満点
ヒュンっ……バシッ!!!!!
〈〈〈おおーあたーーーりーーー!!〉〉〉
4つの的が並ぶアーチェリーコーナーに、陽気な掛け声が響き渡った。
ここのアーチェリー場は、ど真ん中の赤い部分に当たると、自動でコールが鳴るシステムになっているのだ。
誰だ、ど真ん中を仕留めたのは。……精神統一をしているのに、気がそれるなあ。僕はどちらかというと、矢を射る時は呼吸を整えて放つタイプで……ああ、集中力が散っちゃったから真ん中はずしちゃったじゃないか。
僕は今、『スポコンドリーム』に来ている。
メンバーは、僕、由香、布施さん、森川さん、大崎さん、川村さん、笠寺さん、秋元さん、あっかりん、ヤギー。八人で入場すると団体割引がきくので、みんなに声をかけたら10人も集まってさ。賑やかにいろんなスポーツを楽しんでいるんだ。さっきまでミニバイクのレースをやってたりしたんだけど、僕の弓を撃つ姿が見たいってことで、アーチェリーをやることになってだね。レーンか四つしかないので、二回に分けて弓を撃つことにし、先発は僕、由香、布施さん、森川さん。川村さんと笠寺さん、あっかりん、ヤギーは背後のベンチに座って見学中だ。ちなみに、秋元さんと大崎さんはカラオケボックスに入っているので、ここにはいない。
「わあ!!ヤバイ!ユカユカの的に当てちゃった!!!」
「すげえなwww人様のレーンに割り込んでど真ん中当てるとかオオウケwww」
僕は一番左、隣は由香、その隣は布施さんで、その隣が森川さんなんだけど…まさかの、布施さんが由香のフィールドに乗り込んで点数加算の手伝いをしたらしいぞ。自分の的から目を離して、隣を確認すると…ちょっと待って、5本すべて10点に入ってるじゃないか!
「すごいね由香、地味に凹むな…僕一本5点に入ってるのに。……弟子入りしようかな。」
「一本はふーちゃんの矢なんだけど?!」
おかしいな、僕弓道部でそれなりにいい成績を残したはずなんだけど。洋弓は初めて使うから、イマイチ勝手がわからないというか…うん、使い慣れてないから、真ん中を外しているのであって。
……なんでビギナーズラックの由香に負けてるんだ、僕は。いいところが魅せられなくて、少々、いや、かなり残念だ。
「でもカナキュンめちゃめちゃフォームがきれいだよ!なんか…ごめんねユカユカ、見惚れちゃった、カッコ良すぎて!!」
「うんうん!!ごめんねユカユカ、カナキュンに…惚れちゃいそう、ねね、この画像待ち受けにしていい?!許可、許可を!」
「ねえ、なんであたしの許可が必要なの?!もう!!あっかりんもヤギーもおかしなことになってるよ?!」
なんだ、真っ赤になって怒ってる由香ってのは…手をぶんぶん振り回すたびに、ふわふわの毛先のカールが跳ねてて…うん、ずいぶんかわいいな。一瞬で凹んだ気持ちが吹っ飛んだぞ、すごい威力だ。
「ええー!その写真あたしにも回して!!カナクラ(カナキュンファンクラブ)に共有しなきゃ!!!」
「ユカユカのOKあるならいいよね、全員に配布しても!!!」
川村さんと笠寺さんまで食いついてるぞ……。由香は普段、川村さん、笠寺さんとは交流がないから、ちょっと困惑しているのか、表情が硬い。この二人は大概フレンドリーで遠慮がないからな。いつの間にかユカユカ呼びをして、距離間がおかしいというか、ちょっと待て、なぜ手を取ってお願いしているんだ、僕は許可してないぞ…。
「えっと、うん、その…彼方には、許可取った方が、いいかも?」
川村さんに手を握られながらこちらを少々上目遣いで見つつ、おとなしめの返事をする由香。けっこう弱気な発言になっているのは、人見知りな所が顔を出しているのかも?…せっかくの友達の輪を広げるチャンスなんだから、もっとこう、強気の部分を出して、ありのままの姿を見せた方が良いのに。…まあ、僕が言うのもなんだけど。
「カナキュン!許可、許可!!」
僕の写真くらいなら別にいいんだけど、由香の手を握ったことは許しがたいな。ちょっとだけ意地悪をしておこう。
「…僕は由香が許したとしても、由香以外の誰かのスマホの表紙を飾るつもりは…、手のひらに包まれることは…望んでいない。でも、由香が…配布しろというなら、甘んじてそれを受け入れるよ、……悲しいけど。」
