322 アダムス家
三百二十二
国のトップであるアルマと、将軍位であるエスメラルダがいるため、どのような閲覧制限も無効。よって軍の情報だろうと調べれば幾らでも出てくる。
「これまた、立派な男じゃのぅ」
そこにはアダムスの遍歴なども網羅されていた。
騎士隊の隊長である彼のフルネームは、ヘンリー・アダムス。その遍歴は、騎士として実に優秀であった。
ニルヴァーナで一番の騎士学校を次席で卒業。軍属となった後、剣技大会で準優勝、馬上槍試合では団体戦で優勝し、他にも勇猛さを証明するような賞を幾つもとっている。隊長という立場に恥じぬ、確かな実力の持ち主のようだ。
「あらあら、アウグスト君がいたところの隊長さんだったのね」
エスメラルダは、偶然とばかりに声をあげた。
大国であるニルヴァーナには大きな三つの軍がある。それらの軍には、それぞれ四つの騎士団があり、その騎士団は更に三十二の隊によって編成されている。
そしてヘンリーの所属は、陸軍重装兵団第十六騎士隊だ。なんでも数年程前にエスメラルダ直属の部隊に加わったアウグストなる人物は、この十六騎士隊の元隊長であったそうだ。
つまりヘンリーは、アウグストが抜けた後に隊長となったわけだ。
「あ、そっかそっか。あのアダムスさんちのお子さんかぁ」
資料を確認していたところで、アルマはふと思い出したようにそう口にした。彼女が言うにアダムス家は、二十五年程前に騎士の称号を贈った者の子息だそうだ。
現実となったこの世界に降り立ってから、まだ五年。魔物の対策やらで忙しかった頃に活躍した一人が、ヘンリー・アダムスの父、ロイド・アダムスだという。
そんなロイドの才能を、しっかり引き継いでいるのだなと、アルマはどこか嬉しそうに微笑んだ。
そうして色々と調べた結果、後輩の女性が惚れるのも当然だなという結論に至ったミラ達。なお、後に精霊王から聞いた事だが、その裏ではマーテルもまたテンションが上がりっぱなしで大変だったそうだ。
色々と人柄を知った事もあり、ヘンリー・アダムスに会うのが少し楽しみになっていたミラ達。そんな三人の前に当の本人がやって来たのは、調べ尽くしてからほんの二分後の事だった。
「お呼びでしょうか、アルマ様、エスメラルダ様。ヘンリー・アダムス、参上致しました」
扉がノックされた後、聞こえてきた声は、若干緊張の色が浮かんでいた。だが、この二人からの呼び出しともなれば、それも仕方がないというものだ。
「ご苦労様。お入りなさい」
エスメラルダが告げたところで、いよいよヘンリーが「失礼いたします」と顔を出した。
「如何なされましたか。何なりとお申し付けくださいませ」
流麗な所作で、アルマの前に跪くヘンリー。なぜ呼び出されたのかわからず不安であるはずだが、それでいて何でもこいとばかりに堂々としている。来歴通りに実直な騎士そのものだ。
ただ、そんなヘンリーを見て、ミラがまず最初に感じたのは驚きだった。
後輩が、そっと思いを寄せる先輩騎士であり、更に騎士の家系の生まれで、騎士らしく育ち、騎士としての才能に恵まれ、しかも騎士隊の隊長であるヘンリー・アダムス。
そんな、ザ・騎士といった要素をこれでもかと詰め込んだような彼であるがゆえに、ミラの脳内では自然と一つの騎士像が出来上がっていた。どことなくいけ好かない、だが女性達の心を掴むイケメン騎士の姿が。
しかし、現実は違った。やってきたヘンリーは、そんなイメージとは大きく違っていたのだ。
跪き畏まるヘンリー。そんな姿勢でありながら、顔の位置は立っているミラとさほど変わらぬほどの高さがあった。そう、彼は二メートルを超える巨漢だったのだ。それに加え非常にガタイも良く筋骨隆々で、特大剣も片手で振り回せそうなほどだ。
そして顔の方であるが、騎士と聞いてイメージするイケメンとは大きく違った。いうなれば、心の澄んだ傭兵や海賊といったタイプの顔。少々、男臭さが強く、そんな彼を一言で表すとしたら、熊のような男、となるだろう。
(なんとも、俄然応援したくなってきたのぅ!)
