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370 新技、その名は……

三百七十



(闘気を纏い始めたようじゃな……)


 戦士クラスの者達が扱う闘気という力。それを高め練り上げる事で、多くの《闘術》という技を繰り出す事が出来る。

 また、それを全身に巡らせる事によって基礎能力の強化も可能とする。

 ユーグストは、相当な使い手のようだ。目に見えるほどに濃い闘気が、彼の身体を覆っていく。

 闘気の鎧で完全武装した今の彼には、もはや先程のような跳び蹴りは通じないであろう。


「可愛がるのは、その両手両足を砕いてからにしてやろう」


 ユーグストから滲み出る力は、圧力となって見る者を委縮させた。

 遊女達はその場に座り込み震える。ラノアもまた気丈に振る舞って見えるが、その目には僅かな焦りが浮かんでいた。

 彼女達の反応からして、ユーグストが戦うところを見せた事は初めてなのだと窺える。

 けれど相対するミラはといえば、どこ吹く風とばかりに薄らとした笑みを湛えていた。


(よいぞよいぞ、術の効果が半減という事は、やり過ぎになってしまう術も今は試せるという事じゃな……!)


 ミラにとって先程までのユーグストは、それなりの使い手といったところであった。

 だが闘気を纏い、完全な戦闘態勢に入った彼は違う。

 先程まででも十分な頑丈さであったが、闘気を纏ったのならばそれ以上は確実だ。そうともなれば、今の彼は絶好の実験台になったというわけだ。

 思わぬところで見つかった実験チャンスを前に、ミラの調子は絶好調にまで上昇していた。


「お主こそ、砕けぬように気を付けるのじゃぞ。召喚術の未来のためにものぅ!」


 そう口にしたミラの表情はマッドに染まっており、ユーグストとはまた違う悪魔的な色を湛え始める。


「貴様には、絶望から教えてやる」


「お主には、希望の糧となってもらおう」


 双方相対し睨み合ったところで、戦いの幕が開いた。

 即座に動いたのは、ユーグストだ。闘気によって底上げされた身体能力は超人的であり、速さも力も上級冒険者のそれを上回るほどだった。

 そんな身体能力から繰り出される技は、もはや一撃必殺といっても過言ではない。

 だがミラは、何度も打ち出されるユーグストの攻撃を、塔盾の部分召喚で防いでいた。

 とはいえ術の効果が半減しているため、強度も脆くなっている。よってユーグストの拳で砕かれてしまうが、問題はなかった。

 ミラは防御ではなく、目隠し代わりとして使っているからだ。ユーグストの視界から消え、素早く回り込み反撃するのである。

 とはいえ相手も、そう容易くは決めさせてくれない。よほど勘がいいのか、ミラのすばしっこさに遅れて反応しつつも、全ての攻撃を防ぎ躱していた。

 また、そればかりか、徐々に対応し始めカウンターまで狙って来るではないか。

 しかも、その精度は徐々に上がり、僅かながらミラの服に引っかかった。


(武闘家としては、かなりのものじゃな。もう同じような手は通じぬか──)


 ミニスカ浴衣は、襟の部分から大きく引き裂かれ、もはや肌を隠す事など出来ない状態になってしまった。

 けれどミラは、まったく意に介した素振りもなく、そのままの格好で構え直す。


(──じゃが、メイリンほどではないのぅ)


