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婚約破棄されたので呪いの地を開拓しようと思います  作者: りんご飴ツイン


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閑話 覇権大戦・ラグナロク

 

 それがいつの時代の話なのかまでは現代には伝わっていない。ただ、確かにその戦争は歴史に刻まれていた。



 覇権大戦・ラグナロク。

 異界より侵攻してきた七の悪魔と人類とがぶつかった、文字通り大陸の覇権を争う戦争である。



 召喚術が膨大な魔力を必要とするため、実質成功させることは不可能なことからも分かる通り、異界と現世とを行き来することは極めて難しい。それこそいつの時代の出来事なのか不明なほど遠い過去に数えるだけしか異界から現世へと超常存在が降臨していないことからもその難度の高さが伺える(夢魔が夢に関与するように、間接的に異界から現世の生命に関与した事例はいくつか観測されてはいるが)。


 上には後二つほどしかランクがないと評される夢魔ミリフィアでさえも夢を媒介とした間接的な関与しかできないというのならば、だ。遠い過去、異界から現世へと直接侵攻してきた悪魔たちの実力は計り知れないものがあると考えられる。


 その証拠に覇権大戦・ラグナロクにおいて人類側はたった七の悪魔相手に蹂躙され、いくつもの国家を潰されたという記録が残されている。まさしくかの悪魔たちは軍勢さえもものともしない実力者たちであったのだ。


 だが、現在大陸を支配しているのは人類。それこそ一部の者たちは亜種族を迫害できるだけの『地位』を確立している。


 すなわち、悪魔たちは敗北したということ。

 その立役者こそ三人の英傑であった。


 一人は『勇者』。

 かつて異界の神が人の子を愛し、その血筋を守護するためにと授けた聖剣の力を振るう、神に愛されし者の子孫。


 一人は『聖女』。

 ありとあらゆる種族の性質をその身に宿すことから大陸最大宗派より『あらゆる種族の祖である者』と定義されている少女。一部の学者は彼女の先祖がありとあらゆる種族と交わった結果、その身体にありとあらゆる種族の性質を組み込むこととなった、と予測しているが真相は不明である。


 一人は『賢者』。

 これまで経験則を頼りに使われていた魔導を難解ではあるが必ずや安定した一つの答え(超常)が導き出せる学問へと発展させた、召喚術のように()()()()()()()()()陣と己の魔力のみで力を生み出す技能を世に送り出した、など後の世に良くも悪くも多大な影響を与える『知』を広めた者。


 彼らの活躍によって七の悪魔は退けられ、大陸の覇権は人類が握ることとなった、とされている。


 それだけ大きな出来事ではあるが、遠い過去の話であるからか詳細な情報は残されてはいない。かの『勇者』の血をソラリナ国が王族(シェルファに婚約破棄を突きつけた第一王子たち)が継いでいるなんて話もありはするが、『我こそがかの勇者の末裔である』と自称する者は大陸中にごまんと存在しており、また信頼に足る証拠がないため真実かどうかは怪しいものだ。


 とにかく、だ。

 かの大戦が勃発し、最後には人類の勝利で終わったことは人類の歴史が続いていることからも明らかではあるが──そこで何が起こったかについては不確かな部分が多いのだ。


 そのせいもあってか、己が血筋に箔をつけたいがために自称勇者を騙ったり、実は勇者は人類の敵に回っていただの聖女は人々を堕落へと導く悪女であっただの証拠なんて何もない噂が囁かれたり、勇者は大地を割り空を引き裂く力を人類を守るためだけに振るっていただの聖女はありとあらゆる生命を瞬時に生み出することが可能だの脚色されまくっていたりする。


 人類の危機、そしてその危機に立ち向かう少数精鋭の戦士たちという題材は人々を心をくすぐり、多種多様な物語が作られ、演劇や吟遊詩人の歌として広まっていた。


 そう。

 すでに『真相』が埋もれてしまうほどに、様々な『物語』が溢れかえっているのだ。



 ーーー☆ーーー



「──こうして勇者一行は七の悪魔を撃滅し、大陸の平和を守ったのでした。おしまい」


 洞窟内での一幕。

 シェルファは絵本を音読していた。


 シロ曰く子犬たちは人の言葉は話せないが、人の言葉を理解することはでき、また人の話というものが好きらしい。ということで、絵本の読み聞かせをはじめたところ大盛況だったために、こうしてたまに子犬たちへと物語を読み聞かせているのだ。


 今回の題目は覇権大戦・ラグナロクにおいて活躍したとされる三人の英傑の伝説を子供向けに要約したものであった。悪に立ち向かい、正義が勝利する。変にドロドロとした人間模様を描いたものより、小綺麗にして現実ではあり得ないような単純明快な話のほうが楽しめるだろう、と考えたためであった。


「わうっ!!」


「わふわふっ!!」


 その場でぴょんぴょん跳ねたり、勢い余ってシェルファの胸に飛び込んだりと興奮しているので、シェルファの目論見通り子犬たちの琴線に触れたようである。


 と、そばで聞いていたシロが口を開く。


()()()()()()、ノ、ハナシ、カ」


「ご先祖様……。賢者のことですね」


「ン」


 シェルファの脳裏に蘇るは先の一つ目野郎の『ぎゃは。ぎゃはははっ!! 見つけた、見つけた、見ぃつけたぁっ!! 賢者の末裔、我ら悪魔を好きに使役してくれたクソッタレの血筋っ。あぁ、あぁっ、殺さないとだなぁっ! この前のように精神をぐちゃぐちゃに歪めて、殺してくれと懇願するくらい堕としてやらないと気が済まないってなぁ!!』という言葉であった。


 賢者の末裔。

 それが誰を指しているかは、先の闘争を思い出せば想像がつく。


「シロとキキは賢者の末裔なんですよね」


「ン」


「賢者に関わることで、何か知っていることはありますか?」


「ソウダナ……。ケンジャ、ノ、マツエイ、ハ、コノ、チ、ヲ、『ガイテキ』、カラ、マモル、ヨウ、ニ、ト、イイノコシタ、コト。ソレカラ……」


「それから?」


「……、イヤ、ナンデモ、ナイ。ソレクライ、シカ、シラナイ、ナ」


「…………、」


 嘘だということはわかっていた。表情からして何か隠していると言うようにプルプルしているほどなのだから。


 それこそ完璧な令嬢としての側面がなくともわかるくらいに、シロは嘘が苦手なようだった。


 それでも。

 シェルファは『そうですか』と呟いた。


 本当は他に何か知っているはずと言い寄ることも、口を滑らせるよう誘導することもできたはずだが──そんなことして嫌われでもしたらと怖かったから。


 そして。

 いずれは隠し事なく接してもらえるくらいの関係性になってやると誓ったがために。

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