340 サイレント護衛
書籍版12巻発売まで、あと少し!
特典など、詳しくは活動報告の方に……!
三百四十
「お待たせしましたー」
仕事部屋に入ってから一時間とちょっとが経過したところで、イリスが部屋から出てきた。
「ふむ、大丈夫か?」
疲れたのだろうか。少々顔色が悪いと気付き、問いかけるミラ。するとイリスは作り笑顔から一転、「あの人は変態さんですー!」と、それはもう嫌悪感を身体全体に浮かべる。
どうやら、イリスを男嫌いにしたユーグストの作戦は、まだ継続中のようだ。
それはもうエロスな内容の計画を無理矢理教えられたと、イリスはぷんすか憤っていた。だが、それでも仕事は無事に完了したようだ。
「よく頑張ったのぅ。偉い子じゃ」
ミラは、そのような嫌がらせを受けてもなお、しっかりと仕事を完遂するイリスを称賛する。
「……はい!」
見た目は年下のミラだが、こうして褒められた事が嬉しかったのか、イリスは照れたように笑った。
そのようなやり取りの後、二人はリビングルームにやってきた。今回の仕事の結果について、ここにある通信装置を使い報告するためだ。
『お疲れ様、イリス。大丈夫だった?』
報告相手はアルマのようだ。コールして直ぐに出たアルマは、そう心配そうに声をかける。
対してイリスはというと、ちらりとミラに目をやってから「はい、ミラさんがいるから大丈夫ですー!」と元気に答えた。
変態的な嫌がらせを受けながらも毅然とした笑みを湛えるイリスは、そのままはきはきと今日の結果を報告していく。
その内容は、目ぼしい動きはなかったというものだった。
やはり、どのような企みをしたところでイリスに情報が流れてしまう状況に、相当苦しんでいるようだ。
今のユーグストは、これまで築き上げてきた経験や人脈に頼る事が出来ず、切り拓いてきた裏通商路や切り札を使えずにいる状態にあった。
彼でなければ動かせないものや、彼でなければわからないものが、まだ隠されていてもだ。
それを使おうと画策したら最後、その情報をイリスが全て読み取って、ニルヴァーナが全てを潰しに動く事になる。
ゆえにユーグストは、切り札がありながらも嫌がらせ程度しか出来ないわけだ。
得られる情報はなくとも牽制になる。それが今のイリスの主な仕事だった。
『ありがとう、イリス。それじゃあ今日はゆっくり休んでね。あと、ミラちゃんもありがとう。イリスをよろしくね』
イリスの報告が終わると、アルマからはそんな言葉が返ってきた。その声にはイリスを労わる感情と、どこか安心したような気持ちも込められていた。
報告が終わったのは、夜の十時を過ぎた時間だった。
あとは寝るだけといったところだが、巫女の仕事がある日は、いつもこのタイミングで風呂に入るそうだ。色々とさっぱり洗い流すために。
「ミラさんも、一緒に入りましょー!」
イリスは、実にキラキラとした笑顔で誘ってきた。実際ここにある浴槽は、二人どころか四、五人はまとめて入れるだけの広さがある。むしろ一緒に入ってしまった方が効率的ともいえた。
だが、ここでミラは首を横に振る。
「あー、いや……わしは少しやる事があるのでな。後で入らせてもらおう」
普段ならば二つ返事で「入る」と答えたところだ。しかし今回は、そうしなかった。
その理由は、単純明快。ここには、ミラの正体を知る者が多過ぎるからである。
アルマ然り、エスメラルダ然り。また様子からして、十二使徒の全員がミラをダンブルフであると把握していると思われた。
今はミラという美少女であるため、イリスと一緒に風呂に入ったところで見た目の問題は皆無だ。
だがアルマ達の目には、どう映るか。今の姿であるのをいい事に、年頃の少女の風呂を堂々と覗く変態として見られやしないか。そんな懸念がミラにはあった。
ゆえに魅惑的な誘いを受けながらも、歯を食いしばって断ったのだ。
「残念ですー」
