第七十一章 相乗り帰省道中記~五日目 カソルの町~ 3.宿にて
~Side ネモ~
冒険者ギルドでちょいとゴタつきはしたが、その後はスムーズに宿に入る事ができた。サラゴスまでの宿の確保が大変だったのは、シーズンの問題も然る事ながら、サラゴスが交通の要衝だって事が大きいらしい。まぁ、主要街道の結節点だもんな。そりゃ混みもするか。
実際にサラゴスからここまでの間は、街道も比較的スムーズに通れたしな。
予約していた宿へ入り、飯を済ませて寛いでいたら、お嬢からの呼び出しがかかった。何か面倒事でも起きたのか、昼間の件を根に持った冒険者どものカチ込みかと、ちっとばかり緊張して行ってみりゃ、
「あ? ギルドからのご機嫌伺い?」
そりゃ、お嬢だって大奥様だって、大物貴族の一味にゃ違い無いんだから、ギルドがご機嫌伺いの一つや二つ寄越したって、別に可怪しかぁないだろう。そう思ったんだが……お嬢に言わせると少し違うらしい。
「そういった事が無かったとは言いませんけど、それらは日程に余裕があるか、事前にこちらから一報入れていた時だけでしたもの」
一泊するだけで翌朝には出立というスケジュールなのに、ギルドの側からご機嫌伺いを申し出るというのは異例なんだと。さすがにアポ無しで宿に押しかけるようなヤンチャはしなかったようだが、翌朝の面会を希望する使者を寄越すだけでも例外的なんだそうだ。
「況して今回は、三つのギルドの揃い踏みですので……」
「〝三つのギルド〟……?」
そこはかとなく嫌な予感がしたもんで、その〝三つのギルド〟とやらを確認してみると、
「薬師ギルドと魔導ギルド、それに皮革ギルドですわね」
あちゃー……お嬢が俺を疑うわけだ。どう考えても俺絡みじゃねぇか。
……ひょっとしてあれか? 今回はレンフォール家に同行して帰郷するんで、町々でギルドに顔を出すのが難しいって、冒険者ギルドから通達を出してもらった件か? 俺に直にコンタクトを取るのは難しいと見て、公爵家へのご機嫌伺いの形を取ったってわけか?
苟もレンフォール公爵家を出汁に使うような真似なんかして……後の祟りが怖いんじゃねぇのか?
「他領のギルドに貸しを作ったと思えば、そう悪い事でもありませんもの。それでネモさん、ものは相談なのですけど……」
「あ?」
お嬢の言うのは、明朝に時間を取ってギルドとの会見の場を設けるので、そこでスノーギガスの素材を提供してもらえないかとの打診だった。……てかお嬢、俺はスノーギガスを狩ったなんて、一言半句も口にしちゃいないんだがな?
「あら? 多少図体の大きいトカゲごとき、ネモさんが苦になさるとは思えませんもの。なのに屍体が残っていない以上、ネモさんが【収納】なさったのだと考えるのは当然じゃございません?」
お見通しかよ……
さぁて……こいつはどうしたもんかな。
シィフォン峠で狩ったスノーギガス、ゼハン祖父ちゃんへの手土産にしようと思ってたんだが……ここはお嬢の顔を立てておくか。色々と迷惑もかけちまってる事だしな。
峠で狩ったスノーギガスは二体いるんだが……両方ここで出しちまっていいもんなのか? 一頭は念のために確保しといた方が無難か?
いや……王都ギルドのサブマス、〝今年はスノーギガスの豊年だ〟……なんて、冗談めかして言ってたからな。豊作貧乏みたいな感じで、素材が値崩れしてる可能性だってあるかもしれん。……その割にゃギルマス共々恵比寿顔だったが。……最初から二体出すのは止めにして、向こうの希望を訊いてからで良いか?
祖父ちゃんへの手土産は、お嬢や大奥様に引き合わせるだけでも充分だろう。何だったらスカイラー商会の店長さんからの託けもあるしな。
少し早いですが、キリが良いので年内の更新はこれで終わりとさせて戴きます。新年は六日からの更新となります。
それでは、良いお年を。




