まさかのリサイタル
「はーい!カナキュン先輩と写真撮影したい方はここから並んでくださーい!」
「スマホで写しますよー!あ、連続写真で撮ります?了解でーす!」
「あ、ごめんなさい、お写真はうちの大学の学生さんだけでお願いしてまーす!違いますよ、モデルさんじゃないです!」
「データは後日…ええと、カナキュン!いつ掲示予定だったっけ?」
「えっと…連休明けに図書館の前に掲示する予定になっているよ、…はい、お待たせ、写真撮るよ?うん、もうちょっとこっちに…腰に手を置いても大丈夫?あ、…髪ちょっと触るね、……はい、とびきりかわいくなった、じゃあ…カメラ一緒に見てね?…いい?」
「「は、はい~♡」」
森川さんとのんびり園内バスに乗って景色を楽しんだ後、フードコートでハンバーガーセットを食べ、観覧車に乗ろうと並んだところ幸せそうに微笑みあう楠先輩とすれ違い、空中から初々しいラブラブをじっくり観察させてもらっていたら、相川先輩が暴走しているのを発見してしまい、あわててイベントホールに向かったわけなんだけどさ……。
写真係四人組とばったり会った途端に、まさかの展開がだね?!
4人に囲まれて写真撮影してたら、いつの間にか一緒に写真を撮りたいという後輩の皆さんがあつまってきて、気が付いたら…去年の撮影会と同じパターン!!!場所まで同じだ、見覚えのあるフォトコーナーのフレームが!地味に端っこの年号が新しくなっているあたり園の気遣いが感じられるな……いや、感心してる場合じゃ、ない!
なんで、なんで僕毎回…撮影大会やってるの?!去年に引き続き、に、二回目ッ!!!しかも列ができてる、けっこう長い!!!みんなウキウキで並んでいるぞ、列の長さを確認しようと目を向けると…みんな手を振ってる!!ふ、振り返したらキャーと歓声が!!!ちょっと待って、何これ、しかも一般人まで紛れ込んでるみたいだ、ドン引きしたいけど、そんなことをしてしまっては…表情が引き攣ってしまう!!今日という日の思い出を素敵なものとして心に刻み込んでほしいわけで、くっ、おかしな顔は見せられないぞ……!!!逃げ出したい気持ちをこらえながら…笑顔を振りまくッ!!!
「相変わらずのイケメンwwwこれはユカユカが喜びそうだwww枚数かなり多そうだけど、掲示がんばろうwww」
森川さんが自分のスマホで僕の惨状を嬉々として撮っているのが些か腹立たしいんですけど!!!僕は怒りを外面のよさで押さえ込み、爽やかな笑顔を後輩諸君に向けてっ!!!……くっ、今絶対に由香に画像を送っているな!!!これはあとでお説教せねばなるまい!!!
「ひゃー!!すごいっす!なに、石橋先輩はアイドルなんすか?うはあ、マジリスペクトっす!どうしよう、あっしらも撮ってもらう?」
「そうだね!記念だし撮って行こっか!!!」
大騒ぎのおかしなハイテンションの雰囲気に慣れてきた頃、やけに体育会系のノリの声が聞こえてきた。頭に猫耳を付けている小田原さんとクレープを食べている工藤さんじゃないか……、小田原さんの楽しみっぷりがハンパないぞ、遊園地の限定グッズをあちこちに携帯して、めちゃめちゃ血色のいい顔で笑っている、なんか…小学生男子みたいな子だな……。こう、体力の、お金のある限り全力で遊び尽くす、お小遣いは全部きっちり使い切るみたいな。
「は、はは…あと一時間くらいで集合時間だから、あんまりのんびりしてると遊ぶ時間なくなっちゃうよ、イイの?」
写真待ちの列はずいぶんはけてきたとはいえ、あと三組くらい並んでいる。遊園地を目いっぱい楽しみたいならば、こんな所で写真を撮っているよりも一つでも多くの乗り物に乗った方が生産性があると思うんだよね。少し離れた位置からこちらを見学している小田原さんと工藤さんに声をかけつつ、可愛い後輩達とおそろいのポーズをにこやかに決める。写真を撮り終わった後は、同じフレームに収まってくれた皆さん一人ひとりにきっちり甘い言葉を囁くことは忘れずに……。
「ああー!!それはまずいっす!!もうこんなとこ来れないっすからね!!くー、写真は我慢するっす!!」
両手を握りしめ、顔面を握りこぶしみたいにしている人がいるぞ。たかだか記念撮影の一枚でそんなに悔しがらなくても。なんだ、ずいぶん感情が豊かというか、熱のある子だな……。若干気を散らしながら、写真希望の後輩をエスコートして笑顔をサービス……。
「我慢せんでもwww学生会入ったらまた来年来れるよwww」
「ええー!!マジすか!!あっし入る、入るっす!!学生会!!」
「はらお君マジで?!」
