タラシてない
五月下旬、例年よりいくぶん早めに梅雨入りが発表された。先週からずっと雨続きだったからなあ、今年は長雨になるのかもしれないぞ。地味に靴が傷みそうで気が滅入るんだけど。
大学までの道すがら、傘を差しながら由香と並んで、足もとの水を…跳ねる。……土砂降りじゃないだけ、まだましか。
「来週もずっと雨らしいね、しばらく外は走れないなあ……残念。」
「じゃあ…木曜の午後、みんなで屋内運動施設でも行くかい?なんか布施さんがドはまりしたってやつ。」
今年の頭に郊外にオープンした屋内型のアミューズメント施設『スポコンドリーム』は、ボウリング、バスケットコート、ヨガスタジアムにプール、トレーニングルームにトランポリン、バッティングにミニバイク、ローラースケートにゲームコーナー、カラオケ…血気盛んな布施さんが部活のみんなで遊びに行ってドハマりしてしまったという一日中遊べる場所で、いつかみんなで行こうねという話になっていたりする。オープン当初は予約しなければ入ることができないくらい人気だったものの、春を過ぎたあたりから人気も落ち着き始めたようで、平日の昼間であれば比較的空いているようになってきたらしいんだよね。
「ああ、それいいかも!今日英語ⅡAの時にふーちゃんに聞いてみるね!モーリーも行くかな?大人数で行った方が楽しいよね、あっかりんとか声かけてみようかな……。」
「そうだね、みんなで入れば団体割引もあったはず…8人集まるとお得なんだけどな、僕もちょっと声をかけてみるよ。」
基本木曜の午後は美学の学生はほぼほぼ授業がないから、声をかけたらそれなりに人は集まると思うんだよね。スポーツ全般が好きな人であれば、楽しめる場所だし。
…うーん、川村さんと大崎さんはちょっと来てくれないかもしれないな、あの二人は運動が苦手で、去年の体育の授業もほぼほぼさぼっていた。秋元さんと笠寺さんなら誘ったら喜んできそうなんだけど。とりあえず一限目の日本美術史の時にみんなに聞いてみるか。
「確か…アーチェリーとかもあるんでしょう?彼方弓道部だったんだよね、めちゃめちゃうまそう!なんか、またモテそうな予感!!」
「弓道とアーチェリーは別物だからね…。型もルールも違うから、そこまで目立たないと思うよ、洋弓は真っ直ぐ飛ぶから、誰でも真ん中に当たるんだ。由香の方がうまい可能性あるよ。……モテたら困るな、独り占めできなくなっちゃう。」
モテモテの由香に僕が焼きもちを焼く展開、なんてね……。
「もう!すぐそういうこと言うんだから!!いいかげんそのタラシ癖やめなさいよっ!!」
おしゃべりをしてたら…足元の悪い道のりもあっという間だな。赤くなった頬を膨らませてプンプンしているお嬢さんが…靴箱の方に駆け出して行ったぞ。……そんなに照れることないのにな。
「タラシてない。……図書館、行くよね?今日は写真掲示の初日だからさ、由香のサポートがないと…僕はきっと、重大なミスをしてしまう。責任重大だよ、頼むね。」
傘をばさばさやっている由香に向かって、心からのお願いをする。雫を払った傘は…バッチリ隣同士に置かせていただいてと。この傘は柳ヶ橋のお店で一緒に買ったんだ。僕がマリンブルーで、由香がスカイブルー、何気にお揃いだったりして。傘の持ち手についている四葉のクローバーモチーフのキーホルダーが一緒なんだよね、お店のお姉さんがおまけしてくれてさ。
「はいはい!!で、何をどう手伝うの!!!」
僕と由香は、ペタペタと湿気の纏わりついた廊下を歩いて、図書館へと向かった。
図書館前には移動式のホワイトボードが二枚並んでおり裏表にびっちりと写真が貼られている。今年の親睦旅行の写真は全部で1600枚になり、なかなかの圧巻だ。
写真掲載サイトで見られるので、ほとんどの人はそちらから確認するだろうし、今年は貼り出すのやめようかって話も出たんだけどさ、写真や動画の印刷?に詳しい東浦先輩が格安の所を見つけてきてくれて、掲示することが決定したんだ。なんと一枚8円、ダウンロードでも同じ値段!地元の写真店に頼んでいた時と比べて三分の一ほどのコストダウンで、学生会一同が驚愕したという。
