受付
「はい、浅田美香さんね、それでは…バスに乗車してください、誰かお友達はいますか?」
「アッ…ええっと昨日会った子がいるんだけど名前聞くの忘れちゃって…!!!」
「じゃあ、あっちのバスかもしれないな…中を見ていなかったらしばらくバス前で待ってもらって、見当たらなかったら向こうのバスに行ってみましょうか。」
「おーいイケメン!!前の席って2列目からだよなあ?一般人!!」
「一般人って言い方はやめてくださいよ!大事な後輩ですよ?!2列目は友達がいなくて困ってる人たちの席なんで、後ろから詰めてって下さいって昨日言ったじゃないですか!」
「ごめーん、石橋君!鉛筆の予備持ってない?」
「ボールペンでもいいならあるけど!」
「書ければなんでもいいよ。」
「おはようございまーす♡あの、もしかして先生なんですか?何を教えているんですか!!」
「俺は東洋美術史だ!詳しく説明しようか、アンコールワット?それとも兵馬俑?」
「違う違う、こっちのイケてる人!!」
「あはは、僕は…美学の2年生なんだ、あとで自己紹介するか
「「「「きゃあアアア!!!先輩?!」」」」
「「「ぎゃアアア!!カッコいいいいいいイ!!」」」
「石橋君、モテまくってるとこ悪いんだがね、そっちにソバージュのチビッ子いない?名前知らないけど仲のいい子がいるって子がいて迷ってんのwww」
「あ、たぶん…浅田さん!!この子?」
「あーん!会えてよかったー!ごめんね、名前聞くの忘れちゃって!」
「ごめんね、言うの忘れてたー!」
「どうしようかな、人員移動しないと……、どっちのバスに乗ってもらおうか?」
「ひゃわああ、ひゃ、こっひは欠席者が3名おるでゆゆうあるでしゅ、へひ!!!」
「よし、じゃあ君らあっちの車に行って!」
「「は、はい!」」
「河合先生!もっと言い方ってもんがあるでしょう!!ごめんね?じゃあ森川さん楠先輩お願いします。」
「へいへいwww」
「ひゃひー!!!」
本日晴天、無事親睦旅行開催決定、晴れたのはいいんだけど……なんだこの大さわぎは!!
おかしいな、去年はもっとこう、落ち着いて乗り込み作業が進行していたはずだ!!!去年と一体何が違うのかって?!……そう、この場に、由香が、いない!!
くっ、由香の偉大さが身に染みる……!!!小太りのおっさんは実にゴーイングマイウェイ&無神経を撒き散らし、お手伝いの二人はがんばってくれているものの…一年前のスムーズさ、スマートさが嘘のようにごった返し、落ち着きがなく、気の休まる瞬間が……ない!!
去年たった一人で奮闘していたときのほうがまだ落ち着いていた気がする、頼れる存在がいて安心感があったのと、すべて自分が何とかしなければいけないという責任感、使命感の賜物だったに違いない。今年はお手伝いさんに気を使わなければいけないし、事前打ち合わせを忘れて適当なことするおっさんも見張ってなきゃいけないしで負担が多すぎるんだよ。……来年は少数精鋭で行きたいところだ、おっさんは要らなくて由香が要る。長期的な計画を練りつつ額の汗を拭い、バス前で出欠チェックを待つ列を見やって…ペットボトルのお茶を一口飲む。
ゴムグラウンドに並ぶ大型バスの前で一人右往左往しているのは、親睦旅行美学A車の担当である僕。バスの乗り口で邪魔にしかならないおっさんと並んで出欠チェックをし、名簿に〇をつけている。バスの中でレク用の紙を配ったり回収したりしているのは美学の2年の村中さんと人間の2年小泉さん。
ショートポニーテールの揺れる村中さんは去年僕のバスから河合先生のバスに移動してった人で、自分が逃してしまったバスレク?をどうしても知りたくてのお手伝い立候補者だったりする。小泉さんは去年友達がいなくて欠席したので参加したくなったらしいけど、肝心の友達と人員配置の都合で号車が別れちゃったから、少々申し訳ない気持ちがある。無二球ダイランドで思いっきり遊んでもらって、笑って許して欲しいところだ。
他のバスはどんな具合なんだろうと、視線を遠くに向けてみると……、美学Bのバスは、多少やらかしがちではあるが基本しっかりして入る楠先輩と、へらへらしつつもやることはきちんとこなす森川さんがほのぼのと対応をしている。人間Aのバスはばっちりメイクの相川先輩が唇をつやつやさせながら受付をし、柴本さんが黙って出席表に〇をつけていて、人間Bのバス前では大きなおにぎりをかじりながら豪快にあいさつをしている東浦先輩の姿が!早瀬先輩はバスの中で何かやってるみたいだ。英米Aのバスは三上先輩がちょこまか動いて受付をしている横でバカでかいおっさんが…なんだあのドーナツ屋の袋は!!バスで配る?いや全部食べるつもりに違いないぞ! 英米Bのバス前ではティアが陽気にアメリカンな挨拶をしている、佐藤さんの顔色は良さそうだな、無理をさせないよう気を付けておかないと。
「あと何人だ?集合時間まであと五分しかないけどどうすんだ!欠席の電話連絡って来てなかったっけ?」
なんというか…焦りと怒りと気遣い、その他もろもろが僕に襲い掛かっている。まだ季節は少し肌寒さの残る春の日だというのに汗が止まらないぞ……柄にもなく追い詰められているらしい。額の汗を手の甲で拭いつつ手元のバインダーを見る。
「あと5人、A車は聞いてないですね。B車は3人欠席って言ってたけど…、学生部に確認したほうがいいかも?」
過半数は集まったけど、まだ全員に〇がついていない。もしかしたら学生部のほうに欠席の連絡が入っているかもしれない、確認しに行きたいけど暇がない、さてどうするか……。
「めんどくせえな、もう全員〇でいいんじゃね?」
「頭の悪いこと言ってる暇があったらさっさと学生部に電話して聞くとかしたらどうなんです!」
すぐ横でへらへらしながら涼しい顔をしているおっさんは腹立たしいが、気にしていてはどんどん自分の精神が磨耗していく、気にしたら負けだ、スルーだ、スルー!!
