コンテナショップ
「おぅい!!さくちゃん!!!こっちかき氷あがったよ!!」
「へいよwww」
8/1、入道雲が遠くに見える真夏の西来名の海岸には…年頃の女性を気軽に呼びつけてにやけるマッチョのはりきる声と、豊満プリティ女子のへらへらとした声が!!
「これって…手作りなんですか?すごくかわいいですね!天然の…桜貝?」
「ありがとうございます!そうなんですよ、ここにあるアイテムは、あのかき氷を運んでいるリボンの人が作った、この世に1つしかない一点ものなんです!こちらは西来名で採れた桜貝で作ってます!」
「お姉さん!彼女へのお土産、どれがおススメ?」
「彼女には…これがいいと思うよ!!ハンドメイドでここまでのクォリティ、なかなかないよ!!あたしはね、ペンダントがいけてると思うんだけど!!ペアでつけたらよくない?!あとね、こっちのクッキーはアイスローズヒップティーと合うの、女子ウケバッチリ!!ついでに買っちゃえー!!うますぎるよ!!」
丁寧な接客でお客様を魅了するキュート系女子のちょっとぎこちなくも真心の伝わる声に、ノリで勢い任せの接客をする女子の強引な声も響いているぞ!!!
「あ、あのぉ、写真お、お願いしてもっ、いいです?!」
「あ、はい…撮ればいい?じゃあ、あっちの景色の良い所で…」
「えっと!!そのー!!一緒に撮ってほしくて!!並んでもらいたいです!!」
「あの!!あっちのお兄さんも、出てきてもらえたりしませんか!!」
「ふふ、了解です、じゃあ呼んできますね。日に焼けちゃうといけないから、あっちの日陰で…あ、肩の所赤くなってる…休憩所に無料のクールローションありますよ、使います?僕でよければ塗らせてもらいますけど?」
「えっ?!いいんですか!!!」
「あ、あたしもお願いしてもっ?!」
「きゃあああああ!!!あたしも、あたしもっ!!!」
やけにモテてる僕の表面上だけは澄ました声に、リゾート地でタガが外れて大はしゃぎしている一般女子の甲高い声も響き渡っていてっ!!!
「はるにい、ちょっと抜けられない?お客さんが写真撮ってほしいって!あと、ローションサンプルそろそろなくなる!」
「OK、今行く!サンプルはそろそろ届くはずなんだけどな…にーちゃん!!焼きそば任せる!!」
「おーし!!やったるわっ!!さくちゃんこっち手伝って―!!」
「へいへいwww」
「彼方!モーリーのクッキーストック分ないんだっけ?」
「もう出てるだけ!明日の分もなくなっちゃったから、POPはがしておいてもらっていい?」
「モーリー、これって市販のアクリル宝石?どこで売ってるのってお客さんがー!」
「それは楠たんの手作りだよ、ウェブサイトがあるからそこで売ってるwwwええとね、LINEで…」
もうさ、なにがなんだか……!!!
かねてから計画していた夏休みのリゾート計画がただいま絶賛進行中だったりするんだけど、予想外に大盛況で…とてもじゃないけど遊ぶ暇がない!!!去年は海の家の手伝いだけだったから、時々遊びに行くチャンスもあったんだけど、今年は完全にそんな余裕がない!むしろ休憩する暇もないし、昼ご飯だって売り物のフランクをかじったぐらいで!!せっかく買った水着も出番が来ずにパーカーの下に隠れたままだし、これは夜の宴会で相当高くてうまいものを食べさせてもらわねば気が済まないぞ!!
このてんやわんやの大さわぎは、次兄のたくらみと長兄のやらかしがあっての事だ。
今年、海の家〈オーシャンパシフィックピース〉初の試みとして、販売ブースを導入する事になったんだ。次兄が化粧水の新商品のプロモも兼ねて休憩所を拡大したいとか言い出して、コンテナハウスを三日間レンタルする事になってさ。なにが腹立たしいかって、ちゃっかり僕たちをスタッフ要員として計算していたところだ。一泊二日の旅行をまるまる働かせる気満々なのが腹立たしいことこの上ない。あまりにもムカついたので、旅館代タダとバイト代の支払い確約をもぎ取ったのだけど…それだけじゃ全然納得できない!
