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婚約破棄されたので呪いの地を開拓しようと思います  作者: りんご飴ツイン


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第四十話 簡易お風呂

 

 魔導が一般にまで普及した昨今、『お風呂』は大抵の家に備え付けられているものとして広まっていた。複数の魔道具を組み合わせた『お風呂』はボタン一つで水を満たし、適切な温度でお湯を保温する機能を搭載している。


 だが、瘴気渦巻く呪いの地において魔力を呼び水とする魔導は使用不可、ゆえにいくら魔道具を持ち込んでも湯船を用意することはできない。


 ならば、と呪いの地の奥深く、洞察近くでのことだった。シェルファは子犬たちを抱きしめながら、


「利便性を追求さえしなければお風呂は作れます。人が入れるだけの器とお湯さえあればいいんですから」


「お嬢様、これって薬品運ぶためのドラム缶だよね? そこに水を入れて、焚き火で温める、と。古き良き文化ってやつなのっ!」


 ボタン一つでお湯を満たし保温してくれるなんて高望みさえしなければお風呂を作ることはできる。今回はドラム缶に水を満たして、焚き火で温める古き良きスタイル。魔導が一般的でない時代の庶民はこうしてお風呂を楽しんでいたものである。


「コレ、ナンダ?」


「お風呂です。やっぱり水浴びだけじゃ物足りないものですからね。湯船に浸かって温まるべきなんです!」


「ツカル? コレ、ニ??? ヒ、ダゾ! アブナク、ナイ、ノカ!?」


 ザザッと距離を取り、警戒するように唸りながらそう言うシロ。対してシェルファは口元を綻ばせて、


「危なくなんてないと言いますか、ポカポカ気持ちいいんですよ」


「ポカポカ?」


「ポカポカ、です」


 警戒心を和らげるためにできるだけ柔らかな声音でそう言うシェルファだが、どうにもシロは唸り声を止めることはなかった。


 というわけで、だ。

 隣に用意したドラム缶(浅め)に子犬たちを浸からせるシェルファ。はじめは驚いたようにばしゃばしゃと四肢を暴れさせる子犬たちだが、しばらくするとお湯にも慣れたのか、ドラム缶のフチに前足をかけて、わふうと鳴き声を漏らす。


「キキ、とりゃーなのーっ!!」


「レッサー、マッテ、ワヒャア!?」


 何やらもう一つ隣ではバサァッ! と勢いよくメイド服を脱ぎ去ったレッサーがキキの手を引っ張ってドラム缶(広め)に飛び込んでいた。


 やはりはじめはお湯の熱さに驚き、びくっと肩を震わせたキキであるが、しばらくすると慣れてきたのか、ハフゥ、と甘く吐息を漏らす。


「ね? 危なくなんてないでしょう?」


「ムゥ。タシカ、ニ、ナ」


 しぶしぶと言った風に呟くシロ。

 と、彼はシェルファの手を掴み、


「シロ? 何を……」


「キマッテイル」



 そのまま地面を蹴り、二人揃ってドラム缶へと飛び込んだ。多少大きなものではあったが、ドラム缶はドラム缶。それこそ全身がくっくつほどには狭いものであった。



「……ッ!?」


「フゥ。ワルク、ナイナ、コレ」


 何やらシロは気持ちよさそうに目元を緩めていたが、シェルファはそれどころではなかった。ゼロ距離もゼロ距離、腕から胸から足からありとあらゆる部位が接触する。強靭にして温かなシロの身体の感触にカァッと顔に血がのぼる。


 簡易お風呂に浸かっているからか、全身が熱くなる。そう、あくまでお湯が原因であるはずだ。


 ……本当に?


「シロ」


「ン?」


「……、いいえ。なんでもありません」


 その時。

 何を言おうとしていたのか、シェルファは自分でも把握できていなかった。



 ーーー☆ーーー



「マズい……」


 骨と皮でできたような男、宰相ゾニア=ナイトギアは諜報部門よりあげられた報告を受けて、苦渋に顔を歪めていた。


『スピアレイライン運輸』が魔力の残りカスにして生命に悪影響を及ぼす汚染源、魔粒を浄化する土地浄化農薬なるものを開発したというのだ。


 今はまだ販売されてはいないが、その効果が本物ならばいずれ爆発的に広まることだろう。


「マズい、マズい! 『奴ら』が、くそっ!! せっかく大陸中の国家に働きかけて()()()()()()()()()()()()()()()()というのに!! くそ、くそが!! 『スピアレイライン運輸』、あの大魔導師め!! 第一線から退いたかと思えば、よもやこのような真似をしてくれようとは!!」


 ガギガギと骨と皮しかない親指をかじり、宰相は吐き捨てる。吐き捨てて、決意する。


「まだ、だ。は、ははっ! 例の農薬が販売される前に『スピアレイライン運輸』をぶっ潰せばいい!! そう、そうだ、来たる第二次ラグナロクを生き残るのは選ばれし者のみと知れ!!」


 そして。

 そして。

 そして、だ。



「いやあ、もういいってそういうの。VS宰相って? そんな消化試合、退屈なの見え見えだし」



 ドグシャアッッッ!!!! と。

 背後から響いた声と共に宰相の上半身と下半身とが切断された。



「あ、ば……?」


 ドン、ボン、と地面を転がった宰相は目撃する。

 仮面で顔を隠した何者か。その声は……、


「な、ぜ……第二、王子様、が」


「だーかーらー退屈だからだってー。すり寄ってくるのを放置していた我にも落ち度はあったかもだけどなー。なぁに、心配するな。お前のような退屈野郎とは違って、最高にイカした奇術ショーをかましてやっからよー」

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