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…窓際には、君が  作者: たかさば


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日常

 月曜、朝、六時半を少し過ぎた頃。

 僕はいつものように、始発電車の二両目の、後方よりのドアから入った前から二つ目の座席に座って景色を眺めている。この席は僕の指定席みたいなもので…月曜から金曜、必ず座る場所だ。三つ先の駅で僕の前にお団子頭のお姉さんが座り、八つ先の駅で僕の横に年配女性が座る…それがここ半年のいつもの流れになっている。


 ぼんやりと遠景を望みながら脳裏に浮かぶのは、昨日の打ち上げ&お別れ会のことだ。


 酔っ払った先輩方と柴本さんがいろいろやらかして。

 二杯目のカクテルを飲んだ由香のほっぺがピンク色を通り越してサーモン色になり。

 カオス化する会場内で顔色一つ変えずにお酒を飲み続けた森川さんに驚愕し。

 河合先生の差し歯が取れて爆食にブレーキがかかり。

 あんな小さい身体で2L超えの飲酒をしてニコニコしている早季先生に恐怖感を覚え。

 あんなに華奢で可憐な女子高生なのにしっかり結城先生の血を引いていてパフェを全種類完食した娘さんたちに恐れ戦き。

 負けじとデザートを頬張る東浦先輩の活躍で厨房のアイスクリームが枯渇し。

 社会人グループが酔っ払ってふすまを取り除いてしっちゃかめっちゃかになり。

 トイレに行った志田さんが別の客にナンパされてガチ切れして乱闘騒ぎがあり。

 ティアと結城先生と次兄の会社の人たちその他もろもろが英語で討論会を始めてグローバル化が著しくなり。

 小田原さんが出入り口の段差でこけて空いた皿の上にダイブして流血騒ぎになり。

 おろおろしながらもてきぱきと手当てをする楠先輩のもとに彼氏がお迎えに来て生ラブラブが展開され。

 完全にドン引きして口数が少なくなってしまった原西さんに気を使いながら、僕もおろおろとする事しかできなくてね?!


 ああ…もっとスマートにあの場を取り仕切る事ができていたならば。


 反省することしきりだ、来年はもっと落ち着いて一つ一つのハプニングにきちんと向き合うようにしたい。間違っても長兄の乱入に助けられたり、酔っ払いの戯言を真に受けて本気で言い合いをしたり、飲んでもいないのに説教酒ですかとからかわれる事がないように心がけたいものだ。


 ……若干由香も引いていたような気もする。

 ああ、もしかして僕は、昨日の飲み会で何かを失ってしまったんじゃないのかい。


 ……そのあたりのことも今日は言い訳をしておかねばなるまい。

 僕は、胃もたれ気味のおなかをさすりながら、雲ひとつない水色の空に目を向けた。




「彼方おはよ!!昨日は楽しかったね!」


 オータムメイクをばっちり施したかわいらしい笑顔を向けて…駆け寄ってくる、由香。

 ……どうやら昨日の僕の失態は気にしていないらしい。


「おはよう、由香。どう?初めて飲んだキャベツドリンクの効き目は」


 どうも由香はお酒を飲むと顔色がすぐに変わってしまう体質らしくて…そういう人は夜遅くにお酒を飲むと二日酔いになるかもしれないよwって森川さんがさ。居酒屋のすぐ近くにあるコンビニに行って、飲みすぎた時に飲む緑色の小瓶のドリンクを買って…飲み干して、そのしかめっ面があまりにもかわいくて、つい。


 ―――無防備な由香の表情、たまらないな…

 ―――?!もう!!!すぐそういうことを言う!!!


 ポカ、ポカポカポカ……!!!


