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婚約破棄されたので呪いの地を開拓しようと思います  作者: りんご飴ツイン


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第五十二話 『賢者』であっても確実が保証できない難問の果てに

 

 レッサーとキキは日差しの下、切り株に隣り合って座り、クッキーを摘んでいた。


 ちなみにそのクッキーはキキが作ったものである。十数年の間人の世の営みの中で生きてきたレッサーよりも、レッサーから口頭で(うろ覚えの)調理方法を聞いたキキのほうが調理技術が高いというのだから、なんというか、メイドの立場がなかった。


 サクサクとした食感にじんわりと広がる程よい甘さ、総じてそこらの店で買うよりも上質なクッキーと仕上がっている。


 一を教えてもらい十を知る、文字通りの天才であった。


 ちなみにレッサーは十を教えてもらい一を会得できれば僥倖なタイプだった。公爵家のメイドとして何とかやっていけたのはひとえに会得するべき技術を最低限と絞り、並大抵以上の努力を重ねたからだ。


「エット、クッキー、ドウダッタ?」


 どこか不安そうな灰色獣人少女に対して、背中に大胆にスリットが入ったメイド服少女は満面の笑みでこう即答した。


「メチャクチャ美味しいのっ! キキ本当凄いのこんにゃろーっ!!」


「ワッ。エ、エヘヘ。レッサー、ガ、ヨロコンデ、クレテ、ウレシイ、ナ」


 思いっきり抱きついてわしゃわしゃと頭を撫でれば、ほっとしたようにキキが笑みをこぼす。


 と、その時だった。



「わひゃ、ひゃうわーっ! 知らない知らないこんなの知らないです。やだ涙がとまらなっ、なんなんですかこれ、もう本当なんなんですかこれっ、ひぅ、ひくっ、ひうう!!」


「オマエ、マテッテ!!」



 一つ目悪魔と対峙した時にだって冷静さを失うことがなかったシェルファがまるで幼い女の子のように泣きじゃくりながら建物の中から飛び出してきた。


 そう、シロに追いかけられる形で。


「お嬢様?」


「……、ボス」


 ぼそり、と。

 呆れた風のレッサーと違い、何やらメラメラしはじめたキキ。


 そして。

 そして、だ。


「ナニ、オンナノコ、イジメテ、イルノ、ボスゥーッ!!」


 がうーっ!! と唸り声と共に飛び出していった。その灰色の背中を見つめて、レッサーは小さく息を吐く。


「お嬢様ったら、今度はどんな風に拗らせているのやら、なの」



 ーーー☆ーーー



『ボスッ!!』『キキ!? ナンデ、オコッテ……ッ!?』『オンナノコ、オイカケ、マワシテ、ナカセル、ナンテ、サイテイ、ナンダカラ!!』だのなんだと聞こえた気がするが、ともあれシロは追いついていないようだ。


 ふらふらと、身を隠すために足を踏み入れたのは家ができるまでシロたちと過ごしていた洞窟だった。行き止まりゆえに見つかれば逃げ場がないことにまでは気づけないほどにパニック状態のようだ。


 その最奥。

 岩壁となっている場所まで辿り着いたシェルファはコツンと後方からの足音に彼女らしくなく大きく肩を震わせる。


 振り向けば、そこにはシロ……ではなく、『賢者』が立っていた。


 そう。

 はじめて、近づいてきたのがシロ以外の誰かであることを望んでいた。


 息を吐き、手で顔を扇ぐことで少しでも熱を逃がしてドキドキを鎮めようとするシェルファを見据えて、『賢者』は淡々と口を開く。


「悪いが色ボケに付き合っている暇はなくてな。そろそろ始めるとしよう」


 トン、と彼が地面を爪先で突いたと共にであった。



 ぶわっあん!! と洞窟の最奥、岩壁となっている場所へと数字や文字で形作られた陣が出現した。



「それが境界守護術式『リ・レージャ・ラニア』の陣だ。それに触れたものは自動的にエネルギーと消費できる。つまり、第二王子が憑依したと共にお前がその陣に触れれば全ては解決するというわけだ」


