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婚約破棄されたので呪いの地を開拓しようと思います  作者: りんご飴ツイン


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第四十九話 災厄再び

 

「それは……本当のこと、ですか?」


「嘘をつく理由はないな」


 シロのご先祖様、すなわち『賢者』から告げられた事実にさしものシェルファも驚きを隠せていなかった。



 一つ、ソラリナ国の王族は『勇者』の末裔であり、『勇者』の証たる聖剣を歴代の王が代々受け継いでいる。


 一つ、第二王子ジグバニア=ソラリナ=スカイブルーは王族に個々人での差はあれど受け継がれる『勇者』の記憶を元に七の悪魔と人類とが激突した覇権大戦・ラグナロクにおいて唯一討伐ではなく封印が選ばれた大悪魔エクゾゲートの封印を──内から外よりも外から内のほうが脆弱である性質を突いて──破り、大悪魔にわざと憑依されることで精神的闘争へと持ち込み、逆に大悪魔を取り込んだ。


 一つ、第一王子ジークランス=ソラリナ=スカイブルーに宰相を材料とした悪魔もどきを送り込むことで聖剣を表出させ、それを奪うことで第二王子は『勇者』と大悪魔、双方の力を獲得した。


 一つ、シェルファが敵と定めていた魔粒浄化技術を封殺する『勢力』は第二王子の脅迫に屈した各国上層部であり、それらはソラリナ国の宰相を含めて全員が大悪魔エクゾゲートの能力により悪魔もどきと変貌、各国中枢を内側から食い破るように暴れている。加えるならば、第二王子の本拠地たる王都ではその他にも民間人や兵士が悪魔もどきと変貌している。


 一つ、魔力を消費して魔導を使用した際に発生する残留物、魔粒による汚染は生物が生きていけない環境を作るだけでなく、異界との濃度差を狭め、いずれは異界と現世との境界が弱体化、崩壊し、覇権大戦の比ではない大量の悪魔が現世へと侵攻することとなる。



 告げられた内容を振り返り、改めてシェルファは眼前の男を見やる。


 シロ曰くご先祖様、すなわち『賢者』。

 いつの時代かも不明なほど遥か遠い過去の人物であるならば、普通に考えればとっくに寿命で死んでいるはずだが、そこはどうでもいい。正真正銘本物の『賢者』にしろ、称号として代々受け継いできたというものでも、何らかの企みがあって『賢者』を騙っているのでも、別にいいのだ。


 大事なのは彼が真実を告げているか否か。

 正直、突拍子もない話ではあるが……、


「わかりました。ひとまず真実と捉えておきましょう」


「話が早いのは楽でいいが、よくもまあ信じられたものだな」


「仕方ないではありませんか。貴方が嘘をついている風には見えませんし、騙されている風にも見えないんですから。そう易々と騙されそうにない人の言葉であれば、ひとまず信じるべきでしょう」


「なるほどな。だからこそ、第二王子はお前を……。ははっ、だよな。ダイレクトに人の本質を見抜くその能力はある意味単純な暴力よりも厄介だよなっ!!」


『賢者』は気づいていないのか、気づいた上で無視しているのか。


 彼の説明が真実だとするなら、ルシアやタルガの住む王都で大規模な騒動が勃発していることになる。どちらも騒動から逃げるのではなく、立ち向かうことを選択するような男だ。


 第二王子、そして悪魔もどき。かの大悪魔エクゾゲートとその身を『勇者』と変える聖剣、極大の力を得た第二王子やその力でもって変じた悪魔もどきの実力は不明なれど、いかに大将軍や大魔導師でも楽に殺せる敵ではないだろう。



