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27話

「ここか……」


 俺は車を走らせて約一時間ほどの場所にある、冒険者協会が管理しているE級ダンジョンに来ていた。

 しかし、周囲の人の姿は確認できず、閑散としている。


「E級ダンジョン自体が新人訓練以外で使われないって聞いてたけど、この人の少なさは田舎のせいだよなぁ」


 今俺の住んでいる山がある場所自体がとんでもない田舎なので、そこから一時間程度車で走ったところでそんなに大差はなかった。

 ただ、昨日俺が登録した冒険者協会は日本にいくつかある冒険者協会の本部で、各地方に支部が設けられていた。


「二、三時間車で移動すれば都会に出るのにな。……いや、そこまで車で移動するのがそもそも面倒なのか……」


 もう俺はこの生活にすっかり慣れてしまったので何とも思わないが、都会に住んでたら車で二時間とか考えたくもないだろう。

 というより、都会じゃ電車移動がメインになるだろうしな。


「まあ俺としては、ダンジョンに挑戦しやすくていいんだけどさ」


 人の目がないってことは、それだけ遠慮せずに動けることになる。

 もちろんダンジョン内に人がいる可能性もあるので、ソウガたちを召喚しないことには変わらない。

 ひとまず車をダンジョンのために用意された駐車場にとめると、そのままダンジョンの入り口まで向かった。


「へぇ……こんな感じで管理されてるんだな」


 するとそこには、無機質な金属製の大きな箱のようなものが置かれており、その一部が扉で、右脇には機械が設置されている。どうやらそこに俺の持っている冒険者カードをかざすことで、この扉が開くらしい。


「これ、かなり頑丈そうだけど、何でできてるんだろうか?」


 一般人が間違って入ったり、ダンジョンブレイクを引き起こしても少しの間時間稼ぎをするために、目の前の扉は非常に分厚く、そして頑丈そうに見える

 それに、この扉をわざと壊して入ろうとする変な人間もいるだろうから、そこら辺の対策はしっかりしているはずなのだ。

 そうでもないと、こんな田舎のダンジョンを無人で放置するわけがない。

 田舎のダンジョンは、それだけ人目が少ないので悪さをするにはちょうどいいだろうしな。

 俺はふとした好奇心から、目の前の扉を【鑑定】してみた。


【魔鉄】……高純度の魔力がその土地の鉱物と融合することで生まれた鉄。非常に硬く、物理耐性だけでなく、魔法への耐性も非常に高い。様々な装備品として加工される。


「マジか……」


 てっきりチタン合金だとか、見知った金属だとばかり思っていた。

 それが実は、ダンジョン産の未知なる鉱石から作られているとは……。


「これ、どう見ても高ランク系のダンジョンから採掘できるヤツっぽいよなぁ」


 恐らく【天滅】を始めとした日本のトップギルドが連携して集め、それで作られたこのゲートを各ダンジョンに設置することで、様々なリスクを回避しているんだろう。


「でもこれ、中に入ってるときに扉にトラブルとかあったら出てこれるのか?」


 まあダンジョンに入場する際、カードを使うから情報は冒険者協会に向かうだろうし、この扉が壊れたら何か異常を察知する安全対策くらいは施されているはずだ。いや、そうであってほしい。


「……まあいいや。さっそく入ろう」


 カードを入り口横の機械にタッチすると、軽い電子音から数秒後、目の前の扉が開いた。

 そもそもダンジョンの入り口は空間が歪んでいるようにも見えるので、物理的にどこかと接触している場合は少ない。

 だからこそ、この扉のように、基本的にダンジョンの四方を魔鉱石で囲み、一部を扉として開閉できるようにしていた。

 俺の庭で見慣れた、特に変わった様子のないダンジョンの入り口に足を踏み入れると、その先は薄暗い洞窟になっていた。


「やっぱりダンジョンごとに雰囲気が違うんだな」


 俺の庭にあるダンジョンは、しっかりした造りの石壁だったりと、洞窟というより迷宮といった言葉がよく合う。事実ダンジョンの名前は【成長する迷宮】だ。

 しかし、今回俺が挑戦するダンジョンは、完全に洞窟で、昔観光で行った鍾乳洞を連想させられた。

 足場は悪そうで、周囲には魔晶石がちらほら見える。


「うーん……田舎だからか、魔晶石が採掘できないって心配はなさそうだな」


 一度は人の手が入っていることこそ確実だが、目の前に広がる様子を見るに、資源がないという心配はなさそうだ。まあ魔晶石の色は青色で最低ランクだけどさ。

 魔晶石の値段は純度と量で基本決まる。

 そのため、青色の魔晶石で稼ごうと思ったら、すごい量が必要になるのだ。


「もともと資源には期待してなかったし、適当に進むか」


 今回は様子見という面が強い。【成長する迷宮】以外のダンジョンを体感するのが大きな目的だしな。

 そのため、周囲の魔晶石は基本放置だ。採掘するとなると時間がかかるし。

 そんな感じで【骸骨兵の骨】を手に、ダンジョンを進んでいくと、このダンジョンに来て初めての魔物の気配を【高性能マップ】が捉えた。


「さて、何が来るかな……」


 一応、このダンジョンに出現する魔物の情報はホームページに記載されており、ここではゴブリンとDバットと呼ばれる魔物が出現するらしい。このDバットのDとは、ダンジョンの略だそうだ。