「おはようございますー、ここは美学のAですよね、あの、私友達がいなくて…。」
「おお、今日作って!すぐできるわ!名前教えて!!」
く…、おっさんがめちゃめちゃ心を逆なでする!ダメだ、イライラしてはそれだけ体力がすり減っていく!!……負けてなるものか!デニムジャケットを脱いで腰で縛り、Tシャツ1枚になって新入生の皆さんに笑顔を向ける!!
「あ、じゃあ前の方の席に座っていただくんで、ここで待っててもらっていいですか?去年も友達がいなくて不安に思って参加した学生さんいましたけど、みんなこの旅行で仲のいい子を見つけたから、安心して参加してね、僕もちゃんとサポートするから、ね?」
「は、はいっ!あ、ありがとうございますっ、私、工藤です!!」
名簿に〇をつけ、受付待ちの人がいなくなったタイミングでバスの中をチェックする。わいわい騒いでいる子も、黙ってしおりを見ている子も、少し緊張した感じの子もいるな…このバスに乗り合わせたみんながフレンドリーな学生生活を送れるかどうかが僕の手腕にかかっていると思うと…気が引き締まる。
「こちら美学Aの1号車です!まだ受付してない人、乗り間違えてる人いましたら一言お知らせくださーい!」
《《《《《はーい》》》》》
声をかけたら、乗車中の後輩の皆さんがとてもいいお返事を返してくださった。…ノリは良さそうだな、今年のバスレクも成功するに違いない。少々ほっとしてバスのステップを降りると、お洒落な学生が二人こちらを見上げている。まだ少しぎこちないお化粧が好印象だ。今年は甘メイクする学生さんが多いな……今の流行なんだろうか?
「おはようございます、美学A?じゃあ、お名前教えてもらっていいかな?あ、僕は今日このバスを担当する学生会の…美学二年の石橋です。」
受付をしているはずのおっさんの姿が見えないぞ、どこでさぼってるんだとあたりを見渡したら……うん?学生部の人と話しているな……なんだたまにはちゃんと仕事するのか。福田さんいつの間に来たんだろう、電話が入ったから教えに来てくれたのかもしれない。
「えっ?!じょ、女性?!イケメンですね…、あ、私石川と言います、ええと…ここですね。」
「わ、私は国府宮です、あ、ここです!!」
小さなリュックを背負いながら、僕の手元を覗き込む新入生達。丸をつけてから、しっかりと目を合わせて微笑ませていただく。第一印象はよくしておくに限るからね。
「…はい、では中に入っていただいて、小さい紙をもらって、座席で記入しておいてください。今日は…よろしくね?」
「「は、はい~♡」」
「はいさっさと乗って!乗って乗って!奥のほうから詰めてってもらえる!」
がさつに怒鳴って作業しているだけのおっさんと同レベルに堕ちたくはないものだ。
「もうあらかた揃ったんじゃねえの?…欠席一人出たってさ!…じゃああと1人だな!俺ちょっと他のバスにもうじき出るって言ってくるわ!俺置いて出発すんなよ!」
「わかりました。」
このままドアを閉めて出発したい気持ちを押さえつつ最後の一人を待つ……。友達いない組は三人、たぶん最後の一人もそうだな、よし、もう乗り込んでもらおう。
「じゃあ、工藤さんと幸田さん、佐木さんは前から二番目の席に座ってもらっていいかな?」
「はい。」
「あたし窓際座らせてもらってもいい?」
「あ、イイよ、じゃあ私は真ん中にすわろうかな?」
友達いない組が三人乗りこみ始めたところで、こちらに駆け寄ってくる…なんだ、ずいぶん寝ぐせのついた小学生男子みたいな子が……。
「はあ、はあ、はあ……、うぃっす!おはようっす!いやー、英語のとこ行っちゃって大変な目に合ったっす!!あっしは学籍番号B04-006、あ、これっす!よろしくっす!すんません、ギリセーフ?!マジボッチなんすけど、参加しちゃっていいっすか!!」
「大丈夫、今時間になったよ、えっと小田原さん?」
随分パワフルな子だな、若干引い…いや、引いてなどいない!
「ああー、惜しいっす、おだわらと書いておだはらって読むっす、ウザくてすまんっす!」
「ああ、了解、じゃあね、前から二番目の開いてる席に座ってもらっていいかな、一番前の席にいるポニーテールの人かその隣の金髪の人に紙をもらって、記入してもらって待ってて?」
「りょーかいっす!!」
よし、参加者は全員揃ったぞ、あとは小太りのおっさんが帰ってくれば出発できる!ゴムグラウンドに目をやると…うわ、もうみんな出発し始めてるじゃないか!まさかのうちが一番最後?!……あのおっさん、何を悠長にバスに向かって手を振っているんだ!!!
「河合先生!!!揃ったから早く乗ってくださいよ!!!」
「おー揃った?じゃーいくか!!」
どたどたと重苦しい歩みでこちらに戻ってくるおっさん…どう見ても走っていない、腕だけ一人前に振って足はしっかりのんびり…ああもうっ!!




