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…窓際には、君が  作者: たかさば


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99/101

面倒見、いいね

「あ、それ適当につめこんどいて!!違う違う、そっちじゃない!!赤いカンカンの方!!」

「もうはいんねえぞwww」


「ギュって押し込めば入るの!!貸してみろ!!!…ほら入った!!!」

「ちょ…貴重なスライドをそんな扱い方しないでくださいよ!!!端っこが曲がってるじゃないか!!!」


 20分ほど遅刻してきたおっさんは、いつもにも増してガサツな講義を繰り広げた。授業の準備をする暇がなかったらしく…スライド資料をまるっと持ってきてさ!!!

 これじゃない、これでもないな、おおこれだ、ついでにこれも説明しておくかといった感じで、実にまとまりのない、あっちこっち年代が飛び飛びのマイペースな講義をね?!


 ノートを取りながら資料を見ている生徒のことを微塵も考えず、ノンストップで70分…食べ過ぎて中途半端にエネルギーが充填されてるおっさんはこれだから困るんだ!!!

 でもって…、その後片付けを当然のように手伝わせる図々しい小太りがね?!でもって、いつも通りに…手伝わされてる僕と森川さんがね?!


「これ、きちんと入れなおしたら隙間できるんじゃねwwwもう勝手に整頓しちゃおうぜwww」

「どうせ毎回毎回ご丁寧に全部ひっくり返してざばっとテーブルの上に出して使うんだ、僕たちが資料に対面した時ぐらい自由に整頓させてもらおう」


 ほんとにもう…もうちょっと、いや、かなり!しっかりと管理できないものなのか!!!

 貴重な資料の涙が…僕には、見える!!!

 いくらものすごい論文を書いた経歴持ちで、国内でも有数の知識保有者であったとしても…、とても尊敬できそうにない!!!


 こんなに管理が苦手なら、資料の整頓だけでも業者を入れればいいのにさ、変なところで部外者は入れたくないだの東洋を理解しないやつには触ってほしくないだのとこだわるのがまた腹立たしいんだよ。藤沢先生や羽矢先生なんかは半期に一度出版社だかなんだかの人を呼んできっちり整頓してもらってるから、できないはずはないのに!!


「あ、やっぱりここにいた!!靴箱に行く前に寄ってよか…

「おっ!!嫁も来たか!!ねえねえ、イケメンの手伝いしたいよね!!ちょうど良かった、これで二往復しなくてすむぞ!!よし、全員で俺の部屋まで直行!!あ、森川嬢、電気消しといて!!」」


 さくっと由香までこき使おうとは、何事!!!

 一人で寂しく二往復して、ちょっとはそのせり出したおなかを引っ込める努力をしたらどうなのか!!


「勝手に由香を使わないでください!!!西洋美術史専攻の学生なんですけど?!」


 由香は月曜の四限目は、隣の教室で西洋美術史特講を受けている。東洋も取りたかったのだけど、授業が重なってしまったので…人気がある西洋のほうを選択したんだよね。人気の授業ということもあって定員オーバーになると受講できなくなる可能性もあるらしく、優先的に受講できる二年生のうちに取る人がほとんどで……。


「まあまあ!彼方、落ち着いて!!ハイ、これ持っていけばいいんですよね?!」

「やー、嫁は優しいねえ、イケメン心せまっ!!そんなんじゃモテなくなるぞ!!」

「モテナイ人がナニを言うwww」


 騒がしく教室をあとにしたわけだけれどもっ!!




 夕方五時の田舎道は…淡いオレンジ色の光を浴びて、ややノスタルジックな雰囲気をかもし出している。収穫の終わった畑の上には、きれいな夕焼け空が広がっている。さえぎるような高い建物がないので、夕日が真正面から立ち向かってきて…かなりまぶしいのが、少々曲者ではある。


 森川さんがレアチーズケーキが冷やしてあるから寄っていかないかいって誘ってくれたので、僕と由香はありがたくお邪魔することにしたんだ。布施さんは部活の関係でいけないことが決定しているので、朝イチで頂いたらしいんだけど、そりゃあもう絶賛してて…期待がね?!


「河合先生の授業って…騒がしいけど、嫌いじゃないよ?なんていうか、ほんとに好きなんだなあって思うというか、うーん…自慢の友達をはりきって紹介してるみたいな雰囲気あるし!」

「いろんな意味で目が離せんわなwwwわくわくマジぱねえww」


 美味しいものに出会うために移動しているというのに、話題は忌々しいおっさんなのは、いったいどういうことなんだい。


「そういうのはワクワクじゃなくて…ハラハラと言うんじゃないの。落ち着いて授業を受けられないとか、本気で学びたいものにとっては迷惑でしかないじゃないか…」


 僕のイメージなのかもしれないけど、大学の教授というのは、もっとこう威厳があるはずなんだ。ドイツ語の司馬先生みたいに教室に入ってくるだけで空気がピリッとするとか、比較美術史の多田先生みたいに圧倒されるような存在感があったりだとかさ。本来であれば、藤沢先生みたいに手袋着用で日本画のレプリカを展示するような気遣いがあっていいはずなんだ。というか、研究者だったら必ず備わっている当たり前のことなんじゃないの。


「西洋美術史特講も神聖感がありすぎて、逆にちょっぴり気を使う事があるよ。称えましょうって空気があって、なんとなく正直な感想が言いにくかったりするんだよね…」

「それもまためんどくせぇ~wwちょうどいい塩梅の授業どこ行ったwww」


 素直な感想がいえないのは大変そうだ。東洋(うち)は担当教授が率先してへたくそだの雑だの腐ってるだの昔のやつらは管理が悪いだの俺はこれ嫌いだの…自由奔放に語ってるから、そのあたりは気を使わなくていいから楽なのかもしれないぞ。


「資料とかレプリカって、ほとんど触らせてもらえないから、私はちょっとうらやましいかも!西洋もだけど、日本美術史も貸し出し手続きとか予約しなきゃいけなくて大変だもん」

「たぶん東洋はひとつふたつ拝借してもまったく気がつかないだろwww」


 そんな人はいないとは思うけど、ありそうで怖いんだよね……。


「資料の扱いが悪すぎるんだよ。あんなんじゃいつか凡ミスで破損する。来年ゼミに入ったら、徹底的に資料整頓しようと思ってるんだ、僕は。卒論用に使うものがある日いきなり使えなくなるとか…たまったもんじゃないからね」


 全部にナンバリングして、時代別にファイルに入れて、スチールラックの中に詰め込まれているお菓子の缶を全部捨てて、詰め込みすぎてスライドガラスが動かなくなっているところをキッチリと積みなおして、ホコリだらけの実物大兵馬俑の拭き掃除をして、クシャクシャになっている絵巻物をちゃんと巻きなおして……。


「なんか彼方…面倒見、いいね」

「んだんだwwwもう一生面倒見てやればwww」


「はあ?!そんなの・・・絶対にお断りだけど?!」


 僕は自分のために資料整頓をするのであって!!!


 決して、断じて…あのおっさんの面倒を見るつもりは……ない!!!!!!!!

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