図書館入り口横には小さめのテーブルがあり、そこにはDVDモニターが置かれている。なんと動画を撮影していた東浦先輩が、遊園地内を巡って一時間ほどの番組に仕上げてくれたんだよね。ナレーションはもちろん、時折学生会のロゴの入ったアイキャッチまで入って…さながらどこかの動画チャンネルみたいだ、はっきり言ってクオリティが高すぎる!!僕はまだ全部通してみてないからさ、今日由香と一緒に見ようと思っているんだ。
「すごいね!!昨日はバイトがあって手伝えなくてごめんね、大変だったでしょ、こんなにいっぱい!すごいなあ、上の方なんか、モーリーとか見えないんじゃない?」
「そこらへんは…ほら、抜かりなく。ちゃんと踏み台をご用意したよ、三上先輩たっての希望でね。」
身長172センチの僕が首を上に向けなければ見えない位置から写真が展示されているのがちょっと問題なんだよね…。本当はもう一枚ホワイトボードを借りたかったんだけど、図書館前にあまりずらっと並べるのはまずいという事で、仕方なく上の方から下の方までびっちりと写真を並べるという手段に出るしかなくってさ。
「へえ……、あ、バスの中で写真撮ったんだ、イイね、これ!すっごく思い出に残りそう!あ、楠先輩に…ふふ、この人が例の彼氏?優しそう!」
大崎さんと川村さんは本当にいい仕事をしてくれたんだ。帰りのバスの出発前に一台一台のぞいてくれて、全員の顔が映る集合写真を撮ってくれた。狭いバスの中で密着して全員をフレームに収めるテクニックはもちろん、そこで生まれる連帯感?親睦旅行を親睦旅行足らしめる実にいい演出だったというか。
「バスのみんなからぜひ入ってと言われて、急遽写真入りしたそうだよ。一丸となって二人の恋を応援したというから恐れ入るよ、イイよね、こういう…誰かを幸せにするためにみんながまとまるのってさ。」
「へえ~!一致団結って感じかあ、これは二人で幸せになってもらわないとねえ……。」
何やら感心している由香を見ながら、僕は動画の準備など。
ええと、電源スイッチは…コンセントを差し込んだら自動再生するって話だったような。図書館の入り口横の延長コードを引っ張ってきてと。
♪~チャララーン☆
やけにキャピキャピした音声が流れてきたぞ…、ボリュームをちょっと下げた方がいいかも。
「あ!!それが動画?みたいみたい!あ、すごーい、なんかプロみたい!!!」
「まあ…動画の、配信のプロが作ったプロモーションだからね…見どころは多いと思うよ、まだ誰も来ないから、あっちのソファで一緒に座って見ようか?立ち見で一時間はきついから。」
「一時間もあるの?!すごいなあ、編集とか大変だったんじゃないの?パワフルだなあ、作った人……。」
「東浦先輩だよ、あの桜餅の。エネルギーは常に満タンだからね、そりゃあクオリティの高い動画に仕上がってると思うよ。」
コンセントを引きずったまま、近くのソファに二人で並んで沈み込んで、動画を視聴させていただく……。
『はーい!こちら大人気アトラクションメッサイイヤンの前でぇっす!!あっ、こんな所にええとー美学の学生さんです!よーし、インタビューしてみましょう!どうです、意気込みはっ!』
『あはは!!めっちゃ怖そうでーす!!』
『えー撮影しちゃう感じですか!!』
――もちろん、しちゃいまーす!!(文字テロップ)
≪≪ちょー怖いけど、いいかな?イイよね?それがー…≫≫
『『『『めっさ、いいやん!!』』』』
―――ぎゃあああああああ!!!すっごい、スリルぅウウウウ!!!(グルグル回っている文字テロップ)
「何これ、ねえ、彼方…もしかしてチャンネル登録者数10万人越えしてない?すごいよ、もうこれ学園祭とか入学式で流した方がいいんじゃ?!」
「でしょう、この動画は実に出来が良くてね……。」
東浦先輩の功績を称えようとした、次の瞬間!!
『あれに見えるは……当女子大一のイケメン、石橋彼方くん!すごーい、めっちゃタラしてる!!』
『カッコイイですぅ~♡』
『握手してくれて、ハグまで♡』
『女の子は、みんなとってもかわいいよ……見ているだけで、幸せになれるよね、ありがとう、笑顔をくれて。』
『『『『キャあぁああああ♡』』』』
―――タラシの帝王、見参!!!
「ちょ……!!!な、なに、これ!!!違う、違うんだ由香!!」
ぼ、僕の真横で!!!口を開けたまま画面に見入ってる由香、由香が!!!
しばらく不定期更新します(*´-`)




