大騒ぎ
……ガチャ!!
「……はあ。」
三上先輩が、ゆっくりとドアに鍵を差し込んで、ため息を、ひとつ、ついた。
それを少し離れた位置で見ていた僕たちは、抜き足、差し足で近づいて……。
「三上先輩、お疲れ様です。」
「かいちょー、おつwww」
「Hi!カイチョーさん!」
「……。」
「おつでーす。」
「は、はわわ…お、おつか、お疲れっ!!!様でひゅっ……!!!」
「へひぃやっ?!ちょっと!なに隠れてたの?!」
はは、真ん丸の目がさらに丸くなって、ちょっと驚いた反動でメガネがずり落ちて……めちゃめちゃドジっ子っぽくなってるぞ、思いっきりアヒル口がとがってる、怒り方もなんていうか、小動物っぽくて…くく、いや、声に出して笑ったら怒られそうだ、堪えろ、僕!!!
いつも必死になって走ってくる三上先輩を、たまには落ち着いた状態でお迎えしたいと思った僕と森川さんは、渡り廊下で一緒になったティア、柴本さん、東浦先輩、楠先輩と共に自販機の横に隠れることにしたんだよ。クラブ等の入り口にはさ、大きめの自販機があるんだけど、そこがちょうどいい感じに身を隠せるようになっていてだね。…気を使ってみたんだけどな。どうやら逆に不快な気分にさせてしまったらしい?
「だっていつもかいちょー走り込んでくるんだもんwwwたまにはゆっくりと鍵開けてもらおうと思ってwww」
「みんなで見てたよー、Super cute! 何ではあって言う?疲れた?」
「走らなくて済んだって安堵感かも?三上先輩は適当に見えてしっかりしてるからね。」
「さすがー!あ、お団子好きって言ってたからいっぱい買ってきたよ、食べよ!」
「……。……で、す…。」
「い、いつもおちゅかれ様でひゅ、はひいいいい!!!」
「そ、そんな気遣い良いから!!もう、びっくりさせないでよ……。」
黒ぶちメガネをくいと上にあげながら顔を赤くしている三上先輩…、この人もまたなんというか、こう、驚かせたくなる部類のかわいさが…いやいや、先輩なんだから、敬意は払わないとまずかろう。いじりたい気持ちを押さえつつ、黙って先輩の後に続いて、学生会室へと入る。会議机の上に今日の日替わりランチ…カツとじセットのトレイを置き、着席してお茶を一口。
「おいーっす!!!今日全員揃う最終だったよね!!卒業式の予定立てるよー!」
大きなレジ袋を二つ下げて、結城先生が…うわ、何だあれ!!次から次へとサンドイッチが出てきて……ほ、ホールのアップルパイ?!昼ごはんで食べていい物じゃないぞ……!!というか、アップルパイってホールだとあんなに大きいもん?!すごいな、ザブトンぐらいある!!!
「あ!!!リンリンリンゴのアップルパイ!!!それうまいよねー!今度限定で抹茶味出るって聞いた!!そうだ、予約しとこうと思ってたんだった、…あ、もしもしー?」
「すげえアクティブwwwどんだけ食うんだwww」
「I'm speechless!!おぅ、おなかやばめ!!」
東浦先輩の貪欲さ?に呆れてモノも言えない僕がここに!!!向かいに座っている楠先輩も柴本さんも…口をあんぐりと開けている。地味に食費とかどうしてるのか気になるな、ものすごい還元率のいいアルバイトでもしてるんだろうか……。
「お疲れー!アッ!!イケメン!!お前さあ、もうちょっとデザインの問題、どうにかなんなかったの!!はっきり言ってダントツでセンスなかったぞ!!いくら他が満点でも、あれはないわー!」
なんだ、めちゃめちゃ失礼なセリフが飛んできたんだけど?!普通、テストの内容とかさ、教師として守秘義務のようなものがあるんじゃないの!?軽々しく口にしていい事じゃない!!
「そう言う事を大々的に公言していいと思ってるんですか?!デリカシーのかけらもないですね!!!」
「だってあまりにも残念なデザインでさあ!来年の東洋美術史特講で発表したいんだよ、いいよね!」
発表?!冗談じゃないぞ!!!
「すげえなwwwある意味伝説になれるじゃんwww」
「ああああの、どんなデザインをぉお?!」
……東洋美術史のテストはさ、一年間で学んだ作品についての数字選択式問題だったんだけどさ。解答記入用紙の半分くらいが、空白の枠?になっててさ。そこに、オリジナルの文様を考案し手掛けって言う問題が出たんだよ……。何を隠そうあまり器用な方ではない僕、既存のデザインを見て喜ぶことは好きだけど、自らが新たな美を作り出すパターンは…得意としていない。そもそもさあ、東洋美術史と銘打っているんだ、基本歴史を学ぶ物であって、新たな発見や提唱をするものではないんじゃないのか?はっきり言って異議を申し立てたい!!
