第93話 長の帰還、そして決着
ダメだ……眩暈が……クソ……俺には、こいつを使いこなせないというのか!?
「……聞こえる」
……ん? 聞こえる?
「鞍馬様、一体何が?」
「何かが……近づいてくる音が!」
……確かに聞こえる、何か大きなものが近づく音が。
ま、まさか違う怪物か!? こ、こんな時に来られるとやばいぞ!!
「まずい……もうすぐ来る!!」
逃げようにも逃げられない、逃げる先なども無い。
俺たちは、死を覚悟した……扉がぶち破られ、姿を現わしたのは……
「……え?」
あのめちゃくちゃ目立つ配色の……鉄の塊は……。
『オルルァ!! うちの社員に何してんじゃあああああああ!!』
鉄の塊のスピーカーから流れる……聞き馴染んだ声。
こ、この声は……
「しゃ……しゃ……」
「ルカ様ああああああああああああああ!!」
真っ先に駆け寄ったのはジャスミンさんだった。
ジャスミンさんがトラックに駆け寄り、ドアを開けると……
「まぁまぁ、手助けは無用だ」
「そ、そんな! こんな傷だらけ……」
「大丈夫だ、一人で降りられるわ」
やはり……あの姿は……見間違いじゃない、社長さんだ。
「しゃ、社長さん!」
「しゃ……社長……社長!」
俺とミオちゃんもトラックへ駆け寄った。
社長さんは以前と同じ探索用のスーツ姿だったが頭には包帯が巻かれ、そして……
「おいおい、社長さん、それって……」
「あぁ、ゴローディのヘッドギアだ、ここまでこれたのはこいつのおかげだ、ありがとうな、グローディ」
『どういたしまして! 協力できることがあればなんなりと!』
頭についていたのは俺が使っていたものと同じヘッドギアだった。
「おいおい、あんたそれで無理矢理……」
「……まぁいいじゃないか! それより、あいつを何とかしなきゃだろ?」
「あ、あぁ!」
そうだ、それよりもあいつを!
「さぁ、トム」
「あ、あぁ!」
『グローディネットワーク、接続』
ヘッドギアを取り付け、情報の波を受け止める。
社長さんが戻ってきたと考えると、不思議とその情報の山を受け入れるようになった気がした。
「いいか、ジャスミン、まずはこの傘を奴目掛けてぶん投げろ!」
「かしこまりました! ミオ様!」
社長さんはそう言って、背中に背負っていた傘をジャスミンさんに手渡した。
「ミシェール、お前はそのハサミを奴に投げろ」
「はい……」
「じゃあ俺は?」
「任せろ」
「は? 任せろって……うお!?」
社長さんはまるで綿を持ち上げるかのように俺を片手で抱えた。
「さぁ! ジャスミン! ミシェール!! ぶん投げろ!!」
「おいおい! 何をする気だよ!?」
「これがグローディの答えだ! トム! 歯ぁ食いしばれ!!」
「おいおい!?」
2人が振りかぶるのと同時に、社長さんも振りかぶり始めた……俺を。
まさか同時に投げつけるのか!?
『その通りです、私が上手く軌道を修正します、拳を突き上げてください』
「こ、拳を!?」
ま、まぁいい! 今はグローディを信じるぜ!
「小癪な……そんなこけおどし……通用すると思っているのか!?」
奴は羽を広げ、こちらへ突進してこようとしている!?
「行くぞおおおおおおおおおお!!」
「ちょ、ちょっと待て! うおおおおおおお!?」
社長さんにぶん投げられ、俺は奴目掛けて拳を出す。
ミオちゃんとジャスミンさんも指示通りハサミと傘をぶん投げていた。
目の前に見えるのは、こちらへ向かっているコウモリのバケモノ。
だが……
「グォ……」
ミオちゃんとジャスミンさんが投げたハサミと傘が奴の顔面に命中した。
そ、そうか! 拳を突き上げるという事は!
「食らえええええええええええ!!」
こうやって押し付ければいいんだ!
グローディのおかげで全ての力が拳に集中している! これは……行けるぞ!! グローディが、体がそう言っている!!
「カァ……な、何故だ……こんな……ことがぁ……」
気が付くと、俺は地面に叩きつけられ、擦りつけられ……壁に激突した。
通常ならば全身打撲で肌も摩擦で焦げているところだが、グローディのおかげか、不思議と痛くない……痛覚がなくなっているだけかもしれないが。
後ろを振り向くと……怪物は倒れたまま、動かなくなっていた。




