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110 ローズライン公国

百十



 ペガサスに乗ってセントポリーの街から飛び立ち、荒野の上空を駆ける事、数時間。日も暮れて夜が訪れると、空には火の粉を散らしたような満天の星が現れた。この世界に来て見上げる夜空は毎回星に満ちているが、今日はより鮮明に煌いている。いつか見た、天上廃都の空に次ぐほどの光景だ。


「ペガサスや。今夜も素晴らしい星空じゃのぅ」


 ミラは、どこまでも広がる絶景を前に思わず声をあげる。小さく頷き嬉しそうに嘶いて同意を示したペガサスは、尾から帯電した粒子を放出し光の軌跡を空に描いた。

 そうして夜景を堪能する事暫く、真っ暗な大地と煌く星空の狭間、地平線の彼方に浮かぶ小さな明かりが目に入る。

 南方に聳える広大な山脈から流れる川が、幾つも連なって出来たリュシオン大河。ローズライン公国の首都、アイリーンはそんな大河の畔にあった。



 目的地に到着したミラは、夜の闇に紛れ路地裏の小さな空き地に降り立つ。そしてペガサスを労い送還してから、何食わぬ顔で商店街に踏み込んでいく。

 アイリーン一番の繁華街であるそこは、夜になっても多くの明かりが掲げられている。しかもその光は精霊の火によるもので非常に力強く、昼の如く繁華街を照らしていた。光に誘われるように人々が行き交い、セントポリーのようにビルまではないものの、負けず劣らずに大いな賑わいを見せる。


(ここもまた、随分と変わったのぅ)


 街には多くの種族、そして多くの職種の者達で溢れ、多少の例外はあるものの誰もが楽しそうに笑い、売買に興じていた。その点だけならばミラの知る三十年前と同じだ。しかしアイリーンの街は、その時とは比べ物にならないほど大きく、そして喧騒に溢れていた。

 幅十メートルはあろうかという大通りを挟み様々な店舗が連なる商店街には、そこかしこに屋台が乱立し無秩序に入り交じっているように思えた。しかし人の流れは滞る事無く、見えるのは血気盛んな男が暴れ人垣を作っているくらいだ。

 時たま騒ぎに顔を覗かせつつそんな大通りを進んでいくミラは、堂々とメルヴィル商会直営の店舗を訪れていた。その理由は、たまたま目に入ったからである。


(ふむ、ここがキメラ協力者の本陣か)


 その店は、数多くの武具を扱っていた。短剣から戦斧、革の服から全身甲冑など、戦士クラス全ての装備が網羅されており、直ぐにでも冒険に出かけられる品揃えだった。

 木と石材を主としたシンプルで落ち着いた造りの店内には、冒険者の姿が多く見られた。見た目で判断するならば、低ランクから高ランクまでと客層も様々で、彼等、彼女等は自身に相応な武具の選別に余念の無い様子だ。


(ぬ、あの奥は……?)


 そんな店内を見回していたミラは、ふとある事に気づく。それは、高ランクと見受けられる冒険者が、時折『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた階段を下っていく事に。

 関係者とは、すなわち店員だと認識していたミラ。だが目の前で、また別の男が店員の前を堂々と通り階段を下りていく。


(今のは、会員証、じゃろうか)


 ミラは男が何かカードのようなものを店員に提示していたのを、その目に捉えていた。そして一つの推論を立てる。階段の先は特別な商品が並ぶ、会員限定に怪しい品を捌く、ブラックマーケットなのではないかと。

 その推論には、キメラクローゼンと協力関係にあるメルヴィル商会だから、という偏見が多大に含まれていた。


「のぅのぅ。一つ訊いてもよいか?」


 ゆえにミラは、そこにいた店員に向かって果敢に声をかける。


「はい、何でしょうか」


 振り返った女性店員は、声の主を確認すると僅かに身を屈め優しそうな笑顔をミラに向けた。


「何人か客が下りていくのを見たのじゃが、その先には何があるのじゃろうか?」


 そう言ってミラは『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた階段を指差してみせる。


「会員制の特別な武具を販売している、ようですよ」


 ミラが指し示す先を目で追った女性店員は、しているようだと、どこか不明瞭な答えを口にした。

 その事についてミラが更に詳しく訊いてみたところ、どうやら会員制の地下販売所はメルヴィル商会の重役、それも会長の親族だけで運営しているという事だった。

 販売している武具や会員の選定基準などについては、店員の誰も知らないようだ。


「ふむ、そうじゃったか。時間をとらせてすまんかったのぅ」


「いえ、いつでもお気軽にどうぞ」


 そうして店をあとにしたミラは、今一度振り返りメルヴィル商会直営店舗を見上げ、さも尻尾を掴んだといわんばかりに微笑んだ。



 センキの遺跡の場所を探すという当初の目的とは違うものの、街について早々メルヴィル商会についての怪しいネタを掴んだミラは、得意げに商店街を闊歩していた。

 独断と偏見であの店は怪しいと判断し、気になった店を片っ端から回っていくミラ。その姿は、探偵ごっこに興じる少女以外のなにものでもなく、ところどころで温かい眼差しを注がれていたり、人によっては早く家に帰りなさいと叱る者もいた。

