絶品餃子
ジュゥージュー、パチパチ…ブツ、ブツブツブツ、ジュジュッ!!ばふっ!!
僕と由香、森川さんの目の前でホットプレートがうなりを上げて、ぴっちりとしまったふたの端から、時折湯気とお湯?が噴出して…テーブルの上に派手に飛び散っている。なんでも蒸しは非常に重要だから、どれほど派手にふたが揺れようと絶対に開けてはならぬとのことなので、テーブルの上を布巾で清めながら事の成り行きを見守るしか、ない。きれいにカットされたフルーツと漬け物をつまみつつ、焼き上がりを待つ……。
「もうそろそろ焼けるんじゃね?香ばしいにおいしてキタ――(゜∀゜)――!!」
「タイマーは…あと一分くらいだ。もう間もなく食べられるよ。」
「楽しみだよね!まだみんな包んでるのに悪いなあ…、いいんですか?ホントに…。」
只今の時刻10:00。先輩たちが二時間目の授業がある僕たちを気遣ってくださってさ、第一陣の焼き上がり餃子を食べさせてくれるというので、お言葉に甘えて……粉まみれの手を洗って、タレ皿を用意し、箸を持ち、準備万端で椅子に座っているのだ。
「あはは!かわいい後輩の見学だもん、これくらいはサービスするよ!」
「いっぱい食べてってね!!残っても大ぐらいの先生の胃に入るだけだし!」
「ちょ―優しいwww」
「ええとー!!第一陣は、毒見係を兼ねておりますので!!その見返りとしてですね、ええとまずかったらごめ、ごめ!!」
「俺の餃子は一度しか失敗していない!!絶対うまい!」
ピ、ピピピ、ピピピ……
派手な音を立てているホットプレートの前に置かれた、ニワトリの形のキッチンタイマーの音が鳴った。その音を聞いて、パタパタと駆け寄ってきたのは楠先輩だ。
「はは、ハイ、焼けたのです、みなすんお食べください!!ええと、食べる際はお好みでこちらの酢醤油をお付け下さひ、足りなくなっちゃらこちらにいっぱいあるで持ってってくださいね!」
ぶわっ…もわ、もわわわわ……!!!
ホットプレートのふたを開けるともうもうと湯気があがり、一瞬目の前が真っ白になった。ものすごい蒸気だ、餃子特有の香りが辺りに爆散する……そしてお目見えしたのは、焼き立て餃子。
「わーいwwwいっただきまーす!!!」
「いただきますー!!」
大喜びで餃子を摘まむ由香と森川さんだけど、僕はその、なんというか、あまり見慣れない団子みたいな物体にだね、少々戸惑いの念を抱いてしまうというか、なんというか。…わりと僕、こういう手作りパーティーみたいなのってあんまり参加したことないし、ちょっと不信感のようなものがあったりしないでもなかったり。…とはいえ、美味しそうなにおいはしているし、一緒に作っておいて僕だけ食べないのもまずいよね。少々勢いはないけれど、箸を伸ばす……。
「いただき、マス……。」
箸でやや小ぶりな餃子を一つつまんで…う、これ意外と重いぞ!!餃子ってこんなに重量感ある食べ物だったかな。初めて知ったぞ……。明らかに、自分の知らない食べ物感がする!!
「ちょ!!!何これマジうめえー!!!!」
「…おいしい!!ねね、彼方も早く食べてみて!!皮がもちもち、中身はジューシーでお肉と野菜のバランスがすごい!」
森川さんと由香が大絶賛しているぞ……。二人とも地味に料理上手で舌が肥えているから、信頼度は高い。……不格好な餃子をたれにつけて…一口、かじって、みる。
「もぐ…、うん、美味しい……ううむ、むぐ……!!!すごく、おいしいぞ?!」
ずっしり重みのあるいびつな餃子……、ちょっと焦げ付いてるし、ずいぶん皮も分厚くて、正直見た目だけで躊躇したくなる気持ちもあったんだけど!!!信じられないくらいおいしい!!!
すごいな、僕こんな餃子初めて食べた、いつもはスーパーのパック入りの薄い皮のやつぐらいしか食べた事なくて!!!ラーメン屋で食べた餃子とも全然違うな……、食べ応えのあるタイプの餃子、いやこれは餃子じゃない、むしろ肉まんに近い?!なんだこれは!!!食べる勢いが全然止まらない、箸が次から次へと伸びて、どんどん食べられる!!三人で囲んでいるホットプレートだけど、全部食べ切れる自信がある!!!むしろ、食べ足りなくなる可能性すらある!!!
「そうだろう、そうだろう!俺の自慢の餃子だ!!食ったからには二年後絶対にこのゼミに入るんだぞ!!!……絶対だからね?!」
餃子をもちゅもちゅと包みながら、粉に塗れたおっさんが懇願している。なに、そんなにこの先生はゼミ生を欲しているというのか。……この餃子を出せば、あと十人くらい簡単に懐柔できそうだけどな。
「まあねえ、これが食えるなら併願してもいいなwwwわりとマジでwww」
「ふふ!ちょっと魅力的だよね!懇親会も楽しいし!おいしいものも食べられるし!」
僕の目の前で二人が早速流されている!!!
