第四十一章 魔女の闇鍋 3.サバトの始まり?
~Side ネモ~
エリックの馬鹿がアホな事を言い出した翌週の土の日、「錬金術基礎」の授業が終わった後で、俺たちAクラスは錬金術の特別自習というやつを開催していた。……これが単位になるってんだから、ここの学園も大概だよな。
「みんな! 素材は持って来たか!?」
「「「「「おうっ!」」」」」
エリックの声に応じるように、クラスのやつらが声を上げる。何かの決起集会みたいな感じだな。……ただ……男子が馬鹿やるのはまだ解るんだが、女子まで拳を振り上げて応じているのはどうなんだ? 〝エイ、エイ、オー〟とか言い出しそうなノリなんだが。
……いや……男女関係無く、十二歳ならこんなもんか?
「それでは、各班の代表は素材を持って来てくれ。……あぁ……ネモ班は最後にしてくれよ」
……おぃエリック、今回俺は参加禁止って言われただろうが。素材を用意したのはジュリアンだってのに、何で俺をチラ見するんだよ。
「本当ですわ。ネモさんと同列に扱われるなんて、心外ですわ」
「……おぃお嬢……」
「落ち着けネモ、善くも悪くもこの班は特別なんだから。……レンフォール嬢も、ネモを挑発するような真似は謹んで戴きたい」
「あら、ごめんなさいまし。そういうつもりではなかったんですけど、つい口が滑りましたわ」
……お嬢……それって、本音が漏れたって事か……?
「まぁまぁネモ君、とりあえず今は各班自慢の素材を見物しようよ」
アスランの執り成しを容れて、各班が持ち寄った素材を見せてもらうと……ほぉぉ……こりゃ、中々面白いもんが揃ってるじゃねぇか。
「各貴族家が面子にかけて選りすぐった品々ってやつか」
「そうとばかりは言えないな。学生個人が入手したものがあれば、そっちが優先されるという暗黙の了解があるからね」
「ほぉ、そういうもんか。……で、フォースが持って来たのはどっちなんだ?」
少し意地悪くそう訊いてやると、ジュリアンのやつは困ったように肩を竦めた。主役の一人だけあって、こういう動作も様になってるもんだ。くそ。
「残念ながら僕もコンラートも、自力で素材を探す暇が無くってね。倉庫から適当なものを見繕ってきただけさ」
「ほぉ……それが何なのかは、この後のお楽しみにするとして……」
……おぃエリック、お前が持ち込んできたのは、そりゃ何だ?
「知り合いの薬種問屋に相談したら、虫喰いが酷くて売れないからって、安く譲ってもらったんだ。何でも滋養強壮の薬になるとか言ってたけど」
……そういう触れ込みで売られてんだろうな。こっちでは何と言うのか知らんが、【眼力】での鑑定結果によると、オットセイの陰茎の干物だぞ? それ。……先生方は気付いてんだろうな。微妙な顔をなさってるよ。
「で、これだけじゃ物足りない気がしたんで、料理長からこれも貰ってきた。古くなって食べられなくなった卵なんだそうだ」
「……随分デカいが、何の卵なんだ?」
ダチョウか何かの卵なのか?
「料理長が言うには、外国産の鳥の一種らしい。出入りの商人が持ち込んだ時、既に鮮度が怪しいからって、只みたいな値段だったそうだ。で、食べられるかどうか確認してから料理しようと思って仕舞っていたら……」
「……そのまま忘れちまったんだな?」
「うん、そうらしい」
……殻を割るのが不安な代物だな。半分融けかかった雛の腐乱屍体とか出てこなけりゃいいが。【鑑定】するのも気が進まんわ。
エリックの爆弾から目を逸らして、他のラインナップを眺めると……こっちも中々の品揃えだった。
・亜竜の干物。ただしバラバラになっており、価値は低いと思われる。
・大猿の頭の皮と称するもの。芝居の鬘に使われてたそうだが……ラクダの瘤か何かか?
・バケツ一杯の鉱滓。馴染みの鍛冶屋から仕入れたらしい。
・サルノコシカケっぽいやつ
・化石の破片。能く判らんが、魚とかエビの類か? こいつは隕石も持ち込んで来た。
で、ジュリアンのやつが持ち込んできたのは、割と大きく純度も高い硫黄の塊だった。
「……見事に方向性がバラバラだな。これを一緒くたに煮込もうってのか?」
「バラバラだから面白いんじゃないか。何ができるか見当も付かなくて」
「まぁ、そりゃ解らんでもないが……大丈夫ですか?」
監督者のホースティン先生に確かめたんだが、
「……ま、大丈夫だろう。ニコラテスの時のような事は、そうそう起こらんだろうし」
……ちょっと先生……それってエディス・ニコラテスの事ですか? 爆発名人の?




