こかげ⑧
~ようこそ白薔薇さま~
「ミエルさん、おはようございまーす!」
「元気ねぇ、リアちゃん」
「えへへ~」
「昨日は彼と仲直り出来たんでしょ、その様子だと」
「はい、ばっちり!」
「よかったよかった」
「ご迷惑おかけしました」
「いいよいいよ~。
あ、これ、ショーケースに並べてもらえる?」
「はぁーい」
「それでさ、」
「はい?」
「見た感じ、彼、リアちゃんとは結構、年離れてるよね」
「分かります・・・?」
「そりゃあ、まぁ・・・」
「来年、40って言ってた、かな?」
「よんじゅう・・・」
「ジェイドさんは、おじさんじゃないです」
「ちょ、私まだなんにも言ってないじゃない」
「いーや、目が語ってました」
「・・・う、ごめん」
「ジェイドさんは年齢の割りに若いんです」
「実はうちも、旦那と年が結構離れてるんだよね~」
「へぇー!」
「あ、こんにち・・・は・・・?!」
「こんにちは」
「え、と、あの、ち、近っ」
「お兄様と結婚していたというのは、本当の話ですか」
「や、あの、それはですね・・・」
「肯定か否定を、お願いします」
「・・・お客様、うちの売り子ちゃんに、どのようなご用件でしょうか」
「ミエルさん・・・」
「失礼。
私は白の騎士団副団長を務めております、ヴィエッタ=ニードルと申します」
「はぁ、確かに、白いコインをされてますね・・・。
で、その副団長さんが、うちの看板娘に何の御用ですか?」
「ミエルさ、」
「リアちゃん、私は蒼鬼さまとミーナちゃんから、あなたのこと預かってるの。
ここ数日で次から次へと・・・ちょっと心配してるのよ?」
「カミーリア殿は、私の義理の姉です」
「・・・あー・・・っと、思い出しました。
白百合と白薔薇、どちらでしたっけ?」
「・・・白薔薇、です。
正直、その呼び名はあまり好きではありませんが・・・」
「なるほど・・・ちょっと失礼。
リアちゃん、」
「は、はいっ」
「あなたの彼氏、まさか補佐官さまなの・・・?!」
「え、と・・・はい、すみません・・・」
「いや、謝らなくてもいいんだけどさ・・・。
・・・なんでうちの店、そういうロイヤルな人ばかりがやって来るんだろう・・・」
「申し訳ありません」
「いえあの、白薔薇さまに謝っていただかなくても・・・。
まぁ、そういうことならリアちゃんと話して下さい。
私、商品が焼き上げる頃なので・・・」
「え、あ、ミエルさんっ?」
「じゃ、あとよろしく」
(・・・え、この状況で・・・?!)
「やはり結婚していたのですね」
「えっと、そうみたいです」
「おめでとうございます」
「・・・あ、ありがとうございます・・・?」
「しかしながら、だまし討ちのようにして婚姻を結ぶなど、お兄様らしい」
「えーと・・・」
「もし嫌なのなら、私が、」
「いやいやいやいや、超幸せなんですよね!私!」
「なによりです」
「はぁ・・・」
「では、また」
「はい。お気をつけて」
「・・・で、結局なんだったの?」
「あ、ミエルさん・・・。
いやなんか、大量に焼き菓子を購入していただきました」
「・・・うーん・・・白薔薇は気難しくて棘だらけだって聞いてたけど・・・。
まあいっか。お得意さまになるといいな~。
蒼鬼さま効果も凄かったけど、白薔薇さま効果なんて比じゃなさそうだしな~」
「あー・・・なんかどっと疲れが・・・。
緊張するんです・・・悪い人じゃないの、分かってるんだけど」
「でも、慣れなくちゃ。
義理の妹さん、なんだよね?」
「そうなんですよね。
・・・まずは、自分が結婚してるって自覚するところから始めようと思います」
「ん?
結婚してるって何?」
「あー・・・それはあの、」
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最終話、朝の庭でのやり取りのあと。
ヴィエッタさんは、基本的に謎めいています。焼き菓子店を定期的に訪れては大量の焼き菓子を購入。
この時のつばきは、焼き菓子の行方を知りません。
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~ジェイドさん、実は~
「♪♪~♪~」
「あ、お嬢様」
「あ、栗鼠さん!
ちょっとキッチン借りてまーす」
「どうぞどうぞ。
いい匂いです~。
・・・カップケーキですか?」
「うん。
退院したら、カップケーキ作ってあげる約束してたんだ」
「そうでしたか。
・・・あ、じゃあ、わたしは果物を切ればいいですか?」
「あ、ううん。
私ね、実は刃物恐怖症、克服したんだ~」
「本当ですか、凄いです!」
「まあ、なんか必死だったから、いつの間にかね・・・。
・・・とりあえず、そういうわけで全部自分で作ってみようと思います」
「はい♪
じゃあわたし、こっちで夕食のしたごしらえしてますね」
「ちなみに今日の夕飯は、何ですか?」
「何でしょうねぇ・・・」
「・・・もしかして、いつも知らないで下ごしらえしてたんですか?!」
「えへへ」
「えへへって・・・」
「はい、お茶どうぞ」
「ありがとう。
・・・なんだか、ご機嫌ですね。何企んでるんです?」
「企んでるなんて、失礼な。
約束したものを作っただけですよーだ」
「・・・あ。
作ってくれたんですか?!」
「うん、カップケーキ。
よかったら、お茶と一緒にどうぞ」
「ありがとう、いただきます」
「・・・どう?
