やっぱり
* * *
父は滞りなく報告を王宮にした。
兄は弟の未来を応援していると周りに告げて歩いた。
後は平民になるだけ。
という訳にはいかなかった。
王子が母を呼んで、王子に頼られた母が『すべて殿下の思し召しの通りー』とハッスルしてしまった。
何もかもを振り切って領地から王子の望むようにするために屋敷に向かっているらしい。
「あー、やっぱり予想通りになってしまいましたね」
今までだって結婚以外の理由をつけて側近候補を降りると宣言することはできた。
それをしなかったのはこの所為だ。
貴族の集まりでさらし者の様になっていたことに対して父もそして兄も何も思っていなかった訳ではない。
好きで放置していた訳でもない。
こうやって母が暴走してしまうとわかっていたので放置していたのだ。
だけどあらゆる意味で限界がきていた。
「丁度良いタイミングだったんだよ」
兄は困ったように笑った。
「本当は兄さんの結婚式見ることくらいはしたかったんだけど」
そういうと兄の婚約者は涙を浮かべていた。
この国にいる限り王子が暴走してろくでもないことに巻き込まれてしまうだろう。
ある程度予想できていた。
それにそういう人だからこそ、研究所で『殿下案件』なんていう事が出来ていた。
全部わかっていてエーリカは俺の心に決めた人に立候補してくれた。
だから、何もかも壊されてしまう前に国を出ることにする。
「これはおれの持っているパテントのうち、侯爵家のものにしても差しさわりの無い物だから受け取って」
エーリカと並んで出立する準備をする。
と言っても魔法で特殊空間を作ってそこになんでも放りこんでおけばいいので簡単なものだ。
それ以外の今まで研究所で研究してきた数々のうちのいくつかをこの家に置いていくことにする。
研究途中のものはもっていかなければならないものもあるが、そもそも研究には放浪の旅が必要なものがあったりするので、研究所を離れる人間は実はそれなりにいる。
後で引継ぎなどについて手紙を送る予定だ。
パテントのやり取りを見ていたエーリカが「そうか。この国に置いていった方がいいものは置いていった方がいいかもしれないですね」と言って、いくつかの魔道具とパテントと思われる書類を取り出した。
「私が製作の権利を持っているいくつかの魔道具とその権利書です。
あとこの国でとれる薬草から作られた魔法薬のレシピと権利をできれば管理していただければ助かります」
「管理……」
財産って扱いじゃないんだと兄が困ったように笑っていた。
「それから」
エーリカが俺の方を見た。
真剣な顔だった。
「やっぱり国外に出るのが嫌だというなら……」
「そうじゃないわ。
私たち魔法使いに国の境はあまり重要じゃない」
エーリカははっきりと言った。
それから真剣な顔のまま「あなたのその顔の傷治せると言ったら、また信じてくれる」と言った。
「勿論!!
でもなんでそんなに緊張してるんだい?」
エーリカはとても緊張している様に見えた。
「傷が気になるなら幻影の魔法でごまかすことができるのにしていないという事は、何か傷をそのままにしていることに意味があるかもしれないという点が一点。
後はもしもまた失敗してあなたの綺麗な顔をさらに傷つけてしまったらと思ってしまうのが一点」
エーリカはそう言った。
「傷を隠していないのは隠すと母と王子がめんどくさい以外の理由はないよ。
もう一つの方は、魔法使いとしての君の努力を今も昔も信じてるから大丈夫」
俺がそういうとエーリカは赤くなった後、まじめな顔をして「なら出発する前に治療をします」と言った。