「ええー、懇親会だったら僕のところも、他のゼミも、やってるよ?ゼミにはね、懇親費用が事務局から支給されてるの。使わないと怒られちゃうからね、どこのゼミでも懇親会はあるんだよ。でもねえ、一律一万円だから大御所は大変なんだ。美学は教室でペットボトルとお菓子でパーティーしたって言ってたもん。うちは県庁のところにある日本庭園で茶会をやったんだけどね。飛び切りおいしいお茶とお菓子を楽しんできたよ!来年にでもいらっしゃいね。」
藤沢先生が餃子をホットプレートに並べつつ懇親会の裏側?を暴露している。なんだ、東洋美術史だけの特典じゃなかったのか。…なんか騙された気分だ。こういうところなんだろうなあ、不信感が出るのってさあ。あの河合先生の誘い方は、東洋美術史だけが懇親会をやっていると思わせる感じだったし。
「ええ!!ひょっとして福禄寿の隠れ家ですか?!有志の学生たちが集まって枯山水作ったってやつ!!ちょっと興味あります!!」
「あれ、詳しいねえ、そうそう、そこだよ。あそこは石仏も何体かあってねえ、研究で何度も行ってるんだよ。うちのゼミ生も石の敷き直しに行っててね……。」
ムム、由香は日本美術史の懇親会に参加したいような雰囲気だ。……粉まみれのおっさんがずいぶん不服そうな顔をしているが、仕方あるまい。
「これあとでレシピもらおwww肉まんにしたいなwww」
「肉まんの皮のレシピもあるぞ!!俺のはイースト入れないレシピでさあ、簡単なのにもっちりふこふこ、めちゃめちゃうまいんだって!!よし、来年は肉まん作ろ!!ねえ、来たいよね、また参加したいよねえ?!」
どれだけゼミ生を渇望しているのだ、このおっさんは。大概にしないと、お料理クラブになっちゃうぞ……いやしかし、東洋の食文化について研究すればあるいは?餃子の包み方を徹底的に調べるとか…いやいやダメだ、そういうのは調理系の学問で研究すべきだ、たぶん。ここは文学部であり、美学学科であり、美術全般の歴史とそれにかかわる思想の変遷や哲学的な方面からの研究も必要で……。
キーン、コーン…
ホットプレートの上の餃子がなくなった時、一時間目の授業が終わるチャイムが鳴った。……そろそろ二時間目のテーブルマナーの授業の行われる教室に移動しなければなるまい。
「ごちそうさまでした、めちゃめちゃおいしかったです。僕たちは二時間目あるんでそろそろ行きますね。」
「うますぎたわwwwもう昼めし食えねえ、ごめん漬物とフルーツ置いてってもいい?」
「すごくおいしかったです!! ゼミの事色々と聞くことができて参考になりました!ありがとうございます!」
三人で一斉に立ち上がって、頭を下げつつお礼を伝える。三人で餃子24個(注:おおぶり)、カットフルーツに漬物…けっこう食べたなあ、もうお昼は食べなくてもいいや。今日はコーヒーだけ買おう。
「お、じゃあ後はやっとくから、お前ら…君たち解散でいいよ!ぜひ今日の感動を多くの学生諸君に伝えて、東洋美術史のすばらしさを広めてね!約束だよ!!」
「餃子のすばらしさしか伝えられる気がしないwww」
「お皿洗ってからいきますね。」
「あ、彼方、私お箸貰うよ、こっちで洗うから。」
由香と並んで食べ終わった食器を洗う向こう側では、森川さんがテーブルをきれいに布巾で拭いている。なにも乗っていないホットプレートも洗おうと手を伸ばすと。
「あ、ホトプレートは今から追加分焼くので、良いですよ、キチンぺパで拭いて焼けるのでえええ!!!」
「ねえねえ河合君、第二陣焼けたから食べていい?早く食べないと結城君に食べられちゃう。」
「ああー、私も食べる!!」
「……私も先に食べようかな。」
「センセー、私も食べる方に行くわ!!」
「もーこれでラストだからいいよ!よーし、俺も食うぞ!!」
「おいーっす!!うまいもん食いに来たー!あれ、まだこれだけしか焼けてないのー?腹空かせてきたのにー!プンプン!!!」
「は、はわわ、もう間もなく焼けるなりでちゅ、タレ、タレのじゅいじゅ準備をををををを!!!」
「ちょ!!大食いの先生来た!!早く食べよう!!!楠さんも食べとこ?!こっちすわって!!早く!!!」
「ひゃわわ、でも焼いてない餃子うつしておかおか!!!」
「そんなの河合先生にやらせとけばいいよ、ここ焼けるからみんなで食べよ!!」
「また前期みたいに食べつくされちゃうと困るもんね……。」
「結城君!!今日は左手で食べてね!!君の食べるスピードじゃあ、僕たちの分無くなっちゃうから!!」
「うーん、やだ!早いもんがちぃ~♪」
「「「「「ちょ!」」」」」
僕達三人は、騒がしすぎる調理室をあとにしたのであった……。