 十数回と拳を交わしたミラは、ユーグストをそのように評価した。

 ただそれは、同じ格闘戦を得意とするメイリンとの場数が非常に多かったミラだからこその判断基準だった。

 真っ向勝負から搦め手まで、あらゆる戦法を得意とするメイリンを知っていると、機動性と剛力だけのユーグストは対処し易い相手であった。

 ゆえにミラは、機動力を活かして必殺を放つユーグストの一撃を、幾度となく躱し、隙あらば反撃していた。

 とはいえユーグストも、簡単には終わらない。神出鬼没の黒剣を叩き折るばかりか、その腕で斬撃を受け止めてみせたのだ。

 術の効果が半減しているとはいえ、それでも黒剣の切れ味は本物である。それを腕だけで受け止められるほどに、彼が纏う闘気の鎧は凄まじいという事だ。


「まったく、ちょこまかと。だが、そろそろその動きにも慣れてきたところだ」


 何枚目になるかわからない塔盾を蹴り砕いたユーグストは、そんな言葉を口にした直後に振り返り右腕を突き出した。

 塔盾の裏からユーグストの死角に潜り込んだミラは、瞬間的にその場から飛び退く。すると元いた場所を中心にして、周囲のものが吹き飛んだ。


「おおっと、やるではないか」


 戦士クラスの技の中でも上位にあたる《遠当て》の一種だ。その威力と練度は、決して侮れないものがあった。


「避けたか。まあいい、次は確実に決めてやろう」


 構え直すユーグストの表情には、冷静さが戻っていた。激しい闘気の流動によって基礎代謝が高まり、精力増強剤の成分が自浄作用で消えてしまったようだ。

 そのため戦闘開始前よりも、動きが読み辛くなってきた。


「次か。ならばわしも、次で決めるとしようかのぅ」


 売り言葉に買い言葉とでもいうのか。ミラは、挑発するように笑って見せる。

 ユーグストは、そのあからさまな挑発を鼻で笑って受け流し、ゆっくりと両足に力を込めていった。

 ミラはというと、注意深くユーグストの動きを見据えつつ、六体ものホーリーナイトを召喚して前衛に立たせる。その威圧感と存在感は相当なものだ。

 じっと静かに睨み合う、ミラとユーグスト。

 と、その均衡は刹那の後に破られた。ユーグストが一切の拍子も置かずに跳んだのだ。

 まるで初動の部分がコマ落ちしたかのように見える力強い踏み込み。その爆発的な加速によって、彼の身体はそのものが砲弾と化した。

 対するは、ホーリーナイトが六体。それは反射にも近い速度で、ユーグストの前に壁となって立ち塞がった。

 今回は部分召喚ではなく、本体込みで六枚の塔盾だ。半減しているとはいえ、六体揃ったその防御力は鉄壁と言っても過言ではない。上級の魔獣であろうと容易く突破出来はしないものだ。

 しかし、ここで全力をみせたユーグストの突破力は、予想をずっと上回るほどのものだった。

 ユーグストが突っ込んだ途端に、六体のホーリーナイトが弾け飛んでしまったのである。

 どしりと構えるホーリーナイトが六体ともあっさりと破られる。それはまるで、暴走特急にでも轢かれたかのような光景であり、だからこそユーグストの全力であるとわかる技でもあった。


(よもや足止めにすらならぬか)