思い切り、悲しげな表情を作り、由香の目をじっと見つめて言葉を伝えてみる。……はは、由香の顔がどんどん赤くなっていくぞ。アーチェリーの弓を置いて、じたばたしている…なんかギャグアニメのキャラクターみたいだ。
「~っ?!ねえ、聞いてよ、あのね?!彼方はいつもこんな感じでねっ?!違うの、聞いて?!お願い、呆れないで!!!」
「すごい、生ラブラブの威力が、威力が―――!!!あっかりん、ここサウナだったっけ?!顔、顔がめっちゃ、熱い!!」
「ユカユカの許可は、いただけたから…アイコンにしよ!!!待受じゃないからセーフ、セーフ!早速、設定、設定…!!!」
「カナキュンってリアルにタラシなんだね、これは特集組まないと!!!」
「ユカユカ、かわいすぎる…これが、カナキュンのリアカノ…なるほどねえ……。みんなに言ってまわらないと!」
ヤギーは桜井さんとの一件があって以来、なんとなく川村さんや笠寺さん、大崎さんと距離感があったから少し心配してたけど…どうやら杞憂に終わりそうだ。ずいぶん仲良く盛り上がっている。…ひょっとしたら、蟠りを振り解くきっかけが欲しかったのかもしれない。
あまり交流のなかったあっかりんもすっかり仲のいい友達のようになっているし、レクリエーションというものは実に有意義だな……。仲良しの、友達の輪が広がっていくというのは実にいいことだ。そんなことを思いつつ、アーチェリーの弓を置く。
ちなみに、成績はというと…、5本すべて真ん中に刺さった由香が50点満点でトップ、4本真ん中の僕が45点で二位、布施さんが真ん中なしで外側に3本当たって3点で四位、森川さんがバランスよく当てて22点で三位。スタッフさんが矢を的から抜いて、こちらに持って来てくれたので、それを受け取って次の人に手渡す。
「はいはいwwwラブラブはこのあといくらでも見られるんでwww順番来たよ、皆さん代わった、代ったwww」
「カナキュンのユカユカラブはこんなもんじゃないよ!!まあ、夕方まであまあま地獄にハマってってね!!!」
なんだい、この先輩風を吹かしたような空気は。
「ごめんねユカユカ、カナキュン借りるね?カナキュン、あたしアーチェリー初めてだから教えて!」
細かいことを言えば、僕は弓道部出身者であるだけで、アーチェリーは初めてやったわけなんだけど。一位を取れなかったから、やや卑屈になってしまうな。せっかくみんなが楽しんでいるんだ、テンションをあげていかねばなるまい。
「私もやったことなーい!!川村っちのあとで教えてね!」
「私も初めてだよ?!ヤバイ、変なとことんでったらどうしよう!」
「私吸盤のついてるやつならやったことある!!」
「つかうちらも初めてだったけどwww」
「適当にやったらささるよ!!」
「ふーちゃんは隣の的に当てたじゃない!!」
騒がしいけど、嫌じゃない、この雰囲気。……ちょっと学生会の雰囲気と似てるな、こっちの方がキャピキャピしてるけど。
……少し前までの自分は、騒がしくしている人たちを、見ているだけのことが多かった。大学に入って、騒がしい人たちの中に、身を置く楽しさを、知ったような気がする。…いや、知ったんだ。多少イライラすることもあるけれど、僕は…騒がしさの中に自分を置く気持ちよさを、知った。
思ったことを、思ったままに、騒がしく口に出している、みんながいるから、僕は。
……僕は、きっと、何も言えない自分を、変えていく事ができるはずだと思えるんだよ。
「はいはい、じゃあ、弓の持ち方からはじめるよ?適当なことすると、布施さんみたいに隣の人に点数をあげて自分は最下位なんてことになるからね、ちゃんと聞いて?」
「「「「はーい」」」」
「ちょ!!カナキュンひどい!地味に3点で落ち込んでるのに!!!」
落ち込んでる人は、ジュースをごくごく飲みながら次のアトラクションはどれにするのか相談しつつはしゃいでたりしないと思うんだけども。さっきまでチャレンジするやつすべてでトップを取ってた人が何を言っているんだ…。
少々あきれながら、僕はアーチェリーの弓を取り、説明を始めた。