 そんなこんなで夜も随分と深まった時間。ミラは今、商店街の端にまで来ていた。目の前を横切る大きな通りを挟んで向こう側は住宅街のようだ。小さな街灯がぼんやりと照らすそこは、透明な黒い布で覆ったかのように静かで、未だに騒々しい商店街とは全くの正反対の別世界に思えた。


(センキの埋葬地とやらは、どこなのじゃろうな)


 それはまるで、夢の終わりの境界線であった。その終点に立ち、当初の目的を思い出したミラは、明るく楽しげな街をあとにして雰囲気だけは怪しい路地裏へと入り込んでいく。

 そこはこれまでと一変して薄暗く、そこにいる者達もどこか裏のありそうな気配をまとわせていた。商店街が街の表なら、路地裏は正に裏であるようだ。

 ミラは考え事をしながら、そんな路地裏を当てもなく歩いていた。

 センキの埋葬地がどこなのか。それは遺跡好きのゼフが知らないというのだから、一般には公表されていない情報なのだろう。

 普通に調べるならば、専門家や街の重役などに接触して訊くという手段が早いと思われる。だがそうするには、相手を厳選しなければいけない。適当な相手に問えば、センキの埋葬地を探っている者がいるという噂が立つ恐れがあるからだ。もし予想通りにキメラクローゼンが関係していた場合、警戒を厳重にされてしまうだろう。

 なのでミラは、初めからその手段を取るつもりはなかった。召喚術の汎用性が増した今、手段は幾らでもあるのだ。

 だがその前にもう一つの手掛かりを探しに、ミラは暗く怪しい路地裏を進んでいた。


「なあ、お嬢ちゃん、五枚でどうだい」


 ふと背後からそんな声がかけられる。振り返ったミラは、そこに立っていた大柄の男を見上げ、言葉の意味を理解する。小太りなその男は、それなりに立派なコートを羽織っており、随分と羽振りの良さそうな姿をしていた。

 そしてミラの全身を舐め回すように見つめ興奮した様子で銀貨をちらつかせる男の顔は、どれだけ鈍感でも判るほど情欲に塗れており、流石のミラも嫌悪感を抑えきれず一歩あとずさる。


「あー、売るつもりはないのでな。すまぬが他を当たってくれ」


 ミラはそう言って踵を返し、さっさと奥に向かって歩き出す。すると周囲にたむろしていた者達が「はい、フラれたー」と言って笑い声をあげた。かと思えば「いや、勝負はまだついてない」と誰かが言い小太りの男に声援を送り始める。

 どうやら外野は、男の買い(・・)が成功するかどうかで賭けをしているようだ。だからだろうか、どう見てもガラの悪い連中の多くがミラに対し声援を送っていた。「お嬢ちゃんの身体はそんなに安くないぞ」だの「そんなのに絡まれたくなきゃ早く帰りな」とか「壊されちまうから止めておけ」といった具合だ。


「おかしな奴等じゃのぅ。こういう時は、多勢に無勢で取り囲み「へっへっへお嬢ちゃん、良い身体してるじゃねぇか。おじさんと遊ぼうぜ」などと言って襲い掛かる場面ではないのか?」


 不意に振り返ったミラは、「まだ、いける」と言って追ってきた小太りの男を見上げ、思わずそう口にした。


「それは犯罪じゃないか。そんな事をしたらこの国で商売が出来なくなるだろう」


 ミラを見つめる目は性犯罪者そのものだが、ぴたりと立ち止まった小太りの男は、そう至って常識的な言葉を吐く。だが次の瞬間、彼は何かに気づいたかのようにその目を大きく見開いた。


「もしかしてお嬢ちゃんは、そういう遊び方が好きなのかい!?」


 少女の思わぬ性癖に鼻息を更に荒くした男は、スカートから覗くミラの太ももを凝視して金貨を懐から取り出し強く握り締める。


「そんなはずなかろう」


 ミラは度を増して興奮する男から更に数歩あとずさりながら一言で一蹴すると、男が手にしている金貨を指し示し「ちなみに、それは犯罪ではないのか」と続けた。強姦は当然犯罪。そして小太りの男がやろうとしている、売り買いもまた犯罪ではないのかと。

 するとどうした事か、ミラの指先を目で追った小太りの男は、途端に前屈みになってうろたえ始める。


「これはただの生理現象であって、触らせたり見せ付けたりしていないから常識の範疇!」


「いや、そっちではない。買う事の方じゃよ」


 顔は未だ情欲塗れでありながらもどこか滑稽な男の姿に苦笑したミラは、そうはっきりと言葉にする。

 小太りの男は、その一言でようやく理解したらしく、手にした金貨を見つめ「なんだよー」と不貞腐れたように頬を真っ赤に染めた。同時に周囲から笑い声があがる。


「禁止されている国もあるようだけど、このローズライン公国では、これもまた商売の一つとして認められている。って事で安心だろう。どうだい、優しくするし、きっと満足もさせるからさ」