「…………、」


「タイミングは俺様が教えてやる。『確実に』人類を守護するために、その命捨ててくれ」


「その前に」


 区切る。

 湧き上がる『何か』と向き合うことなんてすぐにはできないにしても、今はやるべきことがある。


 全ては目の前の問題を解決してから。

 ゆえにこそ、無理矢理にでも切り替える。


「念のために確認したいことがあるのですが」


「なんだ?」


「大悪魔エクゾゲートの得意技、『体液』を軸とした呪法を引き寄せる魔導『魂魄移行』は計算式は正しいはずなのに成功しない魔導として有名です。それって大悪魔が現世で封印されたがために()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からですよね」


「だろうな。いかに正しい計算式を導き出せようとも、そもそも前提からして間違っていれば答え(魔法陣)もまた変わるに決まっている」


「つまり、前提さえ正しければ答えもまた正しいものとなる、というわけですね?」


「……、俺様は『確実に』事を進めたいのだが」


「そういうことなら仕方ありません。わたくしが勝手にやりますので、失敗した時はどうかわたくしごと生贄と捧げてください。それならば『確実に』終わらせることができるでしょう?」


「ふん。そこまで言うならやってみろ。俺様でも『確実』が保証できない難問の果て、気まぐれなりし破滅に沈むか否か見せてみるがいい」



 ーーー☆ーーー



 ソラリナ国、王都。

 主城クリスタルラピアを横に空を舞う現国王ジークランス=ソラリナ=スカイブルーが突き出した聖剣より放った黄金の閃光は正確に第二王子を貫いた。


『勇者』の封印能力が発動する。

 いかに大悪魔エクゾゲートといえども内側からは決して脱することができない牢獄へと封じていく。


 その時であった。

 勝敗が決したはずの、その瞬間であった。


「ハッ、ははっ」


 笑みが。

 こぼれた。


「よくぞ我をここまで追い詰めたものだ。だが、はっはーっ! 我はこんなところでは終わらない!! 美貌と頭脳を兼ね備えた優秀な肉体でもってお前らを皆殺しとしてやる!!」


 その時、魔導に精通した大魔導師タルガだけが気づくことができた。


 第二王子が展開するは数字や文字で形作られた陣。それは、すなわち、


「まさか、『体液』を軸とした憑依能力!? だが、誰に? この場の誰も第二王子の『体液』を浴びてはいないというのに!!」


「誰に? そりゃお前らもよく知る女さ」


 嘲るように。

 第二王子は言う。



「我はシェルファの肉体を手に入れる。はっはぁーっ! ははははは!! あの頭脳があれば我はより一層高みへと昇華するだろうよ!!」



 その叫びに。

 告げられし名に。

 男たちの魂が瞬時に沸騰する。


「テ、メェッ!! シェルファの嬢ちゃ──」


「シィッ──!!」


 タルガの言葉を斬り裂くようにルシアが大きく踏み込み、半ばより砕けた剣を振るう。


 ザンッッッ!!!! と封印の光に消えつつあった第二王子の肉体を真っ二つに両断する。あれだけの力の持ち主を呆気なく、簡単に。


 なぜか、その答えはすぐに示された。

 ズバッシャア!!!! と両断された第二王子の肉塊から猛烈な勢いで光が噴き出る。魂、と誰に教えられるでもなく彼らは理解させられた。そう、すでに肉体から魂が飛び出しつつあるために、肉体を守る力もまた霧散していたのだ。


 だから、


「クソ、が!!」


「逃がすものか!!」


「弟よ、往生際が悪いぞ!!」


 タルガにルシアにジークランス。大魔導師にふさわしい魔導の炎も、大将軍にふさわしい斬撃も、国王にふさわしい黄金の閃光も、その全てが魂に襲いかかり──すり抜ける。


 幽霊でも相手にするように、物理的な破壊は通用しないと突きつけるように。


 だから、誰に邪魔されることなく魂は上空へと飛翔した。シェルファの肉体を奪うために、だ。


「ちく、しょう……」


 ぶぢ、ぶぢぶぢっ!! と無理に動かしたがために肉体が破断していく音を響かせながら、ルシアは歯を食い縛る。


 悠々と飛び去るその魂を睨むことしかできない不甲斐なさがぐちゃぐちゃに破壊された両腕が発する痛みなんて比べ物にならない痛みを訴えてくる。


「ちくしょうっっっ!!!!」


 第二王子の毒牙がシェルファへと迫る。

 よりにもよって妹の肉体が第二王子に奪われてしまう!!

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