第十六章 仮免講習会 1.受講風景
第二部・夏期休暇篇の開幕です。
~Side ネモ~
俺が講習会の会場に入ると、それまでざわついていた空気がピタリと静まり返った。
……こういう反応にももう慣れた。何しろ前世を含めて二十年以上、同じような事を体験してるんだからな。
微妙な空気の中、会場を見回した俺は、その微妙な空気の一因に気付かされる事になった。……受講生、大半が女子でやんの。
後で知ったんだが、平民出身の生徒のうち、男子の大半は冒険者狙いなんだそうだ。手っ取り早く稼げるというのが人気らしい。一年生はまだ仮登録の年齢にも達していないが、そこはそこ、慣行的な抜け穴のようなものがあるそうだ。
俺みたいな「見習い」は特例だそうだが、仮登録を翌年に控えた子供たちが、私的に先輩冒険者の手伝いをする事は慣例化している。ついでに、そんな先輩冒険者が後輩に「小遣い」を与える事も。仮登録前の学生にしてみれば、冒険者としての修行と小遣いが同時に手に入る機会なわけで、休み中はそっち狙いの男子が多いんだそうだ。では、薬師ギルドの仮免許を取得しようとするのは……と言うと、どちらかというと生産系の人材が多いらしい――女子とか女子とか女子とかな。
結果、毎年のように女子比の高い講習会になって、男子は肩身が狭いんだとか。ちなみに俺の場合は、バリバリの武闘派と目されていたのに、講習会に現れたというのが驚きだったらしい。……大きなお世話だ。
〝冒険者にとって薬は持ち歩くもので、自分で作るものではない〟――というのは、後日知り合った男子生徒の弁だが、そんな事言ってるといつか足元を掬われるぞ。
ちなみに、受講生の男女比は大きく女子側に傾いているが、出身別に見ても大きな偏りがある。……要するに、平民出身者が大半なんだよな。
前にも説明したとおり、貴族連中の大半は実家に拉致られて社交三昧だ。まぁ、連中は金策の必要が無いというのもあるんだが、講習の内容そのものは有意義だからな。受けたがってたやつらもいたんだが。
対して平民組は、休み中の金策の手段という面も大きいが、簡単な薬の作り方を憶えられるというのが大きいらしい。等級外ポーションにしても、調合はともかく販売には免許が必要だが、売らずに自分で使う分には何の制限もかからないしな。この講習で作り方さえ憶えてしまえば、仮免許の期限が切れても自家用には作れるわけだ。ついでに言うと、売るのは駄目だが物々交換とかお礼なら問題無いという抜け穴もあると、後で――こっそり――教えてもらった。
講習会では、等級外ポーションの他に簡単な薬草などの調合も教えてもらったが、俺の田舎じゃ使わない薬草なんかもあったりして、俺としては大いに有意義だった。売れないとしても、自分で使う分には充分だしな。その他に……
「……なるほど。マーディン先生から話は聞いていたが……そうやるのかね」
「えぇまぁ、俺が田舎でやってた方法なんですけど……駄目ですかね?」
「少し見せてくれたまえ……いや……効能自体はそう落ちていないから、これはこれで問題無いよ。……それで、このレシピについては……?」
「えぇ。マーディン先生にお伝えしたとおりに」
「助かるよ」
薬師ギルドで教えているのと少し違う方法で作っていたんだが、問題無いとのお墨付きを貰った。まぁ、【眼力】による鑑定結果でも、問題無いと出てたしな。
・・・・・・・・
「ネモ君……ですよね? Aクラスの? わたし、Dクラスのレベッカっていいます。少しいいですか?」
ピンクがかったブロンドの女子が話しかけてきたんだが……また面倒なやつに目を付けられたみたいだな。
このレベッカってキャラは、最前線で暴れ廻るようなタイプじゃないが、プレイヤーが人脈を作るのに大きく貢献するんだよな。レベッカの好感度を上げておくと、肝心な時に隣国から援軍が来たりするんで、ゲーム攻略のキーパーソンとして扱われていた筈だ。将来イベントに巻き込まれたくない俺としては、避けた方が無難なんだが……こいつ、ゲームだと変に勘が良かったからなぁ……。下手に遠ざけようとしたり、はぐらかすような真似をしたら、却って拙い事になるかもしれん。
「あぁ、何だ?」
「さっき、指導員の薬師の方と、何かお話ししてましたよね?」
……目敏いやつだ。
「あぁ。俺が田舎でやってた調合法が、こっちの方法と少し違ってるみたいなんでな。問題無いかどうか、確認してもらっただけだ」
「別の方法ですか? ……差し支えなかったら、教えてもらえません?」
別に大した事じゃない。風邪薬として能く使われるシブリって薬草があるんだが、これ、熱湯で煎じると苦味が出て、弟妹たちが飲むのを嫌がるんだよな。少し冷ました湯で煎じてやると、苦味成分は溶け出さないのに薬効成分は問題無く溶け出すから、そうしてたってだけだ。まぁ、症状によっては苦味成分を出した方が良い場合もあるみたいだが。
ただ、このレシピは既にマーディン先生に教えてあって、先生がギルドと交渉して何かしてくれているみたいなんだよな。俺としてはレシピぐらい無償で渡してもいいと思うんだが……冒険者ギルドと同じで、生徒が開発したレシピを無償で渡したりすると、好くない先例になるらしい。なので……
「このレシピは既にマーディン先生に渡してある。俺の一存でどうこうはできないな」
「あら、そうなんですか。残念です」
この時はそれで済んだんだが……レベッカのやつ、俺に興味を持ったみたいで、ちょくちょく話しかけてくるんだよな。……はぁ、どうしたものか。