 小太りの男はそう言いながら金貨を二枚上乗せして、ミラに迫っていく。「いいぞいいぞ」と野次が飛べば、「俺の方が満足させられるぞ」と新たに名乗りを上げる者も現れた。


「なるほどのぅ。これも商売か。まあ、わしは非売品じゃからな。すまぬが他を当たってくれ」


 世界が変われば常識も変わる。こんな事もあるのだなと一つ勉強したミラは、小太りの男の手をそっと押し返して優しく微笑む。そしてその場を見回してから「ではな」と声をかけ立ち去っていった。

 そこにいた連中は面白い少女だったと笑い、賭けに勝っただ負けただと盛り上がる。一人取り残されたような小太りの男は、ミラが触れた手の感触を思い出しつつ「俺の天使ちゃん」と呟いていた。



 絡んでくる者達を適当にあしらい、時には灸を据えつつ進んでいくミラ。薄暗い路地裏には、ところどころに看板のない店舗がある。非合法とまではいかないが、表立って売買出来ないような灰色の商品が並ぶ店だ。

 中には、情報を扱っている店もあるという。

 ミラは繁華街で店舗巡りをしている最中で、この路地裏の事を小耳に挟み、ここにやって来ていた。

 路地裏商店街。表とは違い灯りは乏しく静かなそこは、それほど荒れた様子もなく人通りもそこそこ見える。とはいえ、そこにいる人々は一癖二癖ありそうな者ばかりであった。

 そんな者達が求める灰色の商品。それは、軍から横流しされたものや盗品、そして遺跡から盗掘されたという品もあると噂に聞いたのだ。

 そう、ミラはセンキの遺跡の盗掘品はないかと考え、ここに探しにきたのである。そしてそれを売った者に接触し、遺跡の場所を聞き出そうという算段だ。

 売却者を特定するのは簡単そうだった。この国では情報もまた商品となり、表はともかく、裏の店ならば金さえ積めば店主から聞き出す事も容易という話だ。

 問題は、センキの埋葬地の盗掘品があるのかという事と、あったとしてそれは本物かという点だろう。灰色だけに確かな保証はなく、真贋もまた目利き頼りであった。


「ああ、あるよ。そこの角の棚だ」


 店主にそれとなく確認しながら幾つかの店を回っていたミラは、十数軒目にしてようやくその一言を聞いた。そして言われたとおりの棚を確認し、それが本物であると直感する。

 小さな棚にはガラスの瓶が置いてあり、その瓶の中には黒い霧を漂わせる小さな欠片が入っていたのだ。


「どうだ。綺麗な黒霧石だろう。インテリアには充分な大きさだ。二十五万リフといいたいところだが、お嬢さんは可愛いからな。即金なら二十万リフでいいぞ」


 ひょろりとした店主は、営業スマイル全開でそう言った。

 はたして本当に安くなっているのだろうか。この点もまた目利き頼りなのだが、そもそもミラの目的は盗掘品の購入ではない。その売却者の情報だ。


「ちと高いのぅ。代わりに……」これを持ち込んだ者を紹介してくれ。ミラがそう口にしようとした時だった。


「私が買うって言ったのに、なんで売ろうとしてるの!」


 店内にそんな女性の声が響いた直後、


「あれ? ミラちゃんが何でここにいるの?」


 と、気勢を削がれた素っ頓狂な声が続いた。名前を呼ばれ振り向いたミラの目に入ったのは、ローズライン公国に潜入中であるサソリの姿であった。どうやら彼女も黒い霧を纏わせる欠片、黒霧石を狙っていたようだ。購入費を集めて戻って来たところ、ミラと出くわしたという事らしい。


「あー、それはじゃのぅ」


 ミラはそう言いかけると、気まずそうにこっそりカウンターに隠れる店主を横目で確認しつつ、場所を変えようと提案して店を出た。

 しかし、夜遅いにもかかわらず路地裏の人通りは少ないながらも途絶える事はなく、どこに聞き耳が立っているかも定かではないため内緒話が出来る状況ではなかった。


「どこで話すのがよいかのぅ」


 周囲を見回しつつ、そうミラが呟くと、サソリが宿に行こうと口にする。


「高い分、防犯性もいいし、盗み聞きされる心配もないはずだよ」


「ふむ、確かにそうじゃな」


 宿ならば周りを気にせず、じっくりと話せるだろう。了承したミラはサソリのあとについて、商店街に向け歩き出すのだった。

ドラゴンズドグマの正式サービスが8月末に決まりましたね。

年内予定だったので、年末かと思っていたのですが、まさかの2ヵ月後。

いやはや、楽しみです。


そういえば最近、歯医者通いを始めました。

暫く行っていないとダメですね。

いろいろ治療する事になりました。3ヶ月コースです。

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