 それでも、シェルファは後回しとした。

 そうするべきと、己が立ち向かうべき敵は別に存在すると、強く感じていたからだ。



『賢者』と名乗る男がなぜシェルファたちに接触してきたのか。その理由には想像もつかないような脅威が待ち受けているはずなのだから。


 ……ギヂッ、と。食い縛る歯から軋む音が響き、握り締められた拳から血の雫が床に落ちる。そうしないと、全て投げ捨ててしまいそうだから。今から動いた所で決着までにはどうあっても間に合わないと分かっていても、王都に向けて走り出したくてたまらなかったからだ。


「まあ、いい。本題はここからでな。呪法に関しては説明したよな?」


『賢者』曰く呪法とは悪魔が扱う超常そのもの。あくまで超常を異界から魔力でもって引き寄せる魔導と違い、超常そのものを何らかのエネルギーでもって具現化する方式である。


 呪法を魔力でもって再現しようとしたのが召喚術や封印術であるが、現実的でない魔力が必要な召喚術や技術的に計算式が難解すぎて理想値を現実に出力するのが人間では到底不可能な封印術と、それら擬似呪法は初めから失敗するのが目に見えている技術である。


 魔力を軸としても超常再現には手が届かない。

 だからこそ、『賢者』は不可能を可能とするなんて無茶な挑戦はせず、成功することが証明されている技術へと手を伸ばした。


 召喚術や封印術といった擬似呪法を失敗した術者が悪魔と変じるデメリットを世界へと埋め込んでもらうよう、『女王』とやらを誘導したのだ。


 結果、デメリットにて変異した者は魔力以外のエネルギーでもって生命を繋ぐようになり、そのエネルギーでもって呪法を構築可能となる。魔力を殺す『魔沼』内でシェルファやレッサー、『賢者』が生存できている理由はそこにある。


 となれば、だ。


「ええ。しかし、そうなるとシロもわたくしたちと同じように召喚術や封印術のデメリットを受けて人間から悪魔と変じた、ということですか?」


「ン?」


 こてん、と小難しい話についていけてないシロがシェルファの後ろで首をかしげる。


「いや、シロやキキといったクローンから派生した子孫はまた別でな。俺様の遺伝子情報へと無双の力引き寄せる『勇者』やありとあらゆる生物の性質を宿すがゆえに『魔沼』にさえも適応する『聖女』、戦闘の最中にこそ急速に進化する『武道家』に大陸の外に伝わる魔導とは異なる技術を操る『魔法使い』、その他にも様々な英傑の遺伝子情報を組み込んだクローンが生殖活動を重ねていった末の子孫だ。デメリットだなんだ関係なく、過酷な環境に適応できるだけの素質があるということだな」


「そうですか」


 中々に衝撃の事実のはずだが、シロの正体が何であれ対応が変わるわけもないシェルファは特に気にした様子はなかった。


「ちなみにこの森に住む生物はそこの子孫以外も実験的に作っていた異なるクローンから派生したものだな。もちろん一つ目の悪魔はそうじゃなくて、単に捕獲していたのが逃げただけだが」


 と。

 そこで『賢者』は一瞬だけシロたちから視線を外し、遠くを見るように目を細める。


「シェルファもそうだが、お前の兄もまた優秀なようだな。決着は近そうだし、さっさと説明を終わらせるとしよう」


「っ」


 そして。

 そして、だ。


「境界守護術式『リ・レージャ・ラニア』、お前らが言うところの『魔沼』は精神的ジャミングと同じく俺様が常時展開している呪法でな。こいつは魔力を、というか、正確には魔導の残留物である魔粒を殺すことを目的としている。何せ()()()()()()()性質を持つ魔粒が一定量を超えたならば異界と現世との境界が崩壊、悪魔どもが大挙して押し寄せることとなるからな。流石にそんな展開となれば俺様と言えどもどうしようもない。なら、そんな展開にならないよう手を打つのは当然だ」