「やめてください!!!もし強行突破するなら…ゼミやめますよ。」
「へーんだ!!もう教室移動したもんね!!!来年はとりあえず広いから、一人ぐらいいなくても大丈夫!!」
あまりにも幼稚な返事が返ってきて、頭がくらくらするんだけど!!!ああ、やはり僕は判断を誤った。こんなおっさんのためにいろいろと奔走したのは間違っていた。
「そして来年の今頃また人が足りないと言って泣きつくとwww」
「も、もう引っ越し作業はこりこりなのです、ゴミがゴミでゴミだらけが、はひ。」
「まあ、仮名で発表するからさ!あ、森川嬢のも発表させてね!」
「へいへいwww」
あんまり腹を立てると、せっかくの美味しいご飯がまずくなる。僕は苛立つ気持ちを押さえつつ、カツとじの一番おいしい部分を箸でつまんだ。
「お疲れ様、今ね、ちょうど佐藤さんと一緒になったよ。さ、こちらへどうぞ。」
「はい、失礼します……。」
柴本さんを一回り小さくした感じの、和装が似合いそうな黒髪ロングの女子が早瀬先輩と一緒にやってきた。ずっと病欠でなかなか面接をすることができなかった佐藤珠美さんだ。昨年末最後の活動の日に、ようやく学生会室に顔を出せたんだけど、なんというか、病弱で授業もなかなか出ることがままならず、友達もほとんどいないという事で、無下にお断りするのも気の毒になっちゃったというか、ティアがずいぶんプッシュしてくれてさ。学生会役員として迎えることになったんだ。
「おー!サトウさん!レポート出せた?」
「うん、ありがと……。」
178センチのティアと、140センチちょっとの佐藤さんが並ぶと…とても同じ18歳に見えない。
「サトウさんてwwwお父さんのイントネーションで言うとかwww佐藤さん甘くなっちゃうやーつだwwwカワユスなwww」
「おぅ…、Ms. Sato, so I'll call it sugar.I don't understand the difference between Sato and sugar!!」
「…Really? Then, Tia is called tears!」
「「HA-HA!!」」
「すげえ、何言ってんだかさっぱりだwww」
「そうか、佐藤さんは英米だった……。」
「ごめーん、ハヤッチに捕まってたー!!もう終わった?!」
「まだまだ!よーし全員揃ったな!もぎゅもぎゅ…じゃあね、卒業式の予定配るよ!!んぐ、イケメン回して!!!」
「はい。」
結城先生が差し出した…うわ、アップルパイの欠片が!!!一番上の紙は結城先生に渡すか。卒業式の日程と役割分担の書かれた紙を、全員に回す。
ふうん、卒業式は3月15日、式が午前中にあって、11時に閉式、そのあとは県庁横のホテルで謝恩会…へえ、大学の卒業式ってこんなんなんだ。……なに、ドレスコードがある?!けっこう真面目なんだな、どうしよう、僕女性もののスーツ持ってないぞ……。
「会長は卒業式あいさつと壇上からの見守りね!ごきゅごきゅ、イケメンとティアと佐藤さんは受付、んぐ、柴本君と森川君は記念品係、ぼりぼり、司会進行は早瀬君、衣装係は東浦君と相川君、むぐむぐ…、案内要員は楠君、スペシャルサポートは俺と河合先生ね!!ごっくん!あと、ボランティアが10人くらい参加してくれるんで、バクバク、その人たちには会場までの案内やってもらうから!もっしゃもっしゃ、そっちはもう靴箱にプリント入れて来た!んぎゅっ、卒業式のグループライン作ったんで、そっちも見といてね!」
年明けすぐに、卒業式のお手伝い募集のポスターを貼ったんだけど、思いのほか反応がなかったんだよね。あれほど学生会加入フィーバーが起きたというのに、なんというかちょっと拍子抜けしたというか。30人来たらどうやって人材を振り分けようかって頭を悩ませたんだけど、完全に取らぬ狸の皮算用ってやつでさ。テスト期間でポスターを見る余裕がなかったのか、春休み期間になっちゃってるからわざわざ大学に出てくるのが面倒になっちゃったのか……、僕としては、どことなく、寂しい気が。
僕がするという受付の仕事は…卒業生の名前を聞いて、マルをつけるのか。呼びかける人が一人に、マルをつける人が二人、なるほど。記念品には余分がないから、必ず一人一つづつ渡すこと…、何、余分に持って行こうとする人なんかいるんだろうか。記念品を受け取った卒業生は、衣装係にアカデミックガウン?を着せてもらって、係の先導で着席、席に着いてからは写真撮影禁止…。撮影は式終了後に中庭で。謝恩会会場へは12:00よりシャトルバスが運行、一回につき60人までしか乗れないので二台用意…。卒業生200人プラスその保護者だから…けっこう並ぶかも?謝恩会開催時間は13:30から15:30、会場貸し切り時間は17:00まで、会食に関する片付けはホテル側が行うが、忘れ物や花などの管理は学生会及び学生部で処理…。意外と大変そうだな、大丈夫なんだろうか。
「なんか質問ある人いたらもがもが、どうぞ!!」
「あの、僕スーツ持ってないんですけど、ドレスコードってどんな感じなんですか。」
「男もんの着てくりゃいいよ。あの入学式の時のやつ。」
「ああー、イケメン再びwwwあたしゃ遠くに見てびっくりしただよwww」
「OH、あれ石橋君だったんだ!!!見たよ、四月、男子いたの!」
「…見、見た……!」
「私見てない……。」
「何それ!あたし見てない!!春休みだったし!!」
「私も気が付かなかったな、石橋君どこら辺にいたの?」
「あたしも見てない!!!見たい!!!」
「ひゃはあ?!そりはほんとでつか、気になりまふね!!!」
「壇上から見てたけど、めちゃめちゃ目立ってたもんねえ……。」
こ、この大騒ぎの方が、大丈夫じゃないんですけど?!




