私では駄目ですか?
「公爵令嬢に密かに恋をしているのではどうか?」
同僚に言われ吹き出しそうになる。
「いやいやいや、それこそ我が家が没落させられかねないだろ」
我が家は侯爵と言ってもその中では力のない方の家だ。
だからこそ母は王子と俺が乳兄弟になって無茶苦茶な思想になってしまった。
公爵家や王家を敵に回しても大丈夫なんてことが全くないので、とにかく逆らわずの方針になっている。
自分としても兄や兄の婚約者に迷惑をわざわざかけたいという気持ちはない。
「うーん、そうすると人妻とかか、それとも既に亡くなった人とか……」
「それはその人に似た人を無理矢理連れてきませんか……」
「うわー」、と言った同僚の表情があいつらはやりかねないと書いてあるようだった。
俺もそう思う。
やっぱり嘘でしたと言ってもお見合い地獄は多分続く。
王子と決定的な仲たがいをすると公爵令嬢のご実家が怖い。
八方ふさがりなのだ。
平和に暮らせる日が来てほしい。
「あの……」
同僚のエーリカがおずおずと手をあげる。
オドオドとしている態度だけれど、彼女は医療魔術の権威で盾となる防御魔法についても一流の使い手と聞く。
若いのにすごいと思っている。
何か、とても素晴らしいアイデアを出してくれるかもしれないと彼女の方を向く。
彼女は驚いたのか真っ赤になっていた。
それからエーリカはおずおずと言った様子で話し始めた。
「その話、私が立候補するのではだめでしょうか?」
エーリカがそう言った瞬間、場がドッとわいた。
俺は言われた意味が上手く理解できなくてきょろきょろとしてしまった。
瞳の大部分が長すぎる前髪で隠されていてよかった。
「それはいいじゃないか。
何しろ面白い」
他の同僚たちがざわざわした。
「立候補というのは、俺の心に決めた人に?」
まさか、という気持ちで聞く、エーリカは真っ赤になったまま頷いた。
王子か公爵令嬢の説得に立候補という意味じゃなかった。
この瞬間、エーリカという人が少しだけかわいいかもと思ってしまったことは秘密だ。