 酔って真っ赤になっているのか怒って真っ赤になっているのかはっきりしないままに、僕は痛くないパンチを全て受け止め…電車の時間が来て別れることになってしまってだね。


「うん、すごく効いたよ、アレね、即効性があるみたい!お兄さんの車の中でもすごくスッキリしてね、モーリーと一緒に今日のおやつ用のグミ、食べちゃったもん」


 昨日、由香は長兄の車で芥川まで送り届けられたんだ。漁がなかったので貨物用の車を出さなくて、七人乗りのファミリーカーで来ててさ。森川さんに相川先輩、原西さんに由香、小田原さんも乗り合わせて、みんなでわいわい帰ったらしい。…僕も乗っていけばよかったかな。


 しかし、長兄と二時間に及ぶ長距離ドライブをするのはちょっと…。

 最近にーちゃんは図に乗っててさ、すぐに森川さんの事をいろいろ聞き出そうとするからうっとおしいんだよ。本人に直接聞けばいいのに、何が好きなんだとか学校ではどんな感じにかわいいのかとか、いい年をした男が目をキラキラとさせてあれこれ言うもんだから正直おなか一杯と言うか。みっともないと言うか、女々しいと言うか…身内のあまりの変わり様に、ついていけない僕がいたりする。


「そうなの?何だ、僕、今から由香にアーンしてもらおうかなって思ってたのにな…」

「しないよ?!まあ、でも…おいしかったから、コンビニ寄っていこっか!!」


 桐ヶ丘駅横にあるコンビニで、僕が食べ損ねたグミと由香おすすめのグミを買って、小さなレジ袋を提げて歩く。


 道すがら話すのは、昨日の飲み会の事だ。

 ずいぶん賑やかで、かなりやらかしがちだったけれども、由香の中ではかなり印象の良いイベントだったようだ。僕とはずいぶん受け止め方が違うな…、大学生活を満喫しているなあと言う満足感があったとか、何とか。…そういうものなのかな?


「なんか…私、学生会の正式メンバーじゃないのに、図々しく、ない?」


 機嫌よく話していた由香が、少しだけ、言い淀んだような気がする。


「正式も何も…学生会は所属する事に重きを置いてない団体だと思うよ。お手伝いさんたちのこともそうだけど、イベントを一緒に運営してくれた人で集まって労い合うことに…問題なんてないでしょう」


 卒業式や入学式の時にお手伝いに来てくれた皆さんとは、イベント終了時に軽いお疲れ会をやっている。一日だけのお手伝いだし、会場の端っこで軽食とペットボトル程度しか出さないけど。学園祭は前準備もかなり必要だし、由香は頻繁に手伝いに来てくれていたから、どう考えてもお疲れ会に参加する権利はあるはずだ。少なくとも、あの日飛び入りで参加していた社会人グループよりは明らかに重要人物であってだね。


 由香はどちらかと言うと、個人で行動する事を好むタイプだから…学生会という場所に毎日顔を出す事が苦痛なのだと思う。正式加入するのに躊躇しているのは、おそらくそのあたりが原因となっているのだろう。メンバー全員と仲良く談笑するレベルなのに…もったいないなという気持ちが、ない事もない。

 たまに集まってわいわいするのは楽しめるけど、毎日顔を出してコミュニケーションをとらなければいけない場所では気を使ってしまうのだろうな…。人の気持ちに繊細で、気を使ってしまいがちな由香だからこそ、今の中途半端な状況が生まれてしまったのかもしれない。


「もし…迷惑だったら、言ってね?」

「それは絶対にない」


 迷惑どころか、いなければ困る。これからも由香には気の向いた時だけでもいいからぜひ顔を出し続けてもらいたい。


 ……そういえば去年は、学園祭最後にトラブルが起きて。由香がいない時間を…長く過ごすことになったんだった。


 ……今年も何か起きるかもしれないな。

 新メンバーの募集は一切していないし、暴動も起きていないからよっぽど大丈夫だとは思うけど、どこで何がどう転がっておかしなことになるかわからない。


 大切な人を失うのは、もう……こりごりだ。


 僕はこっそりと気を引き締めて、通いなれた田舎道を慎重に歩いた。

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