表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/16

番外編:私の旦那様は無自覚天才です

私の旦那様は天才です。

けれどそのことに対して無自覚です。


彼は顔のやけど跡の所為で貴族の社会では鼻つまみ者の扱いでした。


だけどそもそもその傷が、普通に考えたらなんでその程度で済んだのかと魔法に少しでも精通していれば思うものなのです。


彼の傷は王子をかばってできた忠臣の証とされています。

実際その様です。


王宮に入り込み王子を殺害しようとしていた手練れから王子をかばって顔に傷跡が残っただけ。

この事実だけでもおかしいと普通思うものです。

相手は大人しかも王宮に入り込めるだけの実力を持った殺しの専門家たち、それが王子を殺害しようとしたところに割って入って生きていて、しかも他に被害が無く、あった被害は旦那様の顔だけ。


普通の子供にできることではありません。


そんなことも分からない人たちばかりに囲まれて彼は過ごしていました。

だから、自分に対する認識が少し変わっています。


そのことは研究所の魔法使いは皆知っていて、いつでも彼が国一つくらい魔法でどうにかできると思っているからこそ“殿下案件”とちゃかしていました。



私もそのことはちゃんと理解していて、治癒が専門ではないだけで幻影の魔法で傷跡なんてどうとでもなることを知っていて、彼の傷を治すための研究を陰でずっとしていました。

最初に失敗したからやり遂げたいという気持ちも勿論あったけれど。


いつかは光さす道を歩むのだろうと、その時に同僚として餞として治癒が出来ればいいとずっと思っていました。


その彼が、もう限界だと誰か伴侶になってくれる人を探していた。


私が立候補しなければ多分他の人が立候補したでしょう。

研究所以外の場所でも誰かが多分立候補したと思う。


けれど、あの時あの場所で、最初に彼が弱音を吐いたところにいたのは私で、最初に立候補したのも私だからもう他の人に譲ってあげるつもりは無いのです!


旦那様はあの後恐縮して何度も「本当に俺でいいのか」「国を出なければならないかもしれないけど不安はないのか」と尋ねてきました。


何故不安になる必要がこの人にあるのかが分かりませんでした。


きっと王子をかばったときの精神的後遺症なのでしょう。対人戦に関してはからっきしで体が固まって動かなくなってしまうものの、無生物の的や魔道具については的確に魔法が使える人です。

どの国に行っても好待遇で受け入れられる未来しか見えません。


他の人も同じことを思ったみたいで、心に決めた人に立候補した後色々な人に「上手いことやったじゃん」と言われました。

上手い事かは分からないけれどあの人に言った通りメリットしかない。


恋した人に一緒に生きることを認めてもらえたのだから。


それに生活という意味では私は元々平民です。

魔法を勉強するための資金として一時期冒険者をしていたこともあります。

その辺は多分どうとでもなります。


困ったような顔をする旦那様に、「幸せになりにいくんですよ!」と私は言いました。

私が彼を幸せにするのだと思った。



だから、医術をたしなむものとして旦那様が精神的後遺症として体が固まる瞬間があるように、王子様にも何かがあるかもしれないと脳裏をよぎっても、私は何も言いませんでした。

王宮には医療に関わる人も何人もいるはずです。

それでもこれは、医術に関わる人間としてとても重い罪なのかもしれません。


このことは旦那様にも言っていません。


私は悪い女なのです。

本当は私よりよっぽどいい女の人を伴侶にできる可能性が高かった旦那様に、ただ最初に立候補したというだけでとても大切にしてもらってます。


さっきも、転移魔法について移住先の国王様から表彰されるとなったにもかかわらず、「これは妻との共同研究なので連名でお願いします」と言っていました。

あの研究は私は少し手伝ったくらいなのに。


そんな感じで、私の無自覚天才さんは、今日も天才っぷりを発揮しています。

なので、母国からであろう偵察部隊の方には旦那様に気が付かれる前に丁重にお帰りいただく予定です。

私も天才ではないものの、魔法の力で一代貴族を勝ち取った程度の実力はあります。


「あなた公爵家の狗の方ですか?」


首元に高圧物質を鋭利にした刃物を突き付けてたずねます。

ギョッとした顔をしてしまう時点であの令嬢が連れてこれた手駒は大したことが無く、今も鍛え抜かれてはいないということが分かります。


「あの方のお嫁さんの地位をどなたかにお譲りするつもりはありませんのでお引き取りを」


そう言って風の魔法を応用して他の狗の皆さんを地べたに押し付ける。

ガクガクと壊れた機械の様に頷くと偵察の方たちはきちんと帰途につきました。


これで安心です。

私はまた今まで通りの幸せな生活を送るために旦那様の元に帰ります。


けれど、今日はいつもと違うことがありました。


「あまり危険な真似はしないでね、エーリカ」


自宅へ帰ると旦那様がそう言いました。

私も旦那様の天才ぶりを少しだけ侮っていた様です。


私はごまかし笑いをしたけれど、旦那様は私をそっと抱きしめました。

これは私得な状態なので思わずすり寄ってしまいました。


私はいまとても幸せです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