撮影会の様子をニヤニヤしながら見守っていた森川さんの軽口に、瞬時に反応する少年…いや違った、小田原さんの姿が。めちゃめちゃテンション高いな、少々呆れつつ最後の写真希望者の方を抱き寄せ、ポーズをとる。……よし、これで最後の人だな、はずかしい写真撮影会は終了だ!!カメラのチェックをしている写真撮影組は忙しそうだな、よし、今が…チャンス!少々腹立たしい写真撮影ブースから駆け出して、少年とちびっ子の元へ。
「小田原さん、入ってくれるの?だったら今日このあと学生会室で反省会やるんだけど、良かったら来ないかい。」
学生会に入らなくても、希望者は来年以降参加可能になったはずなんだけど…学生会メンバーゲットのチャンス、スカウトはしておきたい。だけど、少々不安のようなものが……うん、気のせいだな。多少の残念な部分は、他の人たちでカバーしていけばいい、それが我が学生会のスタンスだったはず。
「うおお!行くっす!あっし家近いんで、わりと時間融通キクっス!何なら打ち上げとかも出るっす!酒は飲めねえっすけどめっちゃコーラ飲むっす!!」
「打ち上げはないけどwww反省会くらいしかないよwwwつかコーラってwww」
……思い起こせば、去年…森川さんはこの親睦旅行の後で学生会に加入したんだった。あの時出会えていて本当に良かったよ、そうだなあ、出会いって…第一印象じゃ、どうなるのかわかんないものだよね。ひょっとしたら、この小学生男子が、歴代の中でも最高レベルの学生会会長になる可能性だってあるわけで……。
「じゃあ、親睦会の終わったあと、バスから降りたら声かけるから。歓迎するよ、よろしくね?」
「よろよろwww」
「わかったっすー!!!じゃー後程っスー!」
どうやら時間ぎりぎりまで遊び惚ける予定らしい小学生男子とごく普通の女子大生のコンビは、空中ブランコの方に走って行ってしまった。元気いいなあ、一つ年下だと、こうも力が有り余る感じなのか。若さってすごい。
「あ、カナキュン、これ、写真サイトにアップできたよ!すごいよ、全部で1000枚越えてる!」
「うちらこのあと閉園までいるつもりなんだ、どうする?夜景も撮っておく?」
「夜景は僕個人が見たいかな、サイトに上げなくていいから、僕に送ってくれる?」
「オッケー、じゃあ今晩送るね!」
「あ、バスの出発時間もうじきだよね!あのね、車内写真撮りに行くから、よろしくね!!」
「ありがとう、じゃあ写真撮影終わるまで出発しないように役員にライン入れとくよ。」
今年の写真係が有能すぎる!来年もぜひとも手伝ってほしい!!!何かお礼のような事もしておきたいなあ、ちょっと考えておこう。
「……あのおっさんは何をやっているんだ!!!」
「もう置いてったら?」
「いい大人なんだし帰って来れるでしょ……。」
只今の時刻14:05、帰りの集合時間を過ぎ、他のバスは皆大学に向けて出発したというのに、僕のバスだけ未だ駐車場に待機中だ。大崎さんによる写真撮影が終わってじゃあ出発しようとなった瞬間、トイレに行ってくるからちょっと待っててと言い残して出ていって、それから全然帰ってこないじゃないか!!車内が若干ざわつき始めてる、まずい、このままだといい雰囲気で親睦旅行を〆るという課題が!!!
「あ、来ましたよ、先生。」
遠くを見つめていた運転手さんの言葉で前を睨み付けると、……くっ、なんだあの走っているふりをしてぼてぼてと暑苦しく前進するどこぞのゆるキャラみたいな…いや!あれはかわいさの欠片すら存在していない!!!ただの肉を蓄えた中年のおっさんでしかない!!!
「おーごめんごめん!朝食べたもんが全部出てさあ!よっしゃ帰ろう!」
スッキリした顔をした醜いおっさんがへらへらしながらバスに乗り込んできた。デリカシーのないセリフに僕の外面が…歪む!!
『はい、皆さまお待たせいたしました、全員揃いましたので今からバスは大学に向けて出発いたします。運転手さん、よろしくお願いしますね。』
「はい、出発、進行!」
緩やかにバスは動きい始めた。よし、それでは…帰りのバスレクを…その前に!!
『帰りのバスの出発が遅れたことをお詫びします。それでは、只今より遅刻してきた河合先生による、アカペラ校歌熱唱をしていただきます。先生、どうぞ!!!』
引き攣った笑顔を太いおっさんに差し出し、僕は助手席に座ったわけだけれども。
『♪あーあーあーあーあー♪栄光の尋常小学校♪絶え間なくふり注ぐ光よ永遠たれ♪』
≪≪≪ぎゃあああああ!!めっちゃ歌うまいぃイイイイ!!!≫≫≫
≪≪≪アンコール!!≫≫≫
≪≪≪リクエストして良いですかああああああ!!!≫≫≫
『おお!いいぞ!!!じゃあ俺の18番、髭ダンディでプレゼンター!』
ちょ……なに、この……ライブ会場みたいな、盛り上がり!!!!
おっさんが、完全に女子大生たちを…魅了してるんですけど!!!!!!!!