先程までとは一転。女性にきゃーきゃー言われるタイプではない彼を目にしたミラは、マーテルほどではないにしろ、後輩とヘンリーの恋の行方が気になってきていた。
「ちょいと訊いてもよいじゃろうか──」
きっと後輩の女性は、彼の見た目ではなく人柄などに惚れたのだろう。ミラはそんな失礼な事を考えながら、アダムス家で厄介になっている『メイメイ』について、ヘンリーに問うのだった。
「流石に、でっかいのぅ」
ヘンリーと出会ってから一時間後。ミラは今、アダムス家の前にいた。歴史はまだ浅くとも騎士の家系というだけあって、その屋敷は立派なものだ。大きな門の先には見事に整えられた庭があり、奥には堂々とした屋敷が鎮座していた。
「こちらでございます。この時間ならば、きっとまだ妹達の相手をしてくださっている頃かと」
そんな屋敷を案内してくれているのは、ヘンリーだった。話によると彼には年の離れた弟と妹がいるそうだ。
弟と妹が二人ずつ。そして四人とも実にやんちゃで困っていると楽しげに語った。
王城にて、アダムス家に居候しているメイメイなる人物は捜している人物かもしれない、と話したミラ。更に幾つか特徴を挙げたところ、それらがピタリと当てはまった。
これはきっと間違いないというアルマのお言葉により、ミラはこうしてヘンリーと共にアダムス家を訪れる事と相成ったわけだ。
「ほぅ、子守をしておるのか。想像もつかぬな……」
拳で語るメイリンが子守など出来るのだろうかと苦笑するミラは、もしかしたら極めて似ている別人なのではないか、などと考え始める。
ただ、それもあと少しで判明する事だ。玄関から真っ直ぐと奥に向かっていくヘンリーに続き、ミラも奥へと足を踏み入れていった。
「やはり、まだやっているようですね」
案内された扉の向こうからは、何やら激しい音が響いてくる。加えて気合の入った声やら、何かを叩き付けるような衝撃音まで聞こえるではないか。
子守で、どうしてこんな音がするのか。そうミラが困惑する中、ヘンリーが扉を開いた。
「おお、なるほどのぅ。流石は騎士の家じゃな」
扉の向こうからは、音と同時に熱気が溢れてきた。そしてミラは、その先にあった光景を目にして納得したように呟く。
メイメイと名乗る人物が妹達の相手をしているその場所とは、訓練場であったのだ。つまり子守と思っていたそれは、稽古だったわけである。
(ふむ……あの服に見覚えはないが、あの姿……そして動きからして、やはりメイリンで間違いなさそうじゃな!)
土を圧し固めた床と、石造りの壁に天井。そして片面は、庭が一望出来る大きな窓。今は広く開け放たれており、涼やかな風が流れ込んでいる。
面積以上に広く感じる訓練場の真ん中。そこには、五人の子供達の姿があった。
そのうちの一人。チャイナ服のような特徴のある服装、天真爛漫そうな顔、そして素人目にもわかる身のこなしの少女を目にした瞬間にミラは確信した。五人の中で、一番の年長だとわかる者こそが、メイリンその人だと。
見たところメイリンは、一対四で乱戦形式の訓練をしているようだ。とはいえ、実力差は歴然。木剣を持った子供達を相手に、片手で圧倒している。ただ、それでいて子供達は、まだまだと挑んでいく。そこには、強くなりたいという意志が燃え滾っていた。
そんな熱意を邪魔しないようにと、ミラとヘンリーは暫し訓練を見守った。
そうして五分ほどが過ぎた頃だ。
「あ、兄ちゃん!」
「お兄様!」
メイリンにひょいと投げ飛ばされた際に、ちょうど目に入ったのだろう。少年と少女が、片隅で見守っていたヘンリーに気付いたのだ。
「あ、ほんとだ!」
「おかえりなさい」
すると、そんな二人の声に反応するようにして、残りの二人も振り返り、ヘンリーの姿を認めるなりキラキラとした笑顔で駆け寄ってきた。
しかしである。次の瞬間、その二人は宙を舞っていた。それは、目にも留まらぬ早業によるもの。慈悲も容赦もないメイリンによって、放り投げられたのだ。
「油断大敵ヨ、何があっても敵に背を向けるのは駄目ネ」
床に転がる二人を前にして、そうピシリと注意をするメイリン。対して二人はというと、むくりと起き上がりながら「はい!」と返事をした。随分とメイリンを尊敬しているようで、実に素直な態度であった。
ミラはというと、その容赦のなさに相変わらずだと呆れながら苦笑する。
と、そうしてヘンリーに気付いたところで訓練は自然と中断となった。同時に子供達がヘンリーのもとに、今度こそ無事に駆け寄ってくる。
