第七十章 相乗り帰省道中記~二日目 サラゴスの町へ~ 3.食料品店(その1)【地図あり】
~Side ドルシラ~
シィフォン峠の件は今暫く措いておくとして……サラゴスの屋敷で旅装を解いた後も、まだ日は高ぅございましたので、ネモさんを町へご案内する事にいたしました。
お祖父様のやらかしの件があって以来、ネモさんとの仲を修復する事は、レンフォール公爵家にとっての優先事項となりつつあります。この旅行の間に少しでもネモさんとの関係改善を進める必要があるのですが、それが意外に難しいのもネモさんなのです。
何しろ、あの反骨精神の塊のようなネモさんですから、下手に身分や金銭をちらつかせようものなら、途端に臍を曲げておしまいになるのは明らかです。となると懐柔の一手なのですが、衣・食・住のうちでネモさんの興味を引けそうなのは「食」ぐらい。それとてネモさんの知識の方が当家のそれを上回っている状況なのです。
そんな中で唯一使えそうな手というのが、平民では入店の難しそうな店に、ネモさんをお連れする事なのでした。これには王都での実績もありますしね。
……えぇ、ネモさんが王都の店でお求めになったモディル・フィッシュ、まさかあのように美味な調味料に化けるとは……お祖母様も、ネモさん侮るべからずの思いを強くなさったようでした。
しかしそうなると――今回の道中でネモさんにご紹介できそうなお店のあるのは、ここサラゴスの他にはカソルとウォルティナしかありません。
[オルラント王国地図]
ウォルティナはネモさんのご実家からは少し遠離る事になるのですが、何とかそこまでネモさんにご同行戴いて、ウォルティナで商会を構えておいでというネモさんのお祖父様にご紹介戴こうと思っています。
本当はネモさんのご実家までお送りしたいところなのですけど、いきなりそんな真似をされても、ネモさんもご家族もお困りになるでしょうしね。まずはお祖父様の商会と伝手を結ぶ事を優先すべきでしょう。
そして……カソルの町はそこまで大きくなく、ウォルティナはネモさんの――正確に言えばネモさんのお祖父様の地元となれば、ここサラゴスが唯一の機会となります。
ネモさんはご弟妹へのお土産を気にしていらっしゃるようでしたから、ここで何か手頃なものが見つかればいいのですけど。
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~Side ネモ~
弟妹たちへの土産をどうしようか悩んでいると漏らしたら、お嬢が心当たりの店ってのを紹介してくれた。王都で紹介してもらった、レンフォール家御用達のオーウェンス商会。あそこがこの町にも店を構えてるんだそうだ。交通の要衝でもあるサラゴスの町には、各地から色んな物産が集まって来るんで、渡来品を手に入れるには王都よりも都合が好いんだと。
そんな事を聞かされりゃ、俺としても気合いが入ろうってもんだ。ヴィクと一緒に勇んで店に乗り込んで行った。
お高そうなもんが色々置かれちゃいるが、大半は俺たちにゃ縁の無い代物だ。
まず、家具だの飾りだのは置き場が無い。ドレスやアクセは母さんぐらいしか使わないだろうが、当の母さんがなぁ……嫁入りの時にドレスやアクセを全部売っ払って、持参金に変えたって話だからな。即座に換金される未来しか目に浮かばんわ。
武器や防具はもっと駄目だ。下手なアイテムなんざ手に入れちまった日にゃ、おかしなフラグが立たんとも限らん。そんなリスクは回避の一手だ。
ここはやっぱり消耗品の一択だろう。酒は弟妹たちをハブる事になるし、そうなると選択肢は食いもんだけだ。
とは言っても海外産の食品とか調味料は、海都エラスマスで荷揚げされて王都に届けられるんだから、ウォルティナでゼハン祖父ちゃんに頼んだ方が早いし安いんだよな。態々サラゴスで買う必要は無い。狙うとすれば内陸の……それも北方の産物か?
前世のイメージだと東北や北海道……酪農品やメロン、リンゴ辺りになるが……それなりの距離を運んで来るんだから、生鮮食品は望み薄だろう。マジックバッグを使えば別だが、値段も相応に高くなってる。弟妹どもへの土産にゃ不相応ってもんだ。
もちっと分相応なもんとなると……
『マスター あれはー?』