久しぶりだから、探り探り作っちゃったんだけど・・・」
「美味しいですよ、とっても。
ただ・・・」
「ただ?」
「なんというか、前回よりもフルーツがいびつです」
「・・・ナイフ使うの、久しぶりだったから・・・」
「あぁ、それで・・・」
「うん。
最後に何かを切ったの、14歳の秋だか冬、だったから・・・。
うわ、もう10年近く前だ」
「なるほどなるほど。
ところで、怪我はしませんでした?」
「ん、大丈夫」
「良かった。
久しぶりなんですから、慎重に。
怪我したら、一切刃物には触らせませんからね」
「きょ、極端なんだから・・・」
「フルーツ乗ってないのも、あります?」
「うん、あるよ。
明日飾り付けて、屋敷のみんなにも配ろうと思ってたから」
「じゃあ明日仕事に持って行きます。
クリームは別の容器に入れて・・・出来ますよね?」
「大丈夫だと思うよ」
「楽しみですね~。
・・・休憩のお茶を淹れてくれるのが、鉄子さんなのがいただけないですが・・・」
「・・・ジェイドさん、王宮にはお仕事に行ってるんだよね」
「ん?なんです?」
「何でもないです。
・・・何でもないですってば!」
「つばき、膝枕して欲しいです。
今日も1人で頑張ったんです、私」
「何その上目遣い・・・クリーム、口に付いてるし・・・」
「ひざまくら」
「・・・い、いいけど・・・」
「クリーム、拭いて下さい」
「え?!」
「ほら早く」
「・・・い、いいけどさ・・・!」
「赤くなっても可愛いですねぇ」
「・・・あんまり意地悪すると・・・」
「意地悪すると?」
「今日は栗鼠さんのところで寝るからね!」
「えー・・・睡眠不足になっちゃいます」
「だーかーらー!
・・・あんまり意地悪しないでよ」
「だって、寂しかったんです。
王宮につばきが居ないから」
「・・・うぅ、そのカオ、ずるい」
「知ってます。
さ、膝枕膝枕♪」
「も~!
なんなの、このおっきな子どもは~!」
「あー柔らかい」
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ミエル焼き菓子店での仕事が終わった後、お屋敷にて。
約束のカップケーキを作ってもらって、ジェイドさんはご機嫌です。こんなふうに、じゃれ合って楽しく過ごしています。
ジェイドさんが大きな子どもであることが判明。
いえ、ちゃんとお仕事はしています。
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~今さらだけど~
「あれ?
ジェイドさんどこ行っちゃったんだろ・・・あ!」
「あ、」
「熊さんだー!」
「お、おはようございます」
「おはよーございます!
あの、ジェイドさん知らな・・・って、この距離なんですか?」
「いやあの、すみません・・・旦那様から、言われてて・・・」
「・・・えっと・・・うん、いいです・・・。
で、あの、知りませんか?」
「ああ、そういえばキッチンにいましたよ」
「キッチンに?」
「ええ。
まだいると思います」
「そっか。ありがとうございます!
それじゃ、また!」
「ジェイドさーん!」
「ぅわっ?!」
「・・・あ、ごめん」
「ああもう、驚かせないで下さいよ~・・・」
「う、ごめーん・・・。
あれ、珍しいね?」
「もうバレちゃいましたか」
「そんな、一緒に暮らしててかくれんぼなんて、無理あるでしょ」
「・・・ですね。
じゃあ、その辺に適当に座ってて下さい」
「うん。
でもなんで、ジェイドさんが料理?」
「ふふ。
何ででしょうねぇ?」
「・・・何、何企んでるの?」
「失礼な。
つばき、お腹すいてます?」
「ん?
ぺっこぺこ。
だからジェイドさんのこと探してたんだよ~」
「すみません。
もうすぐ出来ますからね」
「え、これ私に?」
「ええ。
ほら、いつだったかバレンタイン、ていうのがあったでしょう?」
「えーと・・・うん、あったね。
結構前の話だけど・・・」
「ミナがね、この間ちらっと言ってたんです。
お返しする習慣があるんですよね?」
「あー、ホワイトデーのこと?」
「それです。
私はお菓子作りは得意ではありませんから。
・・・お口に合うかどうか、分かりませんが」
「お!」
「お?」
「おいひー!!」
「く、口を閉じましょうね」
「ん・・・っく。
ジェイドさん、天才!」
「それは良かった」
「お返しがこんなに美味しいの食べれるんだったら、来年からもっとちゃんと作ろ・・・」
「え?」
「ううん、なんでもない。
よーし、負けないぞ・・・!」
「つばき?」
「熊さん、またお菓子のレシピ本貸してくれないかなぁ」
「どうしてそこで、彼が出てくるんです」
「ん?」
「いけませんねぇ、つばき」
「あれ、ジェイドさん・・・?」
「私、あなたの何でしたっけ?」
「え、あれ、なんか目が怖いよジェイドさん・・・?」
「夫の前で、他の男のことを考えちゃうんですか?
ほんとにもう、躾がいのある子ですねぇ」
「は・・・?!
ちょ、違うってば!
私は来年のバレンタインの話を・・・!」
「お仕置き、決定ですよ」
「や、待って待って!」
「いいえ、待てません。
よいしょ、っと」
「いやーっ、私のごはんーっ!」
「あれ、今悲鳴が聞こえませんでした?」
「・・・どうせまた、シェイディアード様が暴挙にでたんでしょ」
「あー・・・じゃ、わたし達は休憩しましょうか」
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完結後、バレンタインのお返しの話を小耳に挟んだジェイドさんと、いろいろ完結して平和ボケしたつばきの災難。
つばきの失言→ジェイドさんの意地悪→慌てるつばき→ジェイドさんのお仕置き。
屋敷では、つばきの非難めいた悲鳴が恒例になりつつあります。
そんなんだから、すぐに子どもが出来たんじゃ?・・・というのは、使用人の誰かの呟き。
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