズをしてみせたではないか。
何だかんだ言ってカグラにも、プリピュアに憧れた子供時代があったのだ。しかも、随分とのめり込んでいたらしい。続けてメイリンが問えば、決めポーズばかりかセリフまでも完璧に再現してみせた。
「……カグラでも、そんな可愛いらしい時期があったのじゃな」
きっと今、目の前で繰り広げられている光景が全て小さな子供のものであったなら、それはもう微笑ましいものになっていたであろう。そう夢想するミラは、既にプリピュア世代は抜けたであろう二人が、それでも本気で挑むプリピュアゴッコを、祖父のような眼差しで温かく見守ったのだった。
数日前の事です。
何やらとんでもないチラシがポストに入っていました!
それは、ドミノピザのチラシです!
最初は、ちょくちょくくるいつものチラシだと思っていました。
しかし!
そこに付いていたクーポンがとんでもない代物だったのです!!!
どんなクーポンかというと……
Mサイズピザ全品が一枚当たり1000円になるというものです!
一番高いMサイズは、デリバリーでの2800円……
つまり、一枚1800円引きという半額すら超えたクーポンだったのです!
ここまでのクーポンは見た事がありません!
そしてこのクーポンは……今日まで……!
しかし……しかし今は……あろう事か全力ダイエット中!!!
ちっくしょおおおおおおおおおおおおお!!!
70台になったら……もう一度このクーポンがきてくれますように!!!!!!