 思った以上の威力に驚くミラだったが、そのまま衝突される前に一枚の塔盾を彼我の間に召喚した。目隠し代わりの一枚だ。


「小賢しい!」


 その塔盾を前に右手を振り絞ったユーグスト。そしてその拳を塔盾に叩きつけようとした直後であった。


「いや、そこだ!」


 塔盾の直前で手を止めたかと思えば、素早くその身を翻し、別の方向に向けてその拳を突き出したのだ。

 途端に闘気が膨れ上がり、拳から破壊の奔流が撃ち出されると、これまでにないほどの震動と轟音が響いた。


「手応え、アリだな」


 ユーグストは、口元を歪めて笑った。確実に直撃したと。

 その判断は、武術家としての感覚と経験──などではなく、音だった。響く音の中に壁が砕ける以外も交じっていた事を、ユーグストは聞き分けていたのだ。

 しかし、別の音だけしか聞いていなかったからこそ僅かに反応が遅れた。この時、音の正体が何だったのかが重要だったのだ。


「うむ、よい一撃じゃったのぅ!」


 そんな声と共に現れたミラは、ユーグストの背にそっと手を添えながら称賛の言葉を送る。速さも威力も反応速度も素晴らしかったと。

 ミラは、塔盾の裏から動いてはいなかった。これまで見せてきた通り、目隠し代わりとする事で、どこかに移動したと見せかけたのである。


「なん──!?」


 彼にとって、それは有り得ない方向から聞こえてきた声だったのだろう。一転して迫った危機感に、その顔を驚きと焦りに染めて、その場から飛び退こうとする。

 けれど、その反応は僅かに遅かった。


【武装召喚:プリズンフレーム】


 ミラが行使したその召喚術は、これまでとはまた違っていた。それは、自分ではなく他者に武具精霊の鎧を与えるためのものだったのだ。

 そう、ミラはユーグストに、とっておきの鎧を与えたのである。

 だが今回は、普段の武装召喚とは違う部分が一つあった。


「ぐっ……なんだ、これは……!? 動け、ない、ぞ……!」


 それは、関節部の可動域をなくした鎧だった。加えて装甲も最小限であり、召喚術に付属している防護効果も解除したという特別製だ。


「ふむ……予想以上に効果的なようじゃな」


 もがくユーグストの声を無視するようにして、ミラは術の出来栄えをじっくりと観察していた。

 まるで拘束具のような鎧であるため、見た目は少々不格好である。けれど、拘束するためだけに調整したそれは、ユーグストの爆発的な膂力をもってしても、即座に破壊される事はないようだ。


