先輩
「へえ~!!今君が副会長やってんの?!うわあ、これはモテるね、何その衣装!!めっちゃ似合ってるんだけど!はぁ~これは見事だ♡写真写真!…はい、良いお顔でチーズっ♡ねえ茉奈も並んでよ!!三人で撮ろ♡こっちこっちぃ!!」
はきはきとものを申す、黒髪の和風模様のワンピースがお似合いの女性は…うちの大学の卒業生にして学生会の役員経験者、清水香里先輩。
ニコニコしながら僕の姿を見て…うっ、写真を勝手に撮るのはちょっと!!でも、こちらから声をかけた手前、やめてくださいって言いにくいぞ。ちょっとだけ、苦笑いを向けてみるけど…全然動じない、さて、どうしたものか。
「…カオ、この一枚で終了ね。一応学生会の先輩なんだから、落ち着いて後輩をねぎらう立場を貫かないと。はしゃいでたら…どこから結城先生出てきて絞られるかわかんないよ?社会人になってまでつまんないことで叱られるの、嫌でしょ?」
派手めのストロベリーアッシュブラウンのストレートロングヘア、モノトーンを基調としたシルバーアクセサリの目立つファッションに身を包んだ女性は、堀井茉奈先輩。見た目に反して随分落ち着いたやわらかい口調で話す、風格漂う学生会役員経験者だ。やや三白眼チックに座った目をして、はしゃぐ先輩をじっと見つめて穏やかに諫めている。…なんか独特の雰囲気があるなあ、この人。……そうか、声がやけに艶っぽいんだな。小柄なのになんというか、大人の女性…達観した年代の声色をしているというか。
思い切って声をかけてみたら、やっぱり予想通り学生会関係者でさ。面識はないものの、同じ大学の学生であり学生会を知るものという共通点があるので、初対面なのにどんどん話が弾んでしまったんだよね。話題は尽きないというか…やたらフレンドリーな清水先輩の人柄もあって、ぐいぐい引き込まれてしまったというか、巻き込まれたというか、抜け出せなってしまったというか。
「結城先生に怒られるんですか?あのおっさ…あの人、ずっと食べてばかりだからあんまり怒るイメージなくて、ちょっと意外ですね」
大学を卒業して三年目という事だから、先ほど口にしていた羽矢先生はもちろん、河合先生や結城先生とも顔見知りであると思われる。三上先輩と早瀬先輩が一年の頃四年生だった計算になるので…たぶん面識はあるはずだ。あと五分早瀬先輩がこの場に残ってくれていたら、きっと今以上に盛り上がっていた事だろう。…あとで連絡してあげた方がよさそうだ。
「あの人怒るとめっちゃ怖いんだよ?!石橋君は怒られたことないの?!あたしちょーある!!もーさ、学生会室で寝泊まりしてたらさ、ホントうるさくって!!いいじゃんねえ、空いた場所があるなら住んだってさあ!!」
この先輩はかなり問題のあるタイプの人だったに違いないぞ…。微妙にこう、在籍が重ならなくてよかった気持ちが湧いてくるというか。おそらくだけど、結城先生と同じタイプのにおいがする。かなりご立腹の様子だけど、もしやこれが同族嫌悪というやつなのでは?
「…ここにあるもの、全部残ってたんだね。処分していいって言ったんだけどなあ、やっぱり五十嵐先輩がいないと…なんかごめんね、大変だったでしょう?」
なんか、優しく労いの言葉をかけてもらうと…照れてしまうな。普段ドタバタすることが多くて、常に追い込まれているパターンに慣れてしまっている事もあり、非常にこう…くすぐったい気持ちになる。
ああ、こういう先輩がいたら、きっと今の学生会ももっと落ち着いた感じになっていたに違いない。
「昨年はちょっと人数が足りなくて大変な事もありましたけど、今は学生会メンバーが豊富なんです。会長、副会長、会計に書記、会計監査…役職なしのメンバーも含めて14人いますからね。手伝ってくれる優秀な人もいるし…、確かにやることはたくさんありましたが充実していて、やりがいを感じています」
「…そっか、今はかなり人員に余裕があるんだね。昔はね、会長しかいない時代もあったんだよ」
「あたしと茉奈が入った時は二人しかいなかったからね?!しかも一人は完全A型丸出しのちょー潔癖繊細神経質人間だし、もう一人は相談もなしに休学して音信不通、挙句の果てに全部放り出して退学しちゃってさあ!!ホントひどい目に遭ったっていうか!!いやー、君は恵まれてるよ、こんな立派な衣装まで拵えてもらって…いやあ、先輩冥利に尽きるね!!学生会つぶさなくてよかったー!!はい、記念に苦悩のポーズで一枚…はいチーズ♡」
先輩の言葉の端に、あまり聞いたことのない学生会の歴史の一部を垣間見る。どうやら今までもかなり波乱万丈の出来事があり、首の皮一枚でしのぐ場面があったようだ。なんとなくだけど、学生会の『何とかなるだろう思考』の起源のようなものを感じたりして…。さんざん修羅場をくぐってきたからこそ、問題が起きても楽観することができるって事なんじゃないのかい。
きっと僕の知らないことを色々と知っていると思うんだけど、どこまで聞いていいものか…何を聞いたらいいものか。下手に好奇心の赴くままに聞いたら、うっかり地雷を踏んでしまいそうな予感もする。
とりあえず僕は、ご機嫌の先輩が向けるスマホに…ぎこちない笑顔とピースサインを向けた。




