第七十三章 ウォルティナ 6.祖父母の家で(その3)
~Side エバ(ネモ祖母)~
「あらあら、そう、ヴィクちゃんっていうの。宜しくね」
『うん よろしくー』
「宜しくだってさ」
あらあら、小さいのにちゃんと手――で、いいのよね?――を伸ばして握手できるのね。本当にお行儀が良いこと。甥姪の子供たちに見せてやりたいわ。
「ほら貴方も、何をぼーっとしてるんですか。ヴィクちゃんが握手をしようって言ってるのに」
「お、おぉ……そりゃ、気づかんですまんかったの。……宜しゅうに」
『うん よろしくー』
「宜しくだってさ」
「そ、そうか……いや……スライムと挨拶を交わした事など、そこそこ長い商人人生でも無かったもんでな」
本当に、この人ときたら……可愛い孫がお供を連れているのにも気付かなかっただなんて……どこに目を付けているのかしらね。
「い、いや、そうは言うがの……あの時は止ん事無き方々のお相手で精一杯で、他に気を配る余裕など無かったんじゃぞ? (……お前と違うての)」
「何です? 終わりの方、能く聞こえなかったんですけど?」
「何でもないわぃ!」
全く……言いたい事があるのならはっきり言えばいいのに。でもまぁこの人の言い分にも、一理くらいは無い事もないのよね。
頭の上でお行儀良くじっとしているのを見て、スライムだと気付くのは難しいかもしれないし。……頭の上にスライムを乗せるという、孫の奇行は別としても。
普通に犬・猫・小鳥くらいなら、うちの人も気付いたんでしょうけど。……まぁ、孫に懐いてくれる犬・猫・小鳥がいるかどうかは別として。
強面の孫にこんなにも懐いてくれているんだから……スライムだろうが何だろうが構わないじゃありませんか。況してこんなにお行儀が良いんだから。
・・・・・・・・
……お行儀良いとは思っていたけど、まだまだ考えが甘かったようね。
まさかきちんとカトラリーを使って、非の打ちどころ無く食事ができるなんて。
もう「お行儀」なんてレベルじゃないわ。普通に「マナー」のレベルだわよ。本当に甥姪の子供たちに……(以下略)。
「あー……一とおりのマナーは教えておいたから、会食の席でも誹られる事は無い筈だぞ」
確かに……どちらかと言うと、同席者のマナーの方が取り沙汰されそうね。
「それにしても……スライムに礼儀作法を教え込もうなぞ、能くも思い付いたのぉ」
「誰であれ、マナーを知っておいて損は無い――って言ったのは祖父ちゃんじゃねぇか」
「まぁ……そりゃそうじゃが……」
「王城のパーティーだって乗り切ったんだからな。文句を言われる筋合いは無ぇよ」
「むぅ……それは確かにそうかもしれんが……」
うちの人は往生際悪くぼやいてるけど……それはもう放って置いて……
スライムって本当に味覚が鋭いのねぇ。隠し味の工夫までちゃんと解ってくれて、その上で料理を褒めてもらえるんだもの。料理人というか、賄い方には何よりのご褒美よね。
『これ、おいしーねー♪ Cマッシュとはべつの うまみがあって』
「お、解るかヴィク。さすがだな」
どうやら醤油も気に入ってくれたみたいだし。
「そう言や祖母ちゃん、醤油はまだ売りに出さないのか?」
あら、お鉢がこっちへ廻って来たわね。
「儂もそれは常々言うとるんじゃが……」
あらあら、ぼやきの矛先もこっちへ向いたのかしら。だったらきっちり答えてあげなくちゃね。
「家で造る分にはまだしも、量産するにはちょっとね。味と品質が安定しなくて」
「あー……商売として出すんなら、味と品質の安定は不可欠だよなぁ」
あら、うちの人より孫の方が、商売ってものをきちんと理解してるみたいね。こういう調味料は長く使ってもらえてこそ。初回の目新しさだけじゃやってけないのよ。味と品質の安定は至上命題だわ。
それでもこの人の押しに負けて、試作品をお裾分けする程度ならいいかと思っていたけど……ポロシャツの件を考えると、それも危ないかしら。
販売戦略を考え直す必要があるみたいね。