 すると、ついに魔物が姿を現した。


「お、コイツは……」


 目の前に現れたのは、バレーボールサイズの黒っぽい蝙蝠。蝙蝠自体そんなにじっくりと見たことがないので何とも言えないが、これがDバットなのだろう。正直普通の蝙蝠との違いは分からない。

 初めて見る魔物なので、俺は【鑑定】を発動させた。


【DバットLv:1】……ランク:E。弱点:光属性魔法。

説明:ダンジョンに棲みついた蝙蝠。ダンジョンの魔力の影響で、魔物化した。洞窟系のダンジョンに生息している場合が多く、その場所のほとんどが光のない薄暗い場所のため、視覚が衰えた代わりに聴覚などが非常に発達した。体内に音波石と呼ばれる器官が備わっており、そこから超音波を発生させる。その超音波は、索敵や周囲の状況把握などに利用されることが多いが、攻撃手段としても使われる。食事は主に魔力の他に血液を糧としている。


「光属性か……そういえば光と闇はまだ習得してなかったな……」


 すぐに時属性魔法の習得を優先してたから、残りの属性魔法は放置したままだったのだ。

 今も【魔の神髄】と【武の神髄】を求めてレベル上げをしているから、光属性や闇属性を手に入れるのはもう少し先になりそうである。


「ちょっと超音波攻撃とやらが気になるが、ここは慎重に……」


 俺の方が先にDバットを発見できたため、まだDバットは俺のことに気付いておらず、それを利用して先制攻撃を仕掛けた。


「『サンダーボール』!」

「キ!?」


 突然俺の魔法を受けたDバットは、そのまま体を痙攣させると、そのまま光の粒子となって消えていく。やっぱりEランクかつレベル1の魔物が相手だと、基本一撃で倒せるな。

 Dバットが消えていくと、魔石とは異なる黒っぽい石が二つ落ちていた。


「これは……」


【音波石】……Dバットの体内で生成された、超音波を出すための器官の一部。この石を打ち合わせることで、大きな音が発生する。


 Dバットのドロップアイテムを【鑑定】したところ、そう表示された。


「これはホームページ通りの内容だな」


 ホームページには色々情報が公開されており、魔物のドロップアイテムなんかも記載されていて、この音波石とやらもそこに記載されていたものの一つだった。何なら、さっき【鑑定】したときにも説明で書いてあったし。

 イメージとしては、鶏とかの砂肝っぽいよな。

 他にもDバットからは魔石と翼膜、そして牙を落とすらしい。その牙は吸血用の牙なんだとか。


「まあドロップアイテムはともかくとして、やっぱり『サンダーボール』って使い勝手がいいなぁ」


 今Dバットを倒した魔法は雷属性魔法なわけだが、光属性のように非常に強い光力があり、さらに対象を燃やすこともできる。

 その上他の魔法に比べて発射や着弾の速度が非常に速いのも好ましい。

 狙いとしては、光属性が使えないので、雷属性で光を代用しようとしたのだが、そんなものを必要としないほど魔法が強かったみたいだ。

 個人的には風属性魔法も気に入ってたりする。目に見えないので避けられにくいからな。

 ただ、もちろん雷属性にもデメリットが存在し、今はDバットが光属性が苦手だってことで光っても特に気にしなかったが、逆にこんな暗い中で光る魔法を使うと、魔物に居場所を教えることにも繋がるから、使い所は気を付けないといけない。

 さっさとドロップアイテムを片付けると、改めてダンジョンを進んでいった。


「はてさて、ボスは復活してるのかなぁ」


 さすがにホームページや配られた冊子にも、それぞれのダンジョンが攻略されて、何か月たったかどうかは表記されていない。なので、このダンジョンのボスが果たして復活しているのかどうかは結構気になっていた。

 もちろん最終挑戦記録なんかがホームページに記載されているのであれば、そのダンジョンボスを狙ってやって来ることもできるだろうしな。E級ダンジョンはまあ間違いなく、そのダンジョンのボスを倒すのが経験値的にもドロップアイテム的にも美味しいはずだからな。

 ただ残念ながら、まだそこまでは管理しきれていないようだ。

 そんなことを考えつつ、俺は周囲をじっくり見渡し、どこか観光気分のまま、ダンジョンを進んでいくのだった。

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