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…窓際には、君が  作者: たかさば


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人気と不人気

 社会学の授業は、予想した通り15分ほど早く終了した。


 写真チェックの続きをしながら、やけにテンションが高くなった大崎さんの話を聞くと、思いがけない情報が得られて…びっくりしてしまった。


 なんと、堀井先輩は大崎さんの地元の先輩で、ちょっとした有名人なのだそうだ。

 全然知らなかったけどアーティストとして活動しているらしくて、ファンも結構いるのだとか。昔は地元の駅前で路上ライブをやってたのだけど、今は県庁近くの駅前でやっているとかで、たまにテレビの取材なんかも受けているとのこと。ライブ以外はなかなか外に出てこないこともあってレア度がものすごいとかなんとか。

 そんな人の写真をアルバムにのせたらまずいよねという話になって…、本人に了解をもらうまではいったん保留にすることになってしまった。


 東浦先輩だったら動画投稿とかしているし、エンタメ系の情報に詳しそうな感じなんだけど、特に何も言っていなかった…はず。

 でもなあ、あの人はイベントの時会場内のフードを片っ端から食べ歩いていたから、直接対面していなかったような気もする。とりあえず事の次第をラインしておいて、どうしたらいいか判断を仰ぐことにしよう…。


 写真のチェックは三限目の終了を知らせるチャイムが鳴り終わったあたりで、ちょうど完了した。

 先輩の画像掲載はさておき、在学生が見る分のアルバムは今日中に公開されそうで、一安心といったところだ。


 図書館に行った後、〈タコテリア〉でおやつを食べて帰るという三人を見送り、僕は一人寂しく…東洋美術史特講の教室に向かった。


 東洋美術史特講は、東洋美術史の歴史をより深く学ぶ授業で、東洋美術史のゼミをとる場合は必ず受講しなければいけない事になっている。僕は東洋美術史のゼミに入って、東洋美術史で卒論を書くと決めているので、履修は必須だ。

 担当教員は…もちろん河合先生。いろいろとやらかしてはいるけど、あの人は東洋美術史のれっきとした専門家であり、わりと資料なんかもたくさん持ってるから…悔しいけど非常に楽しみな授業では、ある。

 全国で三冊しかない本を持っていたり、他府県から資料の貸し出しを求めるような依頼もあったりするから侮れないんだよね…。でもって…、その貴重な資料をポテトチップスを食べてる手でページをめくったりするもんだからさ!!!ホントあのガサツさ、どうにかならないものなのか。


 いつもならば一番乗りで教室に入ることが多いのだけど…、今日は少し遅れたからか受講生がすでに着席している。

 40人入れる教室は、20人ほどしか受講生がいないこともあり…なんとなくスカスカしている。風通しが良くて私語はほとんどなく、声も聞きやすいけど、そのうち立ち消えてしまいそうな危うさがほのかに漂っていたりしないでもない。はっきり言って人気のない授業であることは明白だ。必修科目ではないことも影響して受講者はかなり少なく…東洋美術史の、河合先生の不人気を物語っていたりする。


 今日は…スライドを使うと先週の授業で言っていたな。…見やすそうな真ん中寄りの席に座ることにしようかな。

 気遣いのかけらもない助教授は、学生の見やすさなんかまったく考えないでマイペースにスライドを投影しては身を乗り出して解説をするので、おかしな場所で受講しては貴重な資料を見逃すことになってしまうんだ。


 河合先生は()()()()よく通って聞きやすいものの、自分の言いたい事だけを思いついたままに語っていく、非常に厄介なタイプだ。わかりにくいガサツな解説を拾ってノートを取ることに必死にならなければいけないので、できる限り先を見越して準備をしなければならない。見やすい位置で資料を見ることは、一番重要視しなければいけない部分だと個人的には思っている。

 他の受講者は…端っこの方の席やうしろの方にいて、ちゃんと見えているんだろうかと心配になってしまう。


 ……この教室にいる人たちは、将来共に卒論ゼミを取る可能性がある人たちだ。

 積極的に声をかけてみたい気持ちもあるんだけど、きっかけがないまま半年も過ぎてしまった。

 名前を知らない人はかなりいるし、何人かは三年生らしいけど、誰が上級生なのかは今のところ判明していないレベルなんだよ。中ほどの席にワタサン、端っこにあっかりんがいるのはわかるんだけどね。



「うっすうすw集中力の切れる四限目もイケメンすなwスイーツ魔人の無双の時間がやってキター!…となり座るよ」


 僕の横に、服飾デザイン演習の授業を終えた森川さんがやってきた。少し息があがっているのは、小走りで急いで移動をしてきたからに違いない。

 いつも駆け足で教室に入ってくるのが…ちょこまかとして可愛らしいんだけど、それを言うと怒っちゃうから、まあ、今日も黙っておこう。


 森川さんは三限目、短大の方まで出向いて受講しているんだ。

 なんでも、ゼミを決めかねているので、できる限り可能性を残して幅広く学びたいのだそうで…今年はできるだけ授業を取ることを決め、時間割をばっちり埋めたという非常に向学心のあふれた優良学生だったり。うちの大学の生徒は、どちらかといえば授業は必要最低限のものしか取らない人が多いのだけど、こういう前向きな姿勢は見習いたいものだ。


「…はい、どうぞ」


 いつもの微妙なやり取りに、お決まりのセリフをお返しさせていただくと。


「今日ね、スイーツ先生遅れてくると思うよwwwだって駐車場に車なかったもんwアレだ、たぶん仮歯作りに行ってんじゃないのwww」


 うちの大学と短大は隣接していて、長めの渡り廊下で繋がっている。その廊下をはさむような形で、教員用の駐車場と学生用の駐車場が設けられているのだ。

 いつも結城先生の大きなファミリーカーと藤沢先生の高級車に挟まれるようにして河合先生のぬいぐるみだらけの軽自動車が並んでいるのだけど、今日はそれが見えなかった模様。地味に森川さんは新しいぬいぐるみが増えていないかチェックしていたりするんだよね。


「歯医者って…そんなにいきなり行って、即診てもらえるものなの…?」

「診てもらえないから、遅れてるんじゃねwww」


 なんだかなあ。授業が終わってから行けばいいのに、ホント自分ファーストな人だよ、まったく。


「森川さん、知ってた?堀井先輩って、シンガーらしいよ。なんでも、駅前で路上ライブをやっているんだって」

「えwwwマジかwwwちょっと詳しくwww」


 キーンコーンカーンコーン……


 授業の開始を知らせるチャイムが鳴ったけど、肝心の授業をしてくれる助教授は現れず。


 僕は、さっき聞いたばかりの情報を共有するべく…目を丸くしている森川さんとおしゃべりを続けることにしたのだった。





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