イリスのにこやかな笑顔がしょんぼりと沈む。
ずっとこの部屋で暮らし、ほとんどの時間を独りで過ごしてきた事もあって、誰かと仲良くお風呂というのにも憧れていたのだ。
ゆえに、すぐさま作り笑いを浮かべたイリスの表情には、並々ならぬ哀愁が漂っていた。
「あー、ほれ、あれじゃ! 用事は今日中にでも終わるのでな。明日はきっと大丈夫じゃよ!」
独りの悲しさを耐える事には慣れた。そんな感情がありありと伝わってくるイリスを前にして、いたたまれなくなったミラは思わずそう言ってしまった。
誘惑には耐えきったが、良心の呵責には滅法脆いのだ。
とはいえ、その言葉のお陰かイリスの笑顔には光が戻る。「約束ですからねー」と、それはもう嬉しそうに浴場へとスキップして行った。
(さて、被害を最小限に抑えるには、どうすればよいじゃろうか……)
イリスと一緒にお風呂に入っている事が知られてしまった時を想定して、その言い訳を考えるミラ。
護衛をするにあたり、その方が都合がいいという、あくまで仕事に徹した言い訳。
最初は断ったが、とても落ち込まれてしまったので仕方がなくという、良心に訴える言い訳。
娘と風呂に入るようなものだろうと開き直る、一切意識していませんでしたとアピールする言い訳。
ミラは、あーでもないこーでもないと考えを巡らせる。
と、その途中で、ミラの脳裏にマリアナの顔が浮かんだ。
このような場所で他の女の子と二人きりになり、なおかつ風呂まで一緒だなどと知られたら、どう言い訳すればいいのか。
結果、ミラの頭は限界を超え、考えるのを止めた。
もう、どうにでもなれとばかりに笑い飛ばし、気を紛らわす意味も兼ねて任務に没頭する。
「一先ずはー、このベランダ部分じゃなー」
イリスの誘いを断る際に言った、やる事があるという言葉。実は嘘ではなかったりする。
この部屋の防犯を、より完璧なものにするための策が、ミラの頭にはあったのだ。
ミラは何もかも忘れるかのようにして、巫女の部屋を駆け回った。
アルマから受け取った書類には、この部屋の設計図も含まれていた。それも確認していたミラは、より防犯を完全なものにする策を実行していく。
まずは庭園部の各所に、ダークナイトを設置。侵入者への牽制とする。
次は、要所の防衛だ。この部屋の一番の要所といえば、やはり居住部。
だが庭園部と居住部の境目は、完全に吹き抜けと同じ構造になっている。ゆえに境目まで侵攻出来れば、そのまま簡単に居住部まで到達出来てしまう。
だからこそミラは、そこに見張りを置く事にした。一階から四階までの境目となるベランダに、ホーリーナイトを召喚したのだ。
しかも、ただのホーリーナイトではない。静寂の精霊ワーズランベールの力を精霊王の加護で融合させた、光学迷彩仕様のホーリーナイトだ。
「うむ、これならば邪魔にならぬじゃろう」
庭園側から居住部を眺め、問題ないと確認するミラ。
今回、ホーリーナイトを光学迷彩仕様にしたのには、二つの理由がある。
一つは、イリスへの配慮だ。
ホーリーナイトに性別など無いが、見た目の威圧感といったら屈強な男さながらである。それを男性恐怖症のイリスが、どう思うか。
もう一つは、秘密にするためだ。
イリスの能力によって、この見張りの存在が敵側に伝わってしまえば、その防犯効果も半減というもの。
ゆえにイリスが入浴し、一人になった今だからこそ、こっそり護衛を強化しているわけだ。
そのようにして足りないと思った部分を、召喚術で存分に補ったミラ。
とはいえ、この巫女の部屋がある場所は、かの大国ニルヴァーナの王城である。当然と言うべきか、警備は極めて厳重だ。
その深部にあり、なおかつ、アルマが特別に用意した防犯機器がふんだんに採用されているのが、この部屋。
超一流の工作員ですら侵入出来るかどうかといった難易度を誇る鉄壁ぶりだった。
