第七十三章 ウォルティナ 5.祖父母の家で(その2)【地図あり】
~Side ネモ~
俺がズバリと言ってやると、祖父ちゃん、聞かされたくない事を聞かされたという顔で凹んじまった。大方、セレブの領分を侵したんじゃないかって気を揉んでるんだろうが、
「大丈夫じゃねぇか? 公爵家がうちを潰す気なら、態々ポロ……チュニックを買って注意を引くような真似はしねぇだろ」
不意を衝いて一気に畳み掛けるのが、戦術の常道だと言ってやった。
「そうかのぉ……そう言われれば、そんな気もするのぉ……」
「ま、証拠品を獲得するため、何食わぬ顔で購入した……って可能性もあるけどな」
「おぃ……」
祖父ちゃん、すっかり情け無さそうな顔になってんな。ちと揶揄い過ぎたか?
「大丈夫だって。証拠品なら何着も買ってく必要は無いだろう」
大奥様、着替えだとか好みだとかおっしゃって、四~五着買ってらしたからな。ま、珍しかったって事もあるんだろうが……下手すると寄子の貴族に見せびらかすって事も考えられるか。
一応在庫を確認したところで、祖父ちゃんの精神衛生を慮って、無理矢理に話題を変える事にした。
「それよか祖父ちゃん、スカイラー商会からの手紙には何て書いてあったんだ?」
帰省の挨拶に行ったら、店長さんから手紙を託かったんだよな。貝殻ボタンとカフリンクスの製作に成功した事の他、材料の入手とか製作の協力打診についても書いてあるような事を、店長さんは匂わせてたが。
まだ水面下で動いてる段階だろうから、お嬢や大奥様たちには――俺からは――何も言わなかった。どうせ公爵家からスカイラー商会の方に問い合わせが行ってるだろうし、必要なら店長さんが対処するだろう。俺がしゃしゃり出る幕じゃない。
で――祖父ちゃんの返答はというと、
「うむ。ハリオットの殻が使えたようじゃ。入手の可否を打診されておるが……どうしたもんかのぉ」
「あぁ、ハリオットは普通に食材として使われてるからな。下手に横入りすると面倒か」
利用されてんのは身だけで、貝殻はそこら辺に棄ててるだろうから、再利用するのは問題無いだろうが……その説明がなぁ……
「下手に誤魔化しても、どうせ直ぐにばれるわぃ。それなら最初から話を持って行った方が良いじゃろうが……ハリオットはタイダル湖でも獲れん事は無いが、海で獲れる方が多いからの。どうしてもそっちの商人なり網元なりに話を通さにゃならん。スカイラー商会とも話し合う必要があるの」
話し合うったって、王都とウォルティナじゃ遠過ぎるだろうと思っていたが、祖父ちゃん魔導通信機を持っていて、今回はそれを使うらしい。店長さんもそれを見越して、手紙の末尾に通信機のアドレスを追記してあったそうだ。やるなぁ。
しかし……ここらで海沿いの町ってなると、港湾都市エラスマスか。他にも港はあるんだが、あそこはレンフォール公爵家のお膝元だけあってインフラも整備されてるし、頭一つ図抜けて栄えてるからな。あそこに話を通しておけば、他の港なり網元なりにも伝わるだろう。
となると、ここで公爵家を巻き込む事になるわけか。お嬢に話を通してもらってもいいが……ポロシャツの縁が早速使えそうだな。
あ、いや……ちょっと待てよ?
祖父ちゃんと店長さんの話し合いはいいかもしれんが、肝心の公爵家との折衝はどうするんだ? ……いや、そう言えば王都を出る時に、大奥様が魔導通信機でどこかに連絡を取ってたな。丁度貝ボタンとカフリンクスの話をした直後だった。
あれがスカイラー商会絡みの連絡だとすると、スカイラー商会は公爵家にコンタクトを取れる可能性があるわけか。
……ま、俺が考えても仕方のないこったな。後は大人たちに任せるか。




