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56話

お久しぶりです。

期間が空いてしまい、すみません(;´・ω・)

ちょっと他で応募する小説を執筆したり、結局それがダメで気落ちしたりでなかなか筆が進みませんでした…。

これから年末近くでバタバタしますが自分なりのペースで引き続き書いていきたいと思います。




マリアが帰宅する為聖堂の扉が開くと、多くの民衆が聖女のお目見えに歓声をあげた。

扉が開く前に祖父フェルディナンドに外の様子を聞かされていたとはいえこれほどの数の民が自身の為に集まったのかと恐ろしくなり、内心で冷や汗を垂らす。

しかし、洗礼を終えた貴族の娘として公衆の面前で露骨に動揺を見せてはならない。

両親や祖父、一族の長であるレオポルドがいる場である事を心に留め、マリアは母の横で平静を保つ。

祖母の想いで仕立てられたドレスも、マリアの震えそうになる足をしっかりと支えている。


「いやはや、これでは帰れませんね…少々待っていてください」


そう言った大神官が数歩進み出て、期待に沸く民を見回すとゆったりとした動きで掌を下に向け両手を広げる。

静まりなさい、そんな声も不要だった。


礼拝や婚姻、葬儀。王都で暮らす者なら何度も目にした儀式の前に皆を落ち着かせる為の所作と微弱な風の魔術。

慈悲の宿る眼差しと絶えず優しく微笑むその姿と、頬を柔らかく撫でながら吹き渡る風に熱狂していた民は徐々に落ち着きを取り戻し、より近い場所にいるものは自ずと地に跪いた。


流石大神官と言わざるを得ない堂々とした姿にマリアは、もしや自分もこうならなければいけないのかとも考える。

しかし、確かに聖女として聖堂に入るのならその必要もあるが、今のマリアにはその予定もなければ、相応しい成長ができそうなビジョンも持てそうになかった。


「鐘の音を聴き集まった者、敬虔なるグラダファの子らよ。

 我らが聖女の帰還を祝わんとするその気持ちに、聖堂を代表し私から心よりの感謝を」


けして大きくない大神官の声が、風の魔術により本来よりも大きく響く。

暫し目を閉じ礼の姿勢をとった大神官はやがて姿勢を正し、薄青の瞳を開く。


「…しかし、聖女は未だ目覚めたばかり。

 集まった多くの者がそうしてきたように、父と母に手を引かれ洗礼を受けに来た幼子にすぎません。

 この者が聖女として立つ正しき場が調うまで、先達としてどうかその心を安らぎに浸しその時を待ってもらいたいのです」


押し寄せた者の多くは子を持つ親、そうでなくとも皆かつては子だった者だ。

彼らは己の子や自身の洗礼を思い出し周囲と顔を見合わせると頷き合い、それぞれその場で軽く祈りを捧げると散り散りに去り始める。


洗礼は子供にとっても親にかけがえのない記憶になるもの。

儀式だけではなくその日一日が特別なものになる、ならば乱すべきではない…誰もがそう思ったのだ。


勿論、皆が皆そうではなくとにかく一目聖女の姿が見たいと残りたがる者もいたが周囲に窘められた結果渋々聖堂を後にしていった。


レオポルドをはじめとする参列者達を見送り、マリアが聖堂の扉を出る頃にはもう人も疎ら。

チラチラと気にしてはいるものの騒ぐようなことはない。


「大神官様、本日はありがとうございました」

「こちらこそランティス家にとって喜ばしい場面に立ち会えた事光栄に思います。

 マリア・テオドラ。貴方の前途に光あらんことを」

「ありがとうございます、大神官様」


これまで洗礼を受けに来た家族と同様に、マリアは家族と共に家に帰る。

規模は違えど王族すらそうやってきた、ごく普通の在り方をフェルディナンドは眩しさを感じながら見つめた。

もうとうの昔に振り切って過去に置いてきた屈辱が、今度こそ消えていくように感じながら。


「マリアよ」

「はい、おじい様」

「今日は佳き日であったか?」


フェルディナンドの問いに、マリアは一瞬ぽかんとしたがすぐに花咲くような笑みを浮かべた。


「はい、とても」


その言葉と表情に偽りや気遣いはなく、隠しきれない幸福が滲んでいる。

つられるように上がる口角を、下がる目尻をフェルディナンドは抑えることをせず喜びに任せた。


「そうか、そうだな。

 今日は本当に佳き日だ」



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― 新着の感想 ―
ホント、勘違いしたクソ王族がいらんことさえしなけりゃ……
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