この計画はかなり強引で、思いつきと勢いで見切り発車したおかげでホント穴だらけというか、問題山積だった。しかも長兄のガサツさが仇となって、やたらでかいコンテナが来ることになっちゃったもんだから予定が大幅に狂ってさ。空いたスペースができてしまって、せっかくだからなんかやるかという意見が出て、そこからとんとん拍子でハンドメイドアクセサリーなんかを置くことになったという…。
初めは子供用のおもちゃやお菓子でも売るかって話になっていたんだけど、由香に相談したら森川さんのハンドメイドの腕を生かせないかなって話になって、本人に聞いてみたら、思いがけず商材提供の申し出をしてくれてさ。
もともと森川さんはハンドメイド好きが高じて、個人でアクセサリーのネット販売をしているんだ。どうやら作りすぎて過剰在庫になっているものや、いまいち動きの良くないもの、新作やバザーに出せない手の込んだものなんかがあるらしく、俄然はりきっちゃったんだよね。またとない大チャンスだと言って、ハンドメイド仲間の楠先輩にも声をかけ、毎日夜遅くまで商材制作に精を出すようになっちゃって…目の下にクマを作って授業に出る事もあったくらいだ。
自分の作品を手に取る人を間近で見たいとか、新作アイテムの人気を見極めたいみたいな希望もあるらしく、毎日こう、へらへらした空気がやたらとこう、ぎらついていた日々があったんだよね。
僕や由香も一つ一つ小袋に包むなどの作業を手伝ったりしたんだ。ついでに美味しいスイーツやごはんをご馳走してもらったりして、あれはわりと役得だった、うん。
楠先輩も海に誘ったんだけど、就活ゼミの関係でどうしても参加ができないってことで、残念だった。しっかり売りさばいてくるからねと言って夏休みに突入したんだけど、なんと昨日、納品を兼ねて…あの親睦旅行の彼氏と一緒に海の家まで来てくれてさ!!
そのラブラブっぷりに…面食らったというか、見ているこっちが鼻血を吹きそうになったというか、なんというか!!人っていうのは…恋をすると、愛されると、あんなにもこう…変わるんだなってのがね?!
普段学生会室でへっぽこな会話をしているとは到底思えない、穏やかで優しい雰囲気が漂っていて、なんていうか…めちゃめちゃ驚いた。そこら辺の事もみんなに報告したいんだけど、その隙が全く持ってないのがね?!今晩は夜通し語る羽目になるかもしれないぞ……。
「お疲れ様でーす!!って…石橋室長?!ちょっと待って、性転換?!ついに?!」
「ぎゃああああ!!俺の遥キュンがまさかの女体化!!!」
「違う、よく見ろ!!髪が短い…弟さんだ!!!」
「いや女子、女子!!!」
写真を撮り終わって、にっこり笑っていた僕の耳に、やけに失礼な会話が聞こえてきたんだけど?! 老若男女四人組のこの集団…さては!!
「ちょ!!部長!!妹です!!佐々岡さん、追加の日焼け止めクリーム持ってきてくれた?!あ、太田は化粧水補充ね!!内海君はゴミ袋替えてきて!!サンプルのチラシのゴミがたまってるんだ!」
「こんにちは…妹の、石橋彼方です。兄がいつもお世話になっています。」
昼から来てくれることになっていた、次兄の会社の人達がようやく到着したらしい。あいさつをさせてもらって、ひとしきり質問をされ、微妙にいじられて…むっ、コンテナの中で由香がこちらを見て笑っているぞ、森川さんと布施さんがやけにニヤニヤしているのはどういうことだ。
「彼方、遅くなったけど飯とかみんなで食べてきて。裏の方にボストコの寿司あるからさ、全部食べちゃっていいから。」
「ああそう?じゃあ遠慮なく。…失礼します、では。」
僕は次兄の会社の人たちに頭を下げ、ぐうぐう鳴るおなかを満たすべく、頼れる仲間の元へと急いだ。




