第七十三章 ウォルティナ 1.三者三様思惑絵巻
~Side ネモ~
「本当に宜しいんですの? ネモさん」
「あぁ。単に順番が入れ替わるだけだからな。そもそもお嬢ん家の馬車に乗せてもらわなかったら、里帰り自体できなかったんだし」
カソルの町を出たところでお嬢共々妙なボランティアをやる羽目になっちまったが、それ以外は何も無くチャシクの町に着いた。チャシクの町から一日ばかり行ったところで分かれ道を西へ向かえば、我が懐かしの故郷リット村に着くんだが……だからって、ここでお嬢たちにおさらばを決めて、一人だけ実家に帰るってなぁ、幾ら何でも義理ってもんを欠くだろう。せめてウォルティナの町くらいまでは同行して、誠意ってもんを見せなきゃな。
ゼハン祖父ちゃんにも紹介を頼まれてる事だし、なぜかお嬢も祖父ちゃんの店に行くのに乗り気みたいだから、これは一石二鳥……いや三鳥ってもんだ。
実家に帰んのがちっとばかし遅れるが、祖父ちゃん祖母ちゃんに会うのを先に済ませときゃ、その分実家に長くいられるわけだしな。
お嬢にはチャシクの町でそう伝えたんだが……いざ分かれ道を素通りって段になって、又候弱気の虫が動いてきたらしい。お嬢にしちゃ珍しい事だよな。
ま、そんなに気にしなくても、ウォルティナの町までの護衛と道案内はきっちり務めるから、そう心配すんなってんだ。
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~Side ドルシラ~
分かれ道のところでネモさんに然り気無く翻意を促してみたのですけど、あっさりと躱されてしまいました。ネモさんの決意は固いようです。……こういう時は、ネモさんの義理堅さが恨めしくなりますわね。
そもそも今回の帰省の目的ですけど、一つには旅という時間を共有する事でネモさんとの関係を深め……何か誤解を招きそうな言い回しですわね……そう、関係を改善するというものがありました。
その一環として、ネモさんとのご家族の誼を深め、搦手からネモさんを籠絡……ではなくて口説き落とし……いえ……懐柔しようという目論見があったのです。
そのためにも、これを機にネモさんのご実家の位置を特定してお近づきに――と考えていたのですが……その計画は初手から――ネモさんの義理堅さによって――躓く事になったのでした。
……ここは無理に畳み掛けるのではなく、一歩引くのが上策ですわね。やはり私たちの方から押し掛けるというのは図々しいですし、貴族として褒められた行ないではありませんもの。
下手を打ってネモさんとの関係に瑕疵を付けるような事は出来ません。当家の評判にも関わりますしね。
幸いに、ネモさんのお祖父様にはご紹介戴けるようですし。
……ネモさん発案のあれこれを一手に取り扱っておいでだとか。お訪ねするのが楽しみですわね。
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~Side ゼハン(ネモ祖父)~
「表口はちゃんと掃き清めてあるか!?」
「はいっ! 大丈夫です!」
「今は良くても、野良犬がやって来て糞を垂れるかもしれん。定期的に見直しを欠かすでないぞ!」
「は、はいっ!」
「陳列棚の周りも整っておるか? 棚の上だけではのぅて、下にもきっちり目を配っておくんじゃ!」
「解りました!」
「商品の入れ替えは済んだのか?」
「今少しお時間を戴きたく」
「早うせぃ! 孫めは〝予定は未定〟なんぞとほざいておった。予定どおりなら昼頃にお着きになる筈じゃが、予定が狂って明日になる、悪くすると数刻後にはお見えになるかもしれんのじゃ。今日明日の間は気を緩めるでない!」
「「「「「はいっ!」」」」」
全く……あのバカ孫め、〝公爵家のお嬢様と大奥様をそっちにお連れするから宜しく〟……なんぞと気楽にほざきおって……
そりゃあ一廉の商人として、止ん事無き方々のご来臨が嬉しくないわけは無いわぃ。じゃが、うちは三代前から庶民相手に手堅くやってきた木っ端商会じゃ。お偉方をお迎えできるだけの品も手際も無いというに……
ま、魔導学園なんぞに招集されるような孫を持ったが因果じゃと、肚を括って向かうしか無いか。