「……、わたくしたちが『魔沼』を利用したことでそのシステムに不具合が生じた、とでも?」


「まさか。あの程度でどうこうなるものでもない。だが、もしも第二王子が魔粒汚染を促進させ、異界と現世との境界を破壊しようとしていたならば? 第二王子は中々の策士だ。各国家上層部を利用することで魔粒汚染浄化技術を封殺し、なおかつ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()即座に致命的とはならない程度に抑えていたんだからな」


「含みがある言い回しですね。今のペースが崩れるとでも?」


「ああ。というか、その手段に関してお前は一度見ているはずだぞ」


 そして。

 そして。

 そして。



「三大禁術が一角、『冥王ノ息吹』。召喚術や封印術と同じく魔力にて構築される超常の一つ。そこまで大規模なものであれば撒き散らす魔粒もまた膨大なものとなる。まあ普通はそう何発も観測されるものでもないが、逆に言えば何発も同時にぶっ放てば汚染がガンガン進むってわけだ。そのために奴は悪魔もどきを用意した。悪魔のようではあるが、本質的には人間でしかない『もどき』が宿す魔力を肉体が自壊するのも厭わず大量消費することで『冥王ノ息吹』を発動、それも大陸各地に用意した悪魔もどきどもを全部消費して何発も、だ。こうなれば今までのペースを推定としていた安全神話は崩れる。それこそいつ異界と現世との境界が崩壊するかわからないほど致命的に、な」



 ーーー☆ーーー



 第二王子はニタニタと嘲るように笑っていた。

 聖剣を肩に担ぎ、大将軍を見つめていた。


「力の差は歴然だ。エンターテイメントのカケラもないほどに、退屈なほどに、絶対的なんだよなぁ」


「フッ──!!」


 だんっ!! と懐に踏み込んだルシアが紅の剣を下から上へと振り上げる。が、第二王子は避けようともしなかった。


「ハッ」


 ただ聖剣を握る右手の逆、左腕をぞんざいに振るっただけだった。



 ゴッボァ!! と。

 先の遺跡において第二王子を散々斬り裂いた斬撃が薄皮一枚斬ることもできず弾かれた。



 ビリビリと手首に痺れが走る。上体が泳ぐ。致命的なまでの隙、今この瞬間聖剣が振るわれたならば胴体を輪切りとされていたかもしれない。


 ニタニタと。

 あくまで嘲るように笑う第二王子は聖剣を持つ右腕を動かすことはなかった。


 その間にも上体が後方へと流れた衝撃を殺さずバックステップで距離を取り、ルシアは油断なく紅の剣を構える。


「で、そうやって構えて何ができると? すでにその刃は我が肉体を斬ることすらできない上に、斬れたとしても即座に再生する。ああ、我ながら面白みのカケラもない展開だ。圧倒的すぎてつまらない。だけど、こんなものだよな。弱肉強食、世界とは強き者が勝つようにできているんだから」


 そこで終わらない。

 強者はただただ暴威を振るう。


 強きが勝つ。たったそれだけの単純な真理を世界に示す。


 まずはじめに王都の至る所で先の悪魔のような異形と似たようなバケモノが出現した。いくらかは討伐されたようだが、王都全域に散らばる全てが討伐されるようなことはなく、そして、


「遠隔刻印発動」


 ぐじゅり、と。

 巨大ゆえに異形が溶けるように崩れる様も、その際に()()()()()()()()()陣を描いたのも目撃することができた。



 次の瞬間。

 ゴッバァッ!! と白と黒の竜巻が具現化された。



 同時展開されし複数の猛威はまさしくルシアの部下二千人を一瞬にして皆殺しとした──


 ぶぢっ!! と。

 認識と同時、ルシアの沸点は軽々と臨界点を超える。その力で、ルシアの部下二千人を軽々と殺したそれで、またも大勢の命を奪うのかと。


「き、さまァッ!!」


「はっはぁっ! 退屈にしてわかりきった勝負をせめてと彩ってやったんだぜ? そう怒るなよ、なぁ???」


 瞬間。

 闘争の結末を決定づける攻防が交差した。

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