渡り廊下⑤
~「しー、」って?~
「お疲れさまです、ジェイドさん」
「ああ、来ましたか」
「・・・院長?
何してるんですか?」
「ボードゲームをしてたんですよ。
・・・暇だって言うから、ね」
「はぁ・・・で・・・これはあれですね、負けたんですね、院長」
「負けてないわ!
まだ諦めてないもの」
「・・・おばさま、もうどう考えても打つ手はないですよ。
完膚なきまでに叩きのめすつもりで対戦しましたから」
「ひどいわ、私、勝ちたかったのに」
「それじゃゲームの意味がないですよ、院長・・・」
「ミーナまでそういうこと言うの?」
「まぁまぁ・・・お買い物に行かれるのでは?
日が延びたとはいえ、今からでは気を抜くとすぐに暗くなってしまいますよ」
「あ、ほんとですね。
行きましょ院長、せっかくシュウが納得してくれたんだし・・・」
「彼を説き伏せましたか。
・・・ミナが頷けば異論が出ないと踏んだんですね・・・さすがおばさま」
「ええ、だって一緒に出かけたかったんですもの」
「恐ろしい人ですね本当に・・・」
「院長、行きますよー」
「それじゃ、また明日ね。ジェイド君」
「明日も来る気なんですか・・・」
「そうよ、今日はありがとう。
ジェ・・・しー、」
「明日もお待ちしてます!」
「・・・し?」
「なんでもないですよ。
ほらミナ、急いだ方がいいんじゃないでしょうかね。
おばさまも、早く行って下さい。ええもう、明日も待ってますから!」
「うふふ、行って来るわね~」
「あー・・・危なかった・・・」
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「渡り廊下」より、「家族になるまでに3」途中、ジェイドさんの執務室でミナを待っている院長と、ジェイドさん、ミナの会話でした。
最後にジェイドさんが呟いた「危なかった」の意味は一体・・・。
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~バスルームにて~
「え、と、あの・・・バスルームお借りします!」
「おいミナ・・・!」
(ああもう、何で私がこんな目に遭うの・・・。
早く帰ってお風呂入って寝たい。明日も仕事なんだけどなぁ・・・。
・・・シュウと大佐、何話してるんだろ・・・?)
「随分と、彼女に執着しているんだな。
あの蒼鬼が、意外なこともあるものだ」
「・・・」
「あれはきっと出てこないぞ、しばらくは・・・」
「最初に事情を話せば、彼女ならば理解して協力したはずだが」
「だろうな・・・。
取り乱しもせず、聞く耳を持っていた」
「・・・あの傷は、両手を拘束していた縄を外そうとしていたのか」
「ああ。
・・・部下が遠慮せず縛り上げたらしい。すまない」
「喉を潰されそうになったと聞いた」
「事実だ。意識を失くす手前までいった」
「大佐・・・!」
「すまない、としか言えないが。
・・・手加減出来なかった。したつもりだったが、出来ていなかった」
(・・・あれ、今、何か変な音がしなかった・・・?)
「避けなかったということは、これは表沙汰にはならないということでいいな」
「ああ・・・。
・・・きっと彼女は、俺を殴らないだろうからな。
彼女になら、殴られてみたいとも思うが・・・」
「・・・気持ちの悪いことを言うな。
彼女の手が触れるなど、考えただけで虫唾が走る」
「正直な感想だ。
・・・彼女は面白い。
あのひと声で辿り着かなければ、連れて帰ろうかと思ったくらいだ」
(何話してるか全然聞こえないけど・・・。
とりあえず、殴り合いにはならなかった、のかな・・・?
それにしても逃げ込んだはいいけど、いつ出て行けばいいんだろう・・・)
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「渡り廊下」より、「家族になるまでに6」の直後の会話。
シュウと大佐の会話が気になるミナは、バスルームでドア越しに聞き耳を立てています。
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~大佐のご趣味~
「シュウ・・・?」
「ああ、悪いが少し席を外す」
「え・・・」
「その辺に控えているはずの従者に、話があるだけだ。
帰る前に済ませておきたい」
「うん、あの・・・」
「心配するな、すぐ戻る。何かあったら呼べばいい。今度はすぐに駆けつける」
「ん、分かった」
「心外だ。もう何もしない」
「あ、いや・・・そういうことじゃないです。たぶん・・・」
「・・・で、帰るのか」
「それは、まぁ。
明日も仕事なので・・・」
「仕事の前日でなければ構わないのか」
「いやー・・・そういうことじゃないですよね・・・」
「まあいい・・・。
そのうち、会う機会もあるだろ」
「え」
「なんだ・・・不満か」
「いやいやまさかそんなっ。
でも・・・そうそう会うこともないと思いますけど・・・。
だって、大佐は大使を連れて帰国するんですよね?」
「その予定だ」
「やっぱり。
じゃあ、これっきりになるかも知れませんよね!」
「・・・嬉しそうだな」
「え、そんなこ・・・や、ちかっ・・・」
「ミナ、だったか」
「はい・・・?!」
「殴ってもいいぞ」
「はぁ?!」
「あんたになら、殴られてもいい。
謝罪以外に、どうしたらいいのか考えたが、思いつかなかった」
「・・・気持ち悪いですよ大佐」
「おい」
「いやーっ、だから近い!
