06 「私の騎士になるそうです」
いつもより短いです。
騒ぎの中こっそり抜け出してシルヴェストルに話しかけます。もちろん、適性の話です。
「適性、どうでした?」
そう聞くとシルヴェストルは心底嬉しそうに笑いました。きっと戦闘向き_冒険者向きの適正だったのですね。なんだか私も嬉しくなって笑みがこぼれます。
「剣の適性が1番高かったよ。職業も剣士とかそういう系統のやつが候補になってる」
「よかったですね。剣士なら冒険者になれますね」
そう言って笑いかけると、シルヴェストルは少し戸惑った後、首を振りました。
「冒険者は……副業にするよ」
え?とかすれた声が出ました。それほどに驚いてしまったのです。シルヴェストルはずっとずっと三年間『冒険者になる』と言ってきたのですから。毎日のように適性がわかるのが待ちきれないと、そう目を輝かせていたのですから。
それなら、冒険者にならないなら、どうして笑っていたのです。
「職業は騎士にするよ。ヴィクトルの騎士になりたいんだ。ヴィクトルを傍で支える騎士に」
何故、私の騎士なのですか?まさか、私が愛し子だと知ってしまったからですか?シルヴェストルも第一王女をたたえた者たちのように変わってしまうのですか?
私の心情を読んだかのように彼は苦笑します。
「あんまり得意じゃないけど勉強だってするよ。学園にも通う。ねぇ、ヴィクトル。俺はヴィクトルが『愛し子』ってことを知ってる。けど、ヴィクトルがその称号を受け入れていないのもわかる。だから、ヴィクトルがヴィクトルとしていられるように俺が傍にいて守りたい」
それは、神の意志ですか?私がシルヴェストルの夢を壊してしまったのですか?冒険者になりたいと言っていたのに、学園も通うつもりはないってそう言っていたのに。
翡翠の目は優しく細められます。
「これは神の意志じゃないよ。俺の意思なんだ。俺がそうしたいんだ。洗礼を受ける前から考えてたんだ」
_大切な親友だから
その笑顔に一瞬、息が詰まったような感覚になりました。
嬉しいのか、悲しいのか、頭の中がぐちゃぐちゃしてわからないです。でも、きっと嬉しいのです。私のためだと、大切な親友のためだと優し気な笑みを浮かべてくれる人がいたことが、嬉しくてたまらないのです。
「なら、私は、シルヴェストルの主として相応しい男にならなきゃいけないね」
気が付いたらそう口からこぼれていた。ヴィクトルになって初めて人前で『私』と言ったし、この世界に来て初めて敬語を崩したかもしれない。
それでもそうするべきだと、そう思ったのだ。この世界を受け入れられたわけではない。でも、自分はヴィクトル・ベルナードで、その自分を愛してくれる人たちがいること。それだけは受け入れるべきだ。自分はもう女じゃない。自分はもう地球にいた人間じゃない。
なら、私はヴィクトル・ベルナードでいるべきだ。いつまでも線を引いてないで歩み寄るべきだ。だから__
「シルヴェストル。私のことはヴィーと呼んでよ」
これははじめの一歩だ。運命なんて決められていたものじゃなくて、私が選んだはじめの一歩。
その言葉にシルヴェストルは笑みを返す。
「じゃあ、ヴィー…俺に名をくれないかな?」
驚いてしまった。家族以外が名を与えるのは信頼の証。シルヴェストルはそれをわかっていて言っているのだろうか。もし私が拒否をしたら、とは考えないのだろうか。
きっとそんな未来はないと思っているのだ。私が拒まないとわかって言っているのだ。
なら、望み通り名を与えよう。主からの信頼の証。従者の裏切りを許さない鎖。その名を。
「ルット」
_それが私が君にあげる名だよ。
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《ステータス》
ヴィクトル・ベルナード
8歳
Lv 1
HP 5,400
MP 2,700
《職業》
???
《称号》
ベルナード公爵家長男 異世界からの転生者 神の愛し子
シルヴェストル・ボワレーの主
《適性》
魔法 9,999
魔術 9,000
剣 9,000
槍 8,500
弓 9,500
体術etc.
《状態異常》
悪夢
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《ステータス》
シルヴェストル・ボワレー
8歳
Lv 1
HP 600
MP 350
《職業》
騎士
《称号》
ボワレー侯爵家三男
ヴィクトル・ベルナードの騎士:ルット
《適性》
魔法 500
魔術 500
剣 3,500
弓 500
体術 500
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次回は5月4日投稿です。