「紹介しよう、ミラ殿。こっちが次男ライアンに三男のファビアン。で、こちらが長女のシンシアと次女のローズマリーだ」
一人ずつ、頭にぽんと手をのせながら紹介していくヘンリー。子供達はというと、そのたびに誇らしく胸を張ったり照れたりお辞儀をしたりと反応は様々だ。ただ、その中で一人、ライアンの反応は特に激しかった。
今まで呼吸を忘れていたかのように息を呑んだかと思えば、みるみる頬を赤く染め、これでもかと背筋が伸びたのである。それは、騎士を目指す少年が初めての恋に落ちた瞬間であった。
「それで、に……兄ちゃ──兄上。そ、その子──そちらのお方は?」
ライアンは緊張に震える声で、それでもどうにかヘンリーにそっと問う。ヘンリーはそれに頷くと、今度はミラを紹介するように言った。
「こちらは、ミラさんだ。エスメラルダ様より凄腕の冒険者であると伺っている。何でも、メイメイ殿をお捜しだったという話で、お連れしたわけだ。粗相のないようにするんだぞ」
その直後だ。ライアン以外の子供達の顔色が、明らかに変わった。これまでは、どちらかというと子供らしからぬ、キリリと真面目そうな表情であったのだが、ぱっと、それこそ好奇心に満ちた子供の顔に戻ったのだ。
「冒険者さんなんだ! 凄い!」
「凄腕なの? ランクはいくつなんですか!?」
どこの国、どこの街であっても冒険者の活躍話というのは絶える事がない。一番身近で一番現実的だからこそ、それに憧れる子供というのは多いのだろう。騎士の家系であっても、そこは変わらないようだ。子供達の喰いつきは、すこぶるよかった。
ただ、憧れと同時に恋心も抱いているライアンにとっては、少々複雑な心境のようだ。初恋の女の子が遥かに格上ともなれば、男として思うところもあるというものだ。
「ふむ、それはじゃな──」
子供達にせがまれて、そして期待の眼差しを一身に受けたミラは、まんざらでもなさそうに踏ん反り返る。Aランクだと教えたら、きっと更に盛り上がる事だろうと思いながら。
だが、それを口にしようとしたところで思わぬ横槍が入った。
「わたし、アナタの正体、わかったヨ」
先程からミラをじっと見つめていたメイリンが、急にそう言い出したのだ。
瞬間、ミラの脳裏に最悪な展開が浮かんだ。
武道の達人であるメイリンは、僅かな動きの癖や足音などから、それが誰かを言い当てる特技を持っていた。もしかしたら、ミラ自身気付いていない癖か何かがあり、それでダンブルフだと気付かれたのではないか。そして彼女は、それを今ここで言ってしまうのではという展開だ。
「いや、待つのじゃ──!」
事情云々を知らないメイリンならば、十分にあり得る。そう考えたミラは、待ったをかけようとした。しかし、その声は自信たっぷりなメイリンの声によってかき消される。
「アナタ、ずばり精霊女王ネ!」
メイリンがそう告げると、今度はそれを聞いた子供達が騒ぎ始めた。ただの凄腕冒険者ではなく、二つ名持ちの有名人だという可能性がそこに生まれたからだ。
強者の情報になると、メイリンの耳は恐ろしく早くて正確である。だからこそ精霊女王についても、よく知っていたようだ。ずばりと告げた今は、子供達よりも期待に満ちた目をしていた。
(なんじゃ、そっちの方か)
対してミラはというと、大いに安堵する。正体を明かすという一番盛り上がる瞬間を妨害されたものの、致命的な正体バレはせずに済んだと。
流石のメイリンといえど、ここまで姿形が変わり、そこまで大きな動きをしていない今なら、それとは見抜けないようだ。
「ふむ……よくぞ見破ったのぅ。その通り。わしこそが精霊女王じゃ!」
ワクワクとした子供達──と、メイリンの期待に応えるようにして、ミラは少し大げさ気味に胸を張ってみせた。
すると途端に、子供達の笑顔が眩しいくらいに輝き出す。
「おおー、すっげー!」
「わぁ、女王様なんだ!」
驚きと憧れが入り交じった表情の子供達。実に素直な反応に、ミラもまた気分良く「凄いじゃろう」と笑顔で返す。
だが、そんな子供やミラよりも更に輝く笑みを浮かべている者がいた。そう、メイリンである。
「やっぱりそうだったネ! ここで会ったが百年目とはこの事ヨ!」
それはもう嬉しそうに飛び上がりながらも、そんな事を口にするメイリン。ミラはというと、何か恨みでも買ったのだろうか……などとは思わず、やれやれとため息をもらす。
「いや、それは、この場面で使う言葉ではないじゃろう……」