そこに加えて、ミラが追加した警備網だ。もはや、つけ入る隙は無いといってもいいだろう。
「まずは、これで様子見じゃな」
どこから侵入してこようとも、イリスには指一本触れさせない。ミラはそう意気込みながら、寝室にやってきた。最後の仕上げのためだ。
寝ている時ほど無防備な事はない。それは、用を足している時以上だ。
だからこそミラは、この寝室に特別な護衛を召喚した。
実力はAランクにも匹敵し、二十四時間勤務が可能で休憩の必要もない、最強の不寝番。
そう、灰騎士だ。しかも、こちらもまた光学迷彩仕様である。
「うむ、これで完璧じゃろう!」
そこにいるとはわからず、けれど確かにそこにいる。これでもう死角はない。
そう満足したミラは、続き庭園に赴いた。ただその理由は、防犯対策のためとは違った。次にミラがした行動は、そこにワゴンを出すというものだった。
その目的は、ワゴンに備え付けられている通信装置だ。そう、どういう状況か気になっているであろうソロモンに報告するのだ。
『はい、こちらアルカイト城、ソロモン』
「あー、わしじゃー」
『ああ、君か。で、どうだった? 彼女は見つけられたかい?』
「それはもう、わしの勘が冴え渡ってのぅ──」
いつも通りなやりとりから始まったソロモンへの報告。
ミラはアルマ達の協力もあって、無事にメイリンを発見出来たと告げる。そして彼女がニルヴァーナの騎士家系であるアダムス家で厄介になっているという点と、そこのメイドが変装の手伝いを約束してくれた事も話した。
「──というわけで、もう心配は要らぬはずじゃ。予選も含めて、あの娘が出場する試合は全て知らせてくれるようにも頼んでおいたのでな。その日になったら、わしも確認しよう」
メイリンが出場する試合は全て、アルマに頼み事前に知らせてくれる事になっていた。メイドと目視の二重確認だ。余程の出来事でも無い限り、メイリンだと特定する口実を与える事態にはならないはずだ。
「ああ、それとじゃな──」
メイリンの件を伝え終えた後、ミラは巫女の護衛についても話した。アルマとエスメラルダに頼まれて、今日から巫女の護衛をする事になったと。
するとソロモンの返事は、『──うんうん、やっぱりそれが一番だよね』というものだった。
何でもソロモンは、先日にアルマと通信装置で話していたそうだ。男性恐怖症になったイリスの護衛をどうしようかと。
そこでソロモンは、今ある選択肢の中ではミラが最適だと提案したそうだ。
そう、現状はソロモンの入れ知恵による結果であったのだ。
『護衛、頑張ってね。巫女さんと仲良くなっておけば、いい事あるかもよ』
「まったく、お主という奴は……」
巫女との繋がりが出来れば、いざという時にその力を借りられるかもしれない。そんな打算が見え隠れするソロモンの言葉に、ミラは呆れたように苦笑した。
そうこうしてソロモンへの報告を終えたミラは、さっさとワゴンを片付けて部屋に戻るのだった。
最近、ネットでとあるお得情報を得たんです。
それは、サブウェイで1個買うと2個目が100円になるという素晴らしいお得情報です!
前々から気になっていましたが、やはり高級品という事もあって足が向かなかったのですが、
これを機に、ちょっと贅沢してみちゃおうかと思いまして、近くにサブウェイはあるかどうかを調べました。
……ありました!
徒歩圏内に店舗を発見。これはちょっと行ってみようと、ホームページで色々と確認します。
何やら、注文の仕方がややこしいみたいですね……。
パンを選んだりなんだりとあるようです。
ともあれ、一通り確認し終えたところでした。
念のためにと、キャンペーン内容を再確認するべく調べたところ……
何やら、今月の初めとかにやってたものだったんですね。
知ったのは、ほんの数日前の事。
もう、とっくに終わっていました……。
来年もあったりするのかなぁ。