「後は、召喚範囲内で可能になれば言う事なしじゃがのぅ」


 効果は抜群だと、その完成度を喜んだミラは、だからこそ一つの点が残念だと呟く。

 武装召喚は、自分に対してのみの術だった。ゆえに他者に着せるとなると、先程のように触れていなくてはいけないのだ。

 遠く離れた場所から拘束、といった使い方は出来ないというわけである。


「いったいどうやってそこに……確かに音が聞こえたはずだ……!」


 もがけども動けないといった様子のユーグストは、苦し紛れな声で、その疑問を口にした。

 音。ユーグストは、確かに聞こえた音から、ミラの動きを読んでいた。

 何度と打ち合う中で、彼はミラが塔盾の裏側から消える際の音に気付いていたのだ。

 消えたように移動する《縮地》という仙術士の技能。高速で移動するだけあって、当然入りと出の部分で足音が発生する。

 ユーグストは、その中でも出の部分の音が聞こえてくる方向に注意して、ミラがどこに移動したのかを把握する事に成功していた。それが最初に《遠当て》を放った時だ。

 そして見事に予想を的中させた彼は、この最後の場面でも確かに足音を捉えていた。そして《遠当て》の手応えも感じていた。

 だがミラは、思わぬ場所から現れた。

 だからこそユーグストは、あまりにも不可解だと声を上げる。それは言い訳と呼べるものですらないが、自信があったからこそ彼は理由が気になるようだ。


「ふむ、わざわざ教える義理もないのじゃが……特別に聞かせてやるとしよう──」


 どのような戦術を立てたのか。それを相手に教えてやる必要など無い。

 だがミラは、ちらりと遊女達に目をやってから、そう答えた。

 彼女達は、トップクラスの遊女だ。きっと名うての冒険者達との繋がりもあるだろう。ともなれば、きっと今回の大一番を話題にしてくれるに違いない。

 そう考えたミラは、召喚術にはこんな使い方もあるのだという点を特に強調して語った。


「あの時、お主が音に気付いたという事に、わしも気付いたのじゃよ。というより、あれを見破るのは音が基本じゃからな──」


 そうユーグストに……というよりは遊女達に向かって話すミラ。

 ミラ達の中で《縮地》を見破るために音を頼りにするのは、当たり前の事だった。

 そして、だからこそ様々なフェイントというのも充実していた。


「わしは、ただ、こうして足音を鳴らしただけじゃ。後はタイミングを合わせて──」


 塔盾の裏でミラが行ったのは、《縮地》の入りと同じ足音を立てただけだ。そして、次が召喚術の応用が利くところだと口調を強めて説明し、それを再現してみせた。


「今の音は……だがどういう事だ……」


 ザッ──という音が部屋の隅の方から小さく響いた。けれどそこには何もなく、ユーグストは困惑の色を強める。

 また遊女達も、二人のやり取りにつられるようにして、そちらを向いては、二度三度と何もない場所から響いてくる音に不安げな表情を浮かべていった。


「答えは、これじゃ」


 ミラは種明かしとばかりに、その正体を明かした。

 それは、ダークナイトであった。そう、ミラはステルス状態で待機させていたダークナイトを使い、足音を偽装していたのだ。

 入りの足音の後、出の足音としてダークナイトを利用する。結果ユーグストは、出の足音を狙いダークナイトを撃破したというわけだ。

 彼が感じた手応えは、ミラではなくダークナイトだった。そして、その違いに気付くより早く、ミラの手によって拘束された次第である。


「まさか、いつの間に……──いや、そうか、あの時、白い奴を六体召喚した時に仕込んでいた。そうだろう?」


 いったい、ステルスのダークナイトは、いつからそこにいたのか。ユーグストはその答えを探り、そして気付く。

 術を使えば警報が鳴るこの部屋で、こっそりとそれを仕込むのは難しい。となればそれが可能なのは、一つの術に反応している最中に、もう一つを紛れ込ませるくらいだ。


「うむ、その通り。召喚術は召喚地点をずらす事で、正面に注意を向けさせたまま、側面からの奇襲を狙ったりも出来るのじゃよ!」


 やはり、ユーグストというよりは遊女達に向けて解説するミラ。

 ホーリーナイト六体を召喚したのは、ユーグストの攻撃を防ぐためではなく、その後の作戦を実行するための布石であった。

 それでいて、ホーリーナイト六体の威圧感といったら相当である。だからこそ、誰の注意もそちらに集まる。

 と、そのようにミラが召喚術の素晴らしさを語っていたところ、不意にユーグストがくつくつと笑い出した。


「なるほど、そういう使い方があったのか。ああ、わかった。覚えたぞ。これでもう二度目はない」


 苦悶した態度から一転、突如として不敵な笑みを浮かべたユーグストは、「ご高説どうも。なら、次は俺の番だな」と続けて口にした。

 直後、ユーグストから一気に闘気が溢れ出した。なんとこれまでよりも更に濃厚な闘気が、ユーグストを包み込んでいったのだ。


「この程度で、俺を捕らえたつもりか? この程度で俺を捕まえられると、そう思っていたのか? なら、考えが甘いな!」


 闘気の扱いにおいて、ユーグストは天才的だった。《プリズンフレーム》は強固な拘束具だが、全ての闘気を筋力へと変換したユーグストは、その圧倒的な力でもって強引に拘束を解こうともがき始める。


「ほぅ……よもやこれほどとは」


 その膂力は驚くべきものであり、拘束具に亀裂が入り始めていた。あと十秒ほどもすれば、彼は拘束を破ってしまう事だろう。

 それほどまでに、ユーグストが隠していた力は膨大だった。


「ところで、この術はまだ実験段階でのぅ、まだ名前が決まっておらぬのじゃよ」


 だがミラは至って冷静なまま、そんな事を口にした後、「まあ、一つだけぴったりな候補があるのじゃがな」と笑顔で続け、次の瞬間にその目をマッドな色に染めた。


「アイアンメイデンという名は、どうじゃろう?」


 もう少しで拘束を破れるというところまできたユーグストが目にしたのは、まるで処刑道具かのような大鎚だった。それが中空に、しかも無数に出現したのだ。


「おい……待て──」


 その光景を前に自分の運命を悟ったのか、ユーグストが何かを訴える。だがその声は届かない。

 鳴り止まない防犯装置の警報音。それに交じるのは、ひたすらに鈍器を叩きつけるような衝撃音。それらにかき消されるのは男の声、悶絶するユーグストの悲鳴であり、赦しを乞う声であった。











ケチャップって美味しいですよね。

ウィンナーに唐揚げ、ゆで卵、オムライス他色々と、幅広く使えますよね。


ただ、これまでは特に何も考えず、スーパーで一番お得なケチャップばかり買っていました。

別にケチャップなので、さほど変わりはないだろうと思っていたのです。


しかし!


いやはや、メーカーによって酸味や甘みなどのバランスが結構違うものなのですね。


実は前に思い出の味の一つである、豚のケチャップ炒めを作ったのですが、どうもこれじゃない感があったんですよね。


しかし、これまでのケチャップではなく、カゴメのケチャップで作ってみたところ、

かなり思い出の味に近いものが出来ました!


同じケチャップとはいえ、こうまで変わるものなのか……。

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― 新着の感想 ―
本物の拷問具とか処刑具の精霊って、かなり矢場居性格だと思うな。 仮に本物の拷問具精霊がいたとしてもサディスティックな感じの精霊だろうし、契約して大丈夫なのかな? ユーグストの股間のものは、念入りに潰…
[一言] 攻め手がいくらでもある相手の前で、“拘束を破るためにこれ見よがしに力を籠める”ってバカかな? 武具や家具の人工精霊が居るんだし、拷問具などの人工精霊も居るに違いない。 代用でなしにアイアン…
[一言] この話の流れでケチャップwww ケ血ャップでは?
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