前にも、こんな事がよくあったものだ。そんな当時を懐かしく感じながら指摘したミラ。するとメイリンは少し小首を傾げ考え込んだ後、「それなら、飛んで火にいる夏の虫ネ?」などと言い直した。
「それも違うのぅ」
呆れたようにミラが笑うと、メイリンはますます難しい顔で考え込む。だがそれも、ほんの僅かな間だけだ。次の瞬間には「まあ、いいネ!」と開き直り、期待に満ちた表情でミラに迫り、こう言った。「ぜひ、手合わせ願いたいヨ!」と。
(やはり、そうきたのぅ)
その言葉は、予想済みの言葉であった。
強者を求めて大陸中を旅していたメイリンにとって、噂になるほど名の売れた冒険者というのも修行相手の候補になるようだ。特に今話題の『精霊女王』ともなれば、福徳の百年目とでもいった状況に感じているだろう。それはもう、これでもかというくらいに爛々とした目をしていた。
(とはいえ、まずは任務が優先じゃな)
メイリンを捜していたのには、明確な目的があった。大会の出場にともない、彼女が九賢者であると身バレしないようにするという目的だ。
ここで勝負を受けてしまった場合、始まるのは九賢者対九賢者という頂上決戦。きっと激戦になるだろう。場合によっては、非常に目立つ事態になるかもしれない。目立てばそれだけ、身バレするリスクも増える。やるにしても、まずはメイリンを変装させてからが得策であるというものだ。
「うむ、よいじゃろう。受けてたとうではないか!」
だがミラは、気付くとそう快諾していた。
研究期間中に編み出した様々な戦術。その有用性を試すために、同格であるメイリンは打ってつけの相手だったからだ。
また、手合わせと聞いてからの子供達の様子も要因の一つである。仙術士のメイメイ先生と召喚術士の精霊女王はどっちが強いのかと、それはもう盛り上がっていた。
ゆえに、ここで断ると逃げただなんだと言われたりして、召喚術の沽券にかかわるかもしれない──といったミラなりの言い訳もあったりする。
「やったネ! 感謝感謝ヨ!」
そう飛び上がって喜んだメイリンは、すぐさま位置についた。そして両脚を僅かに曲げて、両手は上段と下段に、守備寄りの構えをとる。そして更に「さあ、幾らでも召喚するといいネ」と告げた。
対するミラはというと、それに首を横に振って答える。
「いや、結構じゃ。戦いの最中に使えてこそ真の召喚術士というものじゃからな」
こと一対一の試合において、あらかじめ召喚などしたら有利過ぎる。ハンデなど必要はないと返したミラは、更に「お主こそ、様子見などしておる暇はないと思うた方がよいぞ?」と続け、不敵に笑ってみせた。
メイリンの構え。ミラは、それをよく知っていた。戦い好きなメイリンの基本は、攻勢一辺倒。そんな彼女が防御寄りに構える事は、つまり相手の力量を把握するためのものである。そうして把握した力量に合わせた制限を自身に課すのが、メイリンが好んで行っていた修行法だった。
だからこそミラは、自身も位置につきながら忠告する。攻めてこなければ、そのままこちらが攻め勝ってしまうぞ、と。
「なるほどヨ。確かに言う通りかもしれないネ」
ミラの構え、そして何よりもその気配から、これまで相手した誰よりも違う何かを感じ取ったようだ。メイリンは嬉しそうに笑いながら低く構え直した。彼女が得意とする、突撃重視の姿勢だ。
「合図は任せるヨ」
メイリンが言うと、ミラはそのまま視線をヘンリーに向けた。彼も武人であるためか、その流れで察したようだ。小さく頷き答えると、両者の中程より幾らか下がった位置に立ち、その役目を全うした。
「では用意……──始め!」
ヘンリーが上げた手を振り下ろした瞬間、ミラとメイリンによる最高峰同士の試合の幕が上がった。
引っ越し後、必要だと感じた小物などを揃えるためダイソーに行くことが増えました。
その際、ふらりとお菓子コーナーに立ち寄ったのですが……
何やら『うまい輪』なるお菓子があるではないですか!
なんとあのうまい棒を小さな輪にして大きな袋に入れちゃったという代物です!
手軽に摘めるうまい棒です! めんたい味美味しいです!
ですが、見つけたのはそれだけではありません。
ミレービスケットも見つけたのです!
前にテレビで見てから、気になっておりました。
言うてもただのビスケットやろ? みたいに思っていたのですが試しに買ってみると……
今まで食べたビスケットの中で一番美味しかったです!