謝罪の気持ちがあるんですよね?!
私に触る必要、ないですよね・・・?!」
「嫌なら呼べばいい」
「呼んだら何かあったとしか思わないでしょうが!
今度は私、彼のこと止められない自信があります・・・!」
「・・・それは困る」
「だったら離れて下さいっ。
・・・まだちょっと、」
「震えてるな・・・。
すまなかった。やはり殴って、」
「もういいですから離れて下さいってば・・・!」
「ああもう早く帰りたい・・・」
「帰るのか」
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「渡り廊下」より、「家族になるまでに7」の最中の会話。
シュウが戻るまで、似たような会話が繰り返されました。
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~禁断の愛?!~
「ああもう、起きちゃうでしょ。そのへんになさい。
何度も言うけれど、この子は私の、なの。
手出しは禁止!・・・やっと本当の娘になってくれるんだから・・・」
「母上・・・」
「本当の娘・・・ですか。
そういえば、彼女の戸籍はどうなっているのです?
どこかの貴族の養女にでもなっているのですか?
確か、渡ってきたのを保護したのがラズリエル様でしたね」
「・・・あぁっ!」
「母上、何か隠していますね?」
「忘れていたわ。
ミーナのこと、実子として戸籍に入れてしまっていたのよね・・・」
「実子・・・?!」
「それなら、蒼鬼とは兄と妹ということになりますね。
結婚は無理だ。ならばやはり私が、」
「少し黙っていろ。
・・・養子ではなかったのですか。
娘を保護したから、図書館で調べて来い、とだけ言われた記憶があるのですが」
「ええ、あの、だって・・・」
「あなたという人は本当に・・・。
さすがにそれをミナに秘密にしておくというのは・・・」
「どうしましょう。
今さら真実を知って、非行に走ったりしないかしら」
「いや、さすがにそれはないでしょうが・・・衝撃的でしょうね」
「今から養子に変更できないかしら。
それでなければ・・・しー君のところで養子にしてもらうとか・・・」
「しーくん?」
「ああ、補佐官のことだ。シェイディアード。
子どもの頃の呼び名を、今でも口にするんだこの人は・・・。困ったものだ」
「なるほど・・・。
・・・そうなると、補佐官殿と兄妹、になるわけですか」
「・・・さすがにそれは勘弁してもらいたい。
出来れば別のところで・・・ウェイルズあたりに頼んでみますか」
「いいえ、ここは白に融通をきかせてもらって、なんとか戸籍を書き換えてもらいましょうよ」
「そうですね・・・可能だとは思いますが・・・」
「もしどうにもならなければ、私がおります。
私ならば、蒼鬼の妹であっても問題ありません。
必要ならば私が、兄上、とへりくだっても構わない」
「そうねぇ・・・」
「お前はとっとと国へ帰れ。
母上も真に受けないで下さい・・・。
それにしても、どうしてそんなことを・・・」
「だって、私の娘だったら将来誰と結婚するにしても、どこからも文句が出ないでしょ?
思うとおりにさせてあげられるじゃない」
「それは、まあ・・・」
「この子はね、何にも持たずにこの世界に放り出されたのよ。
だから、望むことがあれば叶えてあげたいと思ったの。そのための戸籍。
私の名前が役に立つなら、喜んで差し出すわ」
「さすが、ラズリエル様です」
「うふふー、褒めても彼女はあげないわよー。
・・・まぁ、まさか無愛想で無表情な息子が射止めてくれるとは思わなかったけど」
「褒めてますか、貶してますか」
「どちらかと言うと、褒めてるわね」
「・・・それはどうも」
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「渡り廊下」より「家族になるまでに8」の車の中での院長、シュウ、大佐の会話。
結婚直前に戸籍上の問題が浮上。翌朝早くに、院長はジェイドに相談しに行ったのでした。そして、小話「彼の隣に並んだら1」に繋